東方扇仙詩   作:サイドカー

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妄想と執筆がノッてきたのではりきってニチアサに投稿ポチっと
今までやりそうでやってこなかったバレンタインエピソードついに解禁



バレンタインデー特別回 「恋と仙人とチョコレート」

「綿間部、今日が何の日か知っていますか?」

「節分はもう終わっただろうが」

「ひぅ!?」

 節分っつーワードを耳にした途端、右腕に包帯を巻いた女が怯えたように肩をすくませて短い悲鳴を上げてしまった。

 大豆アレルギーなのかイマイチよく知らんけど、茨木華扇は豆が苦手らしく下手すりゃ触るのもダメなのだとグチっていた。水膨れができるとかで乙女の肌に悪影響らしい。そら大変なこって。

 そのせいでか、かの仙人サマも来たる節分の日は難儀しておった。例えば外を出歩く際にはオレの背中に隠れるようにしたり。とにかく豆撒きの巻き添えに遭わないようにと細心の注意を払っていた。どーでもいいけどオレを盾にすんなよ。

 ちなみに当日、クラウンピースと三月精を筆頭にガキんちょ共がオレに豆をぶつけてきたので、ドスの効いたチンピラ顔で執拗に追いかけ回してやったのは記憶に新しい。

 ボケ―ッと回想に浸っていると、淡い桃色のミディアムヘアな女が拗ねた顔で頬を膨らませた。

 

「そうではありません。もぉ、今日は何月何日か言ってみてください」

「そら二月十四日だろ……って、まさか」

「はい。ばれんたいんでー、です」

 

 ようやく正解を引き当てられたのがご満悦なようで、華扇はにっこりと笑みを綻ばせた。何となく発音が中途半端だった気もするが、そいつはさて置き。

 本日はバレンタインデー。オレが元いた『外』の世界では今頃、全国の男子学生諸君が下駄箱の中やら机の中やらを入念に調べているのであろう。いや、今日は日曜だからそれすらも叶わねぇのか。人の夢と書いて儚いとはよく言ったモンだわな。

「つーか、幻想郷にもその文化あんのか」

「私も早苗から聞いただけなので詳しくは知らないのですけれど。女の子が意中の相手にチョコレートを贈る日、ですよね?」

「あー……ま、あながち間違っちゃいねぇけど」

 また随分と古典的というかマジメくさった知識が出てきやがった。確かに元ネタとしちゃそんなところだってぇのはハズレじゃない。いや、もっと歴史的な起源まで遡れば全然違ぇんだろうけどよ。オレもそこまでは知らん。誰か偉いヤツの生誕日だか命日だっけか?

 やにわに華扇が赤みがかった瞳を気恥ずかしげに逸らしながら、自らの人差し指同士をつんつんと突き合わせて言葉を零す。

 

「でも、外の世界の人間は大胆なことをしますね」

「んぁ? 何でや」

「だって、チョコレートをあげたということは即ち、自分がその人をお慕いしていることを伝えたのと同じではないですか」

「んな大袈裟な……」

「大袈裟なものですか。言わば恋文と同義でしょう」

「そーかぁ?」

「はい。そうですとも」

 

 クソマジメな仙人サマらしい深読みの凄さにかえって感心させられちまう。ここまでくるといっそ純粋に思えてくる。あるいは仙人たるもの清い心が必要なのかもしれない。なお、食べ歩きが好きなあたり既に俗世に染まっておる模様。

 半ば呆れていると、桃色の女がどこかもどかしそうにオレの顔を覗き込んだ。無自覚の上目遣いがあざとい。顔立ちが整っている分、ほんの少しだけ意識してしまう。

「ところで、綿間部は女の人からチョコレートを貰ったことがあるのですか?」

「さぁてな。そーゆーのにはからっきし無縁だったしよ。少なくともオレが覚えている範囲じゃ一個もねーな」

「そ、そうですか…………よかった」

 バッチリ聞こえてんぞオイ。ったく、何がよかったんだか。

 というか、そんなコトを確認するためだけに、わざわざ朝っぱらからオレんとこ押し掛けてきたのかよ。

 

 

「くぁあ……」

 欠伸混じりに人里の往来を歩いていく。なしてこんな日に朝から見回りせにゃならんのだ。それも自主的に。ついてねぇ。

 いかにも面倒くさそうにダラダラ足を動かして、仙人サマに「しゃっきりしなさい!」と喝を入れられる。そんな下りを数回ほど繰り返していたら、人里の守護者サマと道端で遭遇した。

「やぁ、黒岩に華仙殿。今朝は早いのですね」

「慧音さん。おはようございます」

「うす」

 角ばったデザインの個性的な帽子が似合う女人がにこやかに挨拶してくる。

 よくよく見ずとも綴り紐で結んだ昔ながらの製本と漆塗りの箱を携えていることに気付く。彼女のもう一つの職業、寺子屋の教師なる立場を考えられば自ずと答えは導き出せる。

「これから授業か? ご苦労なこって」

「こら綿間部、失礼ですよ」

「はは、彼らしくて結構じゃないか。ああそうだ。ここで会えたのも何かの縁だろう。よかったら二人にもお裾分けしよう」

 好きなものを選んでくれ、と。そう前置きして、上白沢女史は手にしていた上質そうな箱の蓋を外す。すると、カカオ風味の甘い匂いがふわりと浮かんだ。一口大のチョコレートが仰山詰まっている。

 可愛らしいスイーツに興味津々な華扇がまじまじと箱の中を覗き込む。

 

「これは?」

「今日はバレンタインデー。大人が良い子にお菓子を配る日なのだろう? 寺子屋で学びに励んだ教え子たちへのご褒美として、かねてより準備したものだ」

「いやそれクリスマスとハロウィンも混じったイベントになっとるがな。あー、言うてもそこまで的外れでもねぇけどよ」

「そうなのですか?」

「まーな。義理チョコなんざ昔からあるし、最近かは知らんが友チョコつって女ダチ同士でチョコの交換会しとるのも珍しくねぇぞ」

「なるほど、そういうものなのか。ならばあとで妹紅にも用意しなくてな」

 

 どうにも幻想郷のバレンタインデー文化は、正しく伝聞してんだかどうなんだかビミョーなところであるらしい。そこら辺は東風谷が上手く広げられるのかがカギとなるかもしれん。

 とりあえず、チロルチョコっぽいスイーツはオレと華扇で一つずつ貰った。

 

 

 意外なコトに、その後も女性の知り合いに会っては次から次へとチョコを恵んでもらった。冗談抜きでハロウィンかよ。

 奥野田美宵とミスティア・ローレライはそれぞれの店に来てくれた客に、本日限定のサプライズとして仕込んできていた。不特定多数にあげるため質より量を重視しつつ、上白沢女史と同様にミニチュアなチョコを大量に蓄えていた。ただ、オレには心なしか一回り大きいチョコをくれた。言うまでもなく美味くて、どちらも舌の上でほどよい甘さが蕩ける。

 稗田邸の前を通りがかれば、当主の令嬢が門番に差し入れているところに出くわした。そのまま世間話ついでになし崩し的にお零れを頂戴しちまった。名家らしい高級な味がした。

 さらには貸本屋『鈴奈庵』の一人娘までもがチョコを備えていやがった。もっとも、こっちは栗色のツインテもどきを揺らしながら「お返し期待してますよ?」などと、商売上手っつーかちゃっかりしとる始末。ったく、お転婆なクセして抜け目がない。

「~~♪」

「やれやれ……」

 そのうえオレと一緒にいたことで華扇もご相伴に預かれる。甘いお菓子いっぱいで仙人サマも鼻歌を口ずさむくらいにご機嫌であった。満喫してんなぁコイツ。

 

「あら、将也君」

「珍しいじゃねーか。あんたがこっちに来てるなんてよ」

 人里に流れる水路の川べり、そこに架けられた木造アーチ橋の手すりに赤髪セミロングの女が寄り掛かっていた。レインボー色のミニスカからスラリと生足を伸ばして、地獄の女神が大人びた微笑みをみせる。

 ヘカーティア・ラピスラズリはどこで買ったのか細いスティックのビスケットにチョコレートをコーティングした菓子を摘まんでいた。どう見てもポッキーじゃねーか。

「わざわざこんな場所まで何しに来たんだ?」

「ちょっと気になるお菓子の噂を聞いてね、クラッピーの様子見ついでに買っていこうかなって」

「もしかしなくてもそれか?」

「うん、そう」

 紙コップにも似た容器に何本もポッキーっぽいオヤツが入っており、ド田舎異世界なのにオシャレな街中のテイクアウト感を演出していやがった。年上めいた美人が橋の上でそれらしいポーズをとって佇んでいるのもあって、あたかもレディス雑誌で撮影するプロモーション写真の如し。

「将也君も一本食べる?」

「くれるってぇんなら貰うけどよ」

 勧められるがままテキトーに一本だけ引き抜いて、懲りずにタバコ感覚で咥えた。クラウンピースがいないため、いつだったかと同じく火を付けられる恐れはない。アレしばらくトラウマになったかんな。

 地獄を司る女神サマは仙人サマにも勧めていた。当然、華扇がそれを断るハズもなく、ポリポリとリスみたいに幸せそうに齧っていた。わかりやすいやっちゃな。

「あ、そうだ」

「ン?」

 突然、ヘカーティアが悪戯っぽい表情を浮かべてオレの前に立つ。何やら企んでいそうな女神サマと向かい合う。生憎とこっちはポッキーを咥えたままなのがカッコつかない。華扇もキョトンとする。

「動かないでね」

 そう言って、女が背伸びしたかと思ったのも束の間――

 

「はむっ」

「ンンンッ!?」

「はわぁ!?」

 

 あろうことか、赤髪セミロングの女神サマはオレが口にしているチョコ菓子の先っぽを、その艶やかな唇で軽く包んだ。その瞬間、美しい顔がかなり近くまで寄せられる。おまっ、いきなり何しやがんだ!?

 ヘカーティアの後ろで華扇がとんでもなく驚いたツラしてんのが見えた。大きく目を見開いて衝撃エフェクトの落雷を浴びている。いっそオレよりリアクションがデカいまであった。

 両方の先端を咥えた時間は長くは続かず、その名の通り真ん中のあたりがポッキリと折れた。おねーさんキャラな女が一歩後ろに下がる。

 半分の長さになったチョコ菓子をぺろりと平らげたヘカーティアが、お得意のウインクをつけてお茶目に揶揄ってきた。

「ハッピーバレンタイン♪ 外の世界にはこういうゲームがあるって聞いたんだけど、実際にやってみるとおもしろいわね。もう一本どうかしら?」

「……勘弁してくれ」

「う~~!! 何デレデレしちゃってるんですか馬鹿者ぉ!」

 なぜか悔しそうに華扇がオレの襟首を掴んでガクガクと揺さぶってきた。

 ちょバカやめろ揺らすなマジで! あとデレデレしてねぇかんな!?

 

「もぉ! ちょっと目を離したらこれなんですから、本当に油断ならない破廉恥な人ですね!?」

「さっきのはオレのせいじゃねぇだろ……」

「言い訳無用!」

「何でやねん」

 おかんむりなワリには未だにオレと離れようとせず、あまつさえ仙人サマのお小言も止まらない。これぞ女心の難しさというヤツか。おかげでこっちはタジタジなワケだが。

 プクーと頬を膨らませて華扇が疑わしげな眼差しでオレを見上げる。

「本当にこれまで貰った経験がなかったのですか? 今日一日だけではたして何人の女性からチョコレートを受け取ったことか」

「オメーと同じ数だよ。ずっと一緒におっただろうが」

 ぶっきらぼうに受け答えながら、白いシニョンと桃色ミディアムヘアの仙人サマと道を往く。余談だが今日貰ったチョコのほとんどはその場で食ったので持ち帰りの品はない。

 とりあえず気持ちを切り替えてフッと一息つく。

「ま、なんにせよバレンタインがどんなモンかわかったろ」

「そうですね。想い人への気持ちだったものが、いつしか親しい間柄で贈り合う風習へと移り変わっていたのですね。思いやりに溢れてとても良いことだと思います」

「ったく、マジメか」

 相変わらずな性格に苦笑しつつも、この女らしいとどことなく安心した。

 それからも他愛のない会話をしながらのんびりと歩いていく。

 

「――あの」

 

 ふと、華扇が立ち止まった。

 夕日を背中に浴びた中華衣装とミニスカの女が茜色に染まる。何かを言い淀むようにして所在なさげに立ち尽くす。そんな姿でさえも、なかなか絵になっていた。

 

「えっと、あれだけ他の方々が配っていたのに私だけ渡さないというのも不義理ですし……その、どうぞ」

 

 まるで精一杯の勇気を振り絞ったかのように、ギュッと目を閉じながら華扇が両手を前に差し出す。その手には、丁寧にラッピングされた小さな箱があった。

 いくらオレでも、この状況でわからねぇほどアホンダラではない。

「オレにか?」

「は、はい……」

 おそるおそる瞼を開き、華扇がオレを見つめる。ほんの一時の間だけ、仙人という立派な肩書きを置き去り、それこそ年頃の乙女のような期待と不安が入り混じった表情を浮かべる。頬も仄かに赤らんでいた。

 もう一度、確かめるように桃色の女が言葉を紡ぐ。ささやかな祈りを込めて。

 

「受け取ってくれますか……?」

「おお、サンキュな」

「――はいっ」

 

 ぱあっと本日一番の笑顔を咲かせる。そんな嬉しそうな様子を見せられて、ついついオレまで口元が緩んでしまう。

 せっかくだからコイツもその場で開封する。箱を開ければ、これまたベタなハート形のチョコレートが一枚ばかし入っていた。いかにもなバレンタインチョコに可笑しさが込み上げる。

 ふと思った。今日一日オレと共にいたワケだが、華扇がチョコを買っているところは見てないし、そんな素振りすらなかったハズだ。

 てことは、だ。ぶっちゃけ初っ端からコレを用意していたんじゃなかろうか。まったく妙なところで勿体つけおってからに。

「………」

 いや待てよ? 仮にコレが最初からあったとして、けれども今朝の時点ではまだ華扇はバレンタインを深読みしていなかったっけか。確か……

 

『女の子が意中の相手にチョコレートを贈る日、ですよね?』

 

『だって、チョコレートをあげたということは即ち、自分がその人をお慕いしていることを伝えたのと同じではないですか』

 

「綿間部? どうかしました?」

「……フッ、何でもねぇ」

 

 いやいや、まさかな。それこそオレの深読みというか勘違いだろう。義理チョコだ、義理。もしくは友チョコ。なんだかんだ言って付き合いの長さはそれなりになるワケだし。

 いずれにしてもこのチョコは後で美味しくいただくとしよう。ここでちゃちゃっと食っちまうのは何となく勿体ねぇ気がする。

 

 嗚呼、それと。

 

 来月のホワイトデーは気合入れて三倍返しにしねぇといかんわな。

 

特別回fin

 




次回は本編に戻りんす

昨日エ□ゲ6本くらいまとめ買いしてきたので更新遅れたらスンマソン
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