東方扇仙詩   作:サイドカー

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アイエエエって勢いで仕上げた


第四十二話 「ラッキースケベでインガオホー」

 神霊廟のカンフー染みた建物を背景にして石畳を踏みしめる。

 オレの周りを取り囲むように道士服の門下生共が立ち並んでいる。太子サマがその中から三名ほど指名する。呼ばれた輩が毅然とした面構えで一歩前に出た。三銃士かよ。

 食事風景の少女らしさは鳴りを潜め、すっかり外様向けの猫かぶりに逆戻りときた。笏らしき細長い板切れを携える立ち姿がなかなか様になっている。

 親玉キャラの仙人が悠々とした表情と口振りで述べる。

「彼らは門下生の中でも特に腕が確かな者たちです。フフ、手強いですよ?」

「んだよ。てっきり全員でかかってくんのかと思ったんだが。一対二十で勝った実力が見たいんじゃなかったのか?」

「あくまで組手の試合ですから。見て学ぶのもまた良し。かく言う貴方も本調子ではないのでしょう?」

「ハッ……お見通しってワケか。ま、三人ぐらいなら丁度いいハンデにならぁ」

 豊聡耳神子――いい加減にフルネームが面倒くさいので今後は神子と呼ぶ。

 彼女は他人の欲を聞き取ることができるという。幻想郷お馴染みの能力者ってぇコトだ。その名も「十人の話を同時に聞くことができる程度の能力」オレが夜型だとバレバレなのも異能のなせる業である。

 ところで、十人の話を同時に聞くといわれれば、歴史に聡い諸君なら薄々感づいたかもしれない。その通り。だからこそヤツは配下から()()()と呼ばれる。歴史キャラが美少女だったとかどこぞの教材かソシャゲの類か。

 物部布都が声高らかに開戦の狼煙を上げる。

 

「これより! 山の仙人殿の弟子『だから弟子じゃねーって言っとるだろうが!』――ありゃ、違うのか?」

「布都、いいから始めなさい」

「わっかりましたぞ太子様! うぉっほん、えー、それでは……始めぇい!!」

 ウザい系配下がえいやと力任せなフルスイングで銅鑼を叩く。空気を波打つ重低音が辺り一帯に響き渡った。

 

「イヤーッ!」

「イヤーッ!」

「イヤーッ!」

 

 合図が鳴り響くと同時に、鬨の声を上げて三銃士が躍りかかってくる。

 没個性の代わり映えしないモブと侮るなかれ。亜麻色の仙人が推薦するだけあって動きは俊敏でキレがあった。さすがに脳ミソのないガイコツ連中とは比べるべくもない。

 たった三人、されど三人。烏合の衆よりも遥かに難敵。だとしても、一方的にボコられる趣味もなし。

「――シッ」

 初撃の張り手を身体を横にずらして避ける。間髪入れず、空振りして通り過ぎた隙だらけの背中を蹴り飛ばす。

 二人目の正掌は手四つで真っ向から受け止めた。力が拮抗したと見せかけ、不意を突いて逆に引っ張り、爪先を躓かせる。そうなれば転倒は避けられなかった。

「――ッ!」

 最後の一人が眼前にまで迫り、咄嗟に腕を交差して防ぐ。直後、正拳突きがオレを襲った。

「グゥッ!?」

 ビリビリと痺れる衝撃が腕を伝う。一撃が重い。やるじゃねーか。だったら倍返しだ受け取りやがれ。

 地面すれすれの低空で足払いをかける。まさか防御したまま反撃がくるとは思わなかったろう。足首を刈られた門下生は受け身も取れぬままに石畳に倒れ伏した。コレで全員から一ダウンずつ奪ってやった。

「ほら立てよ。まさかこんなもんじゃねーだろ?」

 揃ってオレに転ばされた連中に目掛けて、クイクイと「かかってこい」ポーズの挑発を飛ばす。

 まだまだ依頼は始まったばかり。道士服トリオがむくりと起き上がったのに合わせて、こちらも得意のファイティング・ポーズを取った。

 上等、そうこなくっちゃ面白くねぇわな。

 

 

「綿間部……」

 茨木華扇は目の前で行われる試合の流れに意識を奪われっぱなしだった。

 あの時、自分が駆け付けた頃にはすべて片付いていた。あの男の活躍を見逃してしまったのが惜しかった。だから、此度の豊聡耳神子の依頼はいわば渡りに船といえた。

 はたして彼はどんな大立ち回りを見せてくれるのかしら。ワクワクしながら組手が始まるのを待った。

 そして、いざ試合開始となって目の当たりにした光景は、彼女の期待をも軽々と上回る。

 赤みがかった瞳が黒い青年の大胆かつ強靭な身のこなしを追いかける。ほう、と感嘆の息が漏れる。包帯が巻かれた右手が添えられた頬をほんのり桜色に染めて。

 こっそり隣にまで寄り添った神子が、彼女にだけ聞こえるように声量を抑えつつ口調を崩した。

「華扇さんは彼を弟子にするつもりないの? なかなか筋が良いと思うけれど」

「そうですね……」

 もし、綿間部を弟子にしたら。そんな未来予想図に想像を馳せてみる。

 一緒に修行して、あわよくば一つ屋根の下で暮らすこともあるかもしれない。怠けようものならいつでも喝を入れられる。自らの手であの男を真人間に仕立て上げるには、魅力的な提案だろう。

(でも……)

 そっとまつ毛の長い瞼を伏せて、桃色の少女は頭を振った。

「いえ。だとしても、やめておきます」

「どうして?」

「綿間部とは上下関係になりたくないんです」

 彼から師匠と呼ばれるのは満更でもない、と思う。

 でも、綿間部には()()と、いつまでも名前で呼んでほしいから。同じ場所で、隣同士で並びあっていたいから。

 そんな願いを心に抱くと、少女の胸の奥が甘く疼いた。彼女にそっくりな淡い桃色の想いが秘かに芽吹く。

 その蕾が花開く時は、きっと……

 

 

「オォオオッ!」

 数の不利には地の利を活かして対抗する。

 垂直に生える樹木を滝登りの如く駆け上がり、反動をつけた跳躍で道士服の真後ろに回り込む。再び足払い。この手の攻めに耐性がないのか簡単に引っ掛かってくれる。

 いちいちセコい?一度にまとまった数を相手にしないための常套手段だ。文句は言わせん。ただし今回はそれだけで終わりじゃねぇ。

 狙い通りに転がった男の足首をガッチリ掴む。直後、ヤツの胴体がオレの武器となり、円を描いて豪快にブン回される。ジャイアントスイングの旋風が巻き起こった。

「どぅぉおおらぁッ!!」

 仲間をウェポン兼シールドにされてしまい、残り二人も迂闊に近寄れずたたらを踏む。

「ぼさっとすんじゃねーぜオラァ!」

 そんな標的に狙いを定めて手を離す。放り投げられた人間砲弾は遠心力を上乗せした威力をもって、味方もろともブッ飛ばしていった。

 ところが何というタフガイの集まりか。あれだけの大技が直撃したにも拘らずヤツらは未だに戦闘不能にまで至らない。なるほど確かに伊達に鍛えられてねぇってか。

 偉大なる太子サマの前で無様を晒して負けられぬと、すぐさま立ち上がって挑みかかってくる。

 

「イヤーッ!」

「イヤーッ!」

「イヤーッ!」

「クソッタレ! いつまでやればいいんだァ!?」

 

 悪態をつきながらも迎え撃つ。ちぃっと疲れてきたのだが、終わりの合図は鳴る兆しすらない。

 つーか組手ってこんな感じでイイのかよ。ただの乱闘と大差ねぇぞオイ。

 もしやアレか、由緒正しい拳法の型だとか常識に囚われてはいけませんってぇ忠告を学ばせる腹積もりなのか。確かに、清く正しい修行中の輩からすれば、繁華街の喧嘩技法なんざ出鱈目で空手みてぇな型もクソもありゃしない。

 

「そこじゃ! いけぇぃ! んぁぁあッ何をやっとるかぁ!」

 

 銀髪ポニテの下級仙人が喚き散らしながらついでに手も振り回す。その度に握っていたバチが銅鑼に盛大に当たり、ひっきりなしにグワングワンと大音量が耳障り過ぎた。

 ギャーギャーと喧しいのと大気を震わす重音の二重奏が鳴り止まない。よくよく見れば組手の三人組どころか観衆の門下生までもが青筋を浮かべていた。それな。

「ハッ、お互い苦労するな!」

 ここまできたら全員倒すかオレが倒れるまで終わらない感じすらある。

 オレの懐を目掛けて飛び込んできたテレフォンパンチをバックステップで躱す。振り下ろした拳は空を切って地面を殴りつけた。チャンス到来。

「ちぃーっと失敬すんぜ!」

 さながらターミネーターの登場シーンにも似た低姿勢になっている男を踏み台にして、肩、そして顔面へと駆け上がる。

 そのまま次のヤツ、さらに次のヤツへと顔面から顔面を目掛けて跳躍で飛び移った。

「よっ、ほっ、とぅ!」

 

「エェ―イッ!?」

「エェ―イッ!?」

「エェ―イッ!?」

 

 ツラを踏んず蹴られる度に連中の口から妙な奇声が上がった。さっきから何なん、お前ら。

 さすがに顔面だけで人ひとりの全体重を支えられるなどできるハズもなし。結果、そいつがトドメとなった。謎の奇声を断末魔に門下生どもが続々と膝をつく。

 この瞬間をもって、勝利あった。

 

 ただし、最後の最後まで油断さえしなければ。この後の悲劇は起きなかった……

 

「太子様」

「屠自古、どうかしましたか?」

 

「おおぉ!?」

 しばらく姿を消していたゴースト女が脈絡なく現れる。つい条件反射で動揺してしまい、よりにもよって空中で体の均衡を崩す。バランス感覚が崩壊し、着地に失敗してしまう。

 あわや足を挫く寸前だったがそこはどうにか避けられた。が、慣性の法則はどうにもできない。

「っと、っと……おぉおう!?」

 幾ら足搔いても踏み止まれず、まるで片足飛びのような滑稽な動きでその先へと進んでしまう。桃色と亜麻色の仙人コンビがいる方向へ。

 

「どっ、どけぇぇえ!?」

「えぇっ!?」

「綿間部!?」

 

 とうとう踏ん張り切れず、オレは前のめりに倒れ――

 

 

 ふにゅっ

 

 

「きゃっ!?」

 

 ほんのりと柔らかいクッションに顔が埋められた。

 華扇のと見比べてしまうと些か慎ましい。サイズはCぐらいか。されど確かに包み込まれる女の膨らみ。おまけに鼻先からお香らしき匂いまで漂ってくる。

 

『………………』

 

 空気が死んだ。

 コレはマズイ。すぐ横には説教の鬼が佇んでいるのだ。この手のハプニングは真っ平許せぬ、女の敵殺すべしな問答無用なヤツが。

「ま、待て華扇! こいつは事故だろ!?」

 説教されては堪らぬと、すぐさま言い訳を捲し立てる。バッと顔を離して、彼女を止めようと手を伸ばし――

 

 

 むにゅぅ

 

 

「ひぁっ、あん!」

 

 甘い嬌声とともに、手のひらが豊満なそれを鷲掴みにした。おそらくFは軽くいくであろう。片手の指に到底収まり切らないたわわな実り。指先まで余すことなくマシュマロみたいな柔らかい感触を確かめられる。ちょっと力が入ってしまうと、彼女の身体がわずかに跳ねた。

 小野塚小町よりも一枚上手かもしれん。って、ナニ考えてんだオレは。

 

『……………………』

 

 再び、空気が死んだ。

 桃色ミディアムヘアで中華衣装の白いシニョンな仙人サマの整った顔立ちがみるみるうちに真っ赤に染まっていく。赤みがかった瞳は羞恥と怒りで潤み、わなわなと口元が震えた。

 情状酌量などもってのほか。ついに茨木華扇が怒髪天を突く。

 

「こ、この……エ……エ……エロガッパーーーーーーーーッ!!」

 

「後生やぁああああ!!」

 もはや弁明なんぞ何の意味を持たなかった。だからオレは逃亡を試みた。

 逃げ惑うオレを怒り狂う華扇が追いかける。迫りくる裁きの鉄槌から逃れんと、思わず手近にいた門下生の一人を身代わりに前に押し出してしまう。コンマ一秒後、男の鳩尾に包帯の拳が減り込んだ。

 形容し難い苦悶の表情で崩れ落ちる門下生から手を離し、なりふり構わず背を向ける。

 すべてはオレが生き残るために。

 

「こんのぉぉおおおおッ!!」

「ひぃぃいいい!?」

 

 桃色の修羅が襲い来る度に道士服たちを盾にして我が身を守る。巻き込まれた連中が次から次へと風に舞う木の葉の如く尽く蹴散らされていく。

 

「グワーッ!」

「グワーッ!」

「ア、アバーッ! サヨナラ!」

 

「のぁああああ!?」

「待ちなさーい!!」

 組手の三人組がやられ、ついには観衆までもが犠牲となり始める。神子たちはちゃっかり避難していた。ブチ切れた説教の鬼を止められる者など、もはや誰もいない。

 

「粛清――――――――ッ!!」

「ごばぁぁああああッ!?」

 

 全滅。

 

 

 

 その後のことを少しだけ語ろう。

 あれから、本物の仙人との圧倒的な実力差を肌身を通じて思い知らされた門下生たちは、遥か遠い頂に己の未熟さを痛感して、ますます修行に励むようになったという。原因が原因だけにちょっと複雑だと豊聡耳神子が苦笑いを浮かべていた。

 

 そしてオレはといえば。

 しばらく華扇から「綿間部」ではなく「スケベ」と呼ばれる日々が続き、人里でもヒソヒソと白い目で見られるハメになった。

 

 泣けるぜ。

 

 

つづく

 




神子たんのπに顔面ダイブきめたあとに華扇ちゃんのνを鷲掴みにした。ギルティ
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