東方扇仙詩   作:サイドカー

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暑さに妄想が止まらんわウヒャヒャ(発狂)


サイドカーより一つお知らせがございます。
今回の話で、東方扇仙詩の時系列というか世界線についてちょっとした試みが入っております。
といっても、ストーリーには直接影響はありませんのでスルーしても無問題です。

もし、それっぽいところに気付いた方は……ありがとうございます!


第四話 「働きたいでござる」

 店先の腰掛けに横並びで座り、オレは緑茶を、華扇は三食団子を口にする。ふむ、悪くねぇ味だ。星三つ!

 桃色の少女は「ん~♪」と頬っぺたに手を添えて舌鼓を打っている。こうも美味しそうに食してもらえるのなら、作り手も冥利に尽きるだろうな。

 幸せいっぱいの華扇を横目に、こちらも湯呑を傾ける。ところで作戦会議どこいった?

「………ん?」

 ふと、腰掛けの端っこに折り畳まれた新聞が置いてあるのに気付いた。ご自由にお読みくださいってか。江戸時代っぽいわりには瓦版じゃねぇのな。なんとも中途半端なこって。

 何気なしに手に取ってみる。パッと見た感じは現代にもあるような普通の新聞紙。名称は「花果子念報」。そして、コレがあるからにはこの世界にも新聞記者がいるはずだ。まともなヤツならイイんだけどよ。

 幻想郷については昨晩のうちに大体聞いているが、もっと細かい情報集めに役立つかもしれない。物は試しだ、読んでみるか。

 まず見出しに「記者は捉えた! 宴会で思わぬハプニングを激写!」デカデカと文字が踊り、すぐ下に画像が続く。大学生らしき茶髪のツンツン頭の青年が、西洋人形をイメージさせる金髪碧眼の少女を挟んで壁に手をついている――いわゆる「壁ドン」をかましている真っ只中の場面。

「……………」

 写真に写った若造は「ヤベッ!」って感じの慌てた表情を浮かべ、金髪少女の方はカァアッと耳の先まで紅潮させている。見つめ合ったままフリーズする二人に、周りにいる女子たちが目を輝かせていた。なんだこのラブコメ。

 

 まったく役立つ情報が得られないゴシップなネタに呆れていると、「お、黒いあんちゃん」と野太い男の声がかかった。紙面から顔を上げると、酒場の店主がこちらに片手を上げつつやってきた。

「昨日はありがとうなぁ。仙人様も、本当に助かりましたぜ」

「なに、大したこたぁしてねーよ」

「こちらこそ大事にならなくて良かったです。でも、この人がもっと穏便に解決していれば……」

「あーあー、聞こえねぇなー」

 ジト目で睨む仙人の小言を、耳を塞ぎながらの棒読みでテキトーに聞き流しておく。生憎だが、あれこそがこのオレ、黒岩のコードネームを持つ夜に生きる男のやり方だ。文句は言わせねぇ(キリッ)

 すると案の定、女はみるみるうちに頬を風船のごとく膨らませてお説教モードに入る。

「綿間部! 誤魔化そうとしたってそうはいかないわよ!」

「がっはっはっ! 仲が良いようで羨ましい限りですぜ。ところで、黒いあんちゃん。何でも屋なんだって? 昨晩に続けて悪いんだけどよ、折り入って一つ頼まれちゃくれんかねぇ?」

「あん? 依頼ってことか。つーか黒いあんちゃんじゃねぇよ黒岩だよ」

「やりましたね、綿間部! 早速お仕事ですよ」

 パァッと顔を輝かせて華扇がオレの手を取った。当人を置いてけぼりにしてこの喜びよう。怒ったり笑ったり忙しいヤツだな。ま、見ていて飽きねぇけどよ。

 今にして思えば、なぜ華扇と自己紹介したときに先に本名を言っちまったんだか。我ながら気が緩んでいたのか。初めて出会ったばかりだったというのに?

「んで? どんな仕事を頼もうってんだ?」

「店の仕出しで積み荷を下ろさなきゃいけないんだが、どうにも最近腰をやっちまってなぁ……うちで働いている若い娘もここ数日ばかり休み続きで」

 どこか哀愁の漂う苦笑いで、おっさんが腰をさすりながら話しを続ける。さっきまで馬鹿笑いしていたってのに、今や本当に困っているのがひしひしと伝わってくる。随分参っているみてぇだな。

「そんなわけでよ、我ながら情けない話だが手伝ってくれると非常に助かる。もちろん礼はする」

「そういうことでしたら、是非お任せください」

「なーんで華扇が即答すんのかねぇ……」

 仕事の内容を聞いていたオレを押し退けて、やる気に満ちた華扇が身を乗り出してきた。お前は何でも屋じゃねーだろうが仙人さんよォ。

 勝手に決められて、働く前から疲れ切った溜息を吐いてしまう。そんなオレに向けて、華扇は「だって……」と一息置いてから、まるで花びらが舞うように優しく微笑んだ。

 

「あなたの仕事は、困っている人を助ける立派な仕事なんでしょう? そういうところ、私は尊敬しているんですよ。綿間部、引き受けてくれますか……?」

 

「……っ!? わ、わーったよ。引き受けますよー」

「うふふ……はい!」

 あーくそ、オレとしたことがダサくどもっちまった。その不意打ちは返しに困るじゃねぇかよ。

 混じりっ気のない純粋な気持ちに慣れていないせいでたじろいでしまう。そのうえ、彼女の容姿レベルはかなり高い。だから、そういうのを急にやられると……なんつーか、アレなのだ。

 かくして、幻想郷での初めて受けた依頼は荷下ろしという、なんとも地味で地道なものとなった。ったく、結局こうなるわけかよ。

 ま、街でもバーとかクラブでこの手の裏方やっていたから抵抗ねーけどな。

 

 

 そう思っていた時期が、オレにもありました。

「ぜぇ……ぜぇ……荷下ろしって、荷運びとセットだったのかよ……ちくしょうやられた」

 まさか問屋から台車に積むところからスタートとは騙された。とんだ肉体労働になっちまったが、一度引き受けたからにはやるしかねぇ。その分、報酬はガッポリいただくから覚悟しとけよオヤジ。

 えっちらおっちら人力車を引き摺って、どうにか酒場の裏手にある蔵まで到着。すぐさま荷下ろし作業に取り掛かった。荷台に仰山詰め込まれた壺やら木箱やらを担ぎ上げては、あらかじめ指示されていた位置へと収めていく。あとはひたすら蔵と台車の間を往復、繰り返し、リピート。なお、おっさんは厨房へ仕込みをしに行った。腰やられてんなら大人しく休めよ。労働者の鑑か。

 とりわけ重そうな水瓶をチャプチャプいわせながら運び終えたタイミングで、ちょっくら一休みさせてもらう。ついでに、そこの娘に文句も含めてジトッとした眼差しをぶつけておく。

「なぁオイ、お前も少しは手伝ってくれてもいいんじゃーの?」

「あなたが何でも屋として受けた依頼でしょう。私の役目は、こうやって綿間部がちゃんと仕事を終えるまで見届けることです。ほらほら、もうひと踏ん張りですよ」

「っかー、現場監督かよ……」

 その辺の段差に腰を下ろして、頑張れ頑張れと声援を送る華扇。今度はチアガールってか。いっそポンポンでも振ってほしいもんだな。

 しっかしまぁ、人が汗水垂らして動き回っている姿の何がそんなに面白いんだか。ニコニコとオレの社畜っぷりを眺めている少女の気持ちが分からず、オレは内心こっそり首を傾げた。

 

 その後もブツクサ言いながらも、何だかんだで数だけは着実にこなしていった。

 ふいに、かつて何でも屋を始めたばかりのロクに仕事を選ぶ余裕もなかった頃を思い出した。あのときもこんな仕事ばかりだった。フッ、よもやこんな形で原点に立ち戻る日が来るとは……

 懐かしい記憶に思いを馳せつつ、作業を進める。

 そして、ついにラストの一箱まで運び終えるのだった。

「っだー! 終わったぞくそったれ!」

「はい、お疲れ様でした」

 労いの言葉をかけながら、華扇が手拭いと水筒を手渡してくれた。いつの間に? おっさんに頼んで準備しておいてもらったのだろうか。なんでぇ、随分と気が利いたマネしてくれんじゃねーの。

「お、わりーな。助かる」

「うふふ、いえいえ」

 やや乱雑に汗を拭きつつ、よく冷えた水を喉の奥に流し込む。っかー! うめぇなコノヤロウ!

 って、コレすでに飴と鞭でほどよく調教され始めている展開とかじゃねーよなぁ……?

 

 依頼完了の報告をするべく酒場に顔を出すと、待っていた店主から大げさに感謝された。

「おう戻ったか! すまんなぁ助かった。礼としちゃなんだが、仕込みついでにメシを用意したから食って行ってくれ」

「……まさかと思うが、それが今回の報酬とか言わねーよな?」

 現物支給なんてされたら、いよいよもって何時代か分からなくなんぞ。もしや幻想郷じゃ貨幣よりも物々交換が主流だったりすんのか? そういや昨日も華扇から名前呼びを頼まれたとき、報酬が一品追加だったわ。うーわ、マジかよ……

 疑惑の視線で問うと、店主は「ガッハッハッ!」とまたもや豪快な笑い声をあげた。いちいち声でけーな、このおっさん。

「大丈夫だ、そっちについてはちゃんと金で払う。こいつは感謝の気持ちだ。だから遠慮なんかしないで召し上がっておくれ。ささ、仙人様もどうぞ」

「ま、そういうことなら遠慮しねぇけど。その、なんだ。疑って悪かったな」

「ありがとうございます。いただきます」

「…………ん?」

 間。

 ここで一つ、素朴な疑問が生まれた。さも当然のように会話が繰り広げられていたがよ。ちぃーとばっか可笑しくねぇか?

 促されたテーブルには焼き魚定食が二人分用意してあった。そう、二つだ。誰の分かなんざ聞くまでもなし。

 向かい合わせの席に座る女に、胡乱な目を向ける。

「お前、ずっと見てただけじゃね?」

「失礼な。言ったでしょう、見届けるのが私の役目ですって」

「……へーへー、そーですか」

 だから、その勝ち誇った顔やめーや。そういうの世間じゃドヤ顔って呼ばれてんだぞ。

 オレの言葉なぞどこ吹く風で、早々に箸を取って焼き魚の身をほぐす仙人サマ。さっき団子食ったばかりだってぇのに、よく食べるもんだわな。ま、下手に小食アピールされるよりかはよっぽど健康的で良いけどよ。

 それに何より、出されたものを残さず食べるのは食に対する礼儀でもある。意外かもしれんが、これもまたオレの主義だ。ま、とりあえずいただいちまうか。

 遅れながらも箸を手にして、いざ食事に取り掛かろうとした時、ふと大人げない思考が過った。我ながらあくどいのだが、彼女には負けてばかりだったし。ぼちぼち一発逆転しときたいよなぁ?

 つーワケで。

 ちょっとした仕返しに、ニヤニヤと意地悪く笑みを浮かべて言ってやった。

 

「ったく、食いしん坊なやっちゃな」

「なっ!? お、女の子に向かってその発言はどうかと思いますッ!」

 

 よっしゃ、華扇さんってば狙い通りの反応してくれやがったぜ。クックックッ。

 顔を赤くしてプリプリと頬を膨らませる彼女を見れた優越感に箸が進む。やっぱり、毎度毎度やられっぱなしじゃ性に合わねーよな。なんせオレは夜に生きる男なのだから。

 中華衣装の少女から浴びせられる拗ねた視線と説教(というより非難)をのらりくらりと躱し、オレは気分よく朝メシ兼昼メシを味わうのであった。フッ、勝ったな。

 

 

 その後、女の子に恥をかかせた罰と称して、食後のデザートに饅頭と大福とあんみつと煎餅を奢らされ、苦労して手に入れた報酬の大半があっという間に消えた。

 

 

つづく

 




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