東方扇仙詩   作:サイドカー

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前回(番外編)で出番あったんで本編でも登場

尺の都合でヒロインは出なかってん。ゴメェンヌ


第四十八話 「ビンボー神やっ!」

 満ちた月に雲が覆い被さる。月明りが途絶えると暗さが際立った。田舎の夜景にありがちなフクロウの囀りが静かな宵の闇に溶け込む。

 いくら夜目が利くといっても懐中電灯ぐらいは持ってくるべきだったか。人里を抜けて外域に出れば肌寒さすら感じる。深夜ともなれば気温も低い。

「つっても今から戻るのもメンドクセーか……」

 だったらせめてさっさと終わらせてしまうに限る。早々にケリをつけるべく足早に踏み出す。さぁ、行動開始といこうか。

 夜警、あるいは夜間の見回り。それが今回、オレが上白沢女史から引き受けた依頼である。

 

 人目を忍んだ夜更けに事件は起こる。

 誰もが寝静まった時間帯を狙い、人里外で畑荒らしや堆肥置き場が漁られる厄介事が相次いで発生。人里の守護者サマが相談を持ち掛けてきたのは、数日前まで遡る。

 

「つっても生ゴミなんざ食い散らかす時点で人間じゃねぇだろ。畜生か、物の怪か」

「私もそう思う。どうだろう、一つ力を貸してもらえないか?」

「そーだな……」

 

 畑荒らしはいずれ野菜の収穫にも響く。一方で、堆肥置き場――平たく言ってしまえば生ゴミ捨て場ってか。そんな場所ならガサ入れされても大した被害はなかろう。と思いきや、最近になって住民が気味悪がっておちおちゴミ捨てにも行き辛いのだとか。

 ま、確かに飢えた獣やら妖怪変化に襲われでもしたら、非力な凡人にはひとたまりもねぇわな。自分らが食われるモノになっちまうのがオチだ。笑えねぇブラックジョークだが。

 聞けば、以前にも堆肥場で似たような珍事があったのだと。幸いにも当時の犯人は無害な人面犬。無害かどうかはさて置き、異世界クオリティを遺憾なく発揮している。都市伝説の具現化とか言われたがサッパリ理解できず、テキトーに頷く。

 ともあれ、畑に生えとる生野菜やら廃棄された生ゴミやらを食い散らかす有り様に、さらに犯行時刻が真夜中に及ぶとなれば、あまり穏やかな内容でもなし。人里の守護者サマが気に病むのも至極当然のこと。

 そこで、夜といえばあの男しかいないと女教師が頼ってきたのが、何を隠そうこのオレってぇワケだ。今や人里に何でも屋を知らぬ者はいないと言っても過言ではない。

 おかげで、こうして人里周辺の巡回ついでに現行犯を見かけたら追い払ってほしいとかいう依頼を引き受けちまったのだが。ま、しゃーねぇ。上白沢女史は大事なお得意様だ。あと華扇と食べ歩きで奢ったのが地味に懐に効いているのも否めない。アイツは食い過ぎだ。

 無理はするなと上白沢女史が気を使ってくれたが問題なし。噂の人面犬だろうがその辺の野良犬だろうが、いざとなったら切り札のピストルを一発鳴らせば逃げ散るハズだ。なぜならオレは夜に生きる男。

 

 

 まずは第一の現場。堆肥置き場まで足を運ぶ。

 ド田舎異世界の幻想郷はエコロジーなことに、ほとんどのゴミは資源として有効活用される。生ゴミで堆肥作りなんつーモンがその典型例。カンタンにポイ捨てする現代人にも見習ってほしいものだ。タピオカとかよ。

 それはそうと、どこぞの捜査官が事件は現場で起きてんだとかいうセリフがあったが、まさにその通りだと思う。というのも、

 

「…………」

 

 何か居るんですけど。

 堆肥置き場に行くと謎の人影が蠢くのを見つけちまった。周囲が薄暗い上に死角になっているため、ここからじゃ背中ぐらいしか確認できない。だが、人面どころか全身漏れなく人型なのは間違いなかった。

 時間状況その他諸々全てひっくるめて不審者待ったなし。あの繁華街ならまだしも、よもや夜な夜な生ゴミをガサ入れする変質者が幻想郷にもいようとは。人里の守護者サマの慧眼をもってしても見抜けなかったのも無理はない。

 いや待て。単純にゴミ捨てに来ただけかもしれない。念のために確かめるべきか。どこぞの中華衣装な仙人サマみてぇに誤解して恥かくのは避けたい。

 

「オイ、そこで何してんだ」

「ひゃいっ!?」

 

 不躾な声を飛ばすと謎の人影がビクッと震えた。ハイ怪しい。それと声のトーンからして若い女だと判明した。

 そのうえタイミング良く、月を覆い隠していた叢雲が風に流されていく。夜空が晴れて月明りが差し込む。暗闇に隠されていた相手の顔が露わになった。

 

「あぅ、ううぅ……」

 

 一言で片付ければ、貧しそうな女だった。瘦せぎすな身体は健康的とは言い難く、スリムと呼ぶには些か行き過ぎた。いかにも栄養が足りてなさそう。

 あと着ているものもボロい。色褪せたパーカーみたいな半袖に、これまた飾り気のない短いスカートを着合わせている。どういうセンスしてんだか「差し押さえ」とか「請求書」と書かれた紙切れ(布切れ?)が張り付けられ、深く青みがかった長髪を結うリボンにもそれが行き届く。おまけに裸足ときた。

 ホームレスばりにみすぼらしい女が狼狽えた様相でオレを見上げる。一歩進むと、反射的に頭を庇うようにガードされた。

 

「ごめんなさいぃ。ぶたないで、虐めないでぇ……」

「いきなり見ず知らずの女に殴りかかるほど外道じゃねぇよ」

 

 はたしてオレがどんな男に映っているのか是非とも問い質したい。ま、華扇からも目つきが悪いとか言われているし、オレ自身も自覚があるのだが。

 あまりに弱々しい態度に毒気を抜かれちまった。見た目も貧弱そうだし、コレが不審者だとしても微塵も恐怖がない。

 というか、こちとら拳を振りかざしてすらいないってぇのに、涙声で懇願されても困る。華扇に見られたら確実に早とちりされてオレが説教食らう構図でしかない。

 溜息がてら何もしないから落ち着けと宥める。ヒステリーに陥られてないだけまだマシだった。ひとまず会話を試みる。

「そんで、お前は何者だ?」

 

「あ、はい……依神紫苑といいます。貧乏神です……ごめんなさいごめんなさい」

 

 まさかの貧乏神であった。だからそんな恰好してんのか。納得、してイイのかわからねぇぞオイ……

 懲りずに何度も頭を下げる深青色の女。そこから漂うネガティブなオーラがハンパない。これまでにないタイプの個性派キャラで扱い難い。

「謝らんでいい。じゃ、次の質問だ。ここ最近畑荒らしてたり生ゴミ漁ってたのもオメーか?」

「いぃっ!? いえいえそんな! 皆さんが丹精込めて大事に育てたお野菜を荒らすだなんてとてもとても! わたしはただ、捨ててしまう前に食べられそうなものを恵んでもらえないかと……それに今日は偶々来ただけなんですぅ、信じてください……」

「だーもう! わぁーったからいちいち泣き顔すんな」

 貧乏神ってぇのがそういうモンなのかは知らんが、エラく自己肯定の低いやっちゃな。どうやらコイツがここ数日の犯人っつーワケでもなさそうだ。両手と首をブンブンと振って自らの潔白を訴える必死さに憐れみが伴う。

 すると、今度は青髪のビンボー女がおずおずと手を上げた。

 

「あのぅ、わたしからもいいでしょうか?」

「おう何や。言うてみぃ」

「さっきも言いましたけど、わたし貧乏神なんです……普通なら嫌がったり避けたりするものだと思うんですけど、平気なんですか?」

「ハッ、んなモン知ったことかよ。すでに死神にも祟り神にも出会っちまってんだ。今さらちょっとビンボーな新キャラが出てきた程度じゃインパクト薄いわ。どーしてもオレをビビらせたきゃ邪神でも名乗んだな」

「でも、わたしが言うのもなんですけど……」

「あと先に言っておくがオレに憑いても意味ねーぞ。こっちも収入不安定なテント暮らしだかんな」

 

 わざわざ自分が貧乏神だと念押ししてくる不安の声を鼻で笑い飛ばしてやった。

 何でも屋の仕事はいわば依頼次第の博打に等しい。相当なデカいヤマでもない限り儲かるのは稀なこと。そんなん貧乏神からすればしけたカモであろう。憑依したところで旨味なし。せいぜい一杯奢るのが関の山だ。

 ところが、なぜか女――依神紫苑といったか、ヤツは指を折り組むと感激したように瞳を潤ませやがった。さながら天に祈りを捧げるかの如く万感の言葉を贈る。

「あぁ……! なんていい人なんでしょう。神よ、感謝します」

「オメーも一応は神なんだろうが」

 もはや単に貧しい女にしか見えない。この手合いはあまり出会わないから新鮮というか、どうにも調子が狂うというか。何つーか、無視して立ち去るのも気が引ける。

 何となしにポケットに手を入れてみる。都合よく、キシリトール配合のガムが出てきた。

「オイお前。腹の足しになるとは思わんが、ガムでよかったらやるぞ」

「いいんですかぁ!?」

「お、おお。ほれ」

「わぁ……! ありがとうございますぅ」

 だからイチイチ大袈裟な反応はどうにかなんねぇのか。

 この女が初めてみせた積極性に思わずたじろぐ。見た目はかなりボロボロだが近付かれた拍子にちゃんと若い女の匂いがした。

 それとガムは飲むモンじゃねーぞ。今メッチャ飲み込む音したかんな。

 

「別についてくる必要ねぇぞ?」

「いいえっ! 貧乏神なのに虐げたりしないで、それどころか食べ物まで下さったんですから、いくら感謝しても足りません。ここはわたしにも手伝わせてください」

 見ての通り、依神紫苑とやらが仲間に加わった。

 コンビニで百円かそこらで買った、しかも開封済みのガムごときでここまで気合入れられるとは思うまい。桃太郎印のきびだんごじゃあるめぇしよ。

 兎にも角にも、堆肥置き場に居たのはコイツだけ。次の現場に移動するか。

 

 

 そして人里外れた田畑に着いた時、オレたちはこの事件の真犯人と対峙することになる。

 その生き物は己の巨体をもって作物を尽く蹂躙し、蹄のついた前足で土をほじくり返していた。大きな鼻穴から噴き出る息は荒く、湾曲した牙は猛者の象徴を示す。筋骨隆々な体躯は弱き者をいとも簡単に捻じ伏せる。

 

 その正体は、クソが付くほどデッカイ猪が一頭。

 

 山から下りてきたと思しき巨獣は、敵意を通り過ぎて殺意を飛ばす。その先にあるのは他でもないオレと依神。

 呪いを疑うレベルの運の悪さと間の悪さ。あろうことかヤツと真っ向から睨み合うかたちで遭遇してしまった。緊張感が張り詰めて直立したまま冷や汗を流す。やせ我慢で乾いた喉から軽口を絞り出した。

「オイ……アレを仕留めれば残飯なんざオサラバしてイノシシ肉で肉鍋できんぞ。よかったなァ?」

「むっ、むりですぅ! わたしみたいな貧弱な体じゃペシャンコに潰されちゃいますからぁあ」

 半泣きで依神がいやいやと頭を振る。貧乏神パワーをもってしてもどうにもならないようだ。予想の範疇なのでそこまで悲観するほどでもなし。だよな、と軽く流す。

 つーか何だよアレ。山神様かよ。今まで出会った中で一番ヤバイ奴な気がしてならないのだが。

 一応、チラリと横を見る。深青色の貧乏神は文字通り全身が真っ青になっておった。

「ま、そんな貧相な体で肉弾戦なんざできるワケもねーか」

「あぅ、そうですよね……わたしみたいなおっぱいちっちゃい女の子なんて、全然魅力ないですよね……」

「んん!? 今そーいうハナシだったか!?」

 泣き止んだと思ったら、慎ましい胸に手を当てて虚しい自虐とともに落ち込んだ。気にしてたんか。何かスマン。ま、どっかに需要はあると思うぞ。多分。

 

 などと余計な漫才モドキをしている場合でもなかった。

 とうとう大猪がブルル、と巨体を震わせてオレたちに狙いを定める。縄張りを横取りされてたまるかと交戦の姿勢に入っていやがった。自らのテリトリーに侵入してきた不届き者と見なされたのは火を見るよりも明らか。

「クソッ、侵入者はそっちだろうがよ……!」

 まだ人面犬の方がどれだけマシだったか。未だかつてない危機的状況に歯噛みする。

 どうする。空撃ちで威嚇するか。いや、得策とは言い難い。最悪の場合、冗談抜きで「よーいドン!」の合図になって突進してくる危険もある。追い払うつもりが逆効果じゃねぇか。

 ならばオレたちが撤退するか。それも無理だ、恐らく逃げ切れない。野生の猪が突進するスピードが時速何キロを叩き出すか知らんが、少なくとも鈍足とは到底思えない。死因が猪に轢かれたからとか、無念過ぎて死んでも死に切れねぇ。

 おまけに依神が「ひぇぇえ」とか情けない悲鳴上げてオレの腰にしがみついているせいで尚更動けん。ひぇぇえじゃねーよ離れんかい。

 

 残酷にも時間切れとなった。

 剛毛の獣が眼光に禍々しい攻撃色を灯し、夜天に目掛けて高く嘶いた。固い前足で地面を削り、突撃の体勢に入る。

 カウントダウン開始。三、二、一……

 

 ごちんっ!!

 

「……は」

「……えぇ?」

 脳天に鈍器が叩き込まれた鈍い音が響き渡った。直後、凶暴さを滾らせていた大猪の巨体がゆっくり傾き、力なく真横に倒れた。ドスン、と身を伏した重そうな音だけが残る。

 聞き覚えのない少女の声が貧乏神の名前を呼んだ。

 

「やっと見つけた紫苑。こんな所で何やってんのよ」

 

つづく

 




ネクスト コナンズ ヒィイインッ
てんこっていうな!

鬼滅の刃の主人公の名前ずっとスミジロウだと思ってた(赤っ恥)
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