東方扇仙詩   作:サイドカー

65 / 90
シリアス……し、しりあ……s(震え)

感想で雷獣に関するコメント多くて本気でビビッちゃ


第五十四話 「仙人掌(サボテン) 花言葉は『枯れない愛』ですってよ」

「あ? トカゲってぇとあのトカゲか? 爬虫類の」

「はい。もちろん、ただのトカゲではありません。彼の者は雷龍になる素質を秘めています。相応の力を有するのです」

「っかー、トカゲが進化したらドラゴンになんのかよ。まさかたぁ思うが、アレもオメーのペットだったりしねぇよな?」

「いいえ、紛れもなく野生のトカゲです。ただ、あの子が本当に龍になれたら手懐けてみたいとは思っていましたけど……」

 そこまで打ち明けるとおもむろに華扇は頭を下げた。何でや。

「ごめんなさい。あれの存在は知っていたのに、私の見立てが甘かった。力を得てあそこまで図に乗ってしまうなんて」

「別にお前のペットじゃねぇなら謝る必要もねーだろ」

 野生の爬虫類が暴走したことに対して華扇に非があるかと問われれば、否定しかない。仙人だろうが何だろうが、全くもって無関係なのは変わりあるまい。

 ところが、クソマジメな性格の華扇としてはそーゆーワケにはいかんらしい。神妙なツラで食い下がってきた。

「そうとも言い切れません。龍に至る試練を見守っていましたから。そのうえ、あれが人家に落ちれば火事になる危険性も知っていたのですよ? 当然、こちらも出来得る限りの手筈はしてきたつもり。でも、やはり万全とはいかないの。その所為で、綿間部が傷ついてしまったのですから……」

「はー、最近やたら火の用心キャンペーンしてると思ったらそーゆー裏事情かよ。合点がいったわ」

 上白沢女史を筆頭に寺子屋のガキんちょどもを引き連れていたのを思い出す。「火の用心、火の用心」としつこいぐらいに呼び掛けて打木を鳴らしながら人里内を練り歩いていやがった。コイツの入れ知恵だったか。

 恐らく華扇がそれとなく火災に注意しとけと促したってぇところか。マジメな仙人サマからの意味ありげな忠告だ。人里の守護者サマが手を打たないハズがない。

 この女なりに手は尽くした。それでもガイシャが出ちまった。そいつが偶々オレだっただけのこと。

 んなコトにイチイチ華扇が責任を負うってぇのはお門違いだろうが。それにオレだってコイツが気に病むツラは見たくねぇのだ。

 

「んで、龍になれんのかそいつ」

「……素質はあったんです」

 悔し気に言葉を絞り出しながら華扇が整った顔立ちを苦渋に歪ませた。行儀良く膝の上に乗っていた拳が握り締められる。女の心情がありありと見て取れる。

「さすがにこのまま放っておくわけにはいきません。残念ながら『不合格』です」

「ま、そんな感じはしてたわな」

 あの耳障りな嘲り笑いが鼓膜の奥に残っている。完全に調子こいてるっつーかイキってるヤツの態度だった。そういった手合いは下手にほったらかしてたらロクなことにならない。

「どーする気だ? まぁた得意の説教か?」

 問題児を相手にするのだ。言ってしまえばこの女の独壇場であろう。思う存分小言ぶちかましてやればイイ。

 が、返ってきたのは予想に反するものだった。どこか諦めを孕んだ自虐的な表情を浮かべて、彼女らしからぬ無慈悲な宣告が下される。

「自らに心酔しているあの子はもう誰の言葉にも耳を貸さないでしょう。私の説教も届かないと思います。きっと説得も通じない……だから、狩るしかない」

「……本気で言ってんのか?」

「民家が燃やされてからでは遅いわ。もはや無視できぬまでに己の実力を過信し、挙句には暴走してしまっていました。いつ被害が出るかわからない」

 華扇の覚悟は決まっていた。

 そうは言っても、瞳の奥に揺らぐ辛い気持ちはいくら隠そうと思っても隠しきれるものではなかった。ましてや普段から表情豊かなこの女なら。それを間近で見てきたオレには。

 動物好きな女が、自ら手を下すようなマネをしたがるなんざ有り得んだろ。そんなん嫌に決まっている。

 だったら――

 

「オメーは手ェ出すな」

「え……?」

 

 オレの一言を受けて仙人サマが瞬きする。

 そもそものハナシ、今回のはオレが情けなくブッ飛ばされたのがデカい。つまり、オレのヤマでもある。

 借りはキッチリ返してこそ夜を生きる男。ハードボイルドな何でも屋。ぶっちゃけドラゴンとかトカゲとか知らん。やられたからやり返す、それだけのこと。ケジメはテメェでつけてこそ男の生き様ってな。

 汚れ役はこっちで受け持つとか、そんな大義名分じゃねぇ。ただの尻拭いだ。

「心配すんな。こっから先は、オレの喧嘩だ」

「…………」

 赤みがかった瞳を見据えてハッキリと告げる。

 しかし、強い意志の籠った視線を向けられても、華扇が頷き返すことはなかった。包帯の巻かれた右手と素肌の左手がオレの手を包む。

 両手を重ねつつ、桃色の仙人サマが儚げに微笑んだ。

「いいえ。私たちの喧嘩です」

「つってもお前だって殺処分に加担したくねーだろ」

「それは……」

 如何せん根っこがマジメ過ぎんのは美徳っつーか玉に瑕というか。そらオレだって別にブッ殺してやりたいほど憎いってぇワケでもねぇけど……

 

 あ。

 

 その瞬間、天啓が下りた。

 

「なぁオイ、オレにちぃっとばっかアイデアがあんだけどよ」

「へ……?」

 華扇がきょとんとした顔でオレを見やる。

 いきり立つプラズマ球もといトカゲ(仮称)の鼻っ柱をへし折ってやって、かつ逆上したりとかお礼参りとか下らんマネしてこないように釘を刺しておく。要はそーゆーこった。手段はどうあれ、結果的にそうなれば文句なし。

 

 

 その日の晩も、相も変わらぬ凄まじい雷雨が幻想郷を襲った。

 この悪天候も例のトカゲとやらが原因だと。このまま続けば異常気象も免れないとか。というか既に異常気象に片足を突っ込んでいる気がすんのだが。いよいよもって放っておくワケにはいかなくなっていたワケか。

 

「来たか」

 折り畳み傘も使わずずぶ濡れになって待ち構えていると、夜空に稲妻とは異なる光源――プラズマの球体らしきナニかが前触れなく出現した。ムダに眩しいため輪郭が掴めない。事前に正体がトカゲだと身バレしてなければ到底わかりっこねぇ。

 その辺で拾った石ころをヤツに目掛けて投げつける。投石は雷トカゲの真横を素通りした。当てる必要はない。狙い通り、向こうもこっちに気付く。

「よお、昨日は世話になったな」

 いっそわざとらしいまでの喧嘩口調で煽りにかかる。

「リベンジしに来てやったぜ。もうテメーの電気は効かねぇ」

 目つきの悪さも相乗したあくどいツラで中指を立てる。さらに都合の良いタイミングで雷光が閃き、轟音が鳴り響く。恐ろしいまで絶好の演出が入った。ヤベェな、メッチャ悪役してるわ。

 

 どこまでも舐め腐った挑発をかまされ、案の定、ヤツは激高した。

 昨晩打ち負かした三下風情が性懲りもなくしゃしゃり出てきただけじゃ飽き足らず、完全に見下した煽り文句を放ってきやがったのだ。テメェの実力に酔ってる輩にとってこれほど目障りな存在はなかろう。

 

 プラズマ球がバチバチと派手な電光を纏った。

 瞬く間に、空中から流星の如き一直線の軌道を描いてゼロ距離に差し迫る。

 

 昨夜と同じ、下手すりゃそれすら上回る電撃を帯びた突進が土手っ腹にブチ当たる。ガラ空きの胴体をブッ飛ばそうとして――

 

「効かねーって言ったろ?」

 

 まさかの予想を裏切って不発に終わった。

 その瞬間、初めてヤツの動揺した素振りを垣間見た。強大な力に酔いしれ自惚れていたプライドが、確実に揺らいだ。

「どぉだ? 一撃KOの思惑が外れた気分はよぉ」

 ご自慢の電撃をその身に受けてもなお平然と喋りかける。一度マウントを取ったら最後、徹底的に畳み掛ける。

 こちとらスタンガン対策なんざ繁華街にいた頃からとっくに実施してんのだ。仕掛けは何てことない。服の内側に工作用のゴム板を仕込んでおく。雑誌と同様、万が一に備えたセーフティーネットだ。

 

 そんなカラクリを爬虫類が知るハズもなし。

 往生際悪く、一旦飛び退いて初撃を超える激しさで帯電を始めた。チャージ完了と同時に獲物の懐を目掛けて全身全霊で突っ込む。

「――ッ!」

 ありったけの放電を繰り返す。が、絶縁体の壁が感電を尽く妨げた。

 その後もしつこく電撃が弾ける。

 それはまるでトカゲの自己主張のようであった。こんなハズがないのだと喚き散らして、自分こそが強者なのだと言い張って。されど、雷エネルギーも無尽蔵ではなかったらしく徐々に威力が衰える。

 もう何度目かも数え切れなくなった時、とうとう彼奴の動きが鈍った。疲弊したのは明白で、蛍光灯レベルの灯しか残されておらず。

 そして、ここが勝負どころであった。

 

「華扇!」

「はい! ()()()!」

 

 仙人サマの合図とともに彼女の肩に留まっていた小さな影が飛び出す。その正体は、雷獣。

 仕上げはこの電気ネズミの働きにかかっている。せめて日頃のポップコーン分のやってみせろや。

 華扇のペットがスタミナ切れを起こす野生体の背中に飛び乗り、最後の悪あがきを真上から封じ込む。次の瞬間、雷獣もまた己が静電気を弾けさせた。

 弱り切った電気に気力の滾った新たな電撃が喰らいつく。

 

 そんじょそこらの静電気じゃない。アレが放つ電気には()()()()。かつてオレ自身が身を以て思い知らされた。

 

 目には目を歯には歯を。電気には電気を。

 プラズマ球だったモノを覆いつくす静電気が鮮烈に迸る。周辺に飛び散る雨粒にまで電撃が伝播しているのか、眩い閃光が広範囲に及ぶ。

 

 やがて、強烈な光が収束していく。

 お勤めを果たした電気ネズミがプラズマ球だったものから離れた。あらゆるフラッシュが消え去り、とうとう雷トカゲの全貌が露わになる。そこには確かにイグアナっぽい爬虫類が力なく突っ伏しておった。

「マジでトカゲじゃねーか」

 決して疑っていたワケじゃないが、そんな言葉が口から出た。

 その爬虫類は反撃に移る気力も残っておらず、再び暴走する兆しもなかった。たった一度だけ線香花火みてぇな弱弱しい火花を散らして、それで終わりだった。

 キィ……と気怠げな鳴き声を一つして、やってらんねぇと言いたげにうつ伏せに寝そべる。だらけたザマからはヤル気の欠片も伝わってこない。こうなったら捕獲するのも容易かろう。虫取り網も必要ない。

「フッ、ざっとこんなモンだろ」

 クールかつニヒルに決めゼリフを口にして、濡れ下がった前髪を大雑把に掻き上げる。ったく、オレのトレードマークの一つオールバックが台無しじゃねぇか。

 殺処分になる原因だったのは力そのものじゃなくて、暴走した精神状態の方にあった。ならば、その好戦的なハイテンションをダウナーのどん底まで叩き落してやるまで。

 ま、途中から電気ネズミと雷トカゲのガチンコ対決になっちまっていたけど。

 あとはコイツを妖怪の山にでも放っておけば終い。クッソヤル気のねぇ変な爬虫類が時々目撃されることであろう。あるいはヤル気がなさ過ぎて住処からも滅多に出てこない希少種となるか。

 どっちにしろ、暴走するぐらい元気が有り余っていたヤツだし衰弱死することもねーだろうよ。それこそ、このトカゲがトウモロコシを芯ごとバリバリ食う気力が湧いてこない限りは。

 

「綿間部!」

「おう、どーよオレの奇策――」

「やったぁ!」

「うおおっ!?」

 

 華扇が駆け寄ってきて、ノンストップでタックルをかます。

 不意打ちだったのと、雷トカゲの体当たりとは質量に差があり過ぎて、あえなく後ろに引っ繰り返ってしまった。またしても運悪く背後には水溜まり。噴水ばりに跳ね返った泥水が顔にまで降りかかった。

「ちょおまッ何すんだコラ!?」

「あははっ、やりましたね! こんな方法思いつきもしませんでした!」

 全身黒色から茶色に変色したまま声を荒げる。

 綺麗な顔も柔らかな桃色の髪も茶色い泥水で汚しながら、そんなコトもお構いなしに満面の笑みで両腕をオレの後ろ首に回す。殺処分しなくて済んだのがよっぽど嬉しい様子。そらそうか。動物好きなんだし。

 はしゃぐ彼女の笑顔はあどけなく、仙人なんつー仰々しさとはかけ離れた年相応の乙女でしかなかった。喜びに溢れたその表情に、知らず知らずのうちに毒気も抜かれる。

「……ったく」

 終わり良ければ総て良し。となるハズが、よもやオチが泥水を頭から被るとかカッコつかねぇぜ。ついでにしばらくオレの上からどいてもらえそうもなかった。柔らかい肢体がむぎゅっと密着して落ち着かない。相変わらずこの女は……

 華扇にしがみつかれたまま、やれやれと達観したように天空を見上げる。雷トカゲが大人しくなったおかげか雷雲もなくなり、あれほど続いた土砂降りも止んでいた。

 いつしか夜空にはポツポツと星の光が点き始め、数日ぶりに平穏が戻りつつあった。

 

 

 

 

 その後。

 二人仲良く泥塗れになったオレたちがどうなったか――

 

『………………』

 

 なぜか華扇の屋敷にある浴場で、一緒に風呂に入っていた。

 

 

 いやいやいや待て待て待て待て。

 どーしてこうなった……!?

 

 

つづく

 




次回予告()

Pe:フロから始まる同棲生活
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。