サブタイトルは語呂の良さで思い付いただけなんで特に意味はないっすアヘェ
サ〇ラ大戦2あたりのサブタイにありそうじゃないかな? かな?
旧都。
旧い都たぁ言い得て妙なこった。街並みも古臭い長屋が続き、いや、時代を慮っていると言ってやるべきか。実際のところ人里とそこまで変わらねぇ。強いて言えばこっちのがどことなく粗削りした雰囲気があった。力強さとも言い換えられる。
あながち間違いでもあるまい。酒と喧嘩は江戸の華とでも言わんばかりに、街中を筋肉自慢の漢どもが闊歩している。それも人間じゃなく、絵本やらマンガやらに描いたような古典的な鬼がうろついていやがった。これも異世界クオリティか。
地下に根付く大都市。まさにアンダーグラウンド。心なしか喧騒が賭博黙示録染みている。
「旧地獄もすっかり天然温泉が名物になってね。地上からもよく人妖問わずお客が来るのよ?」
「地獄だったんじゃねぇのか。それただの観光地だろ」
「あはっ、実際そうかも。ちなみに温泉饅頭が美味いって評判よ。お土産に買っていく?」
「っかー、お気楽なこって。饅頭は考えとくけどよ」
地獄の女神サマが時には茶化しつつもご丁寧に教えてくれた。大人びた容姿にあどけなさが見え隠れする。俗にいうギャップというヤツか。
不可侵条約なんかもあったらしいがほぼ風化してあまり意味を為さず、八雲紫ですら「そういえばありましたわね」などと抜かすレベルだとか。それもう実質時効やんけ。
ちなみに、この女の本来の管轄域は新地獄である。フルハウスもいわば別荘に過ぎない。偶々地底に来ていたタイミングでオレが窓から飛び込んできちまったワケだ。そら災難だったわな。オレが言えた立場じゃねぇけど。
行灯や提灯が蜘蛛の巣の如く張り巡らされ、縁日を思わせる眩しさと賑やかさが旧都中を満たす。真っ昼間から酒屋が暖簾を軒先に掛け、敷居越しにバカ笑いが遠慮なく飛び出してくる。下品なぐらいに騒々しいのもまた一興。
フッとニヒルに顔を緩める。都会の繁華街、夜を生きる男にとってはこの空気は嫌いじゃねぇぜ。
「楽しいでくれてるみたいでよかった。改めて旧都にようこそ。歓迎するわ」
「あぁ。むしろこーゆー空気のが性に合ってんだよ、オレはな」
「ならいっそのことこっちに住んじゃう?」
「Really!? ブラザーも地底で暮らすの!?」
「勘弁してくれ。直射日光はアレだがモグラ生活する気はねぇよ」
旧地獄の中心街をオレとヘカーティア・ラピスラズリ、さらにクラウンピースと古明地こいしを交えたそこそこの大所帯で通り行く。
例の「Too Young To Die」なるプリントTシャツを着ているせいか、厳つい男鬼連中が奇異の目でオレを、
「ラピスラズリ様! コンチハッス!!」
「はい、こんにちは」
「ラピスラズリ様ァ! お疲れ様でごわすッ!!」
「そっちもご苦労様」
「押忍! ラピスラズリ様!」
「ちゃお」
違った。どいつもこいつも赤髪セミロングの女神サマに送られた熱視線だった。舎弟さながらに直立不動の体勢で敬礼かましておった。ただでさえデカい声を余計に張り上げるもんで、周辺の空気が痺れるようであった。いやうるせぇんだが。どこの軍隊だ。
力こそ正義。強者が統べるは世界の理。
ましてや地獄を司る女神なんざ圧倒的な上位カーストどころかトップクラスであり、当然ながらその地位は揺るがない。もっとも、この女はそーゆーの興味なさそうだけど。
大声で挨拶する強面どもに女神サマは一つ一つ律儀に返していく。時折ひらひらと片手を振って、愛想よく振る舞う。芸能人のお忍び外出かよ。そのうちサイン求められんじゃなかろうか。
「ほーん、大した人気じゃねーか」
「へへっ、あたいのマスターだもん!」
「むー! うちのお姉ちゃんだって負けてないもん! ファンクラブだってあるんだから!」
「別に張り合わんでもエエだろうが。つかオメーの姉はアイドルでもやってんのか」
「お姉ちゃんじゃないけどアイドルは別にいるよ?」
「おるんかい」
コレがホントの地下アイドルってか。
その後もあっちからこっちから「ラピスラズリ様!」「ラピスラズリ様!」と挨拶と敬礼のセットで声援が捧げられた。ここまでくるともはや女王陛下のお披露目に近い。オレらの存在霞んでねぇか……?
「ハ、あんたも大変なこって」
「まぁね。私は普通がいいんだけどなー」
とは言いつつも嫌な顔一つ見せずに男衆に応える。いつも通りの茶目っ気ある大人びた笑み。これしきのことで窮屈になるほど器の小さいヤツじゃねぇだろう。が、イマイチ釈然としない。何となくだがイイ気がしねぇ。
「なぁ、そこのあんた」
「あ? オレか?」
そんな中、鬼の一人がオレにも話しかけてきた。ようやくかと思いつつ、その反面そらそうかとも納得する。誰もがひれ伏す女神サマとほぼ同じカッコしとる野郎がいれば、疑問の一つでも抱いて当然といえよう。
鬼らしく直球ストレートな質問が投げられる。
「お前地上の人間か? 何だってまたラピスラズリ様と同じ服着てんだ」
「黒岩だ。夜を生きる男にして何でも屋。あと服のことは気にすんな。オレだってどーしてこうなったかわかんねぇんだよ」
「何でも屋? そんなやつが何しにここに来た」
筋肉モリモリなクセして細かところが気になるタイプのようだ。ついでだ。コイツから情報を聞き出しておくのも悪くない。
「ちぃっと届けモン頼まれてんだよ。星熊勇儀ってぇヤツにな。聞いたハナシじゃこの辺にいんだろ? 知ってたら教えてくれや」
「お、勇儀の姐さんならそこの通りを行った酒場にいると思うぜ。わざわざ地上からご苦労だったなぁ。帰る前に温泉にでも入っていけ、疲れなんか一発で吹っ飛ぶからよ」
「フッ、お気遣いどーも」
何かフツーに良いヤツだった。やはり見た目で判断するのは早計ということか。オレもよく華扇から目つきが悪いだの言われるし、人のことはとやかく言えんけど。
とにもかくにも要人の居場所も突き止めた。となれば為すべきは一つ。
「下手に擦れ違ったりする前にちゃっちゃとケリつけるか。情報提供感謝すんぜ。行くぞ
「将也君……」
「お、お前、ラピスラズリ様に向かってなんて口の利き方ッ、しかも呼び捨てだと……!?」
「いいのよ。私がそうして欲しいって彼に望んだことだし」
「なんとぉッ!?」
あたかも落雷をその身に浴びたように、男鬼が大袈裟に仰け反って叫んだ。厳ついツラがますます険しくなってんぞ。金剛力士像もかくやな塩梅であった。
見れば、聞き耳立てていた通りがかった他の連中までもが目を丸くして硬直しているではないか。何だコレ。怖っ。
そんな周囲のリアクションなどお構いなしに地獄の女神が嬉しそうに隣に寄り添う。個性派プリントTシャツのコンビが並んだ。大丈夫かよ。滑稽に思われたりしてねぇよな?
「さ、行きましょうか将也君」
「おぉ……って、なして腕を絡めるんだ」
「ブラザー! あたいも!」
「こいしもー!」
「だーもう引っ付くな暑苦しい!」
「ほうほう、萃香の依頼でアタシのとこまで来たと。そいつは難儀だったね。アンタも呑む?」
「要らん。何時だと思ってんだ。あと大した手間じゃねぇし、受けた依頼はキッチリこなすのがオレの流儀だ」
「職人気質ってやつかい。いいね、そういうの気に入った」
「そらどーも」
鍋の蓋を連想させる特大の盃を持った長い金髪の女と向き合う。まさしく姉御といった風格を漂わせ、一滴も零すことなく器用に酒を煽るのが様になっていやがった。
この女こそが今回引き受けた依頼の届け先、星熊勇儀。
「プハー、美味い」
「何時から飲んでんだよ」
「さぁねぇ。時間なんかいちいち気にしてたら酒が不味くなっちまうよ」
冗談とも本気とも取れる戯言で返される。コイツも酒豪か。華扇とイイ勝負すんじゃねーか。
女の中でもかなり長身の部類に入るだろう。赤髪セミロングの女神サマよりも背が高いと思われる。コイツに近いのは八坂神ぐらいではなかろうか。その身長を少しは伊吹萃香に分けてやりたい。
ラフな無地白の半袖に紅蓮と紺色が入り混じった縦縞模様の袴。最も特徴たらしめる、額に伸びる赤き一本角が天を突く。アレで頭突きされたらひとたまりもあるまい。刺さるわ。
「なるほど、なるほど」
鬼女が興味深げにオレと同伴者を交互に見やる。ついでに酒ももう一口クイッといく。
「まさか女神もご一緒とはねぇ。アンタら、ひょっとして
「あら」
「けっ、どーいう意味だってぇ?」
「とぼけるんじゃないよ。揃いの服着た男と女が二人並んで外を出歩いてんだ。ここまで言えばあとはわかるだろう?」
「Boo! ヘカーティア様だけじゃないやい! あたいだっているよ!」
「こいしも!」
「プ……あっはっはっ!! そうだったそうだった。こりゃすまんねぇ」
「……ったく」
ガキんちょどもの抗議の声を受けて、思わずといった具合に鬼女が気前よく笑い飛ばした。サバサバした性格がよく表れている。その大らかさ、姐さんと呼ばれるだけはありそうだ。
それと似たような服着てるだけでそーなるってぇんなら中学高校なんざ多夫多妻の乱痴気パーティだろうが。
ひとしきり笑い終えた星熊が「よっしゃ!」と膝を叩いた。パァン!と小気味良い音が鳴る。
「それはそうと本題だ。萃香のやつはアタシに何を寄越そうとしたんだい?」
「やっとそこかよ。手紙だ。つってもブツは巻物だがな。ま、オレは伝書鳩の代わりってこった」
「鳩というより烏だろうさね。この辺も地獄烏がよく飛んでるよ。見ていくかい?」
「ノーサンキューだ。烏でバードウォッチングする趣味はねぇよ。んなモン向こうに居たときから見慣れてらぁ」
軽口を軽口で打ち返しながら預かり物をテキトーに放り投げる。星熊勇儀は盃を持ってない方の片手で難なく掴んだ。流れる動作で紐を解き、巻物を広げる。まるで龍の尻尾のように長い紙面が宙を薙いだ。
というかどんだけメッセージ盛り込んでんだよ、あのチビ鬼。LINEだったら既読スルー案件やぞ。
星熊が文字を目で追う。「ほう、華扇が……」「この男が……?」といった感想の独り言を漏らす。華扇の名前が出た時は僅かに反応しちまった。が、断じておくびにも出さない。
やがて読み終えた巻物を元の形に戻していく。直後、ヤツはオレを見据えて目を細めた。同時に剛力の余波が重く圧し掛かる。体感温度が急激に下がり、店内の空気が張り詰められた。
答え次第では覚悟してもらおう、と言外に込めて一本角の鬼がオレを威圧する。
「アンタ……」
ざわ……
ざわ……
「二股かい?」
「どーしてそうなったんかはあえて聞かねぇぞ。そもそも相手がおらんわ。零股だ」
「え、股がないって……お前さん実は女だったクチかい?」
「そうじゃねぇよ!」
「oh my God! ブラザーは本当はシスターだった……ッ!?」
「ほら見ろ真に受けたバカちんがおるやろが!」
衝撃の事実を知ってしまったとばかりに、金髪フェアリーがムダに彫りの深い面構えで慄く。おまけに口の周りを温泉饅頭の餡子でベトベトにしていやがった。食べ方汚ねぇなオイ。あとオメーの神なら隣にいんだろ。
「ってか古明地妹はどこ行った?」
挙句には頭数が一人減っておった。もはやワケがわからん始末。ツッコミ役が足りない。
オレの問いに星熊勇儀が「ああ」と今になって気付いたような声を上げた。あるいは、本気でわからなかったのかもしれない。
「そういや一緒だったね。なに、心配することはないよ。あれは無意識で動き回っている。いつものことさ。袖振り合うも他生の縁っていうだろう? 再び縁が交われば相まみえることもあろうさ」
「夢遊病者なのか?」
「中らずと雖も遠からず。もしかしたら姉のところに帰ったのかもね」
知人からすりゃ慣れたことなのか、気にする輩は誰もいなかった。あのガキんちょは比喩抜きにして無意識の合間を縫って行動しているのであろう。オレ以上のステルスの使い手だったか。
「古明地妹の姉、か……」
いやもうメンドクセーから古明地姉でいいか。あの無意識娘からしてどんなタイプなのかは想像もつかん。ま、ファンクラブがあるってぇなら見た目は良いと推測する。
あと動物に囲まれているらしいあたり、ひょっとしたら華扇と気が合うかもしれない。
何はともあれ、思いのほかすんなり用事が済んだ。おかげでやることが何もなくなっちまった。早い話が暇だ。
「急いで帰る必要はないんだろう? せっかく来たならゆっくりしていきな」
「あぁ、そうさせてもらう」
地獄の跡地に来て収穫なしってぇのもつまらねぇし勿体ない。本物の地獄はいずれ世話になるとして、今回はこっちを見て回るのも多少の退屈しのぎにはなろう。
それ以前の問題に帰る手段がない。どのみち八雲紫が帰り便のスキマを開いてくれるまで待つしかねぇワケで。
オレが自力じゃ帰れないことを告げれば星熊勇儀はニヤリと口角を上げた。
「なら丁度いいじゃないか。そのままそこの女神に付き添ってもらうといい」
「あら、いいの?」
「できれば友人の肩を持ちたいさ。だけどほら、アタシゃ鬼だからね。こういうのは正々堂々、正面切って勝負するのが筋ってもんだろう? 余計なちょっかい出して馬に蹴られるのも御免さね」
「いきなり何のハナシしてんだ」
オレが割って入ると、呆れと憐れみが半々のビミョーな表情の鬼サマと可笑しそうに笑みを浮かべる女神サマの視線が交差する。だから何やねん。
「いい男になりたいならその辺も鍛えておくんだね。これで察せないなんて、こりゃあアイツも苦労しそうだ。おっと、アンタもだったかい?」
「さて、どうかしら」
「くわー、掴みどころがないやつだねぇ」
やれやれと肩をすくめた星熊が再度盃を傾けようとして、どうやら中身が空だったらしい。日本酒の一升瓶を取ってドボドボと手酌し始めた。そこまですんならもう直飲みでもいいだろ。
鬼サマはまだまだ飲み足りないっつーので奴さんとはその場でお暇することになった。
「将也君はどこか行きたい場所ある?」
酒場を出てすぐ、ヘカーティア・ラピスラズリが前かがみになってオレの顔を覗き込む。肩回りが大胆に露出したデザインのおかげで谷間が見えそうになっていた。あざとい。ワザとやってんじゃねぇよな。
「どこ行きてぇってもな……」
パッと候補が思い付かず、立ち悩む。
ふと、温泉特有の臭いが鼻先を掠めた。硫黄か硫化水素か忘れたが独特の刺激臭を嗅ぐ。
「そういや温泉がウリなんだっけか」
「それなら一緒に入る? 混浴の露天風呂もあったと思うけど」
「は、はァン!?」
イタズラっぽく挑発的な一言に、先日の出来事がフラッシュバックした。
『綿間部……』
桃色ミディアムヘアの仙人サマが肢体にバスタオルを巻いただけの色っぽい立ち姿。背中を流された時に触れた、しなやかな指先の感触。二人で背中合わせになって浴槽に浸かった時の熱ささえも、一つ一つが生々しいまでに鮮明に甦る。
最後に見てしまった、彼女の生まれたままの裸体も――
「将也君?」
「はっ!? な、いや。べっ、別に何も思い出してねぇぞ!?」
「うん?」
束の間だけ意識が過去に飛んでいた。挙動不審なオレの様子に、ヘカーティアが不思議そうに呼び掛ける。赤いセミロングの髪を耳に掛けながら「ん?」と年上っぽい仕草で見つめられる。
幸いにも追及されることはなく、地獄の女神の宝石めいた瞳がオレから他に移った。
「でも、あっちの混浴なら恥ずかしがらなくても大丈夫なんじゃない?」
「いや別に恥ずかしがってねぇけどよ。というか大丈夫な混浴って何やねん」
訝しみつつ女神サマが眺める方へと視線を飛ばす。答えはすぐに見つかった。
東屋だろうか。小さい屋根とその四隅を木の柱で支えただけの簡素な造り。屋根の下の空間からは雲そっくりな湯気が立ち上る。温泉特有の臭いの発生原はアレだったみてぇだ。
地面に杭が突き刺さった立て看板には「足湯」と書かれていた。
とんちかよ。確かに混浴と言えば混浴といえなくもねぇけどよ。
しかし考えてみれば結構な道のりを歩いてきたうえに、ドクロ人魂から逃げ回るのに全力疾走もした。遅れながら足にも疲労が溜まっている。
一休さんじゃねぇが、一休みするにはうってつけの場所とタイミングかもしれない。
「ま、悪くねぇな」
「Yeah! みんなでASHIYUだね。Let’s go!」
「何だその中途半端な発音は」
「フフ、クラッピーったらご機嫌ね」
我先にと駆け出すアメリカン妖精に続いてオレたちも足湯に向かう。湯気に含まれた熱気が体や衣服に沁み込み、いよいよ温泉らしさを感じる。ここがかつて地獄だったとは信じ難い。
しかも利用客はおらず貸し切り状態ときた。ますます運が良い。
ヘカーティアがブーツを脱ぎ、裸足の爪先から湯面につけて膝下まで温泉に浸かる。レインボー色のミニスカが濡れないように裾をたくし上げ、縁側に座った。その拍子に太腿の際どい部分まで露わになり、キメ細やかな生足と湿った白い湯気の組み合わせが妙に艶めかしい。
「ふぅ……ん、いい湯加減よ。二人も早くいらっしゃいな」
「おお、つーかオメーはどうすんだ?」
「あたい?」
クラウンピースがきょとんとしたツラでオレを見上げる。そうだよお前だよ。
何せ全身タイツよろしく特殊なコスチュームしてんのだ。スカートやらズボンみたく巻き上げたりできない。まさか着衣したままってぇワケにもいかんだろ。
しかして、その心配は杞憂に終わる。ただし、もっと問題行動を起こして。
「そりゃ脱ぐよ? ……んしょっと」
「ぶほっ」
思わず変な咳が出ちまった。
あろうことかヤツは寸分の迷いもなく下のタイツをずり下ろした。おまっ、ロリコンの犯罪予備軍がこの辺にいたら戦争だろうが!
かろうじて、ギリギリで、あと一歩のところでパンツは見えていない。限りなくアウトに近いセーフな恰好で、クラウンピースは満面の笑みとともに己が主の隣に腰を落とした。
「あったかーい! very good!」
「こらこら、はしゃがないの」
他に客がいないのをいいことに両足でパシャパシャとお湯を蹴飛ばす金髪フェアリーを女神サマがやんわりとたしなめる。ついでにこちらを見やって反対側の空いているスペースに軽く手を置いた。どうぞ、とでも言いたげにオレを誘う。
しゃーねぇ。靴と靴下をその辺に脱ぎ捨て、雑にズボンを捲って足湯に入った。じんわりと天然温泉の温かさに包まれ、足に溜まっていた疲労が溶けていく。あっという間に力が抜ける。場所は旧地獄だが気分は極楽であった。
濁音混じりの低い溜息が出る。オッサンくせぇリアクションをかました真横で、女神サマがくすりと微笑む。
「八雲紫が迎えに来なかったらしばらくうちに泊まる?」
「あー……ま、マジでそうなったらそん時は頼むわ」
「うん。私のベッドの大きさなら将也君と二人で寝ても入るだろうし」
「いやそこは客間に通してくれや」
「なぁんだ。つまんないのー」
「じゃかぁしい」
女神サマのお茶目なジョークを軽く流して足湯を堪能する。星熊にはああ言ったものの少しばかり酒が欲しくなってきた。早くも地底の空気に影響されたのかもしれん。
クラウンピースが「ババンバ バン バン バン♪」と口ずさんでいた。古っ。
「そういえば将也君」
「んだよ」
「さっきはありがとね。私のこと名前で呼んでくれて」
「……何のこったかな」
オレがぶっきらぼうに返すのを、ヘカーティアは温かい表情で見つめていた。
つづく
この物語は華扇ルートです(念押し)