コインランドリーの看板で最初の一文字が隠れて「インランドリー」になってるところ
よってお洗濯はエロい
「Really!? ブラザーって外来人なの!?」
「あー? 言ってなかったっけか」
「初耳だよ!」
「そーかい、そらすまんかったな」
はたして何度目のリアリーだろうか。多分四回目くらいだな。
イモマシマシに聳えていた特盛マウンテンを頂まで踏破し、食後の一服。腹の中が炭水化物で埋め尽くされている感。満腹を通り越して若干キツくすらあった。いくら好物つってもしばらくは食わなくてもいい気がしてきた。
テーブルを叩かんばかりに興奮するクラウンピース。こうなった発端は、幻想郷の連中も知らないジャンクフードをどうしてオレが知っているのか。取るに足らないちっぽけな疑問への答えも、このガキんちょには大発見だったらしい。
「スゲーッ! 本物の外来人なんてあたい初めて見た!」
「別にマジモンもパチモンもねぇだろーが」
「ねぇねぇ、『外』の世界のモノ持ってきてないの?」
「そーだな。例えば……ホレ、壊すんじゃねェぞ?」
「Foooo!!」
ついに発狂したかと思うほどのテンション爆上がり。巷で噂のウェーイ系ですらこうはいくまい。
切り札のピストルを貸してやれば、ネイティブかつ甲高い歓声を上げやがった。今にも飛び跳ねそうである。とりあえず落ち着け。事前に弾は抜いておいたから引き金を引いたところで意味ねぇけど。
そんなのお構いなしに拳銃を構えて金髪アメリカンがニヤリと不敵なツラで決め台詞を言い放つ。
「あたいに触れると火傷するぜ?」
「それお気に入りなんか」
ゴルゴ13でも読んでんのか、コイツは。
ちんまい見た目のせいで全然キマッてないシスター(諦)をゲンナリした目で見やる。ハリウッドなアクションシーンを再現したいなら色々と成長してからにしとけ。
間近でオレとクラウンピースの掛け合いを聞いていた仙人サマがくすりと笑みを零す。
「他の妖精の時もそうでしたが、意外と子どもに好かれる性分なのかもしれませんね。心が無垢だからかしら?」
「はっ、オレが無垢とか片腹痛いわ」
真逆だ。決して有り得ないと一蹴する。
無垢だとか純粋だとか、そんなキレーなコトバとは最も無縁な男。それがオレなのだ。逆にこの女にこそ似合うだろう。より正確には、無自覚とか無防備とか天然とか。
「というかアイツ、地獄の妖精なんだろーが。むしろダークサイドじゃね?」
半ば冗談だったが言い得て妙かもしれない。動物連中と一緒になってキャーキャーやってるチビ娘を視界に収めて、地獄だ何だというのも想像し難い。かつて繁華街じゃ子どもなんざいなかった。だから余計に懐かれる理由が分からん。
ともあれ。小野塚小町とか死神やら、クラウンピースのようなヘルフェアリーやら。それらの存在は地獄と称される場所は確かに在るのだと示していた。そのうち天国からの使者も来るんじゃなかろうか。
「なぁオイ、結局地獄ってぇのはどぉなんだ? 面白ぇのか?」
「まさか。地上に住むことの許されない、ただの罪人が居る場所です。生者が無闇に近付いて良い場所ではありません」
「チョーヤバイところだぜ。焚き火よりも何倍も熱い火が燃え続けてたり、栗のイガイガよりも何倍も鋭い棘で覆われている処もあるし、闇だって深いし。あたいじゃなきゃチョベリバだね」
「それ英語じゃねーよ。つーかいつの時代の生まれだオノレは」
やけに淡々と切って捨てる華扇と、指折りつつ特徴を並べるクラウンピース。どちらの答えを聞いてもマトモじゃないのは明白。ま、そら地獄が快適だったらどうしようもないわな。
「やっぱりロクなトコじゃねぇってか」
「当然です。でも大丈夫ですよ。綿間部が地獄に堕ちないように私がしっかり導いてあげますからね」
「何一つ大丈夫ちゃうわ……」
やけに自信たっぷりに豪語する桃色の女に、半目になって気疲れの溜息が出る。最近やっと本来の夜勤形態に戻れたというのに、ここでまた炎天下に引き摺り出されるなんざ洒落にもならん。
あれから数日。真ん丸の満月が浮かぶ夜が訪れた。
「ブラザー、お散歩しようよ。人里の外とか行ってみたくない?」
「いいですね」
「……なしてお前らが当然みてぇなツラしてんのかは敢えて聞かんぞ」
待ち合わせていたワケでもない。にも関わらず、金色と桃色の女二人組がオレの到着を待ち侘びていた。仙人と妖精がフツーにオレの生活サイクルを把握していやがる。こうも筒抜けだと驚きを禁じ得ない……と言いたいところだが、ここ数日で慣れちまっていたりする。
何の因果か連日連夜でオレ、華扇、クラウンピースの三人メンツで行動してばかりいた。それこそ初めのうちは偶然の鉢合わせであった。それが何時の間にやら自然な流れでついてくるのだ。どっちもオレを見つけるや否や。
もはや周りからもこの組み合わせが「いつもの光景」として扱われちまっていた。人里でのあらあらうふふと生暖かい視線と微笑ましげな笑い声が痛痒い。すっかり仲良しこよしな絵面に映っているのか。いや、下手すりゃ男と女とガキ一人でまたあらぬ誤解を生んでいる可能性も。嗚呼、頭痛くなってきた。
こちらの気がかりなど知ったことかと華扇がオレを連れ出す。
「さ、行きましょう。綿間部」
「へーへー」
抵抗する気力も湧かず生返事で応じる。結局のところ、あーだこーだと悩んでおきながらもオレ自身少なからず受け入れつつあった。そいつが果たして喜ばしいことなのか、オレには知る術はない。
先を行く女二人を追うようにして、こちらも足を進める。やれやれ、今日も仕事になりそうもねぇわな。
「Fooo! ワンダホー!!」
人里区域の外側に飛び出すなり、クラウンピースが満天の星空を目がけて全力で叫んだ。ついでに両腕も大きく広げて感動を表している。相変わらず騒がしいやっちゃな。
七夕の時期は終わってしまったものの、負けず劣らず普く天体が一つ一つ輝きを放つ。宵闇の中に無数の光の粒が集まり、まるで夜空を占領しようとしているかの如し。
しばらく待てば、そのうち流れ星の一つでも降ってきそうなほど。
クラピは喜び平野駆け回る。オレはその辺で立ち尽くす。ちなみに華扇はこちら側であった。ニヒルな笑みでアメリカンなチビ助を見守る。
「フッ……いつにも増してはしゃいでやがるぜ」
「だってだって! あんなにくっきりした満月も、こんなにいっぱいの星も地獄じゃ見れないんだもん! パーフェクトッ!」
「地獄は其の名に違わず、とても深い地の底にありますからね。月や星の光が届かないのは仕方のないことです」
「ほーん……」
さりげない華扇の補足になるほどと頷く。要は南国生まれが雪でテンション上がるのに近いのか。だとしたら確かに珍しかろう。気持ちは分からんでもない。
ま、そいつはさて置き、
「前から思ってたんだが、お前も妙に地獄に詳しいよな。それも仙人ってぇのが関係すんのか?」
「えッ? え、ええまぁ……旧地獄なら足を運んだこともありますし……でも、偶々ですよ? 特別地獄に縁があるわけではありませんから」
「そーいうもんか」
地獄に旧いも新しいもねぇだろと思わなくもないが、異世界だしその辺も何でもありなのだと己を納得させておく。ちゃっかり生きたまま地獄に行けて、あまつさえフツーに帰ってこれるんだとさ。それもう地獄としてどうなんだ。フリーパスで往復自由かよ。
さらに人里から少し離れたところまで歩みを進める。そこは以前、ミスティアの屋台と遭遇した辺り。だが生憎と今夜は居なかった。どこか別の場所で店を構えている模様。
「…………」
夜風が涼しく心地良い。今やネオンライトの明かりを久しく見ていない。けれど、良くも悪くもそのおかげで埋め尽くさんばかりの星空を眺めることができている。不思議なものだ。よもやテメェが異世界に拉致されるなどと誰が予想できよう。
だからといって、妖精娘と女仙人と三人で仲良く夜の散歩中な現状はどうなのか。つくづく何やってんだろーな、オレ。
「ざまぁないよな……」
「綿間部? 急に立ち止まってどうしたのですか?」
ただでさえ遅れ気味だったオレが完全に足を止めたのに目敏く気付いて、桃色の髪をもつ彼女がわざわざ引き返してきた。隣に立って怪訝そうにこちらを覗き込まれた拍子に、赤みがかった瞳と視線が重なる。
整った顔立ちと無防備な仕草。美麗な女というのは時として男にとって性質が悪い。いや、分が悪い……か。こういうのに動じるタイプじゃなかったんだがな、今までは。
ゆっくりと目を逸らして、美人の顔から夜空へとシフトチェンジする。
「何でもねぇよ。ま、アレだ。満月を眺めていただけだ」
「あぁ……そういえばそうでしたね」
オレの言葉につられて彼女も同じ方向を見上げる。遠巻きにクラウンピースのハイテンション過ぎてもはや奇声に近い感嘆も耳に入ってくる。忙しなく走り回っているであろうことは、わざわざそちらを見ずとも分かった。いやうるせぇよ。
『…………』
流れ星どころか月そのものが落ちてきそうだ。ここまで形も大きさも立派に象られている満月は、ひょっとしたら生まれて初めて目の当たりにするかもしれない。あまりにも見事な黄白色の真円。
傍らに並ぶ桃色の少女も同じ感想を抱いたらしい。オレにしか聞こえないような声量でポツリと呟いた。
「月が綺麗ですね……」
「……………」
「綿間部? どうして黙り込んでしまうの?」
「いや、お前……」
つい反射的に硬直してしまった。思春期じゃあるまいに。情けねぇぜ。
しかし仙人サマとあろうお方が文学知識を持ってないとは。あるいは幻想郷にその類が来ていないというセンもある。よって深い意味はなく、この女が無自覚で言葉通りの感想を伝えたに過ぎない。
だから、もう死んでもいいとか、そういう返しを思い浮かべた時点でオレはイカれてやがる。大体、オレみたいなヤツがロマンチックな思考してんのがそもそもの間違いなんだからよ。
「だぁチクショウ! もうこの話しは終いだオラ!」
「ちょっと、いきなり何なんですか!? ちゃんと分かるように説明して下さいッ!」
「あーあー! 聞こえねぇなー!」
「わ~た~ま~べ~……ッ!!」
半ばヤケクソになり声を大にして会話をぶった切った。が、それは悪手だ。案の定、華扇が不満そうなのを隠しもせず詰め寄ってきやがった。もともと真横な立ち位置でさらに距離を縮めればどうなるか。もはや言うまでもなし。
彼女の匂いが伝わってくる密着寸前にまで近付かれてしまう。仄かに甘い女にしか出せない香り。そいつが妙にオレを揺さぶる。だから近ぇよこの無防備が!
間近で漂うソレだとか、身体に触れる柔らかなナニカだとか。意識したら負けな気がするアレコレが容赦なく襲いかかってくる。ついでに小言まで付いてきやがった。
「大体あなたは――」
お淑やかにしていれば、月明かりの平原で佇む桃色ミディアムヘアの美しい女仙人の姿はさぞ絵になったであろう。だが現実は非常である。現実から目を背けるように、オレは今一度だけ大きな満月に視線を逃がした。物理的にも心情的にも遠い目になっていたのはしゃーなし。
さながら物語の描写にありそうなフルムーンに、心の声が漏れた。
「……月の使いが迎えに来そうだな」
「うぅん、迎えに来たのはあっているかな。でも、月の僕になった覚えはないんだけどなー」
まさしく不意打ちであった。頭上から女の声が降ってきたのは。
茨木華扇でもなければクラウンピースでもない。それどころかオレの記憶にもない誰か。初めて聞く声音にハッとなってその姿を探す。犯人はすぐに見つかった。
「こんばんは。良い月よね」
若い女が一人、月星の夜空を背景にするようにして宙に浮いていた。
外見からいえば二十代かそこらだろうか。ちんまい小娘には到底出せない年上の余裕めいた雰囲気を醸し出している。肩にかかるセミロングの赤髪を下ろし、僅かに吊り目がかったところも魅せる端正な顔立ち。
大胆に肩まで露出させた黒い半袖Tシャツには「Welcome Hell」のプリント付き。下はチェック模様&グラデーション色で太腿ギリギリな丈のミニスカが翻る。しかもソックスどころか靴も履いてないせいで生足が爪先まで露わになっている。
極めつけは
この瞬間、上白沢女史の四角い帽子の遥か上を行く個性的なファッションに出くわした。とりあえず、ああいうタイプのオシャレして高い位置に居られるとこちとら問題しかねぇワケで。
「ちょっと綿間部! どこを凝視しているんですか!? この助平!!」
「バっどこも見てねェわ!」
「嘘吐きなさい! 私の目には誤魔化せませんからね!?」
「いや嘘じゃねぇから」
「ふふ……♪」
ほらこうなった。華扇が眉間にしわを寄せて怒号を飛ばしてきた。負けじと言い返すがまるで痴漢冤罪に遭った気分だ。ヒトをパンチラ狙いみたいに言うなや。例の女は笑っていやがるし。
肩出し半袖、素足むき出しのミニスカ。上も下も露出の高い思春期男子には刺激が強いであろうコーディネートの美人が、いかにも
そんな中、我先にと飛び出したのはオレでもなければ華扇でもなく(むしろ頬を膨らませてオレを睨んだまま)件の謎女でもなかった。この場に居るのはあと一人。そう、全身米国マークな地獄の妖精であった。
「ヘカーティア様!」
「あ? 知ってんのか?」
「んもー、この間言ったじゃん。あたいのマスターだよ!」
『えっ』
クラウンピースの発言にオレだけでなく華扇も驚いたらしい。おかげで声が重なった。おかんむりな不機嫌面から一転して目を丸くしている。
あのキャラ濃過ぎなバリバリ目立つファッションの赤髪セミロングな女が、地獄の女神サマだという。いやまぁ、服装だけなら繁華街にもいそうな感じではあるのだが。逆に違和感ないかもしれん。
噂の女神がそっと地上に降り立つ。裸足だけど大丈夫なのか……と思ったがよく見ると地面に足が触れていなかった。気になるなら靴くらい準備してこいよ。
来訪者はクラウンピースを見やり表情を緩める。それから、オレや華扇の方へと顔を向けてくすりと微笑を零した。落ち着きにちょっぴり茶目っ気を混ぜたトーンの声が女の口から放たれる。
「私もご一緒して良いかしら?」
つづく
次回(仮題)
第三十二話 「どっちを選ぶの!? ~仙人サマor女神サマ~」
ラブコメっぽい臭いがしてきたぞぉ