東方扇仙詩   作:サイドカー

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お盆休みはログ・ホライズンを観るのに忙しかった

ミノリたんハァハァ

ミノリたんハァハァ


第五話 「探し物はぬこですか」

「おはようございます。もう朝ですよ? 起きてください」

「だからオレは夜に働く男だと言ってんだろーが……!」

 可愛らしい声で爽やかに挨拶を交えつつ、今日も華扇が容赦なく掛け布を引き剥がしてきやがった。叩き起こされた抵抗にタオルケットを奪い返そうとしたが、二度寝させまいと勝手に畳んで片付けられる。

 光景だけを見れば、さながら幼馴染が朝起こしにきた一幕だろうか。そういう妄想が滾る一部の野郎共からすれば泣いて喜ぶシチュエーションなのかもしれねぇな。実際、華扇の容姿レベルはかなり高いってのはオレも認める。シニョンで括った桃色のミディアムヘアも、黄緑色のミニスカートと合わせた中華衣装も、どれもが彼女によく似合っていると思う。

 ただし、それとこれとは話は別だろうがよ。

 こちらからしてみれば安眠中に襲撃を受けた以外の何物でもない。というか、何当たり前みたいな顔してテント内に居座ってんだ、お前は。

 寝ぼけ眼のジト目で抗議したところで、少女には全くもって効果なし。包帯が巻かれた右手を唇に添えてクスクスと笑みを零すだけ。

「ふふ。意外と寝顔は穏やかなんですね」

「くぁ……ったくよぉ、今日は何だってんだ? しかもずっと人の寝顔見てたのかよ……」

 いつから居たのか知らんけど、一歩間違えなくても不法侵入だかんな。

 欠伸を噛み殺しながら怠い動きで起き上がる。本音を言えばコイツをスルーして寝ッ転がりたい。だが、それをやろうものなら昨日と同じく飛び掛かってこられるだろう。

 何用かと仙人サマに問えば、彼女は「ああ」とか言いながらポンと手を打った。何やその今思い出したかのような反応。すっかり用事を忘れるほどオレの寝顔が面白かったのか?

「そうでした。慧音さんに綿間部を連れてきてほしいと頼まれていたんです」

「上白沢女史が?」

「はい。ですから、早く支度してくださいね。いつまでも待たせるわけにはいかないでしょう」

「はぁああ……へいへい、今すぐ準備しますよっと」

 人里の重要人物から呼び出しをくらったのならしゃーねぇ。しかもこの女がいる以上は夜まで待機も使えない。夏休みのガキじゃあるまいし、何故にオレは二日連続で早起きさせられてんだろうか。

 早く早くと急かしてくる華扇をあしらいダラダラと支度する。とりあえず軽く汗ばんだタンクトップを脱ぎ捨てた。

「きゃあ!? な、なんで服を脱ぐんですか!?」

「着替えるからに決まってんだろ……見てないで外出てろよ」

「そッ、そういうのは前もって言ってください! 破廉恥ですよ!?」

 咄嗟に両手で瞼を覆いながら、僅かに顔を赤らめて華扇がお叱りを飛ばしてくる。朝っぱらから説教とはついてねぇ……

 二日連続で押しかけてくるし通い妻じゃねーんだからよ。こちとら結婚どころか恋人がいた経験も無し。

 羞恥を誤魔化しているのがバレバレな説教を背中越しに聞き流しつつ、真新しい黒シャツを着る。

 どうでもいいけど、目隠しじゃなくて外で待ってろと言っとるだろうが。赤面しながら指の隙間からさり気なくチラ見すんなや。

 

 寺子屋とは、江戸時代において以下略な学問施設である。要するに学校とか塾の類いだ。

「なるほど、こりゃ確かに寺子屋だ」

「どういう感想ですか……」

 おおよそ人里の雰囲気や家々の造りから察した通り、その場所もまた時代を感じる佇まいをしていた。どことなく道場を彷彿とさせる瓦屋根の和風屋敷。ここで上白沢女史が教鞭を振るってんのか。

 お邪魔させてもらうと、なかなか広い畳部屋に低い長机と座布団が三枚の組み合わせが等間隔に並んでいた。これぞ学問のすゝめ。いかにも一休さんとか寺の小坊主が勉学に勤しんでそう。

「わざわざ来てもらってすまないね」

「別にいい、どうせ今更だから気にすんな。今日はガキどもはいねぇのか?」

「こら! 口が悪いですよ、綿間部。失礼でしょう!?」

「はは、別に気にしていないよ華仙殿。今日の寺子屋は休み、元気に遊ぶのも子どもの仕事だからな」

「ほーん……んで、オレを呼び出したからには依頼なんだろ?」

 上白沢女史の顔を窺う。彼女は表情を引き締めて首肯した。

 とりあえず出されたお茶をズズズと啜る。どこが粗茶だ、めっちゃ美味いじゃねーかよ。

 文句があるとすれば、どいつもこいつもオレの営業時間を守らねぇってことか。夜で良いじゃんかよ。まさか日中にオレを引き摺り出すために華扇に頼んだのか、この女教師。

 ……いや、それはねーか。たぶん彼女自ら率先して「私が呼んできますね!」とか言ったんだろ。

「話が早くて助かる。今回、君に頼みたいのは……実を言うと猫探しなんだ」

『猫探し?』

 思いもよらない発言を受けて、オレと華扇の声が意図せず重なった。マジか。朝っぱらから人を呼び出しといて、いざ蓋を開ければペット捜索かよ……

 訝しげに眉をひそめるオレと小首を傾げる華扇。先に口を開いたのは彼女の方だった。

「詳しく聞かせてもらえますか?」

「うむ、教え子が飼っている猫が三日ほど前から帰ってきていないんだ。おかげでその子が随分と心配している。まだ子猫だった頃から一緒にいてかなり可愛がっていたらしい。私も何とかしてやりたいんだが……」

「猫だったら案外そのうちひょっこり帰ってくるんじゃねーの? って言ったところでガキんちょ相手じゃ意味ねぇか」

「ああ、その通りだ」

 さらに聞けば、件の子どもが人里を隅々まで探したものの結局見つからなかったのだという。おそらくは里の外に出てしまったのではないか、と。どうしようもない不安に襲われたその子は、親よりも頼りになる大人に相談したっつー流れだった。

 可愛い教え子の悩み事となれば、この見るからに良い教師な人物が放っておけるはずもねぇわな。

「大丈夫だと励ましているけれど、もしかしたら私の知らない間に子どもだけで遠くまで探しに行ってしまうかもしれないと思うと落ち着かなくてね。そんな時に、黒岩のことを思い出したんだ。どうか力を貸してくれないか、何でも屋さん?」

 上白沢女史が紳士な眼差しで助力を願ってくる。依頼内容はアレだが、彼女なりに真剣なのは伝わる。

「………はぁ~~、よもや迷い猫を捕まえる仕事とはなぁ」

「綿間部……まさか受けないつもりなんですか……?」

 オレの深い深い溜息をそう捉えたのか、華扇の瞳に微かな失望と悲しみが混じる。堪えるように己の手をきゅっと握り締める姿は、あまりにも痛ましげで辛そうに映った。

 ったく、まーたコイツは早とちりしやがってからに。

「ちげーよ、そうじゃねぇ。誰が受けねぇ言ったよ?」

「え……?」

 ただ、数奇な運命を感じて浸っていただけだ。昨日といい今日といい、懐かしい依頼が次から次へと舞い込んできたこの運命を。

 そう、オレはかつて猫探しの依頼を受けたことがあるのだ。あれはオレがまだ黒岩ではなく無名の雑用係でしかなかった頃。

 当時はまだギリギリ未成年だったとしても、二十歳手前の男が虫取りアミを振り回して猫相手にガチンコ対決を繰り広げたという、ちょっとした黒歴史。フッ、昔の話しだ……だからそれ以上触れるな……ッ!

 何でも屋を名乗るからには、殺しと一部を除けば大抵の依頼は引き受けるのが我が信条。やれやれ、今日も日勤になっちまうのか。

「言っておくが、幾らショボっちい雑用でもタダ働きはしねぇぞ。あと、幻想郷の地図があったらくれ」

「綿間部……!」

「ああ、今すぐ用意しよう! ちょっとだけ待っていてもらえるか」

 オレの答えを受けて、嬉しそうに上白沢女史が教室を出て行った。さすが寺子屋、地図くらいあって当たり前ってか。

 パタパタと足音が遠ざかっていくのを聞いていると、華扇が上白沢女史に負けず劣らず喜色満面の笑顔でオレを見つめているのに気付く。柄にもなく顔を背けちまった。あーくそ、何となくハズいじゃねぇかよ。

 ……幻想郷を調べて回るのに丁度良かっただけだっつの。そのガキを早いとこ安心させてやりたかったとかじゃねーかんな、勘違いすんじゃねぇぞ。

 

 しばらくして、上白沢女史が持ってきた地図を机の上に広げて、改めてこの幻想郷について確認することにした。っていうか筆書きかよ。しかも地図らしい地図じゃねぇ。ゲームのマップに似た、大雑把な場所と地名が書いてあるだけのヤツだわ。ま、そんなんでも無いよりかはマシなのか……

 大きく描かれた山は「妖怪の山」で、正反対の位置に広がっている「迷いの竹林」の中に「永遠亭」なるものがあるらしい。小さい山の方に行けば「無名の丘」という場所が存在するようだ。あとは「魔法の森」に「太陽の畑」それから……「何々の~」って名前多すぎだろ。

「ひとまず捕獲用の網とエサでも調達しとくか」

「その必要はありません。うふふ、ここは私の出番ですね!」

 俺の独り言にピクリと反応して、なにやら華扇が自信ありげに顔を寄せてきた。昨日と違って今日は手伝ってくれるらしい。

「何か秘策でもあんのか?」

「ふふふ……私、動物の扱いには長けているんですよ」

「ほー、そら便利なこって」

 そいつも仙人特有のお力ってやつなんだろーか。動物と心を通わせることができる仙人の少女、まるでジブリじゃんかよ。デッケェ狼に跨って森を駆け巡ったりすんのか。何となく想像してみたら意外と絵になっていた。

 

 行方を眩ましたニャンコ(特徴とかは聞いた)を見つけるべくいざ出発といこうとした時、再び上白沢女史に呼び止められた。今度は何や。

「あー、その……大変聞きにくいことなんだが……」

「どうかしたんですか?」

 ここにきて、仕事ができる女教師が何故か言い淀んでしまう。気まずそうに視線を泳がせては、なかなか本題を言い出せないでいる。なんつーか、ロクでもねぇ話しの予感がしてならんのだが……

 なぜなら守護者様の瞳の先が時折、オレと華扇の間を交互に行き来してんだよな。どう見てもオレら二人に関する内容なのは明白である。

「気がかりがあるなら今のうち言っとけ」

「あ、ああ……そうだな。ごほん。えっと……まるで信憑性はないのだが、人里でちょっとした噂になっているんだ。その、君達がな……? あ、朝から男女のそういう、ゴニョゴニョ……をしていたとか何とか――」

「バ――」

「はぃいいい!?」

 オレが言いかけた言葉さえも打ち消すほどに、華扇の素っ頓狂な叫びが教室に響き渡る。ついでにオレを突き飛ばしやがった。

 十中八九、昨日テントでやらかした騒動が原因だろうな。だから早く離れろって言ったじゃねーか。

「そそ、そんなの何かの間違いに決まっています! だだだっ、誰がこんな人とッ!!」

「そ、そうだな。私もそう思っていたんだ、ハハハ……」

 バタバタと慌てふためき華扇が全力で弁明を捲し立て、上白沢女史がコクコクと何度も頷いて苦笑いを浮かべる。二人とも大人びているのに変なところで初心なこって。畳に突っ伏したまま嘆息する。座布団がなければ即死だった。

 というか華扇さんよぉ、野郎の寝床に躊躇なく飛び込んで来たり上に覆いかぶさったりしてきたお前にも原因あんだからな? こんな人呼ばわりとか失礼なやっちゃなオイ。

 

 紆余曲折あったものの、ようやく人里の外に出られた。

 初めて此処に着いた時は夜だったのもあって把握しきれていなかったが、人里の周りは田畑で囲まれていた。実際、そこかしこでジジババが農作業に勤しむ姿が確認できる。繁華街に居た頃にはなかった日本の田園風景が広がる。長閑すぎて欠伸が出ちまいそうだ。

 手始めにもう一度地図を広げて狙いを絞っていく。

「さて、どこから行くか……」

 よもや今のご時世に、紙の地図を広げて歩き回るハメになるとは。しかも、人里から見た大体の方角と地名ぐらいしか分からねぇし。これ地図と言うよりどこぞの画伯が描いた筆絵じゃねーの?

 ともあれ、幸いにもこの世界には自動車は走っていない。よって車に轢かれて死んでいたなんて在り来たりで悲しい結末にはならないのは救いだ。このオレが引き受けた以上、成功報酬を貰わねば何でも屋の名が廃る。

 それに今回は心強いパートナーもいる。早速、動物の扱いなら任せろと言っていた仙人少女に尋ねてみた。

「なぁオイ、華扇。心当たりのある場所ねぇのか?」

「そうですね……」

 オレと地図の間にスッと肩を割り込ませて、華扇も一緒になって紙面を眺め始める。すぐ間近に迫る桃色のショートヘアから甘い香りがして鼻孔をくすぐった。

 だから近いっつの! こういうところ無自覚なんかよ。さっきは真っ赤になって取り乱していたってぇのに。コイツひょっとしなくともド天然な性格なんじゃねーか?

 無防備に身体を寄せていることなど微塵もお構いなしに、おもむろに彼女はある一点を指差した。

「あ、此処なら手がかりが得られるかもしれませんよ」

「どれだ……マヨヒガ、って読むのか?」

「はい。分かり難い場所にあるんですが、猫達の隠れ里になっているところです」

「…………オイ」

 それもう答え確定じゃなくて……?

 むしろ何で今まで行かなかったのか疑問を抱くが、どうやら例の妖怪の山とやらの付近あるいは内部にあるようだ。そらガキだけで行かせるわけにゃいかんわな。

 いずれにせよ、最初の行き先はマヨヒガに決まった。華扇がいれば道に迷う危険もない。

 道を歩きながら、もし探している猫がいなくても有益なヒントが聞けるかもしれないと華扇が意気込む。野良猫どものネットワークを上手く活用するつもりだとか。ついでに色々と話しを聞いてみるのだそうだ。

「ま、さっさと見つけて捕まえるか」

「はい、頑張りましょうね♪」

 

 しかし、猫連中に話を聞くって何だよ……

 その場所には喋る猫(ジブリ風)でも居るのか?

 

つづく




次回
第六話「マヨヒガ ニャンニャン」

ただし邪仙の出番はまだまだ先と思われ
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