東方扇仙詩   作:サイドカー

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ニャンニャンに続いてどんどん登場キャラ増やしていきまっせ


第二十七話 「鬼襲来! ~酒は飲んでも飲まれるな~」

「では、こちらが報酬となります」

 畳が敷き詰められた一室。白い壁に吊るされた書道の掛け軸は、さぞ名のある匠の品か、もしくは本人が傑作と称する自慢の一筆か。障子の戸を隔てた外から、ししおどしが打ち付けられる毎に甲高い音色が響く。

 御膳を乗せたりするのに使いそうな漆塗りの小机が、畳の上に置かれる。控えめにオレの方へと押し進められた。天板にはキッチリ並べられた貨幣が見える。慣れ親しんだ現代社会の日本円。両やら小判やらではなくて拍子抜けした。あくまでタイムスリップじゃなくて異世界転移ってか。

 今ほどの声の主と対面する。中学生かそこらの年代と思しき少女が一人。その様はさながら生け花を彷彿とさせる。

 紫陽花のような髪色を真っ直ぐに短く切り揃え、百合?らしき白い花弁の飾りを挿している。黄緑色の和服と山吹色の着物を重ね着が気品を誘う。

 ご令嬢の身だしなみに遜色なく、年齢にそぐわない作法の行届いた振る舞い。全く違和感なく極々自然にこなしていた。まだまだ成長期であろうハズなのに薄命そうな儚げな印象まで伺える。見る人が見れば大和撫子と謳うであろう。アレだ。立てば芍薬、座れば何とやら。

 

 稗田邸。

 人里で最有力の位置付けにあたる大屋敷。『幻想郷縁起』なる書物を代々に継いで記し、幻想郷の歴史を後世に残す務めを担っている、と聞いた。

 そして、かの少女こそが稗田家の第九代目当主、稗田阿求その人であった。

 そっと触れたとしても容易く折れてしまいそうな華奢な風貌。童顔からは貫録と呼べるものはない。しかしながら、しおらしさの中に一輪の花にも近しき凛とした雅さをもつ。

 あるいは、時代が時代だったのであれば嫁いでいても可笑しくない年頃なのかもしれない。未成年飲酒がまかり通っているこの異世界だ。不思議ではない。というか、妖怪とか神サマが実在している時点で現代の常識を当てはめるだけ無駄だわな。

 ふと思考が脱線を始めたあたりで、此度の雇い主たる小柄な乙女が微笑む。まるで日本絵の肖像から現れたかのような光景であった。たかが小娘には到底マネできまい。オレじゃなければ惚れていたかもしれん。

「上白沢先生のおかげでとても良い人を紹介していただけました」

「そりゃどーも。で、これにて依頼は達成ってことでイイんだな?」

「はい、本当に有難うございました」

 今回、オレが請け負っていた仕事は要人警護、平たくいえばボディガードであった。護衛対象はもちろん当主となる彼女――稗田阿求。

 もっとも、ボディガードといっても命を狙われてもいなければ脅迫状も届いていない。人里の中は基本的には安全地帯。

 じゃあ何かと問えば、傍から聞けばよくある話だった。丁稚の男が夏風邪を拗らせて寝込んでしまった。つまるところ、門番を除けば女中と爺くらいしかいない稗田邸が男手不足に陥ったという。ただ、それだけのこと。

 ま、そうはいってもそこは大きい御屋敷。人手不足はわりと深刻な問題だった模様。そこで稗田嬢が頼れる上白沢女史に相談したところ、最近になって人里に住み着いた外来人の何でも屋、即ちオレに白羽の矢が立った。

 人里の守護者サマからの仲介となれば信用も厚い。しかも彼女だけではなくもう一人とっておきがいワケで。

「山の仙人様ともよくご一緒されているとお聞きしましたから」

「へーへー、さいですか」

 良くも悪くも華扇と共に行動しているのを多々目撃されており、おかげで初対面にもかかわらず好印象。いつぞやの邪仙と違いマジメな説教仙人なら信頼度は高かろう。こればかりは感謝しないでもない。

 正式に依頼を引き受けて、稗田邸にヘルプとして入ったのが今日の明け方。ちなみに丁稚野郎の夏風邪は一日で治る見込みだとか。幻想郷には何やら凄腕の医者がいるらしい。ブラックジャックか、そいつ。

 ともあれ、オレも上客との大口契約で損もなし。午前中からの出勤に多少渋ったものの、まずまず上出来といえた。フッとニヒルな笑みが出ちまうのも無理はない。

「ま、大したことはしてねーけどな」

「いえ。黒岩様は立派に職務をこなされたではありませんか」

「あ? そうだったか? せいぜい調理場に出たゴキ――」

「それ以上はいけません」

「お、おぉ……」

 あわや言いかけた単語を当主サマがマジな真顔と揺るぎない声音でもって制止した。人里の禁忌に触れてしまったかのような気迫に密かに戦慄した。

 女性は総じてあの黒いのが苦手らしい。アレが出没した時は天地が引っくり返らんばかりの大騒ぎであった。とりあえず、その辺にあった新聞紙(『文々。新聞』だったか)で仕留めておいたが。繁華街であれば路地裏のゴミ溜まりにいる類い。珍しくもない。

 それを除けば特に何事も起こらず。日没、宵の始まりとともに依頼は終わり。オレ的に昼夜逆転で体内時計が狂いかけているのだが、報酬に色をつけてもらったので文句は言うまい。壁に耳あり障子にメアリー、地獄のサタンも金次第ってな。

 金銭を財布の中に放り込んで、座布団から腰を上げる。

「毎度あり。確かに受け取ったぜ」

「またお願いいたしますね」

「フッ、こっちこそ」

 幼くも美しい大和撫子に見送られて大屋敷を後にする。門の外でオレを出迎えてくれたのは、今にも落ちてきそうな真ん丸の満月であった。門番の目礼を受けて背を向ける。

 ――嗚呼、今夜はこんなにも月が綺麗だ。

 

 夜道を目的地もなくさすらう。

 柄にもなく明るい時間帯に働いたせいか、引き続いて依頼を受ける気力も残っちゃいねぇ。かといって、今すぐ帰って眠りにつきたいほど疲れているとも違う。何とも中途半端な状態だった。

 したがって、満月を眺めながら散歩と洒落込む。ふらりふらりと徘徊しているだけの時間が続く。偶にはこんな夜も悪くなかろう。

「あ、綿間部」

「よう、今日も会うとはな」

 偶然にも華扇とバッタリ出くわした。オレの面を見て早々に、桃色の仙人が嬉しそうに駆け寄ってくる。何がそんなに楽しいのかはよく分からねぇけど。多分、良さげな出来事でもあったんだろ。

 これは噂だが、聞くところによると、最近の彼女は以前よりも人里に来る頻度が増しているらしい。実際はどうかはさて置き、こうもよく会うとなりゃその信憑性は高そうだわな。

 遭遇パターンは多岐にわたる。華扇が買い食いしているときにオレが通りがかったり、今みたいに往来をのんびり歩いているところを鉢合わせたり。はたまた誰かを待っていたのか、その辺に寄りかかってぼんやり空を眺めているのを見かけたり。

 その後は会ったついでに食事を一緒にしたりすることも偶にある。いや、偶にじゃなかった。割とあったわ。直近でいえば昨日じゃねーかよ。何なん、この遭遇率。

 あと時折だが、当たり前のようにさり気なく手を繋いでくる。相変わらず異性との距離感が無防備な仙人サマなのであった。

「今日はどうしたのですか? お仕事をしているようには見受けられませんが」

「むしろ仕事帰りなんだよ。稗田嬢の屋敷から出てきたばっかで夜勤する余力もねぇ。だから今はオフだ」

「ふふ、明るいうちに仕事をするとは感心ですね。でしたら私もご一緒しても良いですか?」

「好きにせい」

「はい、好きにしますね♪」

 これといって拒む理由もなく、華扇と肩を並べて歩いていく。月夜に微笑む仙人サマと共に帰路につく。ヤマもなければオチもない緩やかな道のりと穏やかな時間が流れる。

 それが意外と心地良かったのは、今宵が満月だからだろうか。きっとそうだ。深い意味はない。

 

 ところが、ようやくテントまで戻ってこれた時、束の間の平穏が終わりを告げた。呆気なく壊されてしまう。

「…………おいおい、勘弁してくれ」

「綿間部? どうしたの?」

 我がアジトを目の前にしていきなり足を止めたオレに、隣を歩いていた華扇が不思議そうな眼差しを向ける。赤みがかった瞳が月明かりを受けて眩き、それこそ幻想的に美しかった。

 こちらを見つめるあどけない表情に待ったをかける。回りくどい言い方は一切なし。どこまでも短くたった一言で状況を伝えた。

「誰かいやがる」

「えっ」

 テントの内側から気配を感じ取った。恐らく数は一つ。ヒトが留守にしている間に勝手に上がり込んでいる何者か。ったく、稗田邸じゃなくてこっちに侵入者が来るとはよ。確かにセキュリティもクソもねぇけど。

 真っ先に思い浮かぶのは青いエロ仙人。というか、それ以外に心当たりがない。もう一人いないこともないが、生憎そいつは今まさにオレの傍にいる。しかしあの女、性懲りもなくまた来やがったのか?

 いや待て。そもそも青娥娘々と決まったワケじゃない。薄汚いコソ泥という可能性も有り得る。あらゆる事態を想定しろ。

 できるだけ足音を立てずに一歩踏み出す。同時に、ベストの内側に仕込んでいる切り札のトリガーに指をかけ、常に抜けるようにする。

 見たところ、まだオレ達に気付いていないようだ。ならば――先手を打つ。

「華扇はここに残れ。いいな?」

「あっ、待って――」

 悪いが仙人サマの返事は待っていられない。言いたいことだけ告げ、オレは勝手知ったる入口を蹴飛ばすようにして突撃した。

 バンッ!と勢いをつけて転がり込む。それから、すぐさま片隅でゴソゴソやってる人影を見つけた。電灯もつけていないため顔も体も曖昧だが、そこは重要ではない。相手が何かしてくるよりも早く銃口を突きつけた。

「動くんじゃねぇ!」

 

「んあ?」

 

 緊張感の欠片も無いような、どうにも気の抜けた声とともに奴さんが振り返る。真っ暗闇にオレの視界も馴染み始め、ようやく空き巣の素顔が分かってきた。同時に、ピクッと眉が訝しげに動く。

 霍青娥じゃない。あの女にしては明らかに身長も小さ過ぎるし身体つきもお粗末だ。これで豊満かと尋ねられれば鼻で嗤うわ。どっちかと言えばガキんちょと同程度といってもいい。ならば三月精の誰かとも疑ったがそれも違う。

 そいつは、初めて見る顔だった。

 小柄な体格はもはや小学生と見紛う。身長と大差ないぐらいに伸ばされた豊かな長髪を下で縛って垂らしている。あと赤蛮奇に似た感じで大きなリボンを後頭部に結んでいた。

 もちろんそれだけでは驚きはしない。件の輩には隠しきれない特大レベルの特徴があった。

 左右の側頭部から生える二本の角。僅かに湾曲がかった長いシンボルが天を突く。さらには球体やらキューブ状の物体を繋いだ鎖を身に着けている。動いた拍子にジャラジャラと金属音が鳴る。そのうちの一つに瓢箪があった。

 鎖のアクセサリーという部分にふと既視感を覚える。が、それよりも角から目が離せない。限りなく答えに近いヒントとして。

 

 コイツ、鬼か。

 もちろん悪口ではなく種族的な意味で。

 

「お邪魔してるよぉ。ヒック、うぃ~……」

 二本角の鬼っ子はまるで一足先に飲み会を始めたダチみてぇなセリフをほざきやがった。いや、本当に邪魔なんだが。

 不法侵入にあるまじきいっそ清々しいほどの潔さ。見た目は子ども、頭脳はともかく中身は絶賛酔っ払い。そいつが抱えているのは、当然ながらファンシーなぬいぐるみなんて可愛らしいモンじゃなかった。オレの荷物に紛れてあったブツでもある。

 スコッチウイスキー、それも四リットル規格の業務用ペットボトル。それがヤツの仕業によってキャップが開けられていた。例の鬼娘はあろうことかそいつを水筒のように軽々と片手で持ち上げて、ゴキュゴキュと喉を鳴らして飲み干していく。

 

 では諸君、聞いてほしい。

 人んちで初対面の鬼が勝手に晩酌しているんだがオレはもう限界かもしれない(現実逃避)

 

つづく




片付け中に出てきた同人誌を読んでて思いついちゃった系のネタ

「あの、綿間部……今までで可愛いなぁって思った女の子っていますか?」
「あ? そりゃいるけどよ。例えば、そうだな……髪がピンク色でシニョンを二つして」
「へぇえッ!?(裏返った声)」
「あと普段から口調が敬語になっているような」
「あぁああのあのっ、そそ、それって……」(そわそわ)
「確かスマホに画像が残っていたハズだ。待ってろ……お、あった。ほれ」
「…………誰ですか?」
「そら知らねぇか。DOGDAYSってぇストーリーに登場するヒロインのお姫様。ま、オレのお気に入りな女キャラの一人で――ってオイ、どうした華扇。お前めっちゃ頬っぺた膨らんでんぞ」
「知りませんっ」(ぷいっ)
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