東方扇仙詩   作:サイドカー

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前話とは反対にヒロイン不在な主人公side

ノーガンズライフと中間管理録トネガワで渋カッコいい男の参考にしてました
ハードボイルド&ナイスミドルで濡れた


第五十七話 「修学旅行のお土産といえば木刀か変なプリントTシャツ」

「起きろォー!!」

「ぬぉア……!?」

 

 その日はヤツの奇襲から始まった。

 昭和の頑固オヤジが卓袱台を引っ繰り返す伝統芸で叩き起こされる。容赦なく転がされ、ニマニマと口の端を歪ませる二本角ばかりやたら目立つちんまい鬼娘と目が合った。

 言うまでもなく。オレが寝てたことからお察しまだ朝っぱら。

 

「おーおー、やっと起きたね。おはようさん」

「んだよ…………華扇じゃねぇのか」

「ほおぅ?」

「……はッ!?」

 

 気が滅入ってうっかり出た一言に瞠目する。オレ今何言った。どーしてここで仙人サマの名前が出てくんだ。

 飛び起きたわりにまだ寝惚けちまっているみてぇだ。だから違ぇよ。深い意味はない。その腹立つスマイル無料を今すぐ止めーや。

「ククク。いやはや青いねぇ」

「クソッタレぇ……」

 恨みがましく呪詛を唱える。それさえもヤツにとっては都合のイイ玩具らしかった。ますます助長しやがる。チクショウめ。

 いや待て。冷静になれ。ヤツのペースに呑まれるな。今はこの不法侵入&安眠妨害をどうにかするのが先決だろ。

 伊吹萃香、大酒飲みなチビ鬼にメンチ切る眼光で睨み返す。胡坐に頬杖をつき不快感丸出しで質問をぶつけてやった。

「で? 人の睡眠時間をブッ壊してまで何の用だ」

「本当に朝から寝てんだね……まぁいいや、ちょいとお前に頼みがあるんだよ。何でも屋」

「要するに仕事の依頼ってぇことか?」

「そうそう。この手紙を届けてほしいのさ」

 そう言いながら伊吹萃香が虚空に手をかざす。すると、四方八方から塵芥が一箇所に集って形を成した。忍法みてぇだなオイ。さすがに鬼サマは芸達者なこって。

 やがて実体を伴った一つの書物がヤツの手元に納まる。ただし便箋ではなく筒状だった。

「って、それ手紙じゃなくて巻物だろうが」

「どっちだっていいじゃあないか。ともかく、これを地底にいる星熊勇儀って奴に渡しておくれよ」

「地底だぁ? つーか自分で行った方が早ぇだろ。んな便利な異能使えんだからよ」

「今日は博麗神社で宴会があるから無理だね。酒と肴を集めるので忙しいんだよ私は。だけどお前は暇だろう?」

「うるへー。勝手に暇人にすんなや」

 わかってないねぇ、とやれやれ顔で肩をすくめて息を吐かれた。オレじゃなければ間違いなくキレていた。というか朝から宴会の準備に走るとか三日三晩で例大祭でもやる気なんか。

 この時点ではあまり乗り気はしなかった。ぶっちゃけメンドクセーってぇのが上回る。

 ところが、事態は大きく転がることとなる。

 

「もちろんタダとは言わない。これをやろう」

 

 二本角の鬼が腰にぶら下げていた巾着袋をオレに放って寄越す。足元に着地したそれはズシリと重量のある音を奏でた。ついでに結び目が解けて中身が覗ける。指先サイズの金ピカの眩い粒ぞろいがぎっしり詰まっていた。

「なん、だと……!?」

 金塊。ゴールド。しかもこれだけの量となれば価値は計り知れない。寄せ集めれば金の延べ棒程度の大きさは優に超える。目を疑った。

「マジか……ホンモノ、だよな?」

「そりゃそうだよ。旧地獄で採れた金粒さ。運が良ければお前も見つけられるよ。これから行くんだから」

「……フッ」

 面白ぇ。地獄で採れる黄金の粒ってか。なかなかそそられる響きじゃねーか。金銭欲に目が眩んだワケじゃねぇがすっかり目も覚めた。一足先に地獄を見ておくのも悪くない。

 巾着袋を拾ってポケットに捻じ込み、伊吹の手から巻物も掠め取る。ニヒルに指をパチンと鳴らしてキメてやった。

「いいぜ。その依頼引き受けた」

「そうかそうか。そりゃ助かる」

 ケタケタと声を転がす鬼娘。それこそ霧のような掴みどころのなさで真意を上手く隠された。が、相手がどうあれ依頼受諾を宣言したからにはやるしかあるまい。

 ま、郵便配達一回きりで稼げるならそこそこ儲けモン――あ。

 しかして、ここにきて肝心なことに気付いちまった。

「なぁオイ。地獄だか地底だか知らんけどよ、どうやって行きゃエエんだ? もしかしてコレ交通費も込みってぇクチか」

 そもそも交通手段でどうこうできるモンなのかも不確かときた。あの世に行くなら軽く見積もっても仮死状態か幽体離脱か。地底とやらが文字通りの場所ならワイヤーフックないし命綱ってところか。

 そんな重大な懸念をチビ鬼は軽い調子で吹き飛ばした。予想外の策でもって。

「あー大丈夫。その辺は助っ人呼んだから」

 

「はい。その助っ人ですわ」

 

「ミス八雲」

「ごきげんよう」

 ノーモーションで紛れ込む金髪美女あり。相も変わらぬ底知れない微笑で伊吹萃香の呼びかけに応じる。

 って、ここまでお膳立てが整ってんならいっそこの女が直接届けてやった方が手っ取り早いのではなかろうか。

「それは野暮というものですわ。今回の件、あなたが地底に行くことにも意味があるのよ」

「さらっと心読むなや。どいつもこいつも読心術しやがってからに」

「まぁまぁ。じゃ紫、いっちょ頼んだよ」

「ええ。承りましょう」

「な――」

 猛烈に嫌な予感がした。急いで待ったをかけようとしたが間に合わず。

 次の瞬間、オレが座っていた場所を中心にスキマが開く。束の間の浮遊感。そして有無を言わせぬ落下感に襲われた。

「うおぉおおい!?」

 かくして。

 オレは幻想入りしたあの晩と同じく問答無用で亜空間に呑み込まれた。恨むぞコラ。

 

 

 知らない天井どころかそもそも天井が遠過ぎて見えなかった件について。

 日の光も届かぬ奈落の底。前後左右どこもかしこも岩肌に覆われた代わり映えしない場所。スキマはとうに閉じており残滓すらない。現場主義にもほどがあんぞ。

「んで――ここが地底の世界ってか」

 またの名を旧地獄。つまりオレは死せずして堕ちたってぇワケだ。フッと自虐の笑みを浮かべる。

 わざわざ旧と付ける理由は、リニューアルして現在機能している本命、言うなれば新しい方の地獄が別にあるから。要するに此処は跡地。かつては嫌われ者やならず者はたまた罪人といった日陰者どもが蔓延る無法地帯だったという。スラム街かよ。

 見渡す限り石だの岩だのと堅そうなものばかりの殺風景な空間だ。どっかの炭鉱か洞窟の中と大差ない。頭上が伽藍洞な真っ暗闇の青天井でなければ。

 はたしてこの地点が地下何百メートル下手すりゃ何千メートルにあたるのか皆目わからん始末。つーか帰りはどうすんだ。探せばエレベーターでもあんのか?

「やれやれ……しゃーねぇ」

 とりあえず進むしかあるまい。スタート地点で立ち往生なんざ愚策の極み。迷わず行けよ。行けばわかるさ。アントニオ猪木らへんもそう言っていたハズ。

 

 

 視線、誰かに見られている。

 尾行されている気配も微かに嗅ぎ取れた。

 無意識の内側に溶け込もうとしている。そんな奇怪な感覚に付きまとわれる。そいつは予兆や勘に留まらない。

 

『もしもし、私メリーさん』

 

「――ッ、誰だ!」

 咄嗟に振り返る。だが、誰もいない。今しがた通ってきたばかりの岩々しい道筋のみ。気のせいだと言い聞かせてやろうにも、そうもいかなかった。

 

『今あなたの後ろのいるの』

 

「クッ、今度はそっちかよ!?」

 またしても背後から同じ声で囁かれて、体を反転させながら飛び引く。警戒して身構えて、無情にもホシの姿はなかった。

 

 くすくす……

 

 イタズラを成功させて喜ぶ童女の笑いが控えめに反響する。閉塞した環境も相まって、音があちこちで跳ね返る。

 そこに()()ようでもあり、どこにも()()()ようにも思わせる。そんな具合に矛盾をゴチャ混ぜにした不可解な曖昧さ。勘違いだったのではないかと疑いそうになる。

 否。確かに聞こえた。己に誓って幻聴じゃねぇと断言できる。

「ったく……」

 地底に来て早々に手厚い歓迎痛み入るぜ。こら一筋縄ではいきそうもない。かといって速攻で切り札を切るのも躊躇われた。現状、主導権は相手に握られているのだ。迂闊なマネはできない。

 手厳しい状況に思わず愚痴の一つでも吐きたくなる。

「こんな調子でユーギとかいうヤツまで辿り着けんのかよ」

「? 勇儀に会いに来たの? ならこっちこっち~」

「あ?」

 これまでの幻聴と違って明確に声が聞こえた。

 それだけじゃない。何者かがオレの手を掴んで引っ張り始める。よくよく見れば半透明の輪郭が薄らと現れていた。時間をかけて少しずつ鮮明になっていく。

 再び既視感。あぁ、コレはあの時と同じだわ。三月精の時と。

 ついにはイタズラ犯がその全貌を明かす。

 カンタンに見下せるぐらいの小さな背丈。丸っこいUFOみてぇな黒い帽子の下から瑠璃色の髪が垂れ下がる。ダボついた長袖に緑色のスカートの出で立ちから女子とわかる。俗にいう男の娘とかいう女装男子でなければのハナシだが。

 

「ガキんちょ……?」

「むー! レディをガキんちょ呼ばわりなんてなってなーい!」

 

 プンスカと頬を膨らませて文句を上げる小娘。これまた三月精と似通った小学生レベルの見た目だった。そこまで再現せんでもエエだろ……

 

 

 ガキんちょは古明地こいしと名乗った。

 姉妹と数多のペットっつーそこそこの大所帯で地底に住んでいるそうだ。ちなみにコイツのが妹。とりあえず古明地妹と呼ぶことにした。あとファッションなのかアイデンティティなのか知らんけど閉じた目玉めいた奇抜なアクセサリー?が存在感を放っておった。どんな趣味してんだ。

 そいつは外見年齢に相応しい爛漫さで案内役を買って出た。というか勝手にナビを始めた。

「本当にこっちで合ってんだよな?」

「んー?」

「んー、じゃねぇって。マジで大丈夫なのか……?」

 どうにもこの小童、落ち着きがないっつーかイマイチ行動に芯が定まっていない節がある。早い話がフラフラしまくってんのだ。会話の途中でも脈絡なく話題が飛びまくる。多感なお年頃の難しさよ。

 その後の道中も、急に立ち止まったりおもむろに方向転換したり。なかなか前に進まない。チョウチョ追っかけて迷子になるタイプに違いねぇわ。頼むからオレを巻き込まないでほしい。

 幸い、例の星熊勇儀が旧都なる場所にいるってぇことまでは聞き出せた。最悪オレ一人でさっさと――

 

「でねー、このあたりは怨霊がよく湧くの」

「…………ア?」

「ほらほら、あそこにも」

 

 無邪気に古明地妹がある方向を指差した。そして、オレは見てしまう。

 その先に漂う浮遊物。ユラユラと揺蕩うドクロのツラした風船モドキを。尻尾みてぇに尻すぼみになった球体は誰もが思い浮かべる霊魂のイメージであろう。あからさまにこの世ならざる異形がそこにおった。

「――……」

 サーっと頭から血の気が引いていく。おそらく顔面も真っ青になっている。脂汗が滝のように湧き出る。

 お化け。怪奇。心霊現象。ホラー映画。ボロアパート。自殺した女の幽霊。本当にあった怖い話。同窓会。黒子野太助。ドラえもんの歌。

 一部変なモンもあった気もするがあらゆるフレーズがエラー警鐘を鳴らして脳内をかき乱す。

「どうしたの? 早く行こうよ」

「……………」

 瑠璃色の髪したガキんちょが立ち尽くすオレの手を引っ張る。が、オレはその場から動かない。動けない。ただ一点、ふらりふらりと宙を泳ぐ人魂に目先が縫い付けられる。

 限界まで残り。三、二、一、

 

「■■■■■■――――――――ッ!!」

「わぁ!?」

 

 理性が焼き切れた。

 狂戦士の咆哮を上げてちんまい手を振り解き、見当違いのルートを全力DASH。既に自分で自分がわからなくなる。これまでの道のりをガン無視してあらぬ方角を奔走した。

 本能の赴くままに。行き先はここじゃねぇ何処か。あのゴーストがいない安息の地へ。

 

「■■■■――ッ!」

「あはは! 待て待てー!」

 

 古明地妹が両手を掲げてグリコ走りして楽し気に追っかけてくる。逃げる成人男性と追い回す幼女。立ち位置が逆なら逮捕案件である。

 

 止まらない限り道は続く。

 木桶に入った緑色ツインテのガキんちょの頭上を軽々と飛び越え、金髪エルフ耳の女に背中から抱き着くこれまた金髪お団子頭な女の百合絡みを素通りし、一輪車を押し運ぶ猫耳娘を後方から追い抜いた。

 

 逃げて。逃げて。逃げ続けた。

 もはやテメェが何から逃れようとしていたかすらうろ覚え。それでも進むしかない。いつしか古明地妹とはぐれちまったことにも気付かなかった。

 あてもなく駆け抜けた矢先、前方方向に金持ちを匂わす立派な建物が見えてくる。アメリカンチックでフルハウスな海外ドラマを思い起こさせた。なぜこんな場所にだとか、誰の持ち家だとか考える暇さえなかった。心は一つ。

 あの家に避難してやり過ごすしかない。

 フルハウス(仮称)を目指してさらに加速する。死力を尽くしたラストラン。どこまでもトップを独走する。もうゴールしてやる。

 玄関まで回り込んでチャイムを鳴らすなんざまどろっこしい。お邪魔すんぜェ!

 

「オラァアアアアッ!!」

 

 手近にあった窓から飛び込むように突き破った(※よい子は絶対にマネしないでください)

 窓ガラスが割れて粉々に砕け散る。思わず耳を塞ぎたくなるような甲高い効果音に合わさって、大小さまざまな破片がキラキラと反射しながらそこらじゅうに飛び散った。

 

「What’s!?」

 

 謎にネイティブ発音で幼げなトーンのリアクションが続く。子供部屋だった模様。

 オレは奇跡的に無傷で床の上を転がり行き止まりの壁際に背をつけて息を潜める。ここが正念場なのだ。

 

「すまねぇが静かに。追われてるかもしれねぇんだ。ちっとばかし匿わせてもら――」

「ブラザー!!」

「……あ?」

 

 聞き覚えのある呼び名にはたと顔を上げる。

 まさかの子供部屋のガキんちょの正体は、全身をアメリカ国旗染みたコスチュームに包んだ金髪フェアリーであった。部屋主のクラウンピースはといえば、自室の床一面にガラス片をブチ撒かれたってぇのに、んなモンお構いなしとばかりにさも嬉しそうに駆け寄ってくる。それでイイのか。

 ハリウッドとか好きそうだしこの手のシチュエーションは全然有りなのかもしれない。並みのガキなら失禁してもおかしくねぇだろうに。デッドプール2でも観せてやろうか。

「なになに? わざわざあたいのところまで遊びにきてくれたの?」

「頼むから静かにしろって」

 見知った顔の能天気っぷりに毒気を抜かれる。おかげで明後日の向きにすっ飛んでいた理性が戻ってきた。ちぃと癪だが結果オーライといえよう。

 若干の手遅れ感はあるものの、どうにかガラス片を踏まないように注意しつつ、エラく風通しの良くなった窓から外の様子を盗み見る。例のドクロ人魂はどこにもいなかった。

「撒いたか……それとも初っ端から追ってきてなかったのか?」

「ねーねー、お話ししようよブラザー」

「わぁーったから引っ付くなや」

 じゃれつくアメリカン妖精をテキトーにいなして一息つく。そうしているとコンコンと控えめにノックが鳴り響いた。

 

「クラッピー? すごい音したけど何か壊しちゃった?」

 

 嗚呼、そうか。そうだった。

 仮にも此処が地獄の一部でしかもこのガキんちょがいるってこたぁ、もう一人いそうな人物に心当たりがあったわな。

 茶目っ気を滲ませた大人びた女の声。そいつがドアノブを捻る。当然ながら扉は難なく開いた。

 赤髪セミロングに球体の帽子をアクセントにした女神サマが入ってくる。「Welcome Hell」のプリントTシャツとレインボーカラーのミニスカも変わりなし。

 女は部屋に織り成す惨状――窓ガラスが歪にカチ割られてその残骸が床一面に撒き散らされ、にもかかわらず部下が不法侵入の野郎に懐いている有り様を目の当たりにする。次いでその瞳の行き先がオレに向けられた。

 控えめに言っても阿鼻叫喚な光景にも眉一つ動かさず、地獄の女神サマは愉快そうに相好を崩した。あたかも客人を迎え入れるように。

 

「サンタクロースは煙突から入ってくるものじゃなかったっけ?」

「別にプレゼント配りに来たワケじゃねぇっつの」

 

 何ならブラックジョークもかましてみせるほどに余裕綽々。さすが正真正銘の女神サマは器がデカい。ここまでくると逆にスゲーよ。

 というか、あんたのアジトだったんだな。このフルハウス。

 

 

「う~ん……将也君に合うサイズっていったらこのあたりなんだけどな」

 演劇の楽屋ばりに大収納なクローゼットを開けっ広げにして、ヘカーティア・ラピスラズリが服を選ぶ。ハンガーラックには隙間なく衣類が吊るされておった。セレクトショップかよ。

 しかもこんだけ品揃え豊富なクセしてどれもが黒ベースでプリント文字付Tシャツときた。恐るべしコレクション趣味。

 サイズもSからLL、何ならXLまで一通り。どう考えてもこの女が着る用ではない代物までフツーに並んでいやがった。一体どこを目指しているのだ、この女は。

 ちなみにヘカーティア・ラピスラズリの私室だった。そこにベッドもある。

 

「なぁオイ。どーしても着なきゃダメか?」

「もちろん。将也君の方から地獄に来る機会なんて滅多にないもの。さすがに全部は持ち歩けないし。窓ガラスも割ったんだからそれぐらい付き合ってくれるでしょう?」

「ぐ……しゃーねぇなぁ」

 

 そいつを指摘されるとぐうの音も出ない。こうなりゃ女神サマがお気に召すままに従うしかあるまい。ほどなくして女も目星をつけたらしい。

 ハンガーラックから二つほどチョイスして、それぞれを見比べさせるように左右の手で持つ。

「これと、あとこっちもかしら。将也君はどっちがいい?」

 

 右側のシャツにプリントされた文字は「Too Young To Die」

 左側のシャツにプリントされた文字は「Go To Eat」

 

「……」

 どっちも英文字なのはこの女なりにこだわりがあんのか。コイツが着ているのもそうだしよ。

 さらにクラウンピースまでもがマスターに追従して服選びに参戦してきた。一着選び抜きバッと広げてオレたちに見せつける。

「ヘカーティア様! あたいこっちがいい!」

「あら、いいじゃない」

「イイわけあるか」

 サイズは申し分ない。が、プリント文字が「メモリーT細胞」って何やねん。どんなセンスしてんだオメーは。むしろどこで買ったんだ、それ。

「ねぇねぇ! こっちは?」

「お前はいつからいた」

 いつの間にか、はぐれたハズの古明地妹がちゃっかり合流しておった。あまつさえセレクトしたのは「燃えるゴミは月・水・金」ダメだ。昨今のガキんちょの流行りがまるで理解できねぇ。

 この中から選ぶしかないというのであれば、こんなん実質一択じゃねーか。

「コレでエエだろ」

「あら」

 赤髪セミロングの女神サマの手から「Too Young To Die」のシャツを引っ手繰りその場でぱっぱと着替える。下手なコスプレよりかは百倍マシであろう。色も黒だしそこまで抵抗もない。

 自分が選んだものが採用されたのもあってヘカーティアは上機嫌そうだった。

 

「これで満足か?」

「うん上出来。せっかくだからそれは将也君にあげる。そうだ、こっちに来てくれる?」

「今度は何や……」

 

 女に手招きされるままにスタンドミラーの前に立たされる。別に可笑しいところはなさそうに思うが――

 

「ウフフ、えい」

「うぉっ」

 

 思いがけず不意打ちに、迂闊にも間抜け臭い反応が出てしまう。何を思ったか隣に立ったヘカーティアがオレと腕を絡めてウインクとピースサインでポーズを取った。向かい合う鏡の世界でも同じようにペアルックの男女がオレたちに決めポーズを返していた。

 改めて客観視すると思いのほかムズムズすんのですがコレは。何だこのジワる姑息な羞恥プレイ。

 ついつい減らず口で誤魔化してしまう。

「っかー、記念撮影かよ」

「それいいわね。うん、将也君の地底デビュー記念」

「さよか」

「さよです」

 ラピスラズリ、宝石の名を冠する女神サマがおどけるように受け答える。

 ったくよぉ、そこにあんのはカメラじゃなくて鏡だろうに。

 

 しかし、何というか。

 Welcome Hell(地獄へようこそ)とToo Young To Die(若くして死ぬ)とか我ながらトンデモねぇセットがあったもんだわな。

 こら華扇が見たら何を言われるかわかったもんじゃねぇぜ。

 

 

 

つづく

 




TOO YOUNG TO DIE っていう邦画があるんですよ。メッチャ面白いの


次回、ヘカーティアと旧都をぶらり散策お出かけ
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