東方扇仙詩   作:サイドカー

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本編そっちのけでこんなんばっかり

大学生活ってどんなん?って人は、ぐらんぶると宇崎ちゃんは遊びたい読めば大体その通りだと思うよ


番外特別回 「もしも茨木華扇とキャンパスライフを過ごしたら 前編」

「む……」

 起床。

 寝落ちしちまったらしい。フローリングの床に伏せたまま瞼を開く。こんな場所で雑魚寝したのが祟って体の節々が凝り固まっていやがった。

 ボンヤリと部屋の中を見回して、薄らいだ記憶と照らし合わせる。

 乱雑に散らばった青年向けコミックの単行本。スミノフとジーマの空き瓶がそこら辺に転がる。飲みきりサイズの空瓶は六本を超えておった。ボーリングのピンにでも使えそう。

「……あぁ」

 思い出した。昨夜は確か、新宿スワンを読みながら深酒してたんだっけか。幸か不幸か寝心地の悪さが目覚まし代わりとなったみてぇだな。

 今何時だろうか。スマホを手繰り寄せてホームボタンを押す。

 LINEの新着メッセージが来ていた。差出人はクソマジメな知り合いの女。一時間ほど前に受信したことが表示されている。

 

『今日は必修科目の講義があります。寝坊したり遅刻したりしないように!』

 

「わぁーっとるわい」

 思わず口に出した独り言と全く同じ文面を打ち込み、送信をタップする。一分も経たないうちに返信が来た。腕を組んで頷くスタンプのみ。送り主はコレと寸分違わぬしたり顔を浮かべているに違いない。

 邪魔な空き瓶を足で退かしながら洗面所に進み、顔を洗ったり歯を磨いたりと身支度を手早く済ませる。遅刻する心配はねぇがダラダラするだけの時間もなし。オマケに冷蔵庫には調味料しか入ってない始末。

 整髪料を使って黒髪オールバックのヘアスタイルを整える。仕上がりは上々で悪くねぇ。フッとニヒルなキメ顔で鏡を見る。

「さぁて、行くか」

 ローテーブルの上にあったスクーターのカギを拾い、オレは我が居城――大学までの近さが売りの学生向け安アパートの玄関扉を開け放った。

 

 つまるところ、オレこと黒岩(本名は綿間部将也)は夜に生きる男……でありたい一介の大学生なのである。

 

 

「やれやれ……着きましたよっと」

 バイク置き場のテキトーな空きスペースに愛車をブチ込む。どいつもこいつも所詮は大学生ゆえ、駐輪場は安物の原チャリで溢れていた。ま、オレのも中古で買ったポンコツなんだけどよ。

 大学の敷地内に入れば大学生たちの姿をちらほら見かける。そらそうだ。キャンパスの中央に建つ時計を見上げれば、その針はすでに十時過ぎを指していた。

 そこまで時間に余裕があるワケでもないので、掲示板はスルー。真っ先に足を運んだのは、講義室がある本館ではなく別館。大学生協やらカフェテリアがある憩いの場。

 ひとまず大学生協に立ち寄った。せめてモーニングコーヒーぐらいは買っておきたい。何せこちとら夜型なのだ。カフェインでも摂取せねばアタマが働かねぇワケで。

「あー……今日はボスってぇ気分じゃねーな」

 ジョージアと、あと何となく手に取ったファンタ(ピーチ味)を持ってレジへ。プリペイド機能付きの学生証でちゃちゃっと支払いを済ませる。残高193円。ぼちぼちチャージせねばなるまい。

 別館の内装はわりとオシャレだ。学生たちの休憩スペースと謡われるだけあって広々とした造りになっている。開放的な空間を演出したつもりなのであろう。腰掛けシートがバラけた配置で設けてあり、講義室のような堅苦しさはなかった。

 そこかしこから自由と青春を謳歌する若人どもの賑やかな声が飛び交う。いつ来ても喧騒が尽きない。別に人間観察が趣味ってぇワケでもないのだがつい見渡してしまう。

 次の講義までダラダラ時間を潰すヤツ。わざわざこんな騒がしい場所で課題に取り組む女子大生ズ。サークル仲間が集まってんのかムダにテンション高いチャラ男たち。特に用事もないけどとりあえず来てみたのであろうボッチ。

「お」

 その中に見知った顔を発見した。

 あっちはオレに気付いた様子もなく、窓から見える景色を眺めながらポッキーをポリポリと齧っている。コイツいっつも飲み食いしてんな。この間はデカい胸にタピオカ乗せたまま文庫本を読んでおったわ。

 せっかくだし驚かせてやろう。オレの脳内で悪魔が囁く。よし、採用。

 オレは忍び歩きで後ろに回り込むと、買ったばかりのよく冷えた飲み物を隙だらけの首筋にピッタリ当ててやった。

 

「ひゃぁあん!?」

 

 一歩間違えれば誤解を招きかねない甲高い悲鳴が上がる。彼女はビクンッ!と思いっきり体を跳ねさせて、直後、勢いよくこちらを振り返ってきた。その動きに合わせて桃色のミディアムヘアが僅かに舞う。

 柔らかな色合いに染まった艶やかな髪に、二つの白いシニョンが括られる。あどけなさと大人っぽさを均しく成り立たせた顔立ちは、誰が見ても美人だと認めるほどに整っている。ただし、よっぽどビビッたのか赤い宝石のような眩い瞳は今や涙目になっちまっていた。

 なかなかどうして予想以上のリアクションであった。我ながらあくどいツラになってんのが自覚できる。我慢できずフッと鼻で笑ってしまう。

 そして、はじめのうちはパチパチと瞬きしていた女だったが、

「あぁぁ……!」

 仕掛け人がオレだと理解するや否や、目に見えて表情を変えていった。

 頬っぺたを風船みたく膨らませて、肩を小刻みに震わせる。薄っすらと涙を浮かべていたハズの赤みがかった瞳は怒気を宿しておった。何なら炎すら幻視できる。

 ドッキリ番組のネタ晴らし気分で、オレはニヤリと口角を上げた。

 

「よう」

「よう、じゃありませんッ! 何するんですか馬鹿者ォオ!!」

 

 開口一番、芯の通った声音が衝撃波を生んで真正面からぶつかった。あまりの大音量に堪らず耳を塞ぐ。っかー、うるせぇ。相変わらず声デケェなオイ。

「あんま大声で叫ぶなよ。周りから見られんだろ」

「こんなことされたら怒るに決まっているでしょう!? ビックリしたじゃないですか!」

 眉間にしわを寄せるお怒り顔も、遠くからでも聞こえるレベルの怒鳴り声もすっかり慣れてしまった。とはいえ別に普段から怒らせているつもりはねぇのだが。

 

 この女は茨木華扇。オレと同学年でかれこれ入学当初からの付き合いになる。ちなみに今朝LINEした相手もコイツだ。

 知り合ったきっかけは何だったか。新歓コンパだったような気がする。偶然、席が隣同士になったとかそんな感じ。何サークルの勧誘だったかすら完全に忘れちまったけど。

 オレも華扇も大学二年だ。一年以上もこーゆー感じが続いていると思うと感慨深い。いや、そうでもねぇわ。フツーだわな。

 

「こんな所で何してんだ? お前だって授業あんだろ」

「あなたを待っていたんです! それなのに、やっと来たと思ったらこんな意地悪して酷いと思わないのですか!? 今朝だって私がメッセージ送ったのに一時間も過ぎてからようやく返事しましたよね。どうせ夜更かしして危うく寝過ごすところだったんでしょう? だから不規則な生活をしてはいけないとあれほど――」

「ったく、悪かったっつの。コレやるから機嫌直せ。な?」

 お得意の説教が始まりそうだったのを遮って、先ほど首筋に密着させたファンタを突き出す。もともと華扇の差し入れ用に買ったやつだし問題あるまい。まさか怒りを鎮める貢物になるとは。

 華扇はまだ恨みがましそうな目つきでオレを睨んでいたが、ひとまずブツは受け取った。

「もぉ、人を物で釣ろうとしないでください」

「へーへー、すまんこって。それよか早く行かねーと間に合わんぞ」

「それはこっちのセリフです。まったくもう、誰のせいでこうなったと思っているのですか」

「だったら先に行けばよかっただろ。つーかお前、よくオレがこっち来るってわかったな」

「綿間部のことですから。簡単にお見通しです」

「さよか」

 桃色が似合う女子大生はエッヘンと得意げに笑みを浮かべて胸を張った。それからお菓子の空箱を近くのゴミ箱に捨てると、オレの手を引っ掴んで歩き始める。いやここまで来たら逃げねぇよ。

 華扇に連行される道すがら、すれ違った男どもから舌打ちやら歯ぎしりやらが聞こえてきたのは気のせいだと思いたい。

「で、どこの教室だ?」

「ちゃんと掲示板を確認しないからそうなるんです。今日は514講義室よ」

 オレが掲示板を素通りしたことも容易く見破って華扇が即答する。手を繋いだまま。

 美人でスタイルもイイうえにマジメな性格。一見すると才色兼備なこの女の欠点は無防備さにある。ふとした仕草で距離が近かったり。オレじゃなかったら勘違いしてんぞ。

 結局、講義室に着くまで華扇がオレの手を離すことはなかった。何でや。

 

 

「――このように、母集団の中に特異な値が単体で混ざっている場合においては、平均ではなく中央値を用いた方がより正確な統計データを測ることができますわ」

 

 教壇に立った講師の声が反響する。この大学で一番大きい講義室にもかかわらず、彼女の説明は隅から隅まで行き届いた。壇上の美女はスクリーンに映るグラフや数式の解説を続ける。

 ミス八雲。フルネームは八雲紫。持ち科目は統計学。

 波打つ長い金髪をなびかせて謎めいた雰囲気を放ち、数字に秀でた理系でもありながら民俗文化の知識にも富んだ才女。そのミステリアスな美貌から男ばかりではなく女生徒からも羨望の眼差しが集まる。

 ミス八雲が目的で履修した輩も少なからずいるハズだ。もし必修科目でなかったとしても受講者は仰山いたのはカンタンに想像できる。ま、オレは御免だが。できることなら全て午後のカリキュラムで固めたかった。

「…………ぁー」

 欠伸を噛み殺しつつ視線をミス八雲から隣に移す。マジメな女子大生が熱心にノートを取っていた。無意識のうちにその横顔を眺める。目鼻立ちが整っているおかげで横からでも美人ってか。しかしまぁ勉強熱心なこって。

 

「余所見してないでちゃんと聞きなさい」

 華扇がこちらを見ずに前方を向いたまま小声で叱ってきた。さすがにこれだけ凝視してたら気付くに決まっている。

「ねみぃんだよ……あとでそれコピーさしてくれや」

「ダメです。自分の手で書き写さないと身に付きません。そうやって楽ばかりして後で痛い目をみるわよ」

「そう言うなって。ハーゲンダッツ奢ってやるから」

「……私のことを食べ物で釣られるチョロい女だと思ってませんか?」

「んなこたぁねーよ」

 ちょっぴり不機嫌そうな声色で華扇が唇を尖らせる。さすが女の勘。

 そう言うわりに高級アイスの名前を出した瞬間、思わず反応したみてぇだけど。当然見逃さない。ならばもう一押し。

 

「じゃあアレだ。今度の土曜とか映画でも観に行くか。チケット代はオレが持つ。それならどーだ?」

「えっ……ふ、二人っきりで……?」

「そらそうだろ。他のヤツの分まで奢る気はねぇよ。観るやつもお前に好きにしてイイ」

「…………そ、そういうことなら? まぁ、見せてあげないこともないです、けど?」

 交渉成立。

 前髪を指先でくるくると弄りながら華扇が控えめに頷いた。気になる映画があると零してたのを覚えているオレに抜かりなし。タイトルは確か、東方……扇なんとか。

 ミス八雲にバレないように、テキストでスマホを隠しつつ近場の映画館を検索する。すると、華扇も肩を寄せてオレの手元の画面を覗き込んできた。いやお前は授業聞けよ。あと近ぇよ。

 上映時間のリストを上からスクロールしていく。オレとしてはラスト上映がオススメなのだが……

 

「私は最初のが良いです。午前九時に駅前で待ち合わせするのはどうでしょう?」

「やっぱりそうくるわな。レイトショーの方が安いだろ」

「そこは大丈夫です。割引券を持ってますから、わざわざ最後まで待たなくても同じ値段で観れますよ。あ、でもノートのコピーが欲しいならハーゲンダッツも買ってくださいね。綿間部が言ったのですから」

「っかー、足元見やがってチクショウ」

「余計な出費が辛いならキチンと講義を受ければ良いだけでしょうに。まったく、何のためにここにいるんですか」

「それはそれってぇやつだ。お前の字が綺麗で見やすいんだよ」

「はえっ!? そ、それは……ありがとうございます」

 華扇が薄っすらと頬を赤らめてモジモジと照れている。ちょっと字を褒めただけで大袈裟なやっちゃな。

 

 チャイムが鳴った。教壇のミス八雲が資料を片付け始める。

「それでは今日はここまでにします。そこの二人は次までに惚気話を用意しておきなさいな。講義中にイチャつくのは感心しませんわよ」

 この距離でオレたちのヒソヒソ声が聞こえてたんかよ。それもう地獄耳ってぇレベルじゃねーぞ。怖ッ

 チラリと横目で見やれば、華扇が顔を赤らめて口をパクパクさせていた。ドンマイと言わざるを得ない。

 

 

 昼過ぎ。

 講義も終わり、オレと華扇は再び別館に赴いた。ランチタイムのピークを過ぎてある程度空いている。なお、カフェテリアなどと洒落た言い回しをしているが実質はただの学食でしかない。

 今月は中華フェアを催している。入り口にも期間限定キャンペーンのポスターが貼ってある。来月はフレンチではないかと専らの噂だ。

 

「またそれですか。栄養が足りてないのではありませんか?」

「しゃーねぇだろ。コスパからいってコレがイイんだよ」

 華扇がオレの皿を一瞥してこれ見よがしに溜息を漏らす。カレー大盛り二九〇円。

 オレがぞんざいな反論で迎え撃つと、華扇がむっと眉をひそめながらトレーを置いた。回鍋肉定食。さらにシュウマイを単品で追加。そのうえでハーゲンダッツを要求してくるのだからもはや何も言うまい。

 強いて言えば華扇は中華が似合うイメージがあるってぇコトか。

 いただきます、と両手を合わせてそれぞれ箸とスプーンを握る。

「このあとアルバイトですか?」

「いや、今日は何もねぇな。講義もなけりゃサークルもない」

「サークル活動もなにも、入学してからずっと無所属じゃない」

「うるへー。そらお前もだろうが」

 ぶっきらぼうに言い返してカレーを掻っ込む。

 ちなみにオレのバイトとは派遣登録タイプの便利屋。シフト制とも異なり、店に依頼があったときに電話がかかってくる。都合がつけばそのまま現場に直行するシステムだ。

 小休止に水を飲んでいると華扇が「それなら」とこっちを見つめてきた。

「街に出掛けませんか? あの子たちが元気か気になりますし」

「あー……いつものところか。いいぜ」

「決まりですね。それはそうと、やっぱりカレーだけというのは良くないと思います」

「まだその話すんのかよ……」

「当然です」

 マジメな茨木サンはどうにもカレー単品というのが看過できないようだ。言うほど不摂生でもねぇだろ。具無しカレーだけどよ。値段的にもそんなもんであろう。

 いつだったか、オレが栄養ブロックとゼリー飲料のスタイリッシュな現代メシで済ませてんのを見られたときは、それはもう口うるさく説教されたものだ。懐かしい。って、今も変わんねぇわな。

「旨い安い早いボリュームもあるっつー人気メニューだろ。どっちみち今から追加で何か注文すんのもメンドクセー」

「仕方ありませんね。でしたら私のを少し分けてあげます」

 そう言うと女はシュウマイを一つ箸で摘まんで、笑顔を綻ばせてオレの口元に寄せた。

「はい、あーん」

「待て待て」

「何か? もしかしてもう満腹で食べられないのですか?」

「そうじゃねーよ……!」

 当の本人はまるで分かってないような無邪気な顔で小首を傾げていやがる。いくら何でも無防備過ぎんだろ。というか場所を考えろよ。大学のカフェテリアやぞここ。

「ほら、あーん」

「だーもう! そういうとこやぞお前」

 半ばヤケになって一口でシュウマイにかぶりつく。嚙むほどに溢れ出る肉汁を味わいつつ、ひたすら仏頂面で咀嚼する。こーゆーのは意識した方が負けだ。

 黙って口を動かすオレをなぜか彼女は楽しそうに眺めていた。まさかコレで貸しイチとか言わねぇよな。ハーゲンダッツ追加とか止めろよ。

 

「やっほ、今日もお熱いわねお二人さん」

「私たちも同席していいかしら?」

 

 どこからともなく黒髪ショートと金髪ロングの女子大生がトレーを持って話しかけてきた。生姜焼き定食ときつねうどん。オレも人のことは言えんがこっちも中華フェアを清々しくスルーしていやがる。今のところ律儀に応えてるやつ華扇だけじゃねーか。

 見知った相手でもあり、華扇が快く迎え入れた。

「はい、どうぞ」

「いやー、悪いわね」

「お邪魔します」

 

 宇佐見蓮子、それとマエリベリー・ハーン。

 秘封俱楽部なる非公認サークルを立ち上げた二人組。大学内では、ある意味じゃ有名人とも言えなくもない。ちょっとした武勇伝すらある。

 自分らが新入生という立場だったのもお構いなし。入学して早々にサークル勧誘のビラをキャンパス内でバラまいていたのは逸話じゃなく実話だ。ま、バラまいていたのは宇佐見だけでマエリベリーは困り気味だったけど。

 当初は見目麗しい女子大生コンビにホイホイ釣られた連中もいた模様。

 ところが、「世界の裏側を暴く」などと掲げた怪しすぎる活動内容によって、入部希望者が一人残らず辞退したってぇオチだ。哀れ。

 さもありなん。美人とオカルトのセットとか、どう考えても怪しい詐欺だわな。

 ちなみに秘封俱楽部とのファーストコンタクトは、華扇が律儀にビラを受け取って話に耳を傾けたのが発端であった。

 

「ねー二人とも。今夜ヒマ? サークル入らない?」

「夜は空いているが秘封俱楽部には入らねーぞ」

「ぶー」

 何かとつけてオレたちを勧誘してくる宇佐見の勧誘トークを、毎度の如くバッサリ切り捨てる。テンプレ化し過ぎてもはや一種の挨拶となっていた。

 華扇ぐらいなら入ってやりそうなものだが、オレが断るとコイツも申し訳なさそうに首を横に振る。「綿間部が入らないなら……」となぜかオレのせいにされる。何でや。

 秘封俱楽部のメンバーではないオレたちなのだが、そのわりに頻繁に手伝ったり巻き込まれたりしている。この間は心霊スポットに拉致されたが、恐怖のあまり記憶がない。気が付けば頬に平手打ちの痕と、赤面して大きく息を乱した華扇がいた。ワケがわからない。

 ぶー垂れる宇佐見の対面で、マエリベリーがお上品にうどんを啜る。サンドイッチとかが似合いそうだが何気に庶民派メニューがお好きらしい。

「そうそう。さっき蓮子と今夜飲みに行こうって話してたんだけど、よかったら一緒にどうかしら?」

「ほぅ、悪くねーな。だったら現地集合でもイイか? このあと予定があんだよ」

「ええ、構わないわよ。私たちもまだ今日の講義が残っているし。じゃあ店と時間が決まったらLINE送るわね」

「おぉ」

 華扇に確認を取るのを端折ったが問題ねぇだろ。酒とメシでこの女が行かないなんざまずない。実際、隣を見やれば楽しみだと言わんばかりにニコニコしていやがった。予想通り。

 

「しっかしクロってば頑固よね。黒髪と金髪のピチピチギャルな現役女子大生が二人もついてくるのに。いい加減覚悟決めて入部しちゃいなさいよ」

「その下心で仮入部したヤツらが数日足らずで全員逃げたんだろーが」

「そーだけどー」

 生姜焼きに七味唐辛子を振りかけていた宇佐見が未練がましそうにぼやいた。というか今時ピチピチギャルとか死語じゃねぇのか。久々に聞いたぞオイ。

 辛さマシマシになった豚肉を口に入れて「からーい」とか抜かしている黒髪の女子に、金髪と桃色の女子たちも苦笑いを浮かべる。

 コップの水を一気に飲み干して、宇佐見が深々と溜息を吐き出す。

「茨木さんみたいな綺麗な人といつも一緒にいるくせに、ちっとも浮ついた話も聞かないし。もしかしてホモかも?って思った時期もあったわ」

「遠い目で空恐ろしいこと言うなや」

 さらりと衝撃の自白をかます黒髪ショートの女子大生に戦慄する。何と恐ろしいことを考えるんだ、この女は。こっちのが不思議発見である。主にアタマの中が。

 しかしながら、これだけでは終わらせないのが宇佐見蓮子その人。続け様にとんでもないことを抜かしやがった。

 

「まぁ、それはないってわかったけどね。この間、深夜のコンビニでクロがエッチな雑誌を立ち読みしてるの見ちゃったもん」

 

「へー……そうなんですか?」

「仕方ないわ。彼だって男性だもの」

 華扇が棒読みで疑問形の声を出す。平淡過ぎて地平線の彼方まで見えそうなトーンであった。赤みがかった瞳が仄暗くなっていることに嫌な予感しかしない。

 さり気なくマエリベリーがフォローしてくれたが、顔では愛想笑いを浮かべていながら明らかに引いていやがった。中途半端な気遣いは逆にダメージを負わせると知ってほしい。

「綿間部?」

「い、いや違うだろ。どーせ宇佐見が誰かと見間違えたんじゃねーの……?」

「えー? 嘘言いなさいよ。アレ絶対にクロだったわよ」

「ハッ……んなワケねぇだろ」

 おのれ、宇佐見のやつ。余計なこと言いやがってからに。だが、今ならまだアイツの見間違いで押し通せる。証拠など何一つないのだから。大体、暇だったから何となく手に取っただけでオレは悪くねぇ。

 そう勝利を確信したのだが、現実は非常であった。

 

「このむっつりスケベ、コスプレものが好きなんでしょー」

「後ろから覗き込んでんじゃねーよッ! ……あ」

 

 

「へー……そうなんですか、へー……」

 

 その日、ノートのコピーは貰えなかった。

 

後編につづく

 




秘封俱楽部が出るなら大学ネタがやりたかった。ただ、それだけだった

あずまあや先生お誕生日おめでとうございます(二日遅れ)
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