そして何と、東方扇仙詩の支援絵をいただきました!
https://files-uploader.xzy.pw/upload/20190611232153_4e39574b7a.jpg
感謝ッ……圧倒的感謝……ッ!!
「ほらよ」
「もうっ、投げないでください!」
休憩スペースの自販機で買ったジュースを華扇に放り投げる。フッ、ナイスキャッチ。
こいつはエアホッケーの対戦で負けた罰ゲーム。ほぼ互角だったのだが、最後の最後で油断しちまった。我ながら不覚。
あとはダンディ印の缶コーヒーも購入する。こっちは自分用として。もちろんブラック以外は選ばねぇ。プルタブを開けて一服していると、何気なく壁に貼ってあったポスターの一枚に目が留まった。確か、アイドルをプロデュースするソシャゲの新キャラだっけか?
ピンク色のセミロングヘアーとデカい胸が特徴の女だ。男物と思しき大きめのシャツだけを着ており、丈がギリギリで太腿の際どいところまで見えちまっている。所謂、彼シャツとかいうファッションだったか。当然だが顔も良い。
桃色でやや短めの髪型とバストサイズに既視感を覚える。いや、気のせいだ。そうに違いない。
「こういう女の子が好みなんですか?」
「オレに聞くなよ……好みかどうかは知らんが、まぁイイんじゃねーか?」
目敏く気付いた委員長サマの質問に投げやりになって返す。あいにくとソシャゲに課金はしていない。ま、美少女キャラだし人気はあんだろうよ。そうでなきゃこんなデカデカとポスターになったりはしまい。
ブラックコーヒーを飲み終えて空き缶をゴミ箱に突っ込む。その間にも、華扇はそのポスターをまじまじと凝視していた。かと思えば、自分の髪に触れたり胸元を見下ろしながら小さくガッツポーズときた。行動が謎過ぎんぞオイ。
しかも「あとはシャツがあれば……」とかなんとかブツブツ呟いてんだが。まさか、コスプレに目覚めたとか言わないよな?
さてと気付けばかなり遊び回っており、興味を持ったゲームもほとんどやり尽くした。財布の中も大分寂しくなってきた頃。次をやったら帰ろうということで互いの意見も一致した。
「綿間部、最後にアレやってみませんか?」
「どれだ――って、マジか……?」
最後は華扇からのリクエストであった。ところが、そちらを見やった直後、まさかの選択肢に思わず固まるハメとなる。
女子高生、いや、年頃の女子にとってはお馴染みであろう。写メってシールが出てくるパリピのゲーム? プリクラのボックスが待ち構えていた。その外観からして既にキャピキャピしており、この上なく入り辛い。
顔が引きつる。そんなオレとは対極に、委員長サマは憧れに満ちてキラキラと瞳を輝かせておった。もはやアレ以外はアウトオブ眼中の模様。
幸か不幸か、先客も見物人もいない。入るなら今のうちだろう。とはいえ、ここですんなり頷けるほどオレも女遊びに慣れちゃいない。自慢じゃないがデートすらマトモにしたことがねーわ。
「一度でいいからやってみたかったんです。ね、良いでしょう?」
「待て待て待たんかい、せめて女友達とやれって。オレには無理だわ。絶対似合わねぇ、ホントマジで無理だって!」
「大丈夫ですって。ちょっとだけ、すぐに済みますから」
「先っちょだけみてぇな言い方すんなや。とにかく、よく考えろ。このままじゃオレとお前のツーショットになんぞ」
「それが何か?」
「…………」
キョトンと不思議そうに小首を傾げる少女に頭を抱えそうになる。いやいや可笑しいだろ。そこは察しろよ。どこまで天然なんだ、コイツ。とりあえず、無防備を通り越したソレに勘違いしそうになった自分を殴りたい。思春期かコラ。
ともあれ、どう考えてもキツいのは変わらない。絵面的にも。オレのような不良モドキがプリクラでキャッキャッできるワケがなし。そうなったら明日にはクラス中の笑いネタにされちまう。
やがて、華扇が粘ったりオレが渋ったりしているうちに、あんなに楽しそうだった彼女の表情が徐々に曇った。目に見えて元気が失われていく。
細い肩を落とし、ポツリと小さな問いを零した。
「私と一緒に撮るのは、そんなに嫌ですか……?」
「うっ……!?」
赤みがかった瞳を薄らと涙で濡らして、オレを見上げる。悲しげに揺れるそれを目の当たりにして答えに窮する。
こういう顔されると非常に困る。凄まじい罪悪感に襲われるのだ。しかも、この女が相手だと尚更そうだ。どうしても、強く出ることができなくなってしまう。言っておくが決して日和ったワケじゃない。けれど……
だーもう! しゃーねぇ。降参だ、降参!
泣き顔ギリギリ寸前になっている頭に軽く手を乗せる。けれど目線は明後日の方向へ逸らして。限りなくぶっきらぼうに言い放つ。
「…………一回だけだかんな。それ以上はやらん」
「――ッ! はい♪」
「っかー、嬉しそうなツラしやがってコンチクショウ」
「えへへ。だって綿間部のそういうさりげなく優しいところ、だいす――」
「ダイス?」
「んんっ! な、何でもありません。ほら行きましょう」
またまた表情を一転させて、満開の笑顔を咲かせる桃色なミディアムヘアの女子高生。
一足先にプリクラ機の内側へと飛び込んでいったかと思えば、カーテンから顔を出して「早く早く」と手招きしてくる。どんだけ楽しみにしてんだよ。
「……ったく」
あんな幸せそうな顔を見せられちまったからには、いい加減に腹を括ろう。やれやれ、オレも大概甘いヤツだわな。
いざ内部に潜ってみると想像していたよりも広かった。何人かで撮るのが前提になってんだから当たり前っちゃあ当たり前だが。さすがに証明写真とは違う。あと、そこかしこから女子力の片鱗を感じる。やはり場違いなのではなかろうか。
「つーかお前も初挑戦だろうが。ちゃんと操作できんのか?」
「むっ、馬鹿にしないでください。これでも霊夢から聞いたんですから」
「へーへー、さいですか」
「まったくもう……」
オレの素朴な疑問に心外だと頬を膨らませて文句を垂れつつも、委員長サマがタッチパネルに触れていく。意外にも手馴れた指さばきに、今更ながらコイツもイマドキのJKだったと思い知らされる。これも女子力ってヤツかもしれない。
『あやや、準備はOKですか~?』
画面越しにカメラマン(女でもカメラ
いよいよ撮影開始らしく、黒髪の女子が画面の端っこに移動してカメラを構えた。メイン画面には四角い枠に囲まれたオレと華扇が映っている。自撮りなんざしたことねぇから違和感がハンパない。世の中の女子はこんなコトばかりやってんのか。逆にスゲーわ。
『ではでは! カウントダウンいきますよー! 五秒前……四……』
「え、ウソッ、時間制限あるの!? どどどっどうしよう……!?」
「そらあるだろ」
焦った様相で華扇がこちらを見上げてきたが、極めて冷静にツッコミを入れてやった。
手馴れていると思いきやそうでもなかった。タイムリミットが想定外だったみたいでテンパり始める始末。どうやら任意のタイミングで撮影ボタンが押せると思っていたらしい。ドンマイと言わざるを得ない。
当然、プリクラ機に待ったと言ったところで聞くハズもなく、無慈悲にもカメラ女子がやたら明るいボイスでカウントダウンを刻む。
『さーん……にー……いーち……』
「え、えーい!」
「ぬぉおああ!?」
何をトチ狂ったのか華扇が両腕をオレのうなじに回してきた。二人の身体が密着する。その直後、シャッターチャンスいただきましたと言わんばかりに、謎の効果音が鳴った。
ピチューン
ゲーセンを後にすれば辺りはすっかり暗く、あらゆる街灯りが眩しく光る。人工の光の群れは、例えるならば都会の蛍とでもいおうか。なかなか洒落ておりこのまま夜を楽しんでいきたくなる。
しかしながら、こちとら明日もガッコな高校生。大人の時間には入れない。この時ばかりは霍青娥が羨ましく思う。
繁華街を外れて、帰り道の途中にある自然公園へと場所を移す。丁度空いていたベンチを見つけたので、二人で並んで腰掛けた。
夜のお散歩デート中のカップルだとかジョギングするスポーツマンとも出くわすことなく、今夜は誰も通らない。そのせいなのだろう。やけに静けさを覚える。こんな日は珍しい。それはそうと、
「どうすんだソレ……」
「あはは……」
さすがの委員長サマも乾いた笑いで誤魔化すしかない。片や包帯の巻かれた手元には、つい先ほど撮ったプリクラのシールが収まっていた。
茨木華扇がオレに抱きついている決定的瞬間。その一枚を。
なんとこの女、最初の写真で一発OKしやがったのである。もちろん事故だ。テンパったままタッチパネルに触った挙句、うっかり手を滑らせたのだ。より具体的にいえば「取り消し」と「撮り直し」を見間違えてキャンセルしてしまった。ダメだこりゃ。
「ったく、ポーズとるなら他にも色々あっただろーが」
「そ、それは……やむにやまれず本能に従ってしまったと言いますか……」
「何だそりゃ」
ゴニョゴニョと口ごもる華扇を胡乱な目で見やる。大体いくらなんでも知り合いだからって異性に引っ付くのは問題であろう。イロイロ危ねぇだろが。つーか、恥ずかしがるくらいなら最初からやんなよ。
「えと、とりあえず半分どうぞ」
「ん」
半分子に切り分けられたプリクラの片割れを差し出される。どこからどう見ても撮影ミスにしか見えない。けれど、この女は「これも記念ですから」と言って取り出し口から受け取っていた。それはそれは大事そうに。
ただ、オレが貰ったところで貼れる箇所もなく扱いに困るだけだ。そんなのは最初から分かり切っていたこと。だから、本来なら受け取るべきではない。
「…………」
そのハズだったのだが。
どうしても、そいつを「要らん」と突っぱねることができなかった。霍青娥の色仕掛けを相手にするみたいにはいかなかった。無意識のうちに、手放すのが惜しいと思った。あぁ、思ってしまったのだ。オレとコイツのツーショットを。
彼女の赤みがかった瞳を眺める。儚くも美しくさえあり、知らないうちに意識が吸い込まれていた。さながら星明りに照らされているかのように映った。ふいに柔らかな桃色のミディアムヘアが夜風に靡く。
「綿間部……あんまり、見つめられると……その、恥ずかしい、です……」
「うぉ!? わ、わりぃ」
「いえ……」
モジモジと肩を縮ませながら頬を染める華扇の言葉を受けて、弾かれたようにして正気に戻った。何やってんだ、オレは。
『………………』
それっきり会話が途絶えてしまう。
真横に突っ立っている街灯は物静かに、オレ達が座るベンチだけに絞って明かりを落とした。遠くからカエルの鳴き声が聞こえてくる。それ以外に何もなかった。偶然にも重なった幾つもの条件が、今この場所に二人きりであることを強く意識させる。
互いに上手い言葉を探していき、ついに華扇から口を開いた。それは、特別な何かで、
「もう一つだけ、お願いしても良いですか……?」
祈るような声音に、切なげな表情を浮かべて。上目遣いで瞳を潤ませる彼女と向き合う。結局、最後まで言葉にはせず、代わりに黙って頷くことにした。これがオレの答えだと。
「……ん」
華扇がそっと瞼を閉じる。僅かに顎を上げて小さな口を薄く開き、その身をオレに捧げる。
はぐらかせる状況ではない。この女が求めているものが言われなくても分かっていた。だからこそ、逃げるワケにはいかない。止まるつもりも、ない。
あぁ、そうだ。とっくに分かっていたとも。彼女の想いも……オレの気持ちも、同じだということも。
ゆっくりと、夜景をバックにして華扇の顔へと近付けていく。暗がりのシルエットが一つになる。やがて、二人の――
「く ち び る が……っと。やった、出来ました!」
最後の一文字まで書き終えたと同時に、東風谷早苗は声高らかに天井へ告げた。達成感に満ちた笑み。もちろん万歳のオマケ付きで。
守矢神社の巫女の前には、ここ数日にわたる努力の成果があった。一仕事終えたばかりの原稿用紙とインクの減った万年筆が転がっている。まるでどこぞの鴉天狗の仕事場に類似していた。
一度の失敗では諦めない。この少女、再び知り合いを題材にした小説を執筆したのだ。当の本人はといえば、やっぱり学園モノは青春ですねと悦に浸っている。恋する乙女……を題材にした少女作家は強かである。間違いない。
『早苗ー、ちょっと来てくれるかい?』
「あ、はい。今行きます。神奈子様」
自らが仕える神の一柱に名を呼ばれ、いそいそと少女が自室を後にする。部屋を出た際に、ほんの少し隙間風が入った。出来立ての作品が小さなそよ風に乗り、僅かに舞い上がった。誰かに読まれる日を、今か今かと待ちわびながら。
数日後、宴会で披露された新作は、人知れずヒロインにされた恥ずかしさもあって赤鬼と化した仙人少女の手によって、一夜にして紙吹雪となった。
執筆した風祝の絶叫と読みかけだった幻想郷の少女等の悲鳴が飛び交う中、端正な顔を真っ赤にしたメインヒロインが叫んだ。
「だだだっ誰があんな人とぉおおおおおッ!!」
時を同じくして、人里のどこかで全身真っ黒な青年が立ち止まる。
「へ……へ……イーッキシ! っかー、誰かオレの噂でもしてんのか?」
特別番外編 おしまい
次回から本編に戻ります
ヘカ様&クラピの登場にするか、主人公の弱点がバレるのを先にするかで悩み中でち