東方扇仙詩   作:サイドカー

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茨歌仙読み直しててふと思いついた
シリアスかな? シリアスかも?


HF最終章のイリヤがヒロイン過ぎてロリコンに目覚めかけた



第五十三話 「仙人掌って読める人おる?」

 暗闇を塗り潰す土砂降りの真っ只中、やるせない足取りでトボトボと歩く。

「あーあ、こりゃ酷い天気だわな」

 豪雨に視界も遮られる。しかも、こーゆー時に限って街頭も灯ってねぇときた。それがますます漆黒の暗がりに拍車をかける。

 風物詩たる入道雲が昇る夏空が広がっていたのも、今や見る影もなかった。時折、まるで記者会見の報道陣が一斉にフラッシュを焚いたかのような強烈な閃光が迸る。景色が暗転してから数秒の溜めが生じて、激しい雷の咆哮が鳴り響いた。

 三日三晩続いた雷雨が、今宵で四日連続の新記録を更新しようとしていた。

 

 

「っかー、ずぶ濡れで気持ち悪ぃなチクショウめ……」

 降りしきる雨粒やら地面を跳ね返る水飛沫やらで、ズボンはおろか靴まで浸水していやがる。足の裏が地面を踏む度に、内部のインソールから雨水が染み出してきてぐしゅぐしゅと不快な音を立てる始末。いっそ裸足の方がまだマシな気がしてきた。

 怒涛の降雨にポッキリ逝っちまいそうな安物の折り畳み傘(黒色)をどうにか差して、人っ子一人いやしない人里の往来に佇む。まるでゴーストタウンじゃねぇか。天気もアレだしよ。

 まさかここまで悪天候になるとは抜かった。小雨のうちに外に出たのが完全に裏目に出ちまった。

 オマケにド田舎異世界の風潮なのか、雷が猛威を奮う晩に出歩くド阿呆はオレを除いて他におらず。誰もが家に引き籠っていやがる。酒場も鯢呑亭も例外じゃなく、無情にも臨時休業で締め切っていた。

「踏んだり蹴ったりってか。ついてねぇ」

 折り畳み傘も無意味な濡れ鼠になりながら足早に急ぐ。我がアジトのテントまであと少し。

 

 暗黒城もかくやな世紀末くせぇ荒天。

 数奇な運命に引き寄せられたのか、オレは奇怪なモンを目の当たりにした。暗闇に際立つ異質な存在。目を引かないワケがなかった。

 

「何だァ、ありゃ……?」

 

 はじめはどうせ稲光だろう高を括った。が、何となく違和感を覚えてしまう。急ぎ足を中断して立ち止まり、じっと目を凝らす。

 

 上空に不可思議なブツが漂っていた。

 そいつは、遠目からは光の球体のようにも映った。

 

「UFO、か……?」

 思わず呟く。イマドキ小学生でも言わないような寒いジョーク。だが、それっぽかった。

 そいつはフラフラとこれといった目的もなさそうに浮遊していた。かと思えば、すばしっこい速度で雷雲の下を行き来したりと不規則な行動を見せる。明らかに稲妻じゃねぇナニか。

 自然現象にしちゃどーにもおかしい。むしろ生き物っぽい動きでさえあった。

 ところが、余裕ぶって傍観していられたのも束の間、

「げ……ッ!?」

 急展開に目を見張った。

 謎の光る物体はあろうことか地上目掛けて落下してきやがったのだ。

 夜空に煌めく流れ星が地上に降ってきた、などと謡えられたのなら些かロマンチックもあっただろう。が、現実には生憎と隕石が墜落してきた印象を抱かざるを得なかった。

 よりによって落下先はオレの視線の向こう、すなわち人里の中であった。なんつー確率論だ。

 集落に住まう村人は挙って自宅に籠城中。現状、目撃者はオレのみ。第一発見者とかロクな目に遭わない気がすんのだが。

「オイオイ……宇宙人襲来とか言うなよ……」

 激しい雷雨とともに突如として現れ、そして墜落していった未確認浮遊物体X。下手なゴシップ記事の見出しにでも使われそうなフレーズが走った。しかもノンフィクションという。

 見なかったことにして素通りするには気になり過ぎる。それにだ。もし放っておいてトラブルのタネだったりでもしたら、真っ先に唯一の目撃者であるオレが叩かれちまうワケで。ド田舎異世界でも炎上騒動とか冗談じゃねぇ。

 無視っつー選択肢は今後の可能性を考えるとあまりにも分が悪かった。ま、オレ自身気になっているってぇのもあるし、やることは一つってか。

「しゃーねぇ。行ってやろうじゃねーか」

 フッとニヒルにキメる。

 こうして、夜を生きる男は人知れず自警活動に乗り出すのであった。

 

 

 目的のブツはわりかしすんなり見つかった。

 

 例の物体は路地裏を所狭しと縦横無尽に飛び回っておった。

 いざ近くで対峙してみれば、サッカーボール程度の大きさでしかなかった。思いのほか小さくて拍子抜けする。

「華扇のところの雷獣か……?」

 いや、アレは違う。あの電気ネズミじゃねぇ。別物だ。

 静電気を彷彿とさせる控えめな発電とは一味違った。便宜上、プラズマ球とでも名付けておこうか。兎にも角にも珍妙な発光体がいやがった。

「またけったいなモンが出てきやがったなオイ」

 無意識にボヤくと、向こうもこっちの存在を察知したらしい。

 謎の球電はニンジャかとツッコみたくなるムダにキレのあるアクションを起こした。瞬時に壁際から壁際へと飛び移る。あたかもオレを攪乱しているようでもあり、その実、目で追うのがギリギリだった。

「速――ッ!?」

 予想外のスピードに意表を突かれてしまう。

 俊敏な動きをする得体の知れない珍物から目を逸らさず身構える。アレの正体がどうあれ、このまま目の前に棒立ちってぇのはマズイ。奴さんは逃げるどころか仕掛けてきやがったのだ。最悪、好戦的な物の怪の類かもしれねぇ。

 油断なく見据えつつ一歩ほど後ろに下がる。ところが、ヤツばかりを警戒していたのが災いして足元が疎かになっていた。すぐそこに水溜まりがあることに気付けなかったのだ。

「うおっ」

 不用意に足が滑り、体のバランスが崩れてしまう。たった一瞬、致命的な隙が生じる。直後、狙いすましたようにプラズマ球が一直線に突っ込んできた。

 

「グ――!?」

 

 確かな質量を持つ何らかの物体がオレの土手っ腹に深く減り込む。呼吸が詰まる衝撃が襲い来る。しかし本当の惨劇はこの直後であった。

 同時に落雷を浴びたかと錯覚するほどの強烈な電撃が全身に走った。

 

「ガァアアアアアアアッッ!?」

 

 獣の断末魔にも似た叫びがオレの口から放たれる。

 紫電の凶刃から幾度も袈裟斬りにされ、両手両足がバラバラに千切られそうな感覚に陥った。暗闇の悪天候にいたにもかかわらず、凄まじいスパークに目の前が真っ白に染まる。

 衝撃そのままに後方へブッ飛ばされた。不運にも建築用の角材が並べて重ねられており、資材の山に背中からド派手に叩き付けられた。今度は背骨や肩甲骨が軋み、鈍痛に苛まれる。

「ガハッ……ァ!?」

 肺の奥に詰まっていた空気を吐き出す。胃の中のモンをブチ撒けずに済んだのは奇跡に近い。

 整頓されていた角材がバラバラに崩れ落ちる音が雨音に混じった。指先に至るまで身体中から感電している。未だに痺れが抜けない。

 いつの間にか折り畳み傘も手放しちまっていた。容赦なく降り注ぐ大粒の雨をオールバックの頭から被る。視界さえも暗転し始めた。ザーザーと雨が滴る音がノイズとなって鼓膜を震わす。

「くそ、っ……たれが……」

 口が上手く回らず言葉も覚束ない。

 言うなれば強力なスタンガンを持ったヤツに体当たりされたも同然。そんなモンを防御もとらずにマトモに食らっちまえば、為す術もなく意識が刈り取られる。自明の理。

 五感も痺れて使い物にならず、ついには意識も薄れいく。最後の最後に、微かにだが辛うじて耳に届いたのは――

 ケケケ――と癪にさわる嘲笑であった。

 

 

 

 誰かの声が聞こえる。

 

「――べ! わた……べ! ――きてッ!」

 

 若い女の声だ。どことなく、聞き覚えがあった。

 イマイチ聞き取れない。脳ミソにフィルターが掛けられた状態というか、はたまた耳栓越しに聞かされているとでも例えようか。オレという存在が不明瞭な形になっているようで一箇所に定まっていない。

 

「起き……! 起――なさい!」

 

 先ほどよりも声量が大きくなる。

 少しずつだが、その声が聞き取れるようになった。あぁ、そうだ。この声は……

 集合無意識らしき海底の奥深くまで沈んでいた自我が浮上していく。ついでに身体が揺すられているのも朧気ながら伝わってきた。

 行かねぇとな。()()がオレを呼んでんだから。

 

 そして、薄っすらと瞼をこじ開けた。

 

「ぐ……イ、づぁ」

「綿間部ッ!? しっかりして! 私がわかりますか!?」

「……ハ、わぁーってるから大声出すなや」

 

 目を開ければ、桃色の仙人サマの整った顔立ちが視界一杯に広がっていた。赤みがかった瞳はちょっぴり潤んでいて、こんな時なのに綺麗だと思っちまった。ここだけの話。

 空が眩しい。すでに日が差していた。台風モドキの土砂降りはひとまず止んだらしい。もっとも、ここのところ毎晩悪天候が続ているワケだが。下手すりゃ今夜も降るかもしれん。

 朦朧とするアタマを雑っぽく振り被って、寝起きの減らず口を叩く。

 

「とりあえず顔近ぇよ。あと耳元で叫ばんでも聞こえるっつの」

「……もぉ! どれだけ心配したと思っているんですか!?」

 

 涙声に喉を震わせて、華扇がオレの胸におでこを落とした。こつん、と優しく触れあった際に彼女の頭髪が手近な位置に届く。きっとオレもまだ寝ぼけていたのだろう。何となく、気付いたら華扇の後頭部を撫でていた。

 

「ったく、大袈裟なやっちゃな」

「うるさいです……本当に、心臓が止まるかと思ったんですから」

「そらスマンこって」

「馬鹿者……無事でよかった」

 

 柔らかな桃色に色付くミディアムヘアに手を置きながら、オレは周囲に目を配り密かに溜息を吐いた。シャツもズボンも生乾きどころかまだ濡れたまま。衣服どころか体もビミョーに煤っぽいし焦げ臭い。早うテントに戻って着替えてぇぜ。

 ま、その前に、まずはぶちまけた木材を元の場所に戻すところから始めねぇといけなさそうだけど。

 

 

「それで昨晩は何があったのですか? あんな場所でボロボロになって気を失うなんて只事ではないでしょう」

「あー……別に大したコトじゃねぇよ。ちぃっとばかしヘマこいたに過ぎん」

「誤魔化さないでください。詳しく教えてくれるまで離れませんから」

「ちょ待てバカお前っ、だから近ぇっつの!」

 一晩ぶりに我がアジトに帰還し、膝小僧を突き合わせて向かい合う。

 仙人サマからは頑なな意思を感じさせられた。ただし、マジメな面構えで真っ直ぐに見つめてくるのはともかく、相も変わらず無防備に異性に詰め寄るのはいかがなものか。そーいうとこやぞお前。

 その気になれば組み伏せられそうな近さからどうにか間隔を開ける。いや別にオレはやらんけど。

 下手に黙秘権を貫くと押し倒されかねないので、オレは昨晩襲ってきたプラズマ球のことを包み隠さず打ち明けてやった。すると、仙人サマの顔つきがますます真剣味を帯びる。見るからに心当たりがある模様。

 全てゲロし終えると、やはりというか、仙人サマがプラズマ球の正体を明かした。

 

「綿間部が見たもの、あれはトカゲです」

 

つづく

 




当初のプロットでは主人公の住居に落雷してホームレスになるギャグ回でした
テント暮らしから借家にランクアップしたり、それで次から次へと女の子が引っ越し祝いに来たり(お蔵入り)
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