東方扇仙詩   作:サイドカー

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前作主人公とキャラが被らないようにパロディネタを控えているのがメッチャしんどい

安西先生……ネタが、出したいです……


第六話 「マヨヒガ ニャンニャン」

 幻想郷生活が始まり早くも二日目。いや、初日も含めれば三日目になるのか。

 前日は引越しセンターの短期アルバイトさながらに働き、今日にいたってはペット捜索に精を出す。澄み渡る青空を舞う涼風に煽られ、草木が気持ちよさげに揺れ往く。

 なんたることか、夜に生きる男にはあまりに不釣り合いではないか。いっそ初っ端に遭遇したアクシデントの方がよっぽどオレの性分に合っていたまである。

 こんな調子じゃ溜息の一つでも吐きたくなるわ。

「はぁあ……ったく、イイ天気だなぁチクショーが」

「そう思うならもっと元気よくしてください。何ですか、その無気力な態度は」

「だからぁ、オレの時間は日没からなんだと言っとるだろーが……」

 隣から浴びせられるお小言は適当に聞き流しておく。

 ピアノもねぇバーもねぇ、バスは一日一度来るどころかそもそもバス自体が皆無という幻想郷。ブッチギリのド田舎な異世界で、シニョンの少女と仲良く二人であぜ道を歩いていく。相変わらず説教が絶えないのは玉に瑕だが。お前は逆に元気すぎんだろ……

 

 ひとまず情報を整理しとくか。一応の目的地としているマヨヒガ(「ヒ」と書くが発音は「イ」らしい)は、地図を見る限り妖怪の山の何処かにあるようだ。他者の話を聞いてもそれは確か。

 妖怪の山。まさに読んで字のごとしなのだが、この土地には妖怪が蔓延っているらしい。かくいう上白沢女史も八雲紫も妖の類い。だとすれば、妖怪といえど容姿が個性豊かなくらいで人間と大差ないのかと考えてしまう。が、生憎そうは問屋が卸さねぇ。

 ここで厄介なのは知性を持たない低級妖怪。獰猛な獣と違わないのも存在し、それこそ妖怪らしく人を襲うという。村人たちからすればそっちのが身近で脅威なのだと、上白沢女史が渋い顔をしていた。

 他にも異変がどうたら弾幕ごっこなる決闘方法がどうたら教えてくれたが、詳しいところはオレにもよく分からなかった。博麗の巫女とやらがこの世界でわりかし重要な存在らしいってのは記憶している。

「で、オレらが向かっている場所にはどんな輩がいるってんだ?」

「独自の社会を築いて大きな力を持っているのは天狗と河童でしょう。かつては鬼も妖怪の山に住んでいましたが、今は……」

 鬼。その単語を口にする間際に、華扇がどこか遠くに思いを馳せる表情をしたのを見逃さない。

 また随分と有名どころが揃い踏みと来たもんだ。聞けば、そいつらも見た目は人は変わらず。天狗については翼はあれど鼻は高くなく、河童にいたっては頭の皿も背中の甲羅もなしと。

 そして、

 

「鬼は……山を去り地底に移り住みました。もはや地上に住む鬼は、私もせいぜい一人くらいしか知りません……」

 

 僅かに顔を俯かせて、肩まで隙間なく包帯が巻かれた右腕を左手で庇いながら、彼女はそう告げた。

 どうにも鬼と浅からぬ繋がりがあるのは目に見えている。だが、ワケありな深い事情を聞き出すには、まだオレ達は知り合ってから日が浅すぎた。

 ……はぁああ、仕方ねぇ。

「ところでよ、仙人ってのは何ができるんだ? 動物の扱いが上手いってのはさっき聞いたが」

 少しばかり露骨だが話題を変える。とはいえ、実をいうと気になる話しでもあった。

 こちとらいきなり仙人と言われても、長いヒゲのジジイが岩山で霞を吸い込んでるシーンとか、そういうマンガっぽい想像しか出てこねぇんだ。少なくとも、桃色の柔らかな髪をシニョンで括った中華衣装の美少女ではない。

 しかもこの女、霞みを食って生きるどころか、酒豪なうえに食通ときやがった。こんなん思わず「仙人とは何ぞや」などと哲学的な問いをしてしまうのも致し方ねぇだろうがよ。

 すると、自分自身についてオレから質問されたのが意外だったのか、彼女は始め目を瞬かせていた。それも束の間、すぐに得意げな顔になって語り出す。えへん、と。

 

「そりゃまあ色々できますよ。仙人であればこそ、日々修行を積み超人的な能力を得た後も決して驕らず鍛錬を欠かしてはなりません、時に死神と相対し、時に人々の助けとなる。私の理念は、天道と共にあります。あ、ちなみに動物の扱いについては仙人というより私個人の能力です」

 

「お前、今さらっと死神とか言わなかった? あれか、仙人になるともれなく地獄行きになっちまうのか」

「それもまた仙人の宿命なのです。そもそも彼らとの勝負に敗れなければ問題ありませんし、たまにサボりの死神が屋敷を訪れることも珍しくないくらいですから…………もっとも、私の場合は色々と例外ですけど」

「死神が仕事サボってんのかよ。大丈夫なのかそいつ」

 あと最後らへんに小声でボソボソ呟いていたが、聞き返すのも野暮だろう。まさか死神まで存在するとは。リンゴとノート用意した方がいいのか?

 ともあれ仙人サマも一筋縄ではいかねぇってワケか。血反吐吐くほどのキチガイな修行したり人々を導いたり、にもかかわらず死神がお迎えに来てその度にお茶漬け食わせて塩撒いてると。

 ここにきて仙人ライフのブラックな環境が明かされた。想像するだけでもゲンナリする。そんなオレの面を見て華扇が含み笑いを浮かべた。

「もし綿間部も仙人になりたいのなら、しっかり修行して死神に負けないことね」

「今それ言うか? ま、オレが地獄に落ちるのを心配してんなら、そいつぁ無用なこった」

「地獄が怖くないの?」

 含み笑いを消して、赤みがかった瞳が心を見透かそうと真っ直ぐにこちらを射抜く。

 このオレが地獄に落ちるのが怖くないかだと? フッ、今更すぎて笑っちまう。

 どうせまともな人生歩んじゃいねぇんだ。ならばオレはオレとして生きて死ぬまで。クソッタレな有象無象の一端として終わることだけは許さん。夜に生きる男として。

 大体、死後の行き先が天国か地獄かなんざ考えるだけ無駄なのだ。なぜならば、

「そもそも行く必要がねぇ。オレ達が、地獄だ!!」

「達って誰ですか!? もしかして私も入っているの!?」 

 

 その後も無駄話を交わしながらの珍道中が続き、いつしかオレ達は噂の妖怪の山まで足を踏み入れていた。山奥に進むにつれて、いかにも邪魔くさい木々や茂みに視界を遮られる。上白沢女史には申し訳ねぇが、貰った地図はもはや役に立ちそうになかった。

 大層な名前からしてもっと禍々しい魔窟かと身構えていたが、事実は小説と奇なり。案外ありふれた山の風景だった。むしろ妖怪よりも野生の熊や猪に遭遇しそう。そっちのが危ないんじゃ……?

「あっ」

 ふいに華扇が足を止めた。手を伸ばしてそこらの枝にぶら下がっていた果実をもぎ取る。彼女が手にした実は赤黒く、且つドラクエのスライムを思わせる形を成していた。字面にすると食欲が失せるが、そこまでグロくはない。おそらくフルーツの一種だろう。

「ほら、見てください。イチジクが成ってます。一部の地域では不老長寿の果物とも呼ばれていますね」

「ほーん、不老長寿か。仙人サマにピッタリの果物やんけ。コレ食えんのか?」

「もちろん。生食もできますけど、他にもお菓子に練り込んだりジャムにしたりと用途は多岐にわたります。初夏からが旬だから、これからの時期が特に美味しいわね。あ、食べるならちゃんと皮を剥いてからでないとダメよ?」

「言われんでも野生のブツをいきなり口に入れたりはしねーよ……」

 お前はオレを何だと思ってんだ。この歳で得体のしれない果実を躊躇いなく食うバカがいてたまるか。どんな副作用が起きるか分かんねぇだろうが。

 というか、こんな道すがらでも果物を語り出すあたりどんだけグルメなんだよ。裏でこっそり食レポ放浪記でも書いてんじゃなかろうか。

 

 

 結局、特に妖怪にも野生動物にも遭遇することなかった。

 さらに奥へと足を進めると、生い茂る木々に覆われていないポッカリと開けた場所に出た。

 まず真っ先に目に映ったのは古びた一軒家。廃墟というよりボロ屋と表した方がしっくりくる。長年にわたって放置されていたのであろう。その証拠に壁も所々剥げていたりヒビが入っている。ついでに雑草も茫々と生えていた。トトロに出てくるカンタ少年にお化け屋敷扱いされるレベルである。

 どう足掻いても人が住む場所には思えぬ荒れ地。事実、そこは人ではない連中の住処と化していた。

 

 ニャー ミィ ナァーゴ ミャァア ゴロゴロ……

 

「……はー、冗談抜きで猫ばっかりじゃねぇか」

「それはそうでしょう。だって此処は彼らの楽園ですもの」

 オレ達を出迎えてくれた光景は、もしこの場に愛猫家がいたら狂喜乱舞するであろうもの。パッと見ただけでも二十匹は超える数の野良猫どもが、そこかしこで呑気に自由にやっていた。日向ぼっこする白黒のブチ猫もいれば、毛繕いに勤しむトラ猫に、仲良くじゃれ合っているチビ猫二匹。さらにはオレ達をジーッと見てくる黒猫も。此処は沖縄なのか。行ったことねぇけど。

 手始めに近くにいるヤツらだけでも片っ端からチェックしてみる。しかし、残念ながらオレ達が探すものと特徴が一致する猫はいなかった。

 

「だ、誰ですか」

 

「あ?」

 舌足らずな幼い声が鼓膜に当たり、作業中断して声の主を捜す。意外にも答えはすぐ近くにいた。オドオドとおっかなびっくりにこちらを観察するちっこい少女。

 スカート調の真っ赤な服を着た、見た目レベルなら小学生と変わらない子ども。だが、明らかに一般人と異なる箇所がある。緑色の緩いデザインの帽子の下からピョンと飛び出しているのは、紛れもなく猫科の耳。さらに背中の陰から二本の尻尾が揺れて見え隠れする。

 まるで隠すつもりなど更々ないと自己主張する二つの特徴から鑑みるに、この少女も妖怪。それも猫にまつわる種族なのは言うまでもねぇ。

「お前、猫又か?」

「橙は橙です。式神です。お兄さんたちはどうしてマヨヒガに来たですか?」

 チェンってのはこの子の名前といったところか。繁華街での生活が身に沁みついているせいで、どうにもガキの相手ってのは慣れねぇんだよな。

 とりあえず質問に答えるべきだろう。敵と認定されては堪らない。

「仕事だ。人探しならぬ猫探し。行方を眩ました他所の飼い猫を捜すハメになってんだよ。あわよくば此処に居るんじゃねーかと踏んで来たんだが」

「何か心当たりはありませんか? 例えば、ここ数日のうちに見慣れない猫が増えている、とか」

 華扇がしゃがんで目線の高さを子どもに合わせる。そのおかげもあって、自称式神の少女からさっきのような怯えた態度は薄れていった。こういうのは女の方が有利だよな。

 彼女の質問に猫っ子は「んー……」と思案していたが、ほどなくして首を横に振った。

「みんな好きにやってるのでわかんないです」

「そうですか……」

 ま、そう上手い話があるわきゃねーか。

 もしやコイツが猫どものボスなのかと思ったが、たむろっているだけらしい。所詮相手は何の変哲もない野良猫に過ぎない。どっちかと言えばこの少女も、猫連中にとっては住処を提供してくれる大家に近い存在なのかもしれない。

「橙つったな。お前まさか一人で此処に住んでんのか?」

「? 橙だけじゃなくてみんなもいますよ?」

「いや、そうじゃねぇんだが……自分で式神だとか言ってただろ。ってことはご主人様がいるんじゃねぇのか?」

 こんなちっこいガキが山奥に一人で住んでいるのかという、素朴な疑問が生じた。念の為に言っておくが、別にこのチビ助を心配しているんじゃねぇ。ちょっと気になっただけだ。

 それに、にわか知識だが式神ってぇと陰陽師が使ってる感じのアレだろ? 札を飛ばして何かそれっぽいヤツを召喚する。ひょっとして、安倍晴明みたいな平安時代の遺物までリアルタイムで存在すんのか?

 ところが、オレの推測は外れることになる。挙句の果てに、予想の斜め上をいく答えが返ってきやがった。

 

「橙は藍しゃまの式神です。それにちゃんとお家に帰ってます」

「ハァアアッ!? 乱射魔ぁああ!?」

 

 オレの脳裏にイメージ映像が過る。ランボーやらコマンドーやら、図太い腕に重火器を担いだ褐色筋肉ムキムキの漢の姿が鮮明に映った。脳内を占めるガチムチが戦場で一斉射撃をブッ放つ。それも「ちぇぇええん!!」とか叫びながら。猫っ子を引き連れて。

 昨日に教わったばかりの弾幕ごっこというフレーズが浮かぶ。いやコレもはや「ごっこ」じゃねーだろ!?

 しかも実に恐ろしきことに、悪夢はまだ終わらなかった。

 

「藍しゃまは九尾のスゴイお方です。とっても強いです」

「…………ッ!?」

 

 瞬く間にイメージ画像が描き換えられる。半裸の身体に予備の弾薬を巻き付けた褐色モリモリマッチョな益荒男がボディビルをキメてくる。引き締まったケツに九本のキツネ尻尾をことごとくブッ挿して、足元に猫耳のガキを仕えさせている地獄絵図。バカな……オレ達が、地獄のはずだ……ッ!

「どうかしたですか?」

「……………フッ」

 もう笑うしかなかった。このガキ、とんだ修羅場を潜ってやがる。

 あの繁華街だとしても、絶対に出くわしてはならない超危険人物トップ入り待ったなし。陰陽師で妖怪退治じゃなくて鉛玉が飛び交う紛争地帯の最前線だった。

 圧倒的な実力の差を前にして震えが止まらない。違う、こいつぁ武者震いだ。面白れぇ、予想以上じゃねぇかよ。幻想郷、やってくれるぜ。

 気付かず脂汗が顎を滴り落ちて地面を濡らした。おそらく手汗も酷いことになっているだろう。それでもどうにか、些か掠れてしまったが声を絞り出す。

「華扇、やっぱスゲーな此処はよォ……」

「少なくともあなたが考えていることは間違いなく間違っているということだけは断言できます」

 

 この時、オレは初めて冷め切った目をした華扇を見た。

 

 

つづく




猫一匹探す話に三話分の尺を使うとかイカれてやがるぜ!

三十話くらいで完結させるつもりだったけど、ムリですわ(諦観)
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