東方扇仙詩   作:サイドカー

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主人公トラウマの原因

過去回だから東方キャラ出ないだろうって?
出るんだな、これが。


第三十四・五話 「独白 partA」

 一つ、過去話に付き合っていただこう。

 あれは一年前、いや半年前だったか。まぁいい。どっちにしても、まだオレが繁華街にいた頃の出来事だ――

 

 

 オレの名は黒岩。この街でフリーランスの便利屋、もとい何でも屋を営んでいる。

 オレの元には数多の依頼が舞い込む。中身もしがねぇ雑用からキナ臭い厄介事まで幅広い。ま、そーゆー仕事柄なのだから当然っちゃあ当然なのだが。ただし人殺しと一部の仕事は引き受けない。オレは殺し屋ではなく、あくまで何でも屋だ。

 無論、報酬の差も激しい。札束とまではいかずとも諭吉センセーが十枚近くと羽振りのイイ時もあれば、バーで一杯奢ってチャラにする日もある。依頼人が報酬額を提示することもあれば、オレの方で決めちまうこともある。後者の場合、ぼったくるようなマネはしない。

 さながらギャンブルみたいな不安定な収入だと嗤うだろうか。蔑むだろうか。なれど、夜に煌びやかな繁華街であればこそ、そんな生き様が性に合う。

 そう、なぜならオレは夜に生きる男……

 

 ある日、いつにも増して胡散臭くて怪しげな依頼が一件、オレのところに流れてきおった。そして、この依頼こそがオレの生涯に記憶されるトンデモ騒ぎの始まりでもあった。

 

 トゥルルルルル……

 

「あ?」

 着メロもクソもありゃしない飾りっ気のねぇ着信音が鳴る。初期設定からちっとも弄ってないスマホは今晩も律儀に働いてくれた。ポケット越しに伝わるバイブレーションも合わさって「早う出ろや」と急かしているようだ。

「へーへー、今出ますよっと」

 ケースすら被せていない真っ裸のスマートホンを取り出し、画面に表示された番号を一瞥した後、通話ボタンをタップする。

「おう、オレだ」

 見慣れた番号であったため、ぶっきらぼうな口調で応じる。もっとも、見知らぬ番号でも同じ態度であっただろうことは、オレ自身がよく理解している。

 電話の相手はたまに仕事の仲介をしてくれる男からだった。なお、職業は案内所の客引きである。どんな店に客を連れて行くかなどという野暮な質問はしないでくれ。

 つーかコイツ、オレから依頼の仲介料を貰うのに味を占めてから、本業よりもこっちにのめり込んでいねーか。助手を雇った覚えはねぇっつの。とはいえ、持ちつ持たれつでやっていくのがこの夜の街だ。文句は言えない。

 例にも漏れず、今回もオレに依頼したい人がいるとのこと。スピーカーに耳を当て、詳しい内容を促す。仕事の内容はこうだった。

 

 某賃貸住宅の一部屋に一週間ほど寝泊まりしてほしい

 

 フッと思わず鼻で笑っちまった。こうもあからさまに裏事情を匂わせる仕事は久し振りだ。が、珍しい話でもなし。

 後になって情報屋(タバコ屋のトメさん)を通じて探りを入れてみた。案の定、胸糞悪い話しが明らかとなった。入居者だった不幸な女が当時付き合っていたらしきDV男に金品取り上げられて心も体もボロボロにされた行く末に、最期は自ら首を吊って命を絶ったのだと。そのせいで、某賃貸住宅は俗にいう事故物件となっちまったとさ。

 早い話、自殺した輩の幽霊が憑りついていないか身を以って実証してほしいといったところか。正直言って、馬鹿馬鹿しいと思わずにはいられなかった。今時、心霊番組だって大抵がヤラセであろうに。ユーチューバーだかどっかの芸人にでも任せればイイものを。

 依頼主はその賃貸住宅のオーナーだという。どうにもチキンかつケチな性分らしく、開き直って放置できる肝っ玉もなければ、かといってガチなお祓いするには金が勿体ないとソロバン弾いて溜息吐いたりと、しょうもない悩みを抱えていた。

 そんな折、オレの存在を聞き及んで喜んで飛び付いてきたそうだ。どうせまたこの男がテキトーにあることないこと吹き込んで取り入ったんだろうよ。お得意の客引きトークで。

 

「で、報酬は? ……ほーん、なるほどねぇ。そーきたか」

 ぶっちゃけ高くもなければ安くもない。仕事内容からすれば少なくとも悪い取引ではないだろうと思わせる、ケチな商売人の鑑ともいうべきイヤらしさ。上手いところを狙った額に却って感心しちまった。

 それくらいの相手の方がオレとしても丁度良い。上等だコノヤロウと口角が上がる。

「フッ、了解した。その依頼、オレが引き受けてやろうじゃねーの」

 先方にもそう伝えるように告げてから通話を切る。

 やれヤクザ紛いだやれチンピラだの不良グループだのと対峙するのに比べたら、肝試しごっこで金が入るのだ。こんなオイシイ話はそうそうなかろう。

 どのみち何も出ないに決まっている。今や科学とテクノロジーが飛び交う情報社会ときた。ま、言い出したのは向こうなのだから、別にオレが詐欺を働いたんじゃない。ただ美味い儲け話に乗っかっただけだろ。

 

 実のところ、この時から既に「マジで幽霊が出るらしい現場」としてネット界隈でもちょっとした噂になっていたらしいのだが。

 所詮はガセネタを面白おかしく脚色しただけだろうと、当時のオレは気にも留めていなかった。

 

 

 悲報。ワケあり物件とやらはとんでもねぇオンボロアパートであった。地縛霊よりも貧乏神が憑りついていそう。ゴミ屋敷でなかったのが救いってか。

 こんな貧相な場所で細々と暮らしている女が有り金を奪われちまうとは、何とも不憫な人生なこって。惨たらしいことすんじゃねーか、そのDV男。ま、他にも諸々の前科もあってあえなく逮捕されたみてぇだが(トメさん情報)

 もともと家賃が安いだけあって、室内はさほど広くもなかった。フローリングの床板も年季が入っており、所々に踏むとギシ……と嫌な音が返ってくる。そういえば、上の階に住んでいた女が落っこちてくるエロい漫画があったわな。

「しかし暇だなオイ」

 いわば部屋の安全を保証するための仕事でもあり、出来るだけ外出は控えなければならない。ところが、病人でもないのに一日中寝ッ転がっているというのは地味に辛かった。ましてや、何も起きるハズがねぇワケで。それがさらに退屈を助長させる。

 気だるげに視線を一巡させる。さすがに事件当時そのままなんてヤベー展開もなく、しっかり特殊清掃も入っていた。なので見た限り違和感はない。ほんの僅かに臭わんでもない気もしないこともないのだが、この部屋が事故物件だという前情報がもたらした錯覚だと割り切った。幻聴ならぬ幻臭ってか。

 ちなみに隣人も居ない。それどころか他の部屋全てが蛻の殻である。そのうえ郊外なのもあって内外共々に静か過ぎた。

「……けっ」

 何もなさ過ぎて時間の進みがどうしようもなく遅く感じる。

 そんな状況から動きがあったのは数日後。契約期間が折り返しを迎えた頃であった。

 

 四日目に差し掛かった晩に、奴らはやってきた。

 あえて照明も点けず、暗い部屋の窓から月を眺めていると、ふと外から物音が聞こえてきた。

「む……?」

 これまでなかった事態の変化。こういう時のオレの反応は素早い。その正体を探るべく全神経を聴覚に集中させる。

 まず、カンカンという金属音。安っぽいスチール板の階段を上っている音だと察しがついた。次いで、廊下を歩く複数の足音に移り変わる。恐らく数は二つ。どういうつもりか段々と近付いてくるようであった。さらによくよく耳を澄ませば、息を潜めたヒソヒソ声も混じっている。

 現在全て空室となっているこのアパートに来客なんざ有り得ない。ならば、依頼人が様子見に来たのかとも考えが浮かんだが、そいつも即座に否定した。チキンな輩がわざわざこんな夜中に事故物件に顔を出すものかよ。

 足音が止む。よりにもよってこの部屋の前で立ち止まった模様。その証拠に人の気配がしかと感じられる。

 

「この部屋ね……」

「間違いないわ。……ねぇ、蓮子。やっぱりやめない? 嫌な予感がするわ」

「怖気づいちゃダメよメリー! 世の不思議が今まさに目の前にあるのよ!」

「オカルトとホラーは少し違うんじゃないかしら……?」

「細かいことは言いっこなしよ」

 

 扉の向こうで筒抜けな会話。こんなベニヤ板みたいな材質じゃ防音もあったもんじゃねぇわな。

 いつでも動けるように玄関口でオレが待ち構えたのと、薄っぺらい板切れ越しに「よし、開けるわよ……」との合図が示されたのは大体同じであった。

 キィ……と痛んだ金具が軋む耳障りな不協和音を奏でつつ、扉が少しずつ開かれる。ほどなくして、招かれざる客が控えめに顔を突っ込んだ。

「おじゃましま――ぇ?」

 当然ながら、ヤツの目の前にはオレが立ち塞がっていた。恐らく中腰の姿勢だったのだろう。すぐ近くにあった黒服を纏った男の腹部に目が留まったソイツは、そろそろと顔を上げていき、ついにはオレともバッチリ目線が重なった。

 

『…………………』

 

 オレと近い年齢と思われる若い女であった。少女と大人の女性の中間といった整った容姿と顔立ちから、恐らく大学生あたりと推測する。女子高生にしては全体的に大人っぽい。

 短めの黒髪にあわせてイマドキ流行りのハットを被り、服装は襟付きの白シャツにネクタイと黒いスカートとシンプルな組み合わせ。その後ろにはもう一人の姿もあった。ナチュラルな金髪で少しばかり意表を突かれたものの、繁華街でも外国人くらいフツーにいるのでそこまで驚きはしない。こちらは上下一体で紫色のゆったりしたデザインの洋服を着ていた。あと帽子もゆるふわ系だ(多分)

 

 たっぷり十秒くらい時間をかけて、黒髪の方が顎が外れんばかりに大口を開いて叫んだ。

 

「ぎゃあーーーーーーーッ!!」

 

 とても年頃の乙女が出すべきではない濁音混じりの悲鳴が鼓膜を貫いた。

「オイうるせぇぞ」

「どっどうしようメリー!? 化け出た! 出てきちゃったんだけど!!」

「落ち着いて蓮子! 被害者は女性よ。男の人じゃないわ」

「でも現にそこに居るじゃない! いやー! こっち見てるぅ! ○されるぅうう!?」

 芸人ばりのリアクションをかます黒髪の娘に、多少は動揺しつつも相棒を窘める金髪ガイジン。そんな光景を見せつけられていくうちに、逆にこっちが冷静になっていった。むしろ冷めたわ。何なん、コイツら。

 ま、これだけ盛大にやらかして例のオバケってぇことはねーだろ。しかし三人寄らずとも二人の時点で十分姦しいこって。

「ったく、勘弁してくれ……」

 いつまでも騒ぎ立てる女どもに、オレは溜息を禁じ得なかった。

 

 招かれざる客の素性は思った通り女子大生の二人組であった。しかもオレと同い年に当たるらしい。

 秘法倶楽部だか不思議発見クラブだか知らねェが、大学でオカルトサークルを二人だけで立ち上げて以来、世の中の摩訶不思議を求めてあっちこっち飛び回っているそうな(世界の裏側を暴くとか大層な物言いをしていたが)

 このアパートもホントに幽霊が出るのだと大学でも密かな話題になっており、そこに目をつけて忍び込んできたと供述した。ま、立ち入り禁止にはなってねぇしお咎めはなかろう。不法侵入を除けば。

 てっきり面白半分で首を突っ込んできたのかと思いきや、当人どもはえらく真剣に取り組んでいるようで。不謹慎なDQNどもと一緒にするなと憤慨されちまったほどだ。

 どーでもいいけど、こんな夜更けに人気のない郊外を若くて顔もイイ女がたった二人でトボトボ練り歩いてきたのかよ。そっちのが危機感に欠けてんじゃねーか。

 

 あれから、オレが紛うことなき生きた人間であることに安堵して、ついでに自分らとタメであることが判明してからやけに馴れ馴れしくなった片割れ――黒髪の娘、宇佐見蓮子がちゃっかり部屋に上がり込んできやがった。必然的にもう一人の金髪ガイジン、マエリベリー・ハーン(宇佐見はメリーと呼んでいた)も付いてくる。

 ひとまず互いに自己紹介やら事情やらを話し終える。と、宇佐見がやたら勢いよく立ち上がり言った。

「手を組みましょう! 私たち、目的が一緒みたいだし」

「何でやねん」

「もう、蓮子ってば……」

 いきなり手を差し伸べられても反応し辛い。宇佐見よりかは常識人らしく、マエリベリーもオレと同じく呆れた態度を見せていた。

 何が悲しくて乗り込んできた女子大生ズと組まなければならんのか。大体、そっちは幽霊を期待してたんだろーが。生憎こちとら何事もないのを証明せねばならん身の上だわ。どう考えても目指す方向が正反対じゃねぇか。

 さっさと追い返そうと思い始めた矢先、おもむろに先ほどの態度とは打って変わってマエリベリーが少し思案し始める。恐らく、オレと組むメリットとデメリットを羅列しているのであろう。何となく嫌な予感がして「おい止せ」と言いかけたがもう遅い。

 確かに一理ある、と金髪ガイジンまでもが意見を翻しやがった。多数決ならオレが圧倒的に不利な状況に陥る。

「でも、男の人がいてくれるのは心強いかもしれないわね」

「っかー、お前もかよマエリベリー」

「そりゃ目的は正反対かもしれないけれど、手段は一緒でしょう? ここに居座って確かめる他ない。違う?」

「そうよそうよ! 皆で張り込みすればいいじゃない!」

「お前らなぁ……」

 その後もあーだこーだと言い合ったりしたものの、最終的には「住所がバレてんだから拒否っても来るわよ!」という半ば脅迫に近い宇佐見の一言により勝敗は決した。

 まったく、女は強かとはよくいったものである。

 

 宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンが仲間に加わった。ドラクエかよ。

 

 

後半へつづく




次回、来るぞぉ……来るぞぉ……


しょんべんチビるレベルのホラー映画を観て参考にしようと、サイレントヒルをレンタルしてきました。
あとエロマンガ先生も。
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