はぁあ、赤髪ショートでショートパンツ?で生足がグンバツとか最高っすわ
僕も白血球になりたい(キチガイ)
月に叢雲、花に風。あの三日月から数日過ぎて、今宵は半月。
「Hey! ブラザー、また会ったね!」
「よう、今日は一人か? ダチ公はどうした」
「いつも一緒にいるわけじゃないよ。だってあたいは地獄の妖精だもん」
「どういう理屈だそりゃよ……」
やたら大袈裟に手を振ってくるクラウンピースとエンカウントした。そのままパタパタと駆け寄ってくるその様は冗談抜きでワンコを連想させる。ビーフジャーキーでも与えたくなってきたわ。
当然ながら、ちょいと言葉を交わしてハイ終わりとはいかず。いつぞやと同じく、アメリカンな金髪フェアリーがちょこちょこと後ろをついてくる。「仕事中だ」と告げれば「見ればわかるよ」と白い歯を見せて笑いやがった。懲りないヤツめ。
例の如くオレを兄呼びする妖精は、頭の後ろに指を組んでどこか勿体つけるような口振りで言った。
「まぁ? あたいもマスターから重大なオシゴト任されてるしぃ?」
「って、お前にも主人いんのかよ」
「Yes!」
主人と言っても旦那とか亭主とかの意味合いではない。ダーリンじゃなくてマスター。というか、妖精ってぇのはフリーランスなんじゃなかったか。自然の権化だとかエラく大層な肩書きを持っていたハズでは。もしくはコイツが例外なのか?
はたして地獄の妖精が誰の元に仕えているのか、何気に気になる。ちょっとした好奇心で尋ねてみれば、予想の斜め上を行く答えが返ってきた。
「あたいの主は女神だよ」
「……っかー、女神ときたか」
一気にスケールがデカくなっちまったなオイ。さすがに予想外だわな。会ったこともねぇしよ。
いや、八坂神と洩矢神も女の姿をした神という意味ならば、女神とも言えなくもない……のか? 知らんけど。ついでに実感もイマイチ湧かない。
どうにも女神といわれると、金の斧とかで出てくる泉(湖だったか?)の精霊みたいな聖女をイメージしてしまいがちになる。さもありなん。美術品だの女神像だの、よくある造形といえよう。
もっとも、クラウンピースのマスターがどういう感じの女神なのかは、当然オレには知る由もねぇワケで。あるいは、女神と妖精の組み合わせと考えれば案外違和感はないのかもしれない。
「で? その女神サマとやらからお前は何を命じられたってんだ?」
「んっと、幻想郷に住んで見識を広めてこいって」
「オイ……はじめてのおつかいにしちゃアバウト過ぎねーか?」
OJTにしてはぶっつけ本番にも程があんだろ。いきなり現場に放り出すとかブラック企業じゃねぇか。黒はオレのトレードカラーだが、そういう黒さは求めるところじゃねーわな。
とりあえず、見たところこのチビ助が嫌がっている様子はない。無理矢理に放り出されたクチではないと結論付けておいた。ガンバッて社会勉強してきなさいってか。スパルタなんだか親心なんだかわかんねーな。その女神サマ。
ま、それにガキとはいえこんなでも妖精の端くれ。コイツ自身もエンジョイしているみてぇだし、何だかんだでどうにかなっているのであろう。おかげでこうして兄弟呼びで懐かれちまってんのだが。
「ふっふっふ、心配ないさ。いざとなったらコレがあるからね!」
「だからいきなり松明を掲げんなつってんだろーが! 蛮族かお前は!?」
「あたいに触れると火傷するぜ?」
「そらそうだろうよ……」
キメ顔でイイ感じなセリフを口にするアメリカン妖精。しかしながら、その光景はあまりに不釣り合い。なにせ奇抜な身なりしたガキんちょが火のついた棒切れを振り回しているのだ。
むしろハロウィンだったら似合っていたかもしれん。お菓子要求のイタズラが着火を意味するとすれば大惨事でしかないけど。それただの放火やんけ。
「そんなことよりブラザー、あたいお腹減った。ポテト食べたい」
「……………今何つった?」
「だーかーらー、フライドポテトが食べたいの! アイム ハングリー!」
「わざわざ英訳せんでいい。つーかお前、フライドポテト分かんのか」
「え? あったりまえじゃん」
思わず耳を疑ってもう一度だけ問い直した。しかし、そいつは聞き間違いではなかった。朗報、ここにきて同志を見つけたり。
例えるならば砂漠のド真ん中でオアシスを発見したかのように、喉の奥から掠れた息がじわりと漏れる。
「マジか……幻想郷の連中には誰一人として通じなかったってぇのに……」
「Really!? どんだけ田舎なのさ……」
「ホントそれな」
オレがいた現代からすればド田舎なのは揺るがぬ事実であろう。んなモン、八雲紫に連れてこられた初日から分かり切っている。
しかしながら、どうやら米国スタイルの服装は伊達ではなかったらしい。確かにコイツならバーガーもコーラも似合いそう。いっそマスコットキャラにでもなればいい。ヘンな色した着ぐるみよりよっぽど人気者になれる。それはさて置き。
実際問題、この手の類いは伝播するのが厄介なところ。余計なコト考えたせいでオレまで無性に食べたくなってきちまった。ましてやフライドポテトは我が大好物である。あの健康とは真逆を突っ走るジャンクフードが堪らなく恋しい。
「あーくそ、今更別のモンで我慢する気にならねぇぞ……」
どうにかしてソレを食せないものか。傍から見れば下らない悩みだが、今のオレとクラウンピースにとっては死活問題ですらあった。分かるだろうか、この気持ちが。
あの繁華街だったら即座に解決する問題も、この異世界に置いては難易度が高く厳しい。マックもねェモスもねェ、バーガーキングは都市伝説。ロッテリアもラッキーピエロも幻想郷にはありゃしない。あ、詰んだわコレ。
だったら自炊すりゃイイだろってか? バカ言うなや、仮暮らしのテント野郎にできるワケねぇだろーが。
いや待てよ? それならいっそ……
「誰かに作ってもらうっつー手段もあるな。レシピさえ説明できりゃ何とかなるだろ」
「心当たりあんの?」
「フッ、オレの人脈をなめんじゃねぇ」
こちとら幻想入りしてからそこそこ日数の経った何でも屋。見知った顔ならそれなりに増えた。しかもなぜか女ばかり。意図してやったことじゃねぇから。偶然だ、偶然。
ともあれ、メシ処の伝手も幾つか手札あり。パッと思いつくのは、ミスティアの屋台か赤蛮奇が働く酒場。いや、後者は赤蛮奇が調理スタッフしているワケじゃねぇけど。店主のオッサンよりもあっちの赤髪ショートの方が印象深いせいだ。
さて、どちらに頼みに行くのが正解か。距離的に近いのは赤蛮奇。頼めばすんなりOKしてくれそうなのはミスティア。どちらも捨てがたい。
無駄に頭を悩ませていると、偶然にも桃色ミディアムヘアで中華衣装な仙人サマが通りかかった。
「何を悩んでいるのですか?」
パチクリと瞬きしながら小首を傾げて華扇が問いかける。
和服女将な鳥娘もそうだが、コイツもコイツで結構あざとい仕草が多い。どっちも髪色がピンクという共通点もあった。むしろ華扇の方が全体的にピンクカラーなのかもしれない。服装も瞳の色も含めて。
「ああ、実は――」
「ブラザーがどっちの女でご馳走になるか決めらんないの」
「は……?」
「いや待て誤解すんな真顔になるな拳を握り締めるなオレの話を聞け」
クラウンピースの余計過ぎる一言を真に受けて――しかも微妙に間違ってやがるし、包帯の巻かれた右手で拳骨の構えをとる桃色仙人をこちらも真顔になって押し止める。まるで凍土のような一切の感情を失った瞳に冷や汗が溢れる。
大抵の場合、このあと説教と折檻のセットが続くのだから意地でも阻止せねばなるまい。というか、どうしてこの金髪フェアリーはやたら火に油を注ぎたがるのか。そういうとこやぞ、お前。
「……そういうことでしたか」
「あぁ、そーゆーこった。分かってくれたか?」
「ええ。そもそも、あんな紛らわしい言い方さえしなければ私だって無闇に怒ったりしません」
「そーかぁ? お前さっきの面構えガチだったじゃねーかよ。ぜってぇキレる一歩手前まで来てたろ」
「う、うるさいですっ! ところで……その、そんなに美味しいものなのですか? ふらいどぽてと? というのは」
「そらオレが愛してやまない郷土料理(ジャンクフード)だかんな。マズいワケがねぇ」
「…………ッ!!」
華扇の質問に対して好物であることを告げると、桃色の女は大きく目を見開いた。いや、別にそこまで驚くようなこと言ってなくね?
「ふむ……」
すると今度は腕を組んで考え込み始める。なんでや。今の会話に深く考える要素なんざ微塵もないと思うのはオレだけなのか。
ようやっと考え事が済んだかと思えば、チラチラとこっちに視線を投げながら「んんっ」と咳払いしてきた。ちょっとわざとらしいうえに、どこか落ち着きがない。
「も、もしでしたら……私が作ってあげてもいいですよ……?」
「Really!?」
驚異的な反応速度で飛び付いたのはクラウンピースだった。最初に食べたいと言い出した手前、まさに願ったり叶ったりな申し出なのは言うまでもなく。ったく、純粋というか単純というか。
お目目のお星さまがキラキラ状態な妖精に、華扇は柔らかく微笑みかける。
「まずは調理しなければならないので少しだけ時間はかかりますが。それと、屋敷に来てもらう必要がありますけれど、構いませんか? どうせ綿間部は料理道具なんて持ってないでしょうし」
「フッ、よく分かってんじゃねーか」
「それはもちろん。あのような住まいで自炊しているとは思いませんから」
「んだよ……そこまでお見通しってか。抜け目ねぇなオイ」
「あなたのことはいつも見てますからね」
ニヒルに笑って応えるとあちらも相好を崩す。自ずと見つめ合うようなかたちになった。やれやれ、仙人サマの監視の目は細かい所まで行き届いているらしい。
クラウンピースがオレと彼女を交互に見て「Oh」とか抜かしておったが、他意はない。断じて。
「いただきます」
「イタダキマース!」
「はい、召し上がれ」
ニコニコ顔の華扇の言葉を合図に、大皿に山盛りなフライドポテトに臨む。食べ放題でもお目にかかれないほどのボリューム感。山盛りっていうかもはや山峰そのものであった。マウント・イモ。
……些か作り過ぎじゃないですかねぇ。今回だけでどんだけジャガイモ使ったんだ、この女。
「綿間部の大好物ですからね!」と腕まくりして気合を入れていた桃色少女が台所に消えて行ったのが数十分前のこと。その間、オレとクラウンピースは出来上がりがくるまで大人しく待機を命じられた。
いや、アメリカン妖精については寅さんの背中に跨ってはしゃいでいたけど。ジャングル大帝かよ。
「ンー、デリシャス!」
クラウンピースがその小さな両手でフライドポテトを鷲掴みにして次から次へと口の中に押し込んでいる。どうでもいいけど、熱くねぇのかお前。
「綿間部は食べないのですか?」
「いや、貰うわ」
「ええ、どうぞ♪」
オレも揚げたてのポテトに指を伸ばす。それにしても、仙人サマお手製のジャンクフードとは如何に。あと、ご本人がさっきからジッとこちらが食べるのを観察してきていやがる。まさか、どれか一つに香辛料を大量に盛ったロシアン・ルーレット式だったりすんのか。
「…………フッ」
ま、この女に限ってそりゃねーか。もしやるとすれば何らかの意趣返しとか、そういう時だろう。
金髪フェアリーのように鷲掴みにはせず、適当に選んだ一本を齧る。僅かに溶けたイモの表面が油でコーティングされ、まるでビスケットのようなサクサクとした食感を生み出す。
内部から穀物の果肉が舌の上へと零れる。表面は程良い固さで内側はソフト。そこに旨味を損なわない余熱と大雑把な塩気が混ざり合う。素朴ながらも、いや、だからこそと言うべきか。
作り方は皮剥いて切ったジャガイモを油で揚げて塩振っただけ。その単調さにも違いは生じる。作り手の性格が表れているのか、ジャンクフードというよりもキチンとした単品料理になっていた。
「まだまだありますからね」
「ヤフー!」
「どこの検索エンジンだお前は」
「うふふ、そう言いながらも綿間部だって美味しそうに食べてますよ?」
「……ほっとけ」
華扇の温かな眼差しも意に介さず、オレはシスター(諦)と一緒になって久方振りの好物を堪能した。
結論からいうと、タバスコ入りは一つもなかった。
華扇がどうしてオレをずっと見ていたのかは疑問が尽きねぇが……ま、不機嫌なツラで睨みつけられるよりかは百倍マシだろ。
つづく
次回予告
第三十一話 「あー、女神サマぁ?」
ついにサブヒロイン現る(予兆)