東方扇仙詩   作:サイドカー

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淫ピじゃねぇつってんだろいい加減にしろ!
ちょっとばかしエッチな体質してて、本人が意識してないところでもお色気ハプニングとか起こしちゃってる天然モノなんだよ!
でも淫ピもありだと思います(真顔)


第三話 「何でも屋は移転しました」

「ぐおぉ……くっそキツい……」

 遮光性に優れたキャンプ用のテントの中で、深酒した名残りとか諸々に恨み節を吐く男が一人――そう、オレだ。

 おのれぇ華扇のヤツめ、ちったぁ手加減ってのを知らんのか。危うく物理的な意味でも酒に溺れて死ぬところだったじゃねーかよ。朦朧とする意識でこのアジトを組み立てられたのは、もはや奇跡に近い。

「確か、ストックがまだあったはず……」

 うつ伏せのまま体を這いずり、手探りでボストンバッグの奥を漁って散らかす。どうにか発掘した液キャベ(二日酔いに効く激マズのドリンク)を一飲みし、空き瓶を無造作に放り捨てた。っかー、マジで後味ひでぇな。

 ま、ひとまず応急処置は済ませた。どうせ夜まで時間はたっぷり余っている。その間に回復しとけば問題ねーだろ。そう思って、ぐったりと再び身体を横たわらせる。

 と、テントの前に誰かが立ち止まる気配を感じ取った。聞き覚えのある声が耳に届く。

 

「綿間部、いますか?」

 

「華扇か……?」

「はい。おはようございます」

「おぉー」

 昨日知り合ったばかりの自称仙人なうら若き乙女。あの柔らかな桃色の髪が、今でも深く印象に残っていた。

 手伝うと言った故に、早速オレの様子を確かめに来たのかもしれない。ホント、マジメで律儀なこって。昨夜は彼女自身もあれほど呑んでいたというのに、何事もなく元気そうだった。

 まさしく上白沢女史が言っていた通りの酒豪っぷり。可愛い顔して大した女だ。けどオレを酔い潰させやがったのは一生忘れねぇかんな。

 一向にテントから姿を現さないオレを不思議に思ったのか、華扇が素朴な疑問を放り込む。

「もうとっくに日は出ていますよ? 動かないんですか?」

「冗談じゃねえ。こんな炎天下を出歩くなんざ勘弁してくれ」

「えっ……ですが、何でも屋の仕事を始めるんでしょう?」

 信じられないとでも言いたげな声のトーンで、桃色の髪をもつ仙人がさらに尋ねてくる。

 そうは言っても世の中誰もが明るい時間帯に働くとは限らんだろうが。ま、アレだ。よそはよそ、うちはうちってヤツ。オレにはオレの道があんだよ。

 どうでもいいけど、こちとらまだ眠気が残っているし早うもう一眠りしたくてしんどいのだ。わざわざ来てもらったのに悪いが、さっさと会話を打ち切らせてもらう。オレの体内時計では良い子は寝る時間なんだよ。

 煩わしい音を遮るようにガバッとタオルケットを頭から被りながら、適当にあしらうことにする。

「黒岩の何でも屋さんは日没からの営業でーす、またのお越しをお待ちしておりまーす」

「な!?」

「んじゃ、オレはしばらく寝るから。また後でな……」

「…………………」

 なにやら華扇が黙りこくってしまった。未だにテントの前から立ち去ろうとしないのが気がかりだが、こちらの営業時間も伝えたわけだしマジメな仙人様なら理解して――

 

「…………ふふっ、ふふふふふ」

 

 刹那、外から聞こえてきた「プチッ」という何かが切れる音と不自然なほど穏やかな笑みに、ぞわぞわと一斉に鳥肌が立つくらいに背筋が凍った。バカな、なんという既視感……!?

「オ、オイ。手荒なマネだけは……」

 猛烈にイヤな予感がして入口の向こうに牽制を投げる。だが、残念ながらそれは微塵も意味を為さなかった。

 あっという間にマジメ少女のお怒りに触れて、めでたく本日一発目の説教が炸裂しちまった。

 

「こんの馬鹿者ォオオオオオオ!!」

「うぉあ!?」

「あなたが『外』でいかに不規則な生活をしていたのか、よーく分かりました。こうなったら私自らの手であなたを正真正銘の真人間にしてあげますからね! 覚悟してください、綿間部!!」

 

 叫ぶや否や、なんとあろうことか彼女はテントの内側に突撃してきた。さらに勢いのままにオレを叩き起こそうと身体の上に跨り、両手でタオルケットを引っ掴んで無理矢理にでも剥がそうとする。

「おぉおおおおいッ!?」

 華扇に続いてオレまで叫んでしまったが当然の反応であろう。予測していた事態を遥かに凌駕した。おかげで眠気まで素っ飛んでいく始末。

 って何しやがんだコイツはよォ!? 実力行使にもほどがあんだろ!

 ペラッペラの薄布で綱引きをしながら、なんかもう色々とアウトな言い争いが勃発する。

「ちょバカッ止めろ! つーか男の寝床に躊躇いなく飛び込んでくるヤツがあるかァ!?」

「ひ……人を痴女みたいに言わないでくださいッ! 綿間部が悪いんですよ!?」

「いやオレ何もしとらんやんけ!」

「うるさい! いいから、さっさと、起きなさーい!!」

 痴女のちーちゃん扱いされた恥ずかしさからか、綺麗な顔を真っ赤にして華扇の両手に一段と力が込められる。お前もうヤケになってんだろ!? だぁあああ覆いかぶさるなァアア!!

 タオルケット越しに圧し掛かられる度に、ありえないほど豊満で柔らかい二つのナニカがムギュッと身体に押し当てられるわ、桃を思わせる仄かに甘い匂いが顔のすぐ間近から漂ってくるわの大騒動に、オレの理性が容赦なく削られていく。

 このままではマズイ! こんなラッキースケベみてーな展開はオレのキャラに合わねぇんだからよォ!

「か、華扇! とにかく一旦離れろ!」

「そうしてほしいなら大人しく抵抗を諦めなさい!」

 派手に激しくテントが上下へ左右へと暴れ回り、内側からは男女のギャーギャーと喧しい応酬が否応なく外部に垂れ流される。

 もはや年齢指定でくんずほつれつなアレの誤解を招くには十分すぎるシチュエーション。現に耳を澄ませば「お母さん、アレなーに?」「しっ、見ちゃいけません!」とか凄まじくテンプレすぎる通行人のヒソヒソ話まで聞こえてくるではないか。暴走気味の華扇は綱引きに熱中するあまり周りの声に気付いちゃいねぇ。だーもう!! 何だコレ!?

 幻想郷ライフの初日は、夜を生きる男には全くもって不釣り合いなドタバタから始まっちまった。一生の不覚。

「こんなん……オレの生き様じゃねぇえええ!!」

 

 

 ご想像の通り、根負けした。

 おそらく数週間ぶりになるのか。オレは日が出たばかりの超健康的すぎる時間から外に連れ出されてしまった。ギラギラと照りつける夏の日差しに、貴重な体力もじわじわと奪われていく。

 おお、愛しの夜よ。まだ来てくれねぇのか。とてつもなくお前が恋しいぜ……

「ぐわー、太陽眩しい気温高いマジキツいもう無理ホント無理。このままじゃ灰になっちまうぞオイ……」

「吸血鬼じゃあるまいし。むしろ健全な人からすれば、こっちの方が正しい生活なんですからね」

 ビシッ!とオレの鼻先に包帯に包まれた人差し指を突きつけて言い放つ桃色の少女に、ガックリと肩を落とす。何やその勝ち誇ったような顔は。あと、ただでさえデカいんだからあんま胸張るなよ。目のやり場に困るじゃねーかよ……

 はぁ、しゃーねぇ。ここまできたら行動するしかあるまい。渋々ながら、だがな。あっちぃけど。せめてオールバックの髪型が崩れないことを祈りたい。

 少しでも涼しくなるため、今はネクタイもワイシャツのボタンも外してある。もちろんベストも着ていない。おかげで切り札を置いていくことになった。もっとも、そもそも隣に居るこの女が「ダメ、ゼッタイ」と胸元で大きなバッテンを作りやがったので、どのみち持ち歩けないのだが。よって、フル装備は我が時間即ち夜までお預けとなった。フッ、やはりオレは夜に生きる男。

 華扇はオレが諦めて表に出てからすっかり上機嫌だった。鼻歌交じりの楽しげな様子でこちらの顔を覗き込んでくる。ちょっと前かがみになる仕草がなんかあざとい。

「まずはどうしましょうか?」

「いっそ夕暮れまで待機ってのは――」

「ダメです」

「わーった、冗談だっつの。だから真顔で拳を握り締めるな怖ぇーよ」

 迂闊にもポロッと口走った瞬間、あどけない笑みから一転して無表情になったのを目の当たりにして、すぐさま発言を取り消した。やっべ、危なかったわ。っていうか殴る気だったのか今の!?

「あーあ、なんでオレこんな時間からオシゴトしてんだ……?」

 しかし実際のところ、手を打たないといけねぇってのはその通りでもあんだよな。此処は顔馴染みばかりの繁華街とは違う。そこら辺を適当に巡回していても仕事は入ってこない。この幻想郷では、まだオレの名前も何でも屋の存在も全然知られちゃいないのだから。

 ゼロからのスタート。なんともライトノベルみてーな言い回しだが、現在のオレはまさにそうとしか表せない。しかたねぇ、やりますか。

「ひとまず状況を整理しねーと何も進まねぇか」

「作戦会議ですね。あ、それならあっちの団子屋に行きませんか? 美味しいのでお勧めですよ♪」

「それお前が食いたいだけなんじゃねーの……?」

「いいじゃないですか。頭を使うには甘いものが一番ですし。ほら、行きますよ」

 そう言って、華扇は軽やかにステップを踏んでいった。どんだけ楽しみなんだよ。一足先に団子屋に向けて歩き始めた彼女に、フッと零してからオレも続く。ほんっと、仕方ねぇなあ。

 どうやら仙人様であっても例外に在らず、やはり女性というのは甘い菓子がお好きらしい。

 

 

つづく




茨歌仙9巻はメロンブックスで買いました

うへへ……あ、相変わらずエエ手触りしとるのぉ…… ←ブックカバー撫でまわしながら
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