東方扇仙詩   作:サイドカー

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このすば紅伝説サイコーでした ←上映初日に行った人

父さんな、入場特典第2弾も欲しいからもう一回観に行こうと思うんだ


第三十二話 「どっちを選ぶの!? ~仙人サマor女神サマ~ 前編」

「はぁい、クラッピー、元気そうでよかったわ」

「ヘカーティア様! いつ来てたの!?」

「ついさっきよ」

 ご主人サマのところへちっこい臣下が駆け寄っていく。やっぱりワンコにしか見えねぇ。もし尻尾でもあろうものなら千切れんばかりに振り回していたハズだ。間違いない。断言しても良い。

 ご機嫌にピョンピョンと飛び跳ねている小型犬モドキと飼い主が再会を分かち合う。

「幻想郷での暮らしはどう? 楽しくやれてる?」

「チョー楽しいよ! あたいが知らなかったものもたっくさん見れた! んっとね、んっとね」

「フフ、お土産話は後でいっぱい聞かせてちょうだいね?」

 伝えたいことが山ほどあって上手くまとまらないアメリカン妖精は大はしゃぎ。そんな忠犬クラウンピースにニコニコと微笑みかけるイカした黒Tシャツの女。その情景は近所の小学生に懐かれた年上のお姉さんを彷彿とさせた。

 

 やがて、チビッ子妖精の肩に手を乗せつつ赤髪セミロングの女がオレ達の方へと向き直った。イチイチ行動が仲睦まじいせいで姉妹じゃねぇのかと疑わずにはいられない。

「あなたたちがクラッピーの面倒を見てくれたの?」

「コイツらが勝手についてきただけだ。オレは何もしとらん」

「コラ、綿間部! 口のきき方に気を付けなさい。ところで今『コイツら』って言いましたよね? まさかとは思いますが、私を含めたのですか!?」

「細けぇこたぁイイだろ。そんぐらいで騒ぐんじゃねーって」

「あなたはまたそうやって……!」

「まぁまぁ、ケンカしないで」

 仙人サマから注意を受けていたら例の女自身がやんわりと止めに入った。

 全くもって大人びた余裕が見受けられる。大らかというより穏やかな性格の持ち主という印象を抱く。あれがホントに地獄のお偉いさんだってぇのか? 今のところ地獄要素つったらプリント文字しかない。

 オレの疑惑を余所に、露出の高いコーディネートで装った女はほっと胸を撫で下ろす。どうでもいいことだが、仙人サマに負けず劣らずデカい。ちょうど英文字のあたりが押し上げられている。

「でも安心したわ、良い人たちに出会えたみたいで」

「だからオレは――……まぁいいけどよ。で、あんたがこのチビを送り出した親玉か?」

「正解。この子、性格が元気過ぎるから。なのにいつまでも地獄の中だけに閉じ込めておくのも勿体ないし、どうせなら色んな世界を知ってほしかったの。あわよくば、少しでもこの子の成長に繋がればいいかなーってね」

 そんなことを言いながら、彼女はクラウンピースを自身の真ん前に立たせると、後ろから両腕を交差するかたちで回した。さながら我が子に加護を与える女神のようであった。いや、マジモンの女神だったわ。

 ちなみに妖精も気持ちよさそうに目を細めておった。口の形がωな感じになるくらいに。何やこの和やか空間。オレみてぇなヤツは場違いな気もしてきた。

 ここまでくると主と従者というよりも、ただの保護者にしか見えない。これが地獄の女神と地獄の妖精のツーショットとは恐れ入った。ついでにまたしても一つ、これまでの常識が覆った。

 

「改めて自己紹介するわね。私の名前はヘカーティア・ラピスラズリ。クラッピーから聞いてもかもだけど、地獄の女神やってます」

 

 自己紹介に合わせて手を差し伸べられる。Welcome HellのプリントTシャツはともかく、本人についてはマトモな対応をしてきた。むしろ良識が過ぎるほど。名前はややこしくて覚え難いのだが。ま、当分は女神サマとでも呼ぶとしよう。

 ひとまず女神サマの手を握り返しながらこちらも名乗り返すことにした。フッとニヒルな笑みで男の生き様を示すことも忘れない。なぜならオレは夜に生きる男。

 

「何でも屋だ。黒岩とでも呼んでくれ」

 

 初対面だらけの幻想郷において何度も交わしたやり取り。今更気負うものもない。地獄の神だろうが閻魔だろうが死神だろうが、オレにとっちゃどーだっていい。

 すると予想外の反応が返ってきた。何故かこのタイミングでヘカーティアとやらの表情が少しばかり意表を突かれたものに変わったのだ。

 吊り目がかった眼を僅かに見開き、赤髪セミロングの女が口を開く。

「私が女神と知ってもなお態度が変わらないのね。博麗の巫女やその仲間たちとも違う……見たところあなた、特別な能力も持たない普通の人間よね。何ともないの?」

「何ともねぇもクソもあるかよ。あんたが女神ってこたぁ既に聞いとるわ。それともアレか、頭が高いとでも言いてぇのか」

「あ、うぅん。そうじゃなくて、ちょっと驚いただけ。それに……男の人にこうやって自然に手を取ってもらえるの、初めてかも。思ってたよりも良いわね……フフッ、クセになっちゃいそう」

「そりゃどーも」

 可笑しそうな微笑を浮かべてオレと握手したまま、女はさらに指の力加減を僅かに変えて感触を確かめてくる。いや、いつまで握手してりゃいいんだよ。つーか手ぇ柔らかいなオイ。さすが女神サマってか――

 

「ンンンッ! ゴホンゴホン!」

 

 やけにわざとらしい、いっそ刺々しい咳払いが割り込んできた。オレらの会話を強引にでも断ち切ろうと放たれたような。見れば、華扇が目つきを鋭くしてこちらをジロリと見据えていやがった。より正確にはオレだけに狙いを定めて。何でや。

 ヤツの狙いはどうあれ結果として意味はあった。ヘカーティア・ラピスラズリがオレから手を放す。

 次いで、先ほどと同じく今度は仙人サマに向けて握手を求めた。勿論マジメな彼女が拒むハズもなく、互いに名乗り合いながら女神と女仙人が手のひらを交える。

 ところが、どういうワケかまたもや肩出しシャツの女が首を傾げた。具体的にいうと、茨木華扇が自らを仙人と告げた辺りに。

「あら、あなた……?」

「――ッ!」

 女神のぼやきに華扇がピクッと肩を跳ねさせた。が、それも一瞬のこと。Welcome Hellなソイツはふっと息を吐いて首を横に振った。

「……いいえ、()()()()()()()()()()。変なこと言って気を悪くしたらごめんなさい」

「いえ、こちらこそ()()()()()()()()()

 女同士でしか通じないであろう会話。オレが入り込む余地もない。女性は勘が鋭いなどといわれている昨今だが、案外こういうところからも来るのかもしれん。で、オレは蚊帳の外ってか。

 かろうじて読み取れるのは、ヘカーティアが何らかを察したうえで敢えて黙っているらしきこと。華扇の方もどこか意趣返しのような含みのある礼の言い方をしていたのが気にかかった。わざわざこっちから首を突っ込むつもりもないが、あとはお手上げだ。

 

「っかー、サッパリ分かんねぇ」

「女にはヒミツが付きものなのよ。例えばそう……密かに抱く片思いなんかも」

「はっ?」

 

 女神のコトバに思わずというか素でビックリしちまった。よもや桃色の仙人サマが恋慕の真っ只中だったなんざ知る由もなし。しかも片思いとか言わなかったか。

 これほど美人でスタイルも良い女が好意の矢印を向けてんのに振り向かない野郎がいんのかよ。とんだ贅沢者がいたもんだわな。はたまた気付いてすらいないってぇのか。けっ、どんだけ鈍感な男なんだ。ラノベの主人公かよ。

 どうしてか自分でも知らんが何となく複雑な心境に陥る。無意識のうちに彼女に視線を向けていた。目が合った拍子に、恋する仙人サマが顔を真っ赤にして慌てふためく。

「そっ、そんなわけないでしょう!? 違いますからッ!! 急に何を言い出すのですかまったく!」

「あ、ひょっとしてもう両想いだったかしら?」

「そういう意味じゃありません!!」

 むきーっ!と一喝すると同時に頬を膨らませてそっぽを向く茨木華扇。オイどうすんだ、拗ねちまったぞ。とばっちりは全部オレに向けられんだから勘弁してくれ。

 結局のところ、彼女の態度からはどっちが正解かまでは読み取れなかった。

 

 

 何一つとして遮るものがない平原。

 どこまでも見晴らしが良く、あらゆる方角から風が吹き抜けていく。夏とはいえ夜になれば涼しくもなる。さらに頭上には煌めく星々の群れ。演出としては悪くない。

 もっとも、その下で囲うようにして座って駄弁っているオレらは、周りの目からはどんな集まりに映るやら。天体観測? そのわりには、望遠鏡はおろか完全手ぶらで地べたに直座りときた。ま、深夜にコンビニの駐車場でたむろっている不良どもよりかはマシといえよう。

「でねでね! この人があたいのブラザーになって――」

「フフフ、そうなの?」

 とにかく話したいこと聞いてほしいこと盛り沢山でネタが尽きないクラウンピースが喋りっぱなし。その内容というか様子は、とてもじゃないが上層部へ近況報告している下っ端と呼ぶには程遠かった。ちんまい幼稚園児か小学生が今日の出来事を一生懸命に伝えようとしている、などと例えた方がしっくりくる。

 しかも、保護者のおねーさんも適度に相槌を入れながら耳を傾けてんのも拍車をかけてやがる。子ども相手に聞き上手なこって。

 そんな中、ヘカーティアとクラウンピースの会話を盗み聞き――いや、距離的に聞こえないハズもねぇけど。どうにも俄かに信じがたいものがあり、すぐ近くにいる華扇にコソコソと耳打ちする。

 連中を横目に見ながら、

「なぁ……あの女、マジで地獄の女神なのかよ?」

 かの地獄の者でしかも偉いヤツというからにはてっきり高飛車な女帝の如き悪女と思い描いていた。オホホとか高笑いが似合いそうな類い。だが現実はどうだ。此処にいるのは服装こそパンクだが至って常識的な大人の女である。何というかもっとこう、世紀末なテンションじゃねーのか? 小野塚小町だっていきなり大鎌で切りかかってきやがったぞ。終いには華扇に殴り飛ばされたしよ。

 オレに合わせて華扇も声量を抑えて返す。

「間違いありません。彼女からはとてつもない力量を感じ取れます。守矢の二柱のような信仰による力とは異なりますが、妖力とは全く別物です。神力とでも言い換えられましょうか」

「ほーん……お前がそこまで言うならマジらしいな」

「私だってまさかこのような形で地獄を司る神と会い見えるとは思いませんでした。それに……」

「あ? どうした」

「いえ、何でも……」

 後半チラチラとオレを覗き見てきたが、理由は分からなかった。どうでもいいけど、身体ごとこっちに寄せる必要はないのではなかろうか。小声だけで十分だろーが。

 そうこうやってるうちに、ふいに女神サマの関心がオレに向けられた。魅力的な吊り目が興味深そうにこちらを捉える。

「クラッピーにお兄ちゃんができるなんてね」

「だから違ぇって言っとるだろうが」

「でも、この子がこんなにも懐いているんですもの。それだけでも結構なことよ?」

「偶々趣味が合っただけだろ。何度も言うがオレは何もしてねぇかんな」

 あちらさんは八割ぐらい冗談のつもりなのだろう。が、こっちからすりゃ笑えない。女子供を従えて練り歩いているのがいつもの光景化されてんのだ。オレのイメージ像が崩れかねない状況。ハードボイルドでダンディな夜に生きる男が台無しになっちまったらどうすんだオイ。

 それと、丈の際どいミニスカで体育座りして正面に居られると目のやり場に困るから止めろと言いたい。この女もそうだが、華扇も赤蛮奇も揃いも揃って短すぎやしないか。しかも全員漏れなく素足ときた。ガード甘過ぎだろ。特にこの仙人サマは他にも全体的に無防備という始末。

 露出の高い女神サマがおもむろに一つの提案を持ちかけてきた。

 

「あなたはそう言うけれど。クラッピーがお世話になった恩に変わりはないし、ちゃんとお礼がしたいかな。ね、何か叶えたい望みはない?」

 

 富でも名声でも、女神の私が叶えましょう。赤い髪を肩まで伸ばした彼女は悠々と述べた。確かに、神の御力をもってすれば並大抵の願い事などカンタンだろうよ。両腕でも抱え切れないほどの札束も、誰もがひれ伏す圧倒的な権威も。望むがままに手に入る。まさに人生の勝者。

 はっ、ガキ一匹に懐かれただけで随分と破格な待遇が巡ってきたものだ。わらしべ長者でもこうはいくまい。

 チラリと視線を動かせば、華扇はオレに任すと言いたげに様子見に回っていた。むしろ「どうしますか?」と試している節さえある。いっそオレに代わって「旨いモンを腹いっぱい食いたい」とか言ってくれた方が手っ取り早かったのだが、それは無理そうだった。赤みがかった瞳がオレだけを捉えて離さない。

 ま、コイツがどう思っていようがやることに変わりはない。フン、と鼻息を吐く。

「だからいらねぇっつの。そら依頼で引き受けたんなら報酬は貰うけどよ。だがコイツは違ぇだろ。このチビがテメェでやったことだ」

「あら」

 いつまでも貧乏でいたいワケでもないし、底辺の泥を這いつくばる者で居続けるつもりもない。なれど、百パーセント他人様のおこぼれだけでのし上がってきて、はたしてオレ自身は満足できるのか。否。そいつは女神サマの力であってオレの力じゃない。

 ハードボイルド。クールでニヒルなダンディズム。夜に生きる何でも屋。そんなオレに相応しいのは五分五分なギブ&テイクだ。依頼と報酬のビジネスライクなやり方に他ない。

「……フッ」

 などと御託を並べてはみたものの、現実味がないというのも大きかったりする。ぶっちゃけ、貰えるモンは貰っといて損はなかろう。だとしても、今回のは度が過ぎた代物といえた。ガキんちょの子守りの礼など、せいぜい酒の一杯でも奢ってもらえれば釣り合う。あ、そう言ってやれば良かったのか。今更ながら失敗しちまった。だがもう遅い。言葉に出してしまった後だ。

 ぶっきらぼうに突っぱねてやると、女は口元に手を当てて二度三度の瞬きをした後、視線をオレから仙人サマへ移した。

「彼、変わっているわね。無欲なの? 悟りでも開いちゃった?」

「いえ、無欲ではありません。いつも報酬がなければ仕事はしないと本人も言っていますから。ですが守銭奴というわけでもないのです。客の足元を見て大金をふっかける真似もしませんし、それどころか自分から安く提示することもあるくらいですよ」

「つまり、金次第って言うけれどそこまでお金に拘らない?」

「ふふっ、そうですね。もしくはどこか捻くれているのかもしれません。なのに妖精には好かれやすいみたいですし、変な人なんです」

「オイコラ、張本人がいんのにボロクソ言うなや」

 すかさずオレが言葉を挟むが逆効果であった。仙人サマと女神サマが顔を見合わせて笑い出す。余計なことを口走るとさらに自分の首を絞める展開になりそうだ。「けっ」としかめっ面で身体ごと背けてやった。

 それさえもお構いなしにヘカーティアが未だに笑いを抑えられない状態で話しかけてきた。そういう意味で声が震えている。何わろてんねん。

「ごめんごめん、それなら貸し一つってコトでもいい?」

「ったく、好きにしたらええだろーがよ」

 ちゃっかり諦めていなかった律儀な女神サマに、もうどうでもよくなったオレはぶっきらぼうに言ってのけた。

 よくよく考えれば、女神に貸しを作ったってぇのもとんでもねぇ話だなオイ。

 

つづく




次回、ヘカ様がガンガン行っちゃうそうですよ?
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