東方扇仙詩   作:サイドカー

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ヒロイン視点&主人公不在な回

文字数アレだけど分割なんてしてられっか!(半ギレ)
あと今回ある二人がセリフ付きで出てきます。東方のかわいい担当って言えば……わかる?


第五十六話 「仙人ちゃんは語りたい!」

「ちょっと、聞いてんの?」

「……え?」

 強めの口調が耳元で放たれて、茨木華扇は上の空になっていた意識を現実に戻した。気を抜いてしまっていたらしい。やってしまった、と密かに反省する。

 深紅に染まる大きなリボンに紅白の巫女装束を纏った少女の鋭い眼差しが華扇を貫く。しばし目が合うと、博麗霊夢が面倒くさそうに溜息を吐いた。

「どうせ聞いてなかったんでしょ。仙人ともあろう者が人の話しを聞いてないなんてどうなのかしら」

「あぁ、ごめんなさい……少し考え事をしていました」

「そうだぜ霊夢。真面目な仙人様は考えなきゃいけないことが山積みなんだ」

 援護射撃のつもりなのか、白黒衣装の普通の魔法使い霧雨魔理沙が茶化すように割って入る。遠回しに小馬鹿にした風な物言いに、負けじと霊夢がむっと顔をしかめた。

「何よ、私が不真面目だって言いたいわけ?」

「真面目な巫女なら事あるごとに怠けようとしたり、姑息な金儲けを企んだりしないだろうな。あと賽銭集ったりもしないぜ」

「こら二人とも。こんな時によしなさい」

 口喧嘩から弾幕勝負に発展しそうな年頃の娘たちをやんわりと止める。もっとも、彼女たちに慎ましさを求めるのは土台難しいことである。喧嘩するほど仲が良いと言えば聞こえは良いか。

 幸いにもというべきか、良くも悪くも性格が飽きっぽい霊夢はそれ以上のことはしなかった。億劫そうにフンと鼻を鳴らす。ついでに話の矛先を華扇に戻した。あんたがぼんやりしてたんじゃない、と。

「勘弁してよね。まさかもう酔ったとか言わないでよ?」

「おいおいそれこそまさかだぜ。こいつの酒の強さ知ってるだろう? 鬼と飲み比べできるくらいだぜ」

「あはは、まぁできなくもありませんが……」

 鬼、という単語にギクッと冷や汗を流した。どうにかバレないように愛想笑いでやり過ごす。

 賽銭箱に続く石段に腰を下ろしたまま、愛用の百薬升を手に取って酒で唇を濡らす。霊夢と魔理沙も湯飲みやコップに日本酒を注ぐ。似たような光景があちこちで見られる。

 

 今宵、博麗神社では宴会が催されていた。

 

「そういえばあの人は一緒じゃなかったの? ほら、えっと……黒鍋?」

「違う違う、渡辺だぜ」

「綿間部です」

 二人が揃って彼の名前を間違えてくれたのでキッチリ訂正しておく。そんなに覚えにくい名前だったかしら。ちょっぴり呆れた。

 わざわざ本人もあだ名を優先して名乗るくらいだから、案外本当に紛らわしいのかもしれない。

「彼はいませんよ。そもそも、今日は人里に立ち寄っていません」

「何だ、そうなの」

 華扇自ら告げた通り、今日はあの男に会えていない。今頃は真っ当に仕事に励んでいるはず。そう思いたいが、実のところどうなっているやら。

 悶々とする気持ちの靄を胸にしつつも、目の前に広がる光景へと意識を切り替える。境内では数多の人妖が入り混じって酒と料理を楽しむ。

 

「んん~~ッ! お、おいしいですぅ! いつも食べている雑草とは格が違って……こ、これはもしや奇跡の雑草……!?」

「ふーん。いかにも庶民臭い味付けだけど、まぁたまには悪くないかもね」

 

 青髪の貧乏神が感極まった形相で山菜の天ぷらを頬張っていた。隣には高飛車な天人の姿もある。いつも通り一言余計なのだが楽しんでいる様子だった。

 仙人の視線の行き先を追いかけた霊夢が金持ちと貧乏の凸凹コンビを見つけて「ああ」と納得した顔になる。

「あんたが人里に行きそびれたのってアレが原因だったわね。こっちとしては大助かりだったんだけど」

「確かに。毒草みたいなマズイ雑草がツマミになるのはもう勘弁だぜ」

「そこは同意します」

 一応、酒や料理は各々で持ち寄るのが暗黙のルールとなっている(気にしない連中もいるけど)

 紅魔館ならメイド長が拵えた燻製肉が振る舞われ、魔理沙も魔法の森に自生するキノコを収穫してくるのがお決まり。華扇も屋敷の周辺に生えていたタケノコを採ってきた。永遠亭が準備した食材と被ってしまったものの問題ない。調理法は多岐にわたってしかも美味しいのだから、いくらあっても困ることはないのだ。

 依神紫苑も例にも漏れず張り切っていた。ただ、彼女が持つ特性によってかつて難航を極めた前科もあった。

 

(性根は良い子なんだけど貧乏神というか、貧乏神なんだけど性根は良い子というか……)

 

 依神紫苑その人は良い子だ。例え極限までお腹が空いていても畑泥棒など考え付きもしないくらいには。今回だって、皆にもお腹いっぱい食べてもらいたいという善意から来ているから、あまり無下にするのも可哀そう。

 だからといって、そこかしこに生えていた本人すらよくわかっていない野草を籠一杯に摘むとなれば話は別である。

 道端で雑草採取に勤しむ彼女を目撃してしまった華扇は迷うことなく止めた。それはもう即断であった。

 このままでは宴会が苦みと渋みで満ちた修行にもならぬ苦行になると危惧。そこで貧乏神を引き連れて山菜について教示しながら食糧調達に同行することに。

 結局、思いのほか時間がかかってしまい、納得できるだけの量が集まった頃には夜の帳が下り始めていた。そのまま博麗神社に直行せざるを得なかったのは、そういう訳だ。

 

「で、その人とはどうなのよ?」

「どう、とは?」

「どういう関係なのかってことよ。よく一緒にいるって聞いてるけど?」

「目に余る行動を起こしていないか監視するためです。ちょっとでも目を離したら何をしでかすかわかったものじゃありませんから」

 霊夢の質問を毅然とした態度で返す。しかし今夜は無礼講、そうは問屋が卸さない。それが飲み会。現代社会でも幻想郷でもその辺は変わらなかった。

 勘の鋭いことで有名な博麗の巫女が半目になって追及してくる。

「本当にそれだけ? どうにも怪しいわね。別に隠すことないじゃないの。本心を言っちゃいなさいよ」

「ほほう、それは気になるぜ。ひょっとするとひょっとしちゃうのか?」

「あなたたち……」

 博麗の巫女だけではなく普通の魔法使いも乗り気になって参入する。年頃の娘たちの好奇心レーダーに変なところで引っかかってしまった。気が付けば両者とも仲良く瞳を爛々と輝かせて迫ってきている。

「……コホン」

 さて、どうしたものか。思考を凝らす華扇に新たな人影が近付く。

 

「皆で何の話しをしているのかしら?」

 

 天使の歌声のような可愛らしい声が舞い降りた。

 肩に届かないくらいの金髪のショートヘアと赤いカチューシャが目を惹く。精巧な人形のように整った容姿をしており、青い瞳はまるでガラス玉のように透き通っていた。鮮やかな青色を基調にスカートに仕上げた洋服もお洒落でよく似合う。

 件の少女が可憐に微笑む。彼女の肩には女の子を模した小さな人形も連れ添っていた。

 

「私もご一緒していい?」

 

 七色の人形遣い、アリス・マーガトロイド。

 人里でも人形劇を披露することもあって評判が良く、穏やかな常識人だと認識している。おまけに同性の目をもってしても、とても綺麗で可愛い魅力的な女の子でもある。

 霊夢がアリスに労いの言葉をかける。

「お疲れ。そっちはもういいの?」

「ええ。あとは早苗と鈴仙がやってくれるって言うからお願いしてきちゃった」

 調理済みの品を持参する者は意外に少なく、大多数が生食材のまま持ってきたりする。なので誰かが料理を担当するしかない。具体的には日頃から家事担当する従者たちとか。

「ごめんなさい、アリスさん。私も手伝うべきだったのですが……」

「いいのいいの、気にしないで。こっちに来てすぐにこの二人に捕まったんだもの。それで、どんな話してたの?」

 パタパタと手を振りながら、アリスも石段に座った。直後、彼女の親友二人が人形遣いに詰め寄って、よくぞ聞いてくれたとばかりに捲し立てる。

 

「それが聞いてよアリス」

「この仙人に最近気になっている男がいるんだぜ!」

「あ、魔理沙! 私が言おうとしてたのに!」

「ちょっと二人して何を言い出すのですか!?」

 

 知らぬ間に脚色されて思わず茨華仙も驚嘆の声を張り上げる。

 

(いやいや、気にならないと言えばそれも違うのだけれどかといって深い意味はないというか……とにかく違うんですッ!)

 

 騒ぎ立てる紅白巫女と白黒魔法使いの早口に、はじめは目を瞬かせながら聞いていたアリスも話の概要が掴めたようで、興味深そうに仙人を見やった。

「へぇ、そうなの? もしかして人里の人かしら」

 アリスがそう推理すると、魔理沙がチッチッと人差し指を振りながら勿体つけたモーションを交えて遮った。もう酔っているのかいつにも増してテンションが高い。むしろ霊夢がウザそうにしかめっ面になっているぐらいだ。

 首をかしげる都会派魔法使いに、弾幕はパワーな元気娘がどんどん畳み掛ける。

 

「それがなぁ、ちょっと前に幻想入りしてきた外来人の若い男なんだぜ」

「外来人……」

「ああっと! 心配しなくていいぜ、優斗のことじゃないから大丈夫大丈夫」

「ふぇえ!? ど、どうして優斗が出てくるのよ!」

 

 白黒魔法使いが最後に付け加えた一言に人形遣いがカァアッと顔を紅潮させた。さっきまで落ち着いた物腰だったのに、今やわかりやすいくらいにあたふたしている。そんなアリスに対して魔理沙はニンマリと笑ってサムズアップした。やっぱり酔っている。

 一方で聞き慣れない名前が出てきたので、こそっと霊夢に耳打ちする。

「優斗というのは?」

「ほら、あそこにいるでしょ。あの男」

 博麗の巫女が境内のある方向を指差す。つられて華扇もそちらに視線を流す。

 確かにそこには一人の青年がいた。茶髪なツンツン頭が特徴的で、年齢は何でも屋をやっている知り合いの男性と同じくらい。

 その男は妖精たちや半人半霊の庭師を前に語り部を担っている。どうやら怪談話を聞かせているようだ。よくよく耳を澄ませば話の中身も聞こえてくる。

 

「バナナフィッシュっていう魚に出会うと…………死にたくなるんDA」

『ヒィイイイイイーーッ!?』

 

 はたしてあれがホラー話なのかどうか山の仙人の知識をもってしてもわからなかった。

 しかも一番怖がっているのが、よりにもよって冥界に住む半人半霊の少女なのはいかがなものか。色々と心配になってくる。

「なるほど、彼が……」

 どこかおちゃらけている、ともすればお調子者の印象すらあった。けれど、それは見方を変えれば親しみやすさとも受け取れる。明るさと優しそうな雰囲気が伝わってくるし、きっと誠実な人なのだろう。心優しい人形遣いとよくお似合いだと思う。

 肝心のアリスはほろ酔い魔理沙からいいように絡まれて恥ずかしがっているけれど。

 

「そ、それで華扇さんが気になっているのってどんな人なの?」

「あちらの男性とは正反対ですよ。口調は粗雑で態度もぶっきらぼうでいい加減なところも多くて、おまけに目つきも悪い。あまつさえ夜型などと自称しては不規則な生活ばかり。そのうえエッチで破廉恥でいやらしくてスケベで」

「こ、個性的な人なのね」

 次から次へと出てくるマイナス情報にさすがのアリスも困り顔を浮かべる。霊夢と魔理沙も「うわぁ……」とやや引き気味だ。このままではあの男の評判はガタ落ち待ったなし。

 

「ですが――」

 

 でも、それだけじゃなくて。

 出会ってからまだそんなに長く経っていないけれど、一緒に紡いだ思い出は確かにある。共に過ごした日々が、あの人の人となりを教えてくれた。

 胸に灯る温かな気持ちに口元を綻ばせて、桃色の仙人が言葉を続ける。

 

「一度引き受けた依頼は何が何でもこなそうとしますし、人里の住民からは信用されているみたいです。あと、あんな見てくれなのに不思議と子どもに懐かれたりするんですよ。それに普段は雑っぽいくせに、さり気なく気にかけてくれたりもするんです。相変わらずぶっきらぼうに」

 

 ここまで語っておいて、自分でも照れ臭くなってしまう。頬をほんのり染めてはにかみながら、おどけるようにして締めくくった。

「すみません、私ばかり喋ってしまって。しかもこんな内容つまらないでしょう」

「ううん、そんなことないわ。良いところも悪いところも含めてよく見てるんだなぁってわかったもの」

 静かに耳を傾けていた少女は柔らかな声音でそう答えた。最後に、小さな問いかけを一つ投げる。

「華扇さん、その人と一緒にいるのは心地良い?」

「……はい、そうですね」

「ふふ、その気持ち大切にしないとダメよ。とっても素敵なことなんだから。特に女の子にとっては……ね?」

 青く澄んだ瞳のウインクはとても眩しかった。これが彼女の人徳なのだろう。だからこそ、良き縁が結ばれた。そう信じずにはいられなかった。

 ゆえに、華扇も感謝の念を込めて笑みを返した。

 

「あなたも素敵な恋人と巡り合えたのですね」

「ふぇえええええ!?」

「あ、あら?」

 

 ところがどういうわけか、華扇の言葉を受けたアリスは一瞬にして顔を真っ赤にさせて狼狽えてしまった。まるでとんでもないことを言われたかの如く。

 当然、想定外の反応をされてさしもの華扇も戸惑う。何か間違ったのだろうかと思い悩む。

「え、あれ……? あちらの彼とお付き合いされているのでは?」

「ち、ちがっ――」

「それがねぇ、まぁ聞きなさいよ華扇」

「はい……?」

 待ってましたと言わんばかりに博麗霊夢が身を乗り出す。

 悪戯好きな猫みたいなニヤニヤ笑いで博麗の巫女が七色の人形遣いの肩を抱き寄せる。された方は動揺したまま身動きが取れず、それこそ人形になってしまったかのようであった。

「あんだけ色々あったのに()()付き合ってないのよこの子ったら」

「れ、霊夢!?」

 カミングアウトに華扇が驚くよりも先にアリスが大変になっていた。目を見開いて大慌てしており、見るからに感情が追い付いていない。しかしそれだけじゃ終わらないのが宴会である。

 今度は霧雨魔理沙がアリスの艶やかな金髪を撫で始める。いかにも訳知り顔でウンウンと頷きつつ霊夢と連携する。

「ホントになぁ。一緒に暮らしてて、しかもあいつは『外』の世界に帰るのを蹴って幻想郷に残ることにしたんだぜ。さてさて何の――いや()()ためかなぁ?」

「ねー」

「~~~~~ッ!?」

 親友二人に清々しいほどイイ笑顔で思いっきり弄り回されて、ついには人形遣いが耳まで紅潮させて湯気を立ち上らせ俯いてしまう。揶揄う二人はそれを生暖かい眼差しで見守った。絶対に楽しんでいる。

 さらに――

 

「俺の名前が呼ばれた気がしたんけど、呼んだべ?」

 

 何とも絶妙なタイミングで話題の中心人物がのこのことやってくる。

 茶髪ツンツン頭の外来人、優斗が何も知らない顔で華扇たちの輪に入ってきた。

 見れば、いつの間にか怪談話の語り部が小野塚小町に入れ替わっている。死神ならではの本当にあった怖い話を前にして、はたして魂魄妖夢の精神が保つかどうかは定かではない。

「むむむ?」

 ほどなくして石段のところまで来ると、例の彼もアリス・マーガトロイドの様子がおかしいことに気付いた。愛しい女の子が赤面したまま固まってしまっているのだ。そりゃ気付くに決まっている。

「なぁ、アリス何かあったん?」

「さぁねー」

「知らないぜー」

「どうして知らないんですかねぇ……」

 ひとまず両脇にいたアリスの親友二人に尋ねる。しかし返答は取り付く島もない。あからさまに原因を知っているのを隠そうとしない態度に、青年もげんなりした表情で肩を落とす。

 それから優斗は華扇に目先を変えた。なぜか紳士めいた物腰で桃色ミディアムヘアの仙人に尋ねる。

「お嬢さん、何かご存じありませんか?」

「い、いえ……残念ながら」

「そうでっか。まぁ、自由の意味も眠れぬ訳もビルの隙間じゃわからないって言いますしおすし」

 いまいちよくわからないことをのたまう優斗氏。外来人にも色々な人がいるみたいだ。華扇がよく知る男性とは似ても似つかない。

 そんな中、優斗が来たことで無事?にアリス・マーガトロイドが復活を果たした。

 

「なな、何でもないの!! 気にしなくていいから!」

「ファッ!? いやでもアリス、本当に大丈夫か? 何なら居間で休ませてもらった方が」

「い、いいから優斗はあっち行ってて! フランと弾幕ごっこでもしてて!」

「いや俺弾幕撃てないんですけどぉ!? (死亡フラグ)立ちましたぁ!」

 

 急いで石段から立ち上がって彼の後ろに回り込む。背中をぐいぐいと押しながら、金髪碧眼の少女は状況が飲み込めない外来人を強制退場させていく。人形遣いの肩にいた愛らしい人形も「シャンハーイ」と鳴きながら彼の頭をポカポカと叩いた。

「アダ!? あ、アリスさんや? 上海が反抗期を迎えてるんですが」

「知らない! 優斗のバカ!」

「なんでさ!?」

 そうこうしているうちに男女は宴の喧騒の中に混じっていった。彼らの後ろ姿を華扇は何とも言えない表情で見届けるしかなかった。

 夜はまだまだ続く。

 

 あれから他の人たちにも挨拶しておこうと、華扇も霊夢たちと別れて境内を歩き回っていた。

 真夜中であろうと、灯篭やかがり火もあって仄かに明るい。さらには弾幕の光も加わって酒宴の賑やかさを後押しするかのようであった。

「うふふ、皆さん楽しそうで何より」

 

 吸血鬼に不評だったタンポポ料理を貧乏神が「それならわたしが……」と引き継いで、お茶漬けを啜る勢いで掻っ込んでいたり。

 死神の演題が限界を超えるレベルで怖かったのか、半人半霊の庭師が半泣きで震えながら主の亡霊姫に引っ付いていたり。

 寺子屋の教師が竹林に住まう蓬莱人と朗らかに酒を飲み交わしていたり。

 幻想郷最速を自負するカラス天狗が月の薬師に取材していたり。

 夜空では三月精や氷精たちが煌びやかな光弾をばら撒いて歓声を上げていたり。

 幻想郷ならではの宴模様が描かれていた。

 

「あ、仙人さん」

 ふいにクジラ帽子を被った人懐っこい笑みを浮かべた少女が華扇を呼び止めた。

「美宵さんも来ていたのですね」

「うん。もちろん料理は持参してね。それにしても食材のまんま持ってくる人が多くてビックリしちゃった」

 そう言いながらも美宵は楽しそうに声を弾ませる。彼女の手前には鯢呑亭の名物料理でもある煮物が大皿に山の如く盛られていた。さすが飲み屋の看板娘。こういうことに抜かりはない。

「仙人さんもどうぞ」

「ありがとうございます。いただきます」

 ずい、と大皿を差し出されたので具材をいくつか小皿に移し替えさせてもらった。早速一つ口に含む。味が沁み込んでいて、絶品に等しい美味しさが広がった。

 舌鼓を打っていると、美宵が思い出したように言った。

「あっ、そうだ。ところでクロくんこっちに来てない? 沢山作ったからお裾分けしようと思ったんだけど、人里のどこにもいなくて」

「そうなのですか? 生憎、私も別の用事があったので今日は人里を訪れていないのですが……」

「あー……そうなんだ。てっきり仙人さんと一緒にいると思ったんだけどな」

 

「彼なら人里にはいませんわ。それどころか地上のどこにも」

 

「わわっ」

「紫……あなたはまたそうやって」

 不意打ちで会話に入ってきた女性の声に、美宵は動揺してしまっていたけれど華扇は平然と応じる。この登場の仕方にももう慣れた。

 妖怪の賢者にしてスキマを操る大妖怪、八雲紫。ただし今はそのスキマから上半身だけを出して鯢呑亭の煮物を箸で拾っている。

「せめてスキマから出てきたらどうなんですか?」

「いいじゃない。この方が楽なんですもの」

 波打つ長い金髪を垂らして泡沫の月を眺める妖艶な容貌は誠に美しい。この場に絵師がいれば描き写したくなるであろうほどに。が、スキマ経由で上半分しか体が現れていないせいで、折角の絵面も台無しになっていた。

 何より聞き逃せない部分があった。華扇が顔を引き締めてスキマ妖怪を真っ直ぐに射抜く。

 

「綿間部は()()()()()()()と言いましたね? ……まさか」

「フフフ、さすが仙人様は察しがよろしいようで」

 

 どこか胡散臭く口元を緩めながら、八雲紫ははっきりと口にした。

 

「彼なら地獄に堕ちましたわ。つい今朝ほど」

 

つづく

 




そんなわけで次回から地獄編
いかした黒いTシャツ持って待っとれ!
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