東方扇仙詩   作:サイドカー

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オギャるって日本語考えたヤツはマジ天才だと思う今日この頃


第六十二話 「介抱と甘やかしプレイは全然違う」

 あれからもピンクカラーな三人娘から代わる代わる食べさせっこ(ただし一方通行)させられた。いよいよ腹がパンクしそうになった頃、やっと食攻めから解放される。死ぬかと思ったわ……

 食休みがてら酒を飲みながら談話に興じる。ようやく飲み会らしくなった。さっきまでのは一体何だったのか。当事者のオレですら未だにわからねぇ。謎に恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。

 そんな折、奥野田美宵が思い出したように問うた。

 

「ところでクロくん。その怪我だと色々大変じゃない? このままで大丈夫なの?」

「あー……そーだな」

 

 腹八分をぶっちぎり満腹の限界ギリギリまで追い詰められたおかげで反応が鈍る。ちょっとした質問に答えるのにも一苦労だ。フォアグラってぇのはこんな感覚なのだろうか。

 かろうじてゲップを堪えながら、少し間をおいて雑っぽく応じる。

「ま、別に骨が折れたわけじゃねぇし心配いらねーよ。どーにでもならぁ」

「そうなんだ。何か困ったら遠慮しないで言ってね? 私にできることならいつでも手伝うから。あ、でもお店のある時間はダメかもだけど」

「そらどーも。言っておくが、もうメシは自分で食うからな。ゼッタイに手出しすんなよ。わかったか?」

「うふふ、恥ずかしいからですか?」

「あぁそうだよ悪ぃかよチキショーめ」

 仙人サマの茶々にしかめっ面で言い返して、悔し紛れに盛大に音を立てながら日本酒を啜った。つっけんどんな口調とは真逆に素直に認めたセリフのギャップがウケたらしく、桃色ミディアムヘアの女はくすくすと笑みを零した。なにわろてんねん。

 すると、またしても何かしら思い付いたようで、鯨帽子の女がポンと両手を重ねた。ソプラノ声が楽しげに言葉を紡ぐ。

 

「あっ、そうだ。これでも私、耳掃除が得意なの」

「藪から棒に何だってぇんだ」

「だからクロくんにもシてあげる。お店が終わった時間に来てくれたら、こっそり内緒でサービスしちゃう。特別ね?」

「ハ――」

「はぃいいい!?」

 

 なぜかオレじゃなくて華扇がおったまげた。うるせぇよ。周りの連中から変に目立つだろうが。

 というか、看板娘の耳掃除とかどんな特殊オプションだ。知る人ぞ知る鯢呑亭の裏メニューかよ。それ違うタイプの店になんぞ。

「あはは、面白そうかも」

 さらに、ヤツメウナギ屋台を営む和服の夜雀もこの流れに乗っかってきやがった。何人もの常連客もとい彼女のファンを生み出してきたであろう、愛嬌のあるスマイルをたたえて追撃に出る。

 

「そういうことなら、あたしは子守歌でも歌ってあげようかしら。歌には自信あるもの。怪我を早く治すのにも安眠は必要不可欠でしょ? 何ならお客さんが眠りにつくまでお腹ポンポンしてあげる」

「え――」

「え、えぇええ!?」

 

 って、さっきからやかましいわ。お前オレのセリフ遮ってばっかりじゃねぇかよ。

「じゃ、じゃあ私は……!」

 オロオロと焦った様相で華扇が勢いのままに口走ろうとしている。どこぞの漫才じゃあるめぇし張り合わんでもエエだろうが。

 美宵の耳掃除(膝枕付き)もミスティアの子守歌(おそらく膝枕付き)も見方によってはカネが取れるサービスに違いない。二人とも容姿がかなりイイのもあって人気を博している女だ。が、耳掃除にしても子守歌にしてもわざわざケガ人に今すぐすることじゃねぇ。

 念のため言っておくが、別にケガしてなくてもやってもらおうとか思っちゃいねぇぞ。ハードボイルドな夜を生きる男に甘やかしプレイなんざ一切合切断じて不要だ(つい先ほどまで可愛い女の子三人から「あーん」してもらった男)

「ったく、ヘンなコトにいちいち気ぃ回さんでエエわ」

「そ、そうです! どうしてもというなら私が――」

 

「嗚呼、おいたわしや何でも屋さん」

 

「ぬおっ」

 色香の濃さが漂い、しなを作ったような甘ったるい声音が後ろから絡みつく。するりと白い細腕が背後から伸びて、あすなろ抱きで胴体に回される。妙に艶めかしい香水の匂い。

「青娥……」

「あらあら、せっかくの楽しい宴会にそんな怖いお顔はご法度ですことよ?」

 華扇が同業者を相手にしているとは思えないほどに苦虫を嚙み潰したみたいなツラをしておった。何となく理由はそれだけではなさそうだが。そういや直前に何か言いかけていた気がする。最後まで聞き取れなかった。

 しれっとオレの肩に顎を乗せて妖艶な顔を寄せるのは青い女仙人、霍青娥。またの名を青娥娘々。

 

「何の用だ」

「つれないことを言わないでくださいまし。何でも屋さんが痛々しい傷を負ったと聞き及びまして、わたくしこんなにも胸が張り裂けそうだったというのに」

 

 そう言いつつ両腕を組んで自らのご立派な乳を押し上げた。ただでさえ胸元がおっぴろげにした大胆な衣装だってぇのに、恥じらうどころか率先してご自慢の谷間を見せつけてくる。並みの男連中ならあまりのエロさに理性が酩酊しかねない。

 わざとらしさが見え透いてオレは興覚めするけど。ガン見したワケでもねぇのに赤蛮奇が冷たい視線を浴びせてくる。理不尽だ。

 神霊廟の連中は来ていないのかと探せば、豊郷耳神子をはじめとするメンツが守矢神社の神や巫女と座談会をしていた。宗教について熱く語っているのかもしれない。こっちもマジメか。

 オマケに喧しいヤツと並んでゴースト女が一緒にいるのも見つけて人知れず動揺する。地底での一件で苦手克服した気でいたのだが、どうにも思い違いだった模様。クソ、情けねぇぜ。

 青髪をメビウスの輪の形に括った美女がつらつらと述べる。

 

「わたくしもお世話して差し上げたくてお声がけしましたの」

「っかー、聞いてたんかよ」

「何をするつもりですか。それよりもいい加減に綿間部から離れなさい!」

「あぁん、いけず」

 

 臨戦態勢の華扇が霍青娥を力づくで引き剥がす。

 紛らわしい嬌声を上げんじゃねぇよ。あと何故にどいつもこいつも次から次へとこっちに来るんだ。あえて隅っこに集まるとか逆に怪しいだろうが。

「ウフフ」

「ったく……」

 霍青娥が唇を舐めて魅惑の流し目を送ってくる。

 どこか意味ありげな女の表情は甘い罠。いとも簡単に男を落として沈める底なし沼か、あるいは蟻地獄の如きえげつなさ。使い手は蟻というより夜の蝶みてぇな女だが。いちいちエロいのはどうにかならんのか。

「クロくん……」

「お客さん……」

「これだから男は」

 奥野田とミスティアもどことなく悲しそうな顔をしている。いやだからオレには効かないつっとるやんけ。軽薄な軟派チャラ男に思われるのは勘弁してほしい。あと赤蛮奇がさっきから辛辣過ぎる。オレがお前に何をした(パンツ見たことある)

 どよめく周りなんざ知ったこっちゃないと、魅了の女仙人が口説くようにご奉仕を持ち掛ける。

 

「耳掃除や子守歌よりも切実な問題ですわ。利き腕がままならないのなら、用を足すのも一苦労でしょう? ですので、わたくしが何でも屋さんの()()()()を。それに、殿方でしたら()()()()()()()()おられるでしょうし。わたくしでしたら何もかも気持ちよく全てスッキリさせてあげますわ。きっと心ゆくまでご満足いただけるでしょう。何でも屋さんが身を委ねてくだされば……ね?」

 

「ひゃぁ~……!」

 奥野田が生娘めいた腑抜けた声を出して緑の瞳を丸くする。さすがのミスティアも霍青娥のねっとり生々しい言い回しには気恥ずかしそうにしていた。赤蛮奇はブレない。

 オレの是非を伺おうと、色香に満ちた青い女仙人が密着せんほどに迫ってくる。甘ったるい香水の匂いが一段と近付く。群青色の瞳を潤ませてオレを見つめてきた。

「ねえ、いかが――」

 

「結構ですッ!!」

 

 直後、火山が噴火したような大声量が響き渡った。桃色ミディアムヘアの仙人サマが霍青娥の色仕掛けを寸前のところで阻む。オレの左腕に抱き着くかたちで。こちらも引けを取らないデカさの胸が柔らかい感触を押し当ててくる。だからお前そういうとこやぞ。

 オレを間に挟んで、マジメな仙人の鋭い視線と不埒な仙人の不敵な視線が交錯する。バチバチと火花が散った。意図せず仙人同士の口喧嘩が勃発する。

 

「そのようなふしだらな真似は断じて許しません! ましてや、あなたに彼を任せたらどうなるかわかったものではないわ。どのみち碌なことにならないのは目に見えています。引き下がりなさい。あなたが出る幕などどこにもありません」

「あら、心外ですわ。わたくし、むしろこの手の行為は得意分野ですのよ? こういうのは放っておくとかえって辛いというのに。ただでさえ痛みを背負っている身なのだから、例え気休めでも少しは苦しみを和らげてあげるのが優しさでしょう。嗚呼、それなのに慰めることすら許さず独りで我慢させるなんて酷いですわ。可哀そう」

 

 あからさまに白々しい憐れむフリをして霍青娥が挑発をかます。それを受けて、華扇がますます眉間にしわを寄せて目尻を鋭くさせる。いつしか火花だけでなく地鳴りすら幻聴となって聞こえてきた。

 あ、ヤバい。嫌な予感しかしねぇ。

 やがて女仙人たちのキャットファイトはクライマックスを迎える。案の定、どうしようもなく悪い展開に着地もとい墜落して。そして爆心地のド真ん中にいたオレは容赦なく巻き込まれた。

 

「そんなお固い態度ではいずれ愛想を尽かされてしまいますわよ?」

「余計なお世話です。あなたには関係ありません」

「まぁ可愛げのないこと。そもそも、わたくしを除け者にしたとして、あなたに彼の下のお世話ができまして? どうせ経験もないでしょうに。かえって彼を痛がらせてしまっては身も蓋もありませんわ」

「それくらいできます! あなたよりも私の方が綿間部を気持ち良くして中に溜まっていたものを全部残らず絞り出させてみせます! 彼の身体のことなら詳しく知ってますからッ!!」

「もうオメーら黙れよぉおおおおお!!」

 

 桃色な仙人サマの口からトンデモ宣言が飛び出して、間髪入れずオレの嘆きに近い叫びが人妖でごった返す博麗神社の境内に反響した。夜の澄んだ空気も相まってムダにエコーがかかった。

 やまびこのように音声を繰り返しながら、二人分の残滓が遠くまで届けて消えていく。

 しん、と辺り一帯が恐ろしいまでに静寂に包まれる。

 ありとあらゆる者共の目線がオレたちに集まった。ほとんどが年頃の乙女っつー状況も加わって、何とも形容しがたい居心地の悪さが圧し掛かる。オマケに薄らピンクに染まったむず痒い空気まで流れ始めた。

 

「――ハッ!?」

 

 悲報、茨木華扇ようやく正気に戻る。

 普段の品行方正かつ毅然とした凛々しい姿は何処へやら。美人な顔立ちを真っ赤にして羞恥と怒りに熱々の湯気を沸かす。一方でオレは逃げたかった。切に。今すぐに。

 上白沢女史は物凄い気まずそうに目を逸らし、三月精はわかってないのかアホ面でハテナを浮かべておった。いや、スターサファイアは何かしら察してそうだった。どっちにしても、聞こえてなかったという幸運なヤツはいないようだ。コレ詰んだわ。

 そんな中、モフモフの金色の九尾を揺らして藍ネーチャンが立ち上がり、イケメン女子な顔色を一切変えずにオレたちのところまで来ると、インテリっぽい澄まし顔で華扇の肩に手を置いた。

 

「床上手自慢の勝負事なら連れ込み宿でした方がいい。ここではやめたまえ」

「ち、ち、ちがっ!? 違いますからぁああああ!!」

 

 この晩、オレはしばらく博麗神社もとい幻想郷の宴会には近寄らないことを心に誓った。

 つーか便所だって一人でできるわ!

 

 

 後日。

 上白沢女史から耳寄り情報を聞き、「河童の秘薬」なるスゲー薬を持つ元漁師のジジイを訪ねた。そこで伊吹萃香から貰った金粒の大半を叩いた結果、あっさり腕のケガを治してもらうのに成功したのであった。

 って、最初からこーしておきゃよかったんじゃねーか……?

 

つづく

 

 




特殊道具「河童の秘薬」を使用したため永遠亭搬入ルート回避

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