東方扇仙詩   作:サイドカー

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後編に続くと言ったな、ありゃウソだ

東方茨歌仙が最終話迎えたってマ?
あずまあや先生、九年間の連載お疲れ様でした!


番外特別回 「るんるんびより 中編」

 その区域は繁華街と呼ばれていた。

 テナントのビルが軒並び、縦も横もチカチカと眩しい電光が視界を埋め尽くす。カラオケボックスや二十四時間のファミレスといった、オレ等みたいな学生向きの全国チェーンが大通りに続く。裏通りを行けばパブやスナックなど、ネオンライトで演出された大人な店が佇む。十八禁な享楽も探せば在ろう。

 暗くなるにつれて賑やかさと煌びやかさを増していく、矛盾に満ちた街。どことなく都会の空気を醸し出していることから、巷では繁華街なんて通り名が付けられた。実際、夜になればストリートでライブしているシンガーだとか、金属アクセサリーを売るガイジンっぽい露天商も出没する。

 居酒屋が営業中の札を吊るした。仕事帰りのオッサンどもが夕飯がてら寄っていく。オレ達の他にも多くの人々が行き交う。

 不良男子高校生グループ、ケバい化粧したギャル、ホストっぽいチャラ男。そんな見て呉れの奴らばかり。まともに考えても、これから塾に行くようなマジメ君が来る場所ではあるまい。

 時には激しく踊り狂い、時にはしっとり濡らすように歌う。それが此処、繁華街。

 いわば愛しの我がホーム。そしてオレはこの街のプライベートアイ……で、ありたいと思っている。なぜならオレはちょいワルな男。

 

「フッ、帰ってきたな」

「…………」

 ニヒルに口角を上げるオレの傍らで、茨木華扇はどこか肩肘に力を張った様子でいた。ついでに顔まで強張っていやがる。オレとは真逆な反応だ。

 これまでにも何度か来ているとはいえ、この女みてぇなクソマジメ系の優等生には居心地が悪かろう。それでも律儀についてくるのは彼女なりの意地なのか。もっとも、こんなところで頑張る必要なんざねぇけど。

 精一杯の強がりで、桃色ミディアムヘアな少女が苦笑いを浮かべる。

「……やっぱり、まだ慣れませんね」

「そーか」

 緊張しているのかもしれない。だから、制服のズボンの後ろポケットにこっそり指を引っ掛けられていることには触れないでおいた。気付いていないフリで通した。

 

「よっす、黒岩」

「よう」

 

「黒岩、来てたのかよ。久しぶりじゃん」

「まぁな。オレだって忙しいんだよ」

 

「たまにはこっちにも顔出せよなー」

「わぁーったっつの。そのうち行くからよ」

 

 遠巻きに声をかけてくる知り合いにこっちも雑な返事しつつ歩いていく。顔は知っているが名前は知らないなんてヤツも珍しくない。そういうドライな距離感がこの場所には相応しい。その方が、オレも彼らもクールにスタイリッシュにカッコつけていられる。

 ま、それはそれとして。

 

「おうおう、今日は女連れですかぁ!?」

「ヒューヒュー! 黒岩さんカッケー!」

「さすくろ!」

「やかましいぞコラァ! つか最後の何やねん!?」

 

 オレが華扇を連れているのを見てデートだの同伴出勤だの茶化してきた連中にはガン飛ばしてやった。余計にからかわれた。ファックと言わざるを得ない。

 そんなやり取りが次から次へと続くのを目の当たりにして、華扇がちょっと見直したように感想を述べた。

「知り合いが多いんですね」

「そらオレのホームだかんな。ま、お前までこんな場所に慣れちまう必要はねーだろ。見ての通り、クソッタレどもの溜まり場だしよ」

 それに、この女は顔もスタイルも良い優良物件だ。良くも悪くも目立つ。おかげでさっきから視線を感じてやまない。

 知り合いじゃない男等がオレ達の横を通り過ぎる度に、彼女を好意的な(ゲスな言い方をすればいやらしい)目で眺める。中にはキザッたらしく口笛を吹くナンパくせぇチャラ男までいやがった。

 もし、委員長サマが単独で此処に来ればあっという間に捕まってしまうことだろう。あるいは、こうしている間にも、虎視眈々とタイミングを伺っている輩だっているかもしれない。

「…………」

 なぜだろうか。そういう想像をすると、どうにも気に入らない。不快な感情が込み上げてくる。

 華扇がオレから離れてしまわぬよう、歩調を合わせる。ついでに彼女の少し前を行くことで好色の視線を遮った。これで男共から不埒な眼差しを向けられるリスクは多少なりとも減るであろう。

 現に、残念そうなツラして散っていく男子グループが複数あった。けっ、おうちに帰ってちゃおでも読んでろクソッタレが。

 

「ありがとうございます」

「……さて、何のことだかさっぱりだな」

「ふふっ、不器用な人」

 

 わざわざ振り返らずとも、委員長サマがたおやかな笑みを浮かべているのが伝わってきた。どう返したものか思いつかず、フンと鼻を鳴らす。それが余計にツボったのか、クスクスと控えめな笑い声が耳をくすぐる。チクショウ、何わろてんねん。

「綿間部は慣れない方が良いと言いましたけど。それでも、私はまたここに来たいです」

「っかー、マジかよ。どうしてそこまでこだわってんだ? 優等生には悪影響しかねーぞ」

「えっ!? そ、それは……だって……」

 急に口ごもる華扇。一瞬だけ盗み見ると、制服ズボンのポケットに引っ掻けた人差し指はそのままで、頬に仄かな朱が差した彼女の姿があった。

「ま、何だってイイけどよ」

「…………そうですか」

 なしてそこで拗ねるのか。

 

 

「あら、黒岩さんではありませんの」

「あ?」

「むむむっ!」

 繁華街の中心まで来たところで、その声からしてねっとりとエロい女がオレ達の前に立ちはだかった。

 青い髪をメビウスの輪のような独創的なヘアスタイルに仕立て、豊満な乳と肉付きの良い尻を強調する衣装を身に纏う。妖しい色香を振り撒いて、瞬く間に男を落とす美女――いや、魔性の女。

 妖艶な美女の登場に、あからさまに委員長サマの機嫌が損なわれていく。凄まじいしかめっ面で女を睨んだ。色々と台無しになってんぞオイ。

「んだよ、霍青娥か」

「もう。フルネームではなくて愛称で呼んでくださいまし。娘々、と」

「呼べるか!」

 突如現るエロい女。其の名は霍青娥なり。またの名を青娥娘々といふ。

 まさに夜の蝶たる風貌なのだが、一応これでも近郊の短大に通う女子大生である。ただし、バイト先は見た目通りにキャバクラであった。№1ホステスもかくやという勢いで幾人もの男に貢がせている、なんてとんでもねぇ噂を聞いたことがある。もっとも、本人に真偽を確かめたところで色っぽくはぐらかされるのがオチだ。

 するりと流れるような動作で霍青娥が白い細腕をオレの腕に絡めてきた。魅了の微笑みがすぐ近くにまで迫る。

「なぁッ!?」

 エロい女子大生の速攻過ぎるスキンシップに、華扇が素っ頓狂な声を出した。ワナワナと肩を震わせる委員長サマを無視して、艶やかな流し目で青い美女が囁く。

 

「ねぇ……今夜はヒマなんですの?」

 

 柔らかな肢体と、女の香水の匂い。媚薬が混ざってんじゃないかと疑わずにはいられない。

 あまりの情欲を醸す空気に、オレよりも周囲の男連中が鼻の穴を大きく膨らませて息を荒げている始末。ドン引きするレベルで目がギラギラしておった。怖ぇよ。

「オイ――」

 

「離れなさいッ!」

「あんっ」

 

 その刹那。まるで落雷の如く、マジメ娘の一喝が降り落ちた。しかもそれだけでは終わらない。

 なぜか華扇までもが反対側の腕に飛び付いてきた。引っ張られた拍子にエロ女の拘束から逃れることに成功。ただし今度はこっちがくっ付いているため、あまり状況に大差ない。どうしてこうなった。

「とりあえずどっちも離れんかい」

「綿間部は渡しませんから!」

「ふぅん……」

「いや聞けって。つかお前今何て言った!?」

 さらにギュウッと力一杯に、オレの腕をその豊かな胸元に抱え込む桃色の少女。その光景は、ゼッタイに離しませんと言わんばかりであった。それを目の当たりにして、さっきまで興奮して鼻息ハァハァしていた野次馬共がこぞって血涙を流しながら歯ぎしりし始めた。だから怖ぇって! ホラー映画か!

「今日は私と一緒にいる予定なんです! 貴女が入る余地はありません!」

「それを言うなら今日()でしょうに。独占欲が強い女は男性に嫌われましてよ?」

「余計なお世話ですッ!!」

 シャーッ!と猫染みたな威嚇をする華扇に対して、色欲の女子大生は絶えず余裕をみせる。チロリと舌なめずりすると、再びにオレに双眸を向けた。まだ続ける気なのか。

「客引きすんなら貧乏な男子高校生じゃなくて、もっと金持ってそうな大人を狙えば良いだろ」

「そうはいきませんわ。これはわたくしの問題ですもの」

 諦めの悪さに辟易するが、正直いうと心当たりがないワケでもなかった。

 やはりアレか。かつてコイツの色仕掛けを完璧なまでにスルーしたのが原因だろうか。男を惑わし続けた女のプライドに泥を塗ったというのか。意地でもオレを堕として一矢報いる腹積もりなのかもしれない。

 青い美女の誘いは止まらない。

「それでしたら、日を改めてデートなどいかがです? よければ今週末にでも――」

 

「わわわ綿間部ッ! そこのゲーセンで遊びましょう! ええ今すぐに!!」

 

 そうはさせまいと、桃色の髪をもつ女子高生が咄嗟に周りを見渡して、すぐ近くにあった遊技場を指差す。トドメとばかりに抱きしめた腕ごとグイグイと引っ張り、この場を離れようと躍起になる。

「急いでくださいっ時間は有限なんですからね!」

「分かった! 分かったから引っ張んな!」

 だからそのデカいマシュマロを押し当てんの止めろ! むしろ挟まっとるわ!

 さすがの霍青娥もこうされては手出しできないらしく、まさにお手上げと肩をすくめるだけ。結果から見れば華扇の目論見は上手くいった模様。もはや勢いで誤魔化した感じが否めないが。

 青髪の女に見送られる中、オレは委員長サマにゲーセンへと引き摺りこまれていくのであった。これ拉致じゃねーのか。

 

 

 照明の少ない薄暗い空間に、冷房のひんやりした空気を肌で感じる。

「そういや考えてみれば、お前からゲーセンに行きたがるなんざ貴重だったな」

「確かにそうですね。まぁ……結果的にですけれど」

 四方八方に映る液晶モニターの光が網膜を刺激し、ゲームのBGMや電子音が引っ切り無しに鼓膜を突いてくる。『YOU WIN!』などの音声だったりキャラの決めセリフなんかも混じって聞こえた。

 それにしても、入店してすぐにアーケード機の配置とは随分とマニアックだなオイ。こういうの二階とかにあるもんじゃねぇのか。ひとまず、オレもこの女も格ゲーはスルーの方向で。

 華扇を連れて店の奥に足を進めると、先ほどのガチゲーマー空間とは打って変わって、女子高生やガキんちょでも楽しめそうなアトラクション系のエリアに変わった。

 ダンスや太鼓の音ゲー。UFOキャッチャーにクレーンゲーム。ガンシューティングもあればレースゲームも揃っている。なかなかバリエーション豊富だ。というか、フツーにこっちのを入口側に置けよ。一見さんお断りか。どこの京都だ。

 

「あっ」

 

 そのうち、UFOキャッチャーの一つを見つけるや否や、隣の女子高生が声を弾ませて駆けて行った。

 

「わぁ可愛い……」

 

 うっとりとした様子で委員長サマが景品を見つめている。ガラスケースの中にはアニマル系のぬいぐるみが詰め込まれてあった。さながらサファリパークとでもいおうか。

 そういやこの女、無類の動物好きだったわ。それも唯の動物好きではない。例え初見でも向こうから懐かれるという特殊能力を持つ。もののけ姫の末裔なのだろうか。

 休みの日にはよく一人でペットショップで動物観察しているそうだが、ぬいぐるみでも同じであった。欲しいと言わないあたり、見ているだけで満たされるクチらしい。それか全員気に入っちまってどれか一つに選べないとか。

 どうせなら他にもコイツが好きそうなのがないか探してみる。すると、良さげなブツを発見した。つい意地悪く口元がニヤける。折角だ、ちょっとからかってやろう。

 ややトリップ気味な動物好きに声をかけてやる。

「こっちはイイのか?」

「えっ?」

 正気に戻った華扇が、オレが指差す先に視線を追わせる。そっちには、駄菓子が積み木の如くタワーを築いたクレーンゲームが鎮座していた。上手く雪崩れを起こせれば食べ放題も夢じゃない。試す価値はあるだろう。

 オレが言わんとしていることを察した途端、委員長サマが怒りに目を吊り上げる。そのうえ風船みたく頬っぺたを膨らませた。

「失礼ですね! 私はそこまで食いしん坊じゃありませんッ!」

「フッ、そうかぁ?」

「もぉお! 綿間部の馬鹿者! 女心知らず! 鈍感!」

「いや鈍くねぇよ。んなラブコメ主人公みてぇな属性なんざ持ち合わせとらんわ」

 鬼の形相で詰め寄ってきた華扇を軽くいなしつつ、それからオレ達はゲーセン内を順繰りに回り始めた。

 

 華扇がダンスゲームで遊ぶ。桃色の美少女が踊りステップを踏んでいるのに観衆が沸き立つ。得点でハイスコアが出た時にはもはや祭り会場の如く盛り上がった。

 ガンシューティングに移ればオレの出番となる。密かに練習したスタイリッシュな二丁拳銃の腕前を見せつけた。しかし、華扇からは「二回遊んだ方がお得なのでは?」と身も蓋もないことを言われちまった。泣けるぜ。

 レースゲームは二人プレー。華扇がアクセルとブレーキを踏み間違えてスタートダッシュで出遅れてしまう。よっぽど恥ずかしかったのか、しばらく顔を真っ赤にしていたのはしばらく忘れられそうもない。

「綿間部! 次はあれ行きましょう♪」

「へいへい」

 途中で両替が必要になるくらい、オレも彼女も片っ端からゲーセンを楽しんだ。こういう時間は悪くない。恐らく、オレ一人だったらここまで遊び込んではいなかったと思う。

 

 今はまだ、言葉にはできないが。

 きっと、そういうことなのだろう。

 

今度こそ後編につづく




後編はいつにしようか……

  何時やるの!? 今でしょ!
  姉ちゃん! 明日って今さ!
  今だよ比企谷、今なんだ
→ 来週もまた観てくださいね! じゃーんけーん……
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