東方扇仙詩   作:サイドカー

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今年最後の投稿だと言ったが……スマン、ありゃウソだった

大晦日スペシャルっぽく平均文字数ぶっちぎりの九千オーバーでお届けしまっせ
みなさま良いお年を


第六十話 「怨念が中におんねん」

「うそ……」

 茨木華扇がその場に降り立った時にはもう、そこに居たのは彼女がよく知る男性ではなかった。彼とは似ても似つかない有り様に少女は言葉を失う。

 毎回オールバックに固めていたヘアスタイルは、ボサボサに搔き乱されて薄汚い浮浪者もかくやに落ちぶれてしまっていた。崩れた髪型の下で、血走った眼球がひん剥かれて狂気を醸す。口の両端を歪に吊り上げ、上体を振り子のようにゆらりゆらりと傾ける姿勢が不気味さを際立たせる。

 耳を塞ぎたくなる哄笑が仙人の胸をざわつかせる。赤みがかった瞳に強い意志を宿して、彼女は黒い青年に憑く何者かを睨みつけた。

 

「綿間部をどこにやったのですか?」

『何もしていないとも。ただ落ちていた物を拾い有効活用したに過ぎぬ』

 

 彼の口で、彼じゃない誰かの台詞が紡がれる。

 その者は彼の眼を使って、華扇のスタイル抜群な肢体を舐め回すように眺めると、いやらしく目を細めて舌なめずりした。ちっとも隠そうともしない視姦行為に、少女の頭が怒りで煮沸する。その一方で、絶対零度に凍てつくゾッとする寒気も走った。

 ただでさえ地底の怨霊を疎ましく思っているのだ。下卑た面相が見るに堪えない。よりにもよってあの青年の顔でされるのが辛かった。

 仙人としての矜持がなければ殴りかかっていたかもしれない。それぐらい今の彼女は腹を立てていた。

 

「このような行いをして、どうなるか理解しているのですか」

『はて? どうなるのだろうなぁ? クカカッ』

「――ッ!」

 

 こちらの神経を逆撫でする挑発めいた文句に華扇の顔がますます険しくなる。知らずうちに己が拳をキツく握り締めていた。

 鬼にも匹敵する威圧感を放つ彼女に、地獄の女神ヘカーティア・ラピスラズリが静かに言葉を落とす。

「ごめんなさい。私が近くにいたのにこんなことになっちゃって」

「いいえ、悪いのは全てあれです」

 桃色の髪をした仙人は赤髪の女神を責めはしなかった。そうだ。彼女に非などあるはずがない。

(なぜ地底で綿間部と一緒に行動していたのかは気になるところですけど)

 きっとあの男が道案内でも頼んだのだろう。ただ、なんで彼が女神のとよく似た黒いTシャツを身に付けているのかはわからない。それについては後でじっくり問い質そう。

 

(そのためには、否が応でもこの状況を打破しなくては)

 

 もとより交渉する気など微塵もないが、まずは罪人の魂と会話を交える。忌々しい怨霊が彼の体内に留まっている限り、慎重にならざるを得ない。

 

「何が望み?」

『クカカ、知れた事を。悠久の時を経て生き返ったも同然なのだぞ? この肉体で思うが儘に生を謳歌するまでよ。こやつの代わりにな。手始めに地上に赴き人間どもの集落に溶け込むとしよう。道往く者から財布を掠め取って無関係な輩に濡れ衣を着せてやろうか? 誰もがいがみ合い憎しみ合い貶し合うような悪評を流して殺伐とさせようか? たらふく飯を喰ったうえで代金を踏み倒してしまおうか? 軟弱な餓鬼を脅して恐怖に震わせるのも、非力な女を力づくで組み伏せて従わせるのもそそられる……嗚呼! 嗚呼! どれもこれもが甘美な蜜よ! 想像するだけで達してしまいそうになる!』

 

 まるで演劇のように大手を掲げて醜い妄言を熱く語る。夢に魅入った恍惚の様相を浮かべており、なのにその瞳は濁りくすんでいた。

「最低ね。しかも地獄にも行けなかった罪人にしては少し考えが小者なんじゃないかしら?」

『ふん、ならば女子供を惨たらしく殺して見せようか? 丁度、目の前に上玉の女と餓鬼がおるようだしなぁ? クカ、クカカカカ』

「……救いようがないわね」

 地獄の女神が皮肉を吐き捨てても、それがどうしたと言わんばかりに奴は面白がった。あまつさえ彼女たちをいたぶる場面を思い描いたのか、耳障りな高笑いが響き渡る。

 その最中に、かなり苛立ったクラウンピースが一歩踏み出して啖呵を切った。

 

「やい! ブラザーの体から出ていけ!」

『威勢の良い餓鬼だ。嫌だと言ったらどうする?』

「あたいがお前をやっつけて追い出してやる!」

 

 小さき者の果敢な勇姿を、下劣な悪漢の魂はさも滑稽だと嘲笑った。あからさまに侮った態度をされて、地獄の妖精がますます憤慨する。地団駄を踏んで叫んだ。

「バカにするな! これでもくらえ!」

 得意の弾幕を撃とうと身構え――

 

『おっと動くな? この男の体がどうなっても知らんぞ?』

 

 しかして、妖精の動きは相手に先読みされてまんまと遮られてしまう。それも、わざとらしく人質を見せびらかして。

 次いで、操られた男は足元に落ちていた石桜を見下ろす。鋭く尖った欠片を拾い上げ、切っ先を金髪の幼き子どもではなく自らの腕に押し当てた。

 その途端、嫌な予感がして華扇が咄嗟に声を上げる。

「待って――」

『クカカ……!』

 仙人の制止に耳を傾ける素振りすらなく。彼に巣食う邪悪な霊はニチャァと口角を上げて、肘から手首にかけて容赦なく切り裂いた。右腕の肉が削がれ、抉じ開けられた傷口から赤く色付いた血液がドクドクと脈打ちながら滴り落ちる。

 あまりにも悲惨な光景を前にして、華扇は息苦しげに胸元を抑え込んだ。瞼の裏側が真っ白に焼き付く。

 

『アァアア、痛い……イタイ、イタイイタイイタイ! カカカッ、痛みなぞいつ以来であろうか!!』

「何てことを……ッ!? よくも綿間部の体を弄んで!」

「やめてよ! ブラザーにひどいことしないで!」

『ヒヒヒ、余計な真似をするともっと酷くなるぞ? 嫌なら大人しくするのだなぁ?』

 

 罪人の非道な行いによって、クラウンピースは心に怯えを植え付けられた。人を狂わす炎を宿した松明の持ち主が、唯々叱られた幼子と同じく小柄な肩を震わせてしまう。

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 鼻水を垂らして泣きじゃくる妖精を女神が後ろから抱きしめた。

「大丈夫。クラッピーは悪くないわ。よく頑張ったわね。あとは任せて」

「彼女の言う通りです。心配いりませんよ。あれが綿間部を殺すことはないでしょうから。みすみす宿主を手放すなど到底あり得ません」

 褒められた言い方ではないが、この子が取り乱したのを見て幾分か冷静さを取り戻せた。自身にも言い聞かせるつもりで、華扇もヘカーティアと共にクラウンピースを慰める。

 

 嗚呼。だが、しかし。此処に蔓延る不運に終わりはなかった。残酷な運命は健気な乙女たちの想いをどこまでも踏みにじる。

 

『はたしてそう思うか? これほどまでに塩梅の良い肉体を失くすには確かに名残惜しい。が、如何せん蘇ったばかりで加減が難しい。手元が狂ってうっかり殺してしまいそうだ……こんな風になぁ? クカカッ』

 

「な――」

 ()()を見て、桃色の仙人が再び絶句する。

 黒い青年に憑依した禍々しい存在は彼の体を自在に操り、今度は鉱石の刃を首筋――人の急所たる頸動脈に刺し込み始めた。まだ辛うじて浅くても、あれの気まぐれ次第で一歩間違えれば深々と突き刺さってしまう。

 まるでカウントダウンを刻むかの如く、奴はじわじわと皮膚の上から凶器で脅かしてみせた。

 おぞましい未来を仄めかされて、華扇の顔から血の気が引いた。包帯の右腕を使おうにも不意を突けるタイミングがない。間に合わない。嫌だ。失いたくない。

 

「や、やめて……」

『ヒヒヒ。良い、良いぞぉその顔ッ! 実にそそられる! 見たところ貴様はこの男を好いておるようだなぁ?』

「そ……そんな、こと……」

『さぞ殺し甲斐があるだろうなぁ?』

 

 外道の高笑いが薄暗い空洞を伝って反響する。

 最悪の手詰まり。気丈な仙人の心はすでに折れかけていた。

 力なく項垂れて、淡い桃色の前髪が彼女の整った顔立ちを隠す。為す術を失った少女は、どうか許しを乞うように掠れた声を絞り出す。

「どうすれば、綿間部を開放してくれますか……?」

『クカカ。そうさな。その美しい顔が苦痛に歪んでいく様でも拝ませてもらおうか。なぁに殺しはせん。なにせ殺してしまってはそれまでだからなぁ』

「あ、う……」

『もしかすると満足すれば潔くこの肉体を手放すやもしれぬぞ? ん?』

 悪魔の囁きが嘯かれる。偽りと欺瞞に塗れた甘言が、たった一本の救いをもたらす蜘蛛の糸に映った。それがたとえ毒蜘蛛の罠だとわかっていても。

 赤みがかった瞳が悲しみに濡れる。仙人ともあろう者が、こんな低俗な輩の言いなりになるしかないなんて。

 でも、どんな責め苦を受けようとも、万に一つでも彼を助けられる可能性があるのなら賭ける。だって私は人を導く仙人なのだから。綿間部を見捨てるなんてできない。したくない。

 

「わかり、ました……」

『ヒヒ、良い返事だ。そこの女もだ。わかっておるな? もし抵抗すればこの肉体を今すぐ切り刻むぞ?』

「女神に手を上げようだなんて、とんでもない不届き者がいたものね」

「そんな!? ヘカーティア様ぁ!」

「大丈夫よ。クラッピー」

 

 深い絶望の中、一縷の望みをかけて華扇とヘカーティアが僅かに目配せを交わす。

 仙人と女神、どちらも並の人間よりは強い身体を有する。そう易々と敗れたりはしない。兎にも角にも耐えて、彼奴めの気持ちが一瞬でも緩んだ隙を突く。彼の中から怨霊を押し出すのだ。恐らくそれが最後のチャンスになる。

『さぁ、こちらに来るが良い』

 命令に従順な振りをして、彼女たちは横並びに立たされた。両者ともに女として恵まれた身体をしているために、豊満な胸や短いスカートから剥き出しの太腿のあたりを粘っこい視線で撫で回される。

 屈辱だった。けど、我慢するしかない。本来の彼だったらこんなこと絶対にしないのに。

 

「Please! お願いだよぉ! もうやめてよ! ヘカーティア様っ、ヘカーティア様ぁ……っ!」

『心配せんでも良い。次は貴様の番ぞ? 乳臭い小娘が泣き叫ぶのは見ていて愉しいのでなぁ』

「まさかクラッピーにまで手に掛ける気?」

『クヒヒ、応とも。その前に貴様等よ。気道を塞ぎ息苦しさに喘ぐ面を愉しむとしようか。殴り倒してしまってはせっかくの顔が拝めんからなぁ?』

 

 ご丁寧に前もって教えてくれる。所詮、不安を燻らせるだけの悪趣味でしかなかった。魂胆がわかってしまう分、悔しさが増す。

 彼の――否、怨霊の腕が抵抗できない女たちの首元へ伸ばされていく。わざわざ彼女たちを並べたのは二人一緒にいただくためだったらしい。その強欲さに関しては罪人なだけあった。

「くっ……!?」

 差し迫る辱めに華扇は身を固くする。負けてなるものかと奥歯を食いしばり、でも現実を直視したくなくてギュッと目を閉じてしまう。

 ついに悪党の指が茨木華扇とヘカーティア・ラピスラズリの喉を鷲掴みにしようとした。

 

 ――が、なぜかその動きが寸前のところで突如止まった。

 

『……な、んだ。これ、は?』

 

「…………ぇ?」

 怨霊が口にした不可解な一言が聞こえ、桃色の少女が恐る恐る瞼を開く。

 あの青年からは想像もつかないおどろおどろしい形相が眼前にあった。思わず悲鳴を漏らしそうになったのを必死に飲み込む。

 何かが起こっていた。邪悪な彼奴が戸惑いを抱くほどの予想外の何かが。

 男の足が一歩、二歩と後ろに下がる。まるで拘束された四肢を無理矢理にでも動かしているかのように。

 そして彼の口から、静かな怒りに満ちた声が放たれる。ずっと聞きたかったぶっきらぼうな口調で、

 

「テメェ、この女に手ェ出したら骨十五本折って殺すぞコラァ……ッ!!」

 

 

「綿間部ぇ!」

「将也君!」

「ブラザーッ!」

「フッ、待たせ――」

『――この人間めが、自力で自我を奪い返しおったか!? おのれ往生際の悪い――』

「――うるせぇバカヤロコンチクショウがオラァ! よくもヒトの大事なモンをブチ壊そうとしてくれやがってよぉ! あと勝手にオレの身体乗っ取りやがって不法侵入やぞワレェ!」

 凄まじい激情がヒートアップし過ぎて、ぶっきらぼう通り越してヤクザ口調になりつつあった。正義の怒り? 違ぇよ。ただのマジギレだ。

 オバケがオレの体内に住み着いているおぞましさもある。だが、それ以上にオレの体を使って華扇とヘカーティアを傷つけようとしたのがダントツで許し難い。野郎ブッ殺してやる。

 今にも泣きそうな赤みがかった瞳を見た瞬間、雁字搦めになっていたオレの理性が雄叫びを上げた。鬱陶しい呪いの鎖を引きちぎってみせた。

 

 ゼッタイに、この女だけは何があっても傷つけさせねぇ……!!

 

「華扇! オレごと殺れ! 死体になっちまえばコイツも操れねぇんだろ!?」

「で、でも……」

「でもじゃねぇ! オレじゃこのバケモンを追い払えねぇんだよ――ぐおっ!?」

『――ヒヒヒ、わかっておるじゃないか? おどかしおって非力な人間風情が― ―なに!?』

「――テメェだってどーせくたばる前は人間だったんだろうが!」

 まるで下手な一人芝居かパントマイムの如し。一つの体から二人分の言葉が交互に飛び出す。

 目に見えない精神世界ではオレとヤツとのマウントの取り合いが勃発していた。取って取られて取り返して取り上げられて取り戻す。ゲシュタルト崩壊が起きしそうなレベルでワケがわからなくなってくる。

 何度目かの主導権を奪取して、すぐさま仙人サマへ怒号を飛ばす。

「早うせぇや華扇! オレがオレじゃなくなっちまう前に!」

「ま、待ってください! 他にも方法があるはずなの。だから、だからもう少し頑張って! お願い……!」

 またもや泣きそうなツラになって仙人サマが躊躇ってしまう。ここにきて最後の一手が決まらない。

 いくらガンバレと言われてもこちとらすでに力負けし始めており、このままだと完全に乗っ取られるのも時間の問題。だとしても、オレっつー存在が消えてもなお体だけが己の意思とは無関係に悪事の限りを尽くすなんざ冗談じゃない。それもうゾンビと同類じゃねーか。

「!?」

 ドクン、と重苦しい動悸が心臓に鳴り響く。脳ミソがやたらめったら乱高下して掻き回される。ヤバイ。また奪い取られちまう……!?

 

「ぐぉおおおあああッ!?」

「綿間部!? お願い、負けないで!」

「無茶言うなや……! クソッ、こうなりゃヘカーティアでもクラウンピースでもいい! やっちまえ! オレごとブッ殺せ! 遠慮すんな! 祟ったりしねぇから!」

 

 ありったけの声量を飛ばしてこの場にいる連中を叱責する。

 そらオレだって好き好んで死にたくない。けどもう時間が残されていないのだ。もし自爆装置があったら迷いなく押していただろう。

 ところが、桃色ミディアムヘアの女だけでなく女神サマもチビ妖精もこちらの要望に反して手を下そうとはしなかった。ヘカーティア・ラピスラズリがそっと瞼を伏せ、クラウンピースは大きく首を横に振って駄々をこねる。

「ごめんね将也君」

「No……嫌だよ、できないよぉ……」

「だーもうどいつもこいつもヘタレやがって――がっ!?」

 とうとう力の均衡が揺らいだ。オレの中にあった何かが逆転する。

 辛うじて自我は残っていた。しかし己の体が理性とは裏腹に動き始める。支配権が再びヤツの手中に落ちた証拠であった。

「げ…………この、ヤロっ」

「綿間部!?」

「将也君!」

「オメーら離れてろ!」

 怨霊のヤロウとてつもなく執念深かった。女二人の首を絞め落とそうと徒手が喰らいかかる。しかも逃げろつってんのに仙人サマも女神サマもこっちの心配をしていやがった。

「さっせるかぁぁあああああああっ!!」

 外道なんぞの好きにさせて堪るものかと全身全霊で抗う。手足を踏ん張り、思いがけず力が籠ったせいで腕の傷口からの出血量が増す。だぁあクソ痛ぇ! 痛覚はオレ持ちかよ気が利かねぇな!

 

 その時、不思議な事が起こった。

 

 喉笛に噛みつかんとする指爪を地面へと逸らし、どうにか女二人から狙いを外す。

 しかしそれも束の間、下向きに抑えつけていた両腕がまたも反旗を翻し、勢い余って振り上げられた。そいつはさながら象の鼻の如く天高く嘶く。

 あろうことか、その際、荒ぶる左右の手が彼女たちのミニスカを捉えてしまった。

 フックの形に折り曲げられた指先が、それぞれの短い裾に引っ掛かり絡まって、そのまま思い切り引っ張り上げられる。まさに風を巻き起こす大振りで、一切合切の遠慮なく。

 捲られた二つの布地は、あたかも蕾が開花したみたいに眼前いっぱいに舞い広がった。

 

「ぇ……?」

「ぁ……」

「――――」

 

 小さな傷痕ひとつない真っ新な白い素肌が視界に飛び込む。

 スラリと伸ばされたふくらはぎまでなだらかな脚線美が描かれ、瑞々しく肉付きの良好な太腿が余すことなく晒される。隙間なく閉じられた内股の上を繊細な布地が覆う。

 レインボーカラーのミニスカの下に隠されていたのは、薄く透けた紫色のランジェリー。左右の腰の付近を紐で結び、T字型で布面積も際どいセクシー系であった。

 緑色の短い裾が捲れて、持ち主の品行方正な性格に反してかなり攻めたデザインの黒いパンティが露わになる。レース生地の装飾が花びらのように施され、アダルトチックな色気を増した大胆さで魅せる。そのうえ、キメ細やかな美肌とのコントラストが芸術的に眩しかった。

 

 この間、おおよそ五秒。

 

 怨霊ヤロウも予想だにしなかったらしく、いつの間にか体の制御が全てオレ側に戻っていた。

 ただし、ヤツだけではなく仙人サマと女神サマも唖然とした顔で目を丸くしておった。もちろんオレも。誰もがその場に立ち尽くす。

 

『……………』

 

 一応、この上ない絶好の反撃チャンスとなったハズだ。今を逃せば次はないかもしれない。ならばもう一度、彼女たちに発破をかけるべき。そうするべきなのだ。

 しかし悲しきかな、やっとこさっとこオレの口から出てきた言葉は決死の喝なんかではなく、コレであった。

 

「い、いや違う。今のはオレじゃねぇ。怨霊の仕業だ」

 

 へっぴり腰で自由になった左右の手を慌ただしく振って言い訳を捲し立てる男がそこにいた。

 必死に弁明するものの、紫色と黒色のランジェリーが記憶にこびりついて離れない。下があんな感じならブラもそれに見合ったものだろう。って、ナニ考えてんだオレは。

 

「もう、将也君ってば強引なんだから。そういうのはムードを考えてほしいな」

 

 赤髪セミロングの女神サマが茶化す。彼女にしてはホントに珍しいことに、ほんのわずかに頬を染めてレインボー色の裾に手を添えた。大人びた女が恥ずかしがる仕草に不覚にもドキリとしちまう。

 

 で、もう一人の女はといえば……

 

「ふふっ、ふふふふふふふ」

 

 それはそれは大変可笑しそうに笑っていた。

 目がヤバかった。瞳から光が消失しておった。怨霊を上回る虚ろさで瞳孔が定まっていない。世にいうハイライトが消えた状態であった。

 柔らかな桃色の髪を揺らして、白いシニョンと紅い中華衣装の仙人サマが一歩ずつ近寄る。オレは思わず後退してしまう。

 

「油断していました。ええ、油断してしまいましたとも。そうですよね。たかが怨霊に取り憑かれたぐらいで綿間部の破廉恥がなくなるはずなどありませんよね。私としたことが見誤ってしまいました。考えを改めなくてはいけません」

「オ、オイ……」

 

 無機質な笑みで迫る仙人サマに恐れをなして、あっちが一歩前に進む度にこちらは一歩下がった。

 ちょっと前までの泣き顔が嘘だったかのように、女が豊かな胸元の前でコキリと指を鳴らす。何という臨戦態勢。表情は依然として変わらず、なれどドス黒い怒りのオーラが溢れ出る。一方こっちは冷や汗が止まらない。

 

「先ほど自分ごとやれと言いましたね? ええ、わかりました。さぁ歯を食イシバリナサイ」

「いやちょいタンマ待った待った! やっぱり前言撤回だ! あとお前らの勝負下着見ちまったのはオレのせいじゃ――」

 

「うるっっさい!! こんの……ド変態の色情魔ぁあああああああああッ!!」

「ごぼぉぉぉおおおおおおおおっ!?」

 

 張り手――否、八卦掌が炸裂する。

 音速を超えて撃ち出された掌が一撃必殺の威力をもってオレの鳩尾を内臓ごと押し潰す。想像を絶するパワーの暴発が爆ぜて、衝撃波が背中を突き破った。さらに飛び出たのは余波だけではない。

 

『――――!?』

 

 まさかの人魂ドクロの怨霊も出てきた。どうやらヤツも八卦掌の直撃を受けたらしい。これぞ一心同体の弱点であった。なおオレの身体は一撃KOである。

 宿主の体内から引き剥がされて、悪しき人魂が猛スピードで一直線に吹っ飛んでいく。挙句の果てに、霊体の特性というか物理法則をガン無視して岩盤にブチ当たり、轟音を鳴り響かせて硬い壁面にヒビ入りの凹みが出来上がった。

 そしてトドメに、燃えカス同然となった死に損ないの目の前に、赤髪セミロングの女神サマと金髪フェアリーの地獄コンビが立ちはだかる。

「ちょっと()()()が過ぎたわね」

「I’m angry! もう許さないからな!」

 犯罪係数許容外。断罪宣告が下された。

 弾幕と思しき光弾が二人から放たれて怨霊を容赦なく撃ち抜く。エネルギーの弾丸に貫かれた人魂ドクロだったものは、青白い火の粉と化して散り散りになって消滅した。

 悪の目論見は完膚なきまで滅びた。もう脅かす者は何もない。ない、ハズなのだが――こっちはこっちで大変なコトになっていた。

 

「まったくもぉ! どうして綿間部はいつもいつもこんなことになるのですか!?」

「ォ……オゲェ……っ」

「わかっていますか? そもそも精神が未熟だから煩悩にも塗れるし怨霊にも好き勝手にされるのです。本当にもう、あれだけ心配させておいて結局はスケベなままだなんて信じられません! あんなに稽古したのに、まだまだ修行が足りないようですね。不規則な生活習慣も問題です。今回のことでしっかり反省して改めなさい。日の出とともに起床して、昼間は汗水垂らして懸命に働き、夜更かしなどせず安らかに眠る。そういう健康的な生き方をすることが大事なのです」

「おま、蹲って吐きそうになってるヤツに他に言うことないんか……?」

「あっ、そうです! さっきはガッツリ見てましたよね!? ちっとも目を逸らそうともせずに! もぉ! 綿間部のエッチ! エッチエッチエッチぃ!!」

「そっちじゃねぇだろ……!」

「あとその服は何ですか! ま、まるで彼女とお揃いみたいじゃないっ」

 

 もはや説教なんだか悪口なんだかわかんねぇ。ズキズキと痛む腹を抑えながら華扇の言及のマシンガンに打ちひしがれる。オマケに右腕からもかなりの血が失われてんのだが。誰か救急箱をくれ。

 結局、地獄コンビが戻ってきてもそっちのけ。女神サマはニコニコしてるだけだわ、アメリカン妖精は満面の笑みで「バンザーイ!」とかやってるわ。いや万歳じゃねーよ急患だよ。

 混沌の状況下にスキマが開かれて八雲紫がひょっこり現れる。

「お待たせしましたわ。そちらも用事が済んだでしょうしそろそろ地上へ――あらまぁ、地底で鬼と喧嘩でもしてましたの?」

「あー……ま、(説教の)鬼ならそこにおるわな」

「だだだっ、誰が鬼ですか!? 何の根拠もなしにいきなり変なこと言わないでください!」

 何か知らんけど鬼呼ばわりされたことに華扇が過剰反応してますます騒ぎ出す。顔を真っ赤にして説教の雨あられを浴びせてきやがった。いやうるせぇよ。

 でもこれが平常運転になりつつあるあたり、オレはもう手遅れかもしれない。

「綿間部!!」

「だーもう説教よりも先に応急処置してくれマジで頼むからぁ!」

 チクショウ、こんなの全然ハードボイルドじゃねぇぜ。

 

 

「あ、クロくんおかえり……わわっ!? どうしたの!?」

「華扇に襲われた」

「お、襲ってなんかいませんッ!!」

 

つづく

 




この作者にシリアスなんてできるわけないだろいい加減にしろ!
もしボーボボ時空だったら主人公の「オレごと殺れ!」な時点で弾幕総攻撃が飛んできたと思う

来年こそ完結させます(使命感)
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