東方扇仙詩   作:サイドカー

35 / 90
・プリズマ ファンタズム観てきたら超テンション↑
・うちの娘。が今期の生き甲斐
・おかげでクラピ登場しか思い浮かばなかった

以上のことから、作者はロリコンではないと判明した。QED



第二十九話 「三割の月が昇る空」

 三日月が白い弧を描いた夜。

 ガキはとっくに寝かしつけられる時刻。だというのに、無駄なくらい元気いっぱいなチビ集団と出くわしちまった。うち三人は背中に薄透明な羽を生やし、誰がどう見ても妖精。というより、知ってる顔なんだが。

 声をかけるよりも先に反応したのは、意外にも三月精の中で最もトロそうな印象をもつルナチャイルドであった。縦ロールな髪型も栗みてぇな口も相変わらずなソイツは、オレの顔を見て目を瞬かせる。

「あ、ワタナベさん」

「何してんだオメーら。また得意のイタズラか?」

「違う違う。ピースに人里を見せて回ってんの」

「ピース? 誰だそりゃ」

 サニーミルクの口から聞き慣れない名前を告げられ、おうむ返しに尋ねた。ピースとはまた平和的なネーミングセンスがあったもんだ。なら相方はラブってか。

 

「あたいのことさ! 地獄の妖精、クラウンピース様だぁ!」

 

 全然平和的じゃなかった。地獄だと。

 チビ集団のうち唯一の新顔であったガキんちょが、ふんぞり返りながら一歩前に出しゃばってくる。もっとも、どれだけ胸を張ったところで真っ平と書いてまったいらと読む。ここまでくるといっそ清々しい。

 緩いウェーブのかかった金髪を背中あたりにまで伸ばし、いかにも勝気そうな顔立ち。サンタ帽の亜種みたいな被り物もさることながら、服装がアレ過ぎた。ド真ん中を境目に縦割りのデザインなのはまだ良い。ならばどの辺がアレかといえば、その模様に尽きる。片側が赤と白とストライプで、もう片側が青ベースに星が散らばる。

 敢えて言おう。完全にアメリカじゃねぇかコレ。

 しかも足を包むタイツでさえも同じデザインしていやがるもんだから、上から下まで完全無欠な米国スタイルときた。ある意味、まさに妖精と言えなくもない奇抜な格好。グリム童話かよ。

 というかグリム童話ってアメリカだったか。イギリスだったような気もする。ま、どっちでも大差ねぇだろ。

 フンスと誇らしげにピースだかクラウンピースだかが仁王立ち。その脇にスターサファイアが並んだ。やれやれと大人ぶったリアクションをしながら、ちゃっかり常識人を気取っている。

「ピース、この人はワタナベさん。姿も音も消して近付いた私たちを一発で見抜いた凄腕のエスパーよ」

「さらりと嘘言うんじゃねェよ。誰がエスパーやねん」

 エスパーワタナベとか胡散臭さこの上ないわ。どこの芸人だ。

 オレのツッコミを余所にサニーミルクも会話に割って入ってくる。夜でも元気なお日サマの妖精か。もうわかんねぇな。

「ワタナベさんは今日もお仕事?」

「まーな。つっても、まだ始めたばかりだがよ」

「ン、何の仕事してんの?」

 ふんぞりポーズを解いてアメリカン娘がオレを見上げながら首を傾げた。他の妖精連中と同じく、かなり身長差があるため自然とこちらも見下ろすかたちになる。

 

「フッ、オレの仕事か……? 夜に限られたフリーランスの何でも屋だ。お望みとあらば厄介事も引き受けるぜ。ただし、報酬次第でな」

 

 裏社会の闇を匂わせる意味ありげなセリフに、ニヒルな男の顔を上乗せする。キマッた。そう、オレは夜に生きる男。

 すると、はじめはポカンと呆けていたクラウンピース。それがどういうワケか、徐々に顔を輝かせていった。やがてファッションだけではなく瞳の中にまでキラキラ星が浮かぶ。夜中だってぇのに笑顔が眩しい。

 ついには、そいつはハイテンションに飛び跳ねながら感嘆の叫びを上げた。

 

「Cool! チョーカッコイーね!!」

 

 嬉々とした表情で周りをクルクルと駆け回り始める。その様相といい、さながらちっけぇ子犬に懐かれた感覚に近い。どうやらオレの生き様がコイツの琴線に触れたらしい。

 どうでもいいけど、咄嗟にネイティブ発音が出るあたり生粋のアメリカっぽいと思った。あと金髪だし。

 

「あたい決めたよ! これからアンタについていくぜ、ブラザー!」

「って、何抜かしてんだコラ」

「ぷぎゅ」

 

 どさくさに紛れて意味不明な宣言をかました新キャラ妖精の頭を押さえつける。

 ようやく走り終えたかと思えば、ビシッと敬礼を放ってコレだ。油断も隙もねぇな。空気が抜けたみたいなリアクションになってるのもお構いなしに、そのままグリグリと回してやった。「あ~れ~」と外国チックな見た目に反して時代劇染みた反応が返ってくる。ヤバい、何気に面白いんだが。

 それはともかくとして、だ。頭シェイクを継続しつつ三妖精にもジロリと視線を向ける。

「オメーらも何か言ってやれ。ダチなんだろーが」

「えーっ! いいんじゃないの?」

「私もサニーに賛成。ワタナベさん、不束者だけどピースをよろしくね」

「たぶんダメって言っても勝手についてくると思う」

「こやつら……」

 三者三様に好き勝手なことを口走り、ついでにクラウンピースのフォローにも走られた。ったく、こんなところで友情パワーを発揮すんじゃねぇ。

 しかし、てっきり三月精が四月精になったのかと思ったのだが、どうもそういうワケではなさそうだ。コイツが別行動を取る分には構わないという。むしろオレが構う件について。

 

「よろしくな、ブラザー!」

「だぁああ! 引っ付くな!」

 

 腰の辺りに引っ付きながら自称シスターが白い歯を見せてスマイル一つ。そういうのはマックでやれ。というか、いつからオレの妹になったんだ、お前は。

 どうにか引き剥がそうにも、見事な膠着状態でしがみかれたせいで手こずってしまう。まるで昔流行った風船人形を彷彿とさせた。おまっ、足まで絡めんな! だいしゅきホールドかコラ!

「みんなはどうすんの?」

「今夜はパスしておくわ。夜更かしは美容の大敵だもの」

「はっ、ガキんちょがいっちょまえ言うなや。つーか、何当たり前みてぇに話し進めてんねん」

 黒髪ロングのスターサファイアがお肌の調子を確かめる要領で頬に手を当てながら、残業続きのOLを思わせるセリフを口にする。近頃のチビ共はこんなにもマセてんのか。だからあと十五年くらい成長してから言えと。

 そもそもの話、いつからオレはガキ共に纏わりつかれるような優男風情になっちまったんだ……?

 

 結局、つくづく妖精とは自分勝手というか自由気ままな奴ら、あれから三月精は新キャラをオレに押し付けるとマジで帰ろうとしていた。

 チキショーめ。いつぞや仕事を手伝った褒美をくれてやろうと思ったのだが、今日はお預けにしてやる。それどころか面倒事を押し付けられたんだからな。

「まったねー!」

「でも浮気はダメ」

「仕方ないわルナ、据え膳食わぬは男の恥なのよ」

「オイコラそこの二人戻ってこい。説教してやるから」

『お断りします』

 帰り際、大人しい口調のクセしてルナチャイルドがとんでもねぇコトを言い残すわ、スターサファイアが明らかに間違った助言をするわ。今すぐとっちめてやりたいところだが、すでに奴らは空の上。上手く逃げられちまった。

「………ったく」

 次会ったら首根っこ引っ掴んでやるかんな。覚悟しておけよ。

 

 

「ねぇねぇブラザー、今日はどんなお仕事すんの?」

「オレの呼び方はそれで確定なんか……」

 いつもの如く当てもなく適当にうろつけば、その斜め後ろや真横をぴょこぴょことついてくるマイシスター(謎)

 追い払う気なんざ既に失せた。縦ロールな妖精が言った通り、どう言ったところで追いかけてくるのは目に見えている。ま、こうやって好きにさせておけばそのうち飽きるだろ。妖精なんてそんなモンだ。

 って、もうそんな幻想郷知識まで身に着いちまったのか、オレは。些か馴染み過ぎではなかろうか。

「先に言っておくが、毎日必ず依頼がくるワケじゃねーぞ。暇な時もある。ちょうど今みたいにな」

「ふーん……? でもそれってイイコトなの?」

「どうだかな。良くも悪くも平穏ってこった。ま、オレの収入は危うくなるけどよ」

 世界が平和でありますように。誰かの祈りが届いたのなら、オレ一人が貧乏なくらい些細なコトなのかもしれない。そんな風に気障にキメつつ三日月を仰ぎ見る。

 未だに依頼はなし。この調子だと、今宵はただのお散歩コースで終わっちまう。どうする気もないが、どうしたものか。

 熱意の欠片も無い考えが堂々巡りで渦巻く。どこぞの仙人が聞いたら説教が飛んできそうだ。そんな中、ふいにクラウンピースがオレの前に回り込んで立ち止まる。お得意のニヤリ顔で。

「ヘイ、あたいにグッドアイデアがあるぜ!」

「ほーん……? とりあえず言うてみぃ」

「ふっふっふっ」

 すると彼女は一層笑みを深めて、「じゃーん!」とどこからともなく松明を取り出して掲げた。いやちょっと待てマジでどこから出しやがった? バッチリ火点いてんぞ。

 物理法則を無視したナニカなど意に介さず、妹(仮)が意気揚々と語り出す。燃え滾る松明を振りながら。アマゾネスか。

「あたいの火を視たら最後、誰もが正気なんか保っていられない。あっという間に心を惑わすことができるのさ。これで村人たちを狂わせて、事件になったところをブラザーがとっちめるってのはどう? イカしてない?」

「イカしてない。お前それマッチポンプじゃねーかよ。却下だ、やり直せ」

「えぇ~!? じゃあじゃあ、松明の火でボヤ起こしてからの火消しは?」

「逆に文字通りになっとるがな。どっちにしてもイカサマだろうが。そこまでして仕事する必要はねーよ」

「大丈夫だってば。バレなきゃイカサマじゃないんだぜ?」

「どっかで聞いたことあるセリフで誤魔化すな。その考えは嫌いじゃねぇけどよ」

 とはいえ、これでも一応コイツなりに考えたつもりなのだろう。自作自演のパフォーマンスばかりなのは独特ではあるが。やはり地獄でしかも妖精ってか。発想がダークなうえにイタズラ寄りに傾く。

 にしてもやけに熱心だ。まさかとは思うが、実はコイツがやりたいだけなのではあるまいな。

 立て続けにダメ出しされたのが気に食わなかったのか、作戦変更。アメリカ妖精がメラメラ燃える松明を手にしたまま猫撫で声で擦り寄ってくる。ちょぉおお!?

 

「ねぇ~ん、いいでしょおブラザぁ~?」

「だぁぁあ! 火ぃ点いてんだろーが危ねーわ!!」

 

 可愛らしい声を出しておきながら行動がクレイジーである。

 もはや意地なのかヤル気に燃えており、その熱意たるや仕掛けずにはいられないと顔に書いてある。これが成果主義の外資系スタイルか。意識高い系もこうやって生み出されるのかもしれない。さすが米国。

 んなコトよりも、このままゴタゴタしてたらオレがその熱意よりも先に物理的に燃やされちまう。近ッ! 熱ッ!

「わぁーったっつの! やればイイんだろ、やれば!?」

「うんうん、その通りだよ。さすがあたいのマイブラザー♪」

「この……」

 

「その話、詳しく聞かせてもらっても良いですか?」

 

「――……」

 とてつもなく聞き覚えのある女の声が会話に混じってきた。あるいは、最初からそこに居たのか。クラウンピースの猫撫で声よりもさらに上を行く甘く蕩けるトーンに、対するオレは一瞬にして固まった。

 柔らかな桃色に色付いたミディアムヘアに白いシニョンを飾り、胸元に薔薇が咲いた中華衣装と緑色のミニスカ。極めつけは右腕に巻かれた包帯と鎖の繋がった腕輪のアクセント。

 ニコニコと見た目だけなら麗しい笑顔を張り付けて、茨木華扇がオレたちに微笑みかける。

 

「うふふ、聞き間違いですよね。よもや綿間部が詐欺行為を働こうとしているなんて」

 

 まるで「天気が良いのでお出かけしましょう♪」と言いたげな甘ったるい声音で言葉が紡がれる。が、瞳が一切笑っていない。それどころか光すら灯っていない。だから怖ぇえよッ!

 非常にマズイ。上手く言いくるめなければオレたちの明日はない。むしろオレの明日がなくなる。

「ふっふっふー、パーフェクトな作戦だろぉ?」

「バカかッ!? お前はだーっとれぃ!」

「え? ホワイ?」

 ここにきてクラウンピースがまさかの空気読めない発言をかましやがった。慌てて止めようにも、一度出てしまったものはどうすることもできない。手遅れともいう。

「……………へぇ」

 同時に、華扇の声のトーンが氷点下まで落ちた。あ、これもうダメな展開だわ。

 スゥーッと深く息を吸い込む仙人サマ。そして――

 

「こんのっ、馬鹿者ぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 眉尻を吊り上げてついでに怒声も張り上げてお説教シャウトが人里の隅々にまで響き渡った。あまりの五月蠅さに堪らず耳を塞ぐ。オレの脇では、初見かつ直撃を受けたアメリカ娘が「What’s!?」とネイティブ発音とともに引っくり返っていた。オイ、いくらタイツ穿いててもスカートだろーが。

 そんなオレたちのもとへ一直線に距離を詰めると、華扇は覗き込むようにしてオレを睨みつけた。赤みがかった瞳がこちらを鋭い視線で射抜く。

 

「見損ないました! 破廉恥なだけならまだしもこんな姑息な手段で稼ごうとするなんて、恥を知りなさいッ!!」

「誰が破廉恥やねん……」

「黙りなさい!! 良いですか、働くとは本来誰かの役に立つこと。言うなれば、貴方の仕事もそうであったでしょう。困っている人から悩み相談を聞いて、それを解決することで感謝の気持ちとして対価を頂戴する。そういうものだったでしょう? にも拘わらず……今のはなんですか! 自ら他者に迷惑をかけようとするなどと! 情けないとは思わないのですか!? しかもこんな小さな女の子相手に密着されて甘言を囁かれて、あまつさえ陥落しそうになるなんて! もしやそういう趣味だとでも!? もうっ、だから綿間部は心配で仕方ないんです! ちょっと目を離せばすぐにこれなんだからッ!!」

「だーもう! 夜中に大声で叫ぶんじゃねぇって! あとそういう趣味ちゃうわ!」

 

 怒涛の勢いで捲し立てる華扇から一歩退きつつ負けじと言い返す。だが、こちらが一歩下がればその分あっちも前に詰めてくる。逆に逃がすかとばかりに余計に狭まってしまう始末。この喧しさ、間違いなく近所迷惑確定だろう。また上白沢女史が飛んでくるぞ。

 説教がノンストップな桃色仙人の傍ら。ようやく起き上がった金髪妖精がポンと納得した表情で手を打った。

「Oh、これが巷で噂のチワゲンカ。ブラザーのハニーって仙人だったのね!」

「何もかも違ぇよ! つーか、さりげなく他人事ポジションすんな。そもそもの発端はお前だろうが」

「Really?」

 今更だが所々にネイティブなカタカナ入れてくる感じで個性を確立してやがんな、コイツ。ひょっとしたら、今まで出会った中でもキャラの濃さがダントツかもしれない。あとクラウンピースってぇ名前からして微妙に長いんだよ。だからピースなのか。

 などと思考を逸らしたところで現状が解説するハズもなし。「聞いているのですか!?」と、華扇がぐいぐいと迫ってくる。だから近いっつの!

 

「大体どうして地獄の妖精が綿間部と一緒にお仕事してるんですか! 私だってまだ少ないのに! 私だけじゃ物足りなかったというの!?」

「そうなのブラザー? もしかして、あたいとも遊びだったの!?」

「ばっ!? お前ら道のド真ん中で何叫んでやがんだコラァ!?」

 

 仮にも女二人が男を間にそんな発言をしようものなら、またもやオレの悪名(誤解)が広がっていくのは止められない。人の噂も七十五秒で行き届くこと待ったなし。村社会かよ。

 ほら見ろ。通りがかった女らのクソを蔑むような視線がオレに集中し始めた。あるいは一切の感情が込められていない虚無の眼差しが突き刺さる。おい今誰かロリコンって囁かなかったか!?

 嗚呼無情。三日月も揺蕩う静かな夜だったというのに、瞬く間に人里はカオスに包まれていった。上白沢女史が出動するまであと何分だろう。フッと笑みが零れるが、ニヒルではなく自虐のそれなのは言うまでもなかった。

 

「綿間部!!」

「ブラザー!!」

「だぁチクショー! 何なんだコレ!?」

 

 

 本日の収入金額、ゼロ。

 

つづく




クラウンピースもサブヒロインじゃないから!
どっちかといえばヘカ様がげふんげふん

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。