東方扇仙詩   作:サイドカー

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問題! 〇〇に入るのは何でしょーか!?


第六十四話 「茨木華扇は〇〇が上手?」

 メシも酒もあらかた食い尽くした頃。

 

「みんな、よかったらデザートも食べてみない?」

 ミスティア・ローレライが隠し玉とばかりに趣向を変えてきた。

 和服女将の鳥娘がタッパーを取り出して人数分の小皿によそうと、それぞれの前に手際よく配った。しばらくぶりにプラスチック容器を見たせいか、タッパーとかあんのかと場違いな感想が浮かんだ。

 いや、よくよく考えたらタイムスリップしたワケじゃねぇ。そりゃあってもおかしくねぇわな。

 白い皿に小ぶりな赤い果実が乗っている。か細い茎の緑色も組み合わさって俗に言うインスタ映えしそうなくらいには見栄えも良い。五月から七月が旬とされる果物であった。つまり、ちょうど今頃がシーズン。

 全員に行き渡ったところに華扇が赤みがかった瞳を向けて答える。

 

「さくらんぼですか。美味しそうなとても良い艶をしていますね」

「でしょう? チルノの氷でよく冷やしてあるから、新鮮な状態が長く保存できるの」

「ヘヘッ、アタイってばサイキョーね!」

「まぁそこはチルノのファインプレーだよね」

「やったねチルノちゃん!」

 

 ついさっき相棒に連行されていったおてんば娘が懲りずにふんぞり返っていやがる。

 オマケに仲間たちにも褒め称えられて鼻まで高くしておった。やはりバカか。それとも底抜けにポジティブなのか。そういった意味であれば自称最強は伊達ではねぇわな。

「お先に。いただきまーす」

 黒マントと短パンの蛍っ娘がもう我慢できないと手を伸ばす。サラダをたらふく食ったりフルーツに目がなかったり虫キャラとしての特性が垣間見える。コイツがただベジタリアンなだけってぇ可能性も否定できねぇけど。

 大きく口を開いてパクッと一口で放り込んだ。てっきりそのまま食うものだと思っていたが、

 

「レロレロレロレロレロ」

 

 はたしてどこでソレを会得したのか、ヤツは小ぶりな赤い実を舌の上で転がし始めやがった。しかもムダに速い。あまりにも自然にやるもんだから思わず二度見しちまった。

「って、花京院かオメーはよぉ」

「レロレ……だれ?」

「そーゆーことするヤツがいんだよ」

「いずれにしても、あまりお行儀が良いとは言えませんね」

「ふぁーい。ゴメンナサーイ」

 ボーイッシュな虫っ娘が仙人サマに注意されて素直に従う。ちょい毒舌っぽいフシもあるとはいえ、こういうところは見た目通りガキんちょと変わらない。

 その一方で、氷属性の妖精が茎から引き千切ったチェリーを丸呑みしてしまい、それを目撃した緑色のフェアリーが青ざめていた。

「ちちっチルノちゃん!? 種まで飲んじゃったの!?」

「し、しまったぁああッ!! 大ちゃんアタイ死んじゃうのかな!? このまま死んじゃうのかなぁ!?」

「ダメッ! 死なないでチルノちゃぁん!!」

「自称最強はどこ行った。あとそんなんでいちいち死んだりせんわ」

 腹の中で芽が出るワケでもあるまいに、さくらんぼの種一つでここまでギャーギャー騒げるとは。どんだけ元気有り余ってんだか。

 チビッ子の戯れを横目にオレも小さな果物を一粒貰う。種もあって食べられる部分は少ないものの、甘酸っぱい果汁がしっかり濃いめの味を生み出す。こうやって食うのは久しい気がする。繁華街のバーでカクテルに添えられているのはよく見てきたが。アレはマラスキーノ・チェリーだっけか。

 ふと、さくらんぼに関するネタを一つ思い出した。

 

「そういや、口の中で茎を結べるかどうかってぇのがあったな……」

「お客さん、それってなぁに?」

「ちょっとした都市伝説みてぇなモンだ」

「都市伝説、ですか?」

 

 すぐ隣で聞き耳を立てていた華扇がその単語にやたら反応した。その理由も聞かされる。

 都市伝説に関連した異変。この仙人サマも結構深いところまで首を突っ込んで一悶着あったんだとか。何たらボールとかいうブツを集めるのが解決に導くカギだったらしい。お前それドラゴンボールじゃねぇのかよ。

 もしや異変の続きも有り得るのではと身構えるクソマジメな女に、そうじゃねぇよと雑っぽく諭しておく。片手間に日本酒を舐めながらカンタンに説明してやった。

 

「都市伝説ってぇよりかは占いかおまじないの類に近ぇだろうな。ま、アレだ。靴を飛ばして表裏で明日の天気を予想とすんのと同じだ」

「ああ。そういうものですか……」

「そーゆーこった。チェリーの茎を口の動きだけで結べるかってぇルールなだけのお遊びに過ぎねぇよ」

「なるほど、それは――」

「フフン、そこまで言うならやってやろうじゃないの!!」

 

 またしても会話の流れも場の空気もガン無視して、チルノが声高らかに宣言した。わざわざ立ち上がって握り拳を天に掲げるあたり、氷属性のクセしてムダに暑苦しい。コイツ自身はひんやり冷気を放っているというのに。

 というか夏場でも元気過ぎる氷の妖精ってぇのもどうなんだ。そう考えれば確かに最強ってか無敵ともいえよう。冬になったらイキ狂ってんじゃねぇよな。

「はは、いいんじゃない? せっかくだしみんなでやろうよ」

「あ、私もリグルちゃんに賛成です。ミスティアちゃんは?」

「あたしは見てるだけかな。ゴメンね、これでもお仕事中だから。のど自慢だったら参加してたかも」

「オレもパスだ」

 男がやっても気色悪いだけだろ。んなモンどこにも需要がない。

 しかしながら、オレと女将が不参加なのが気に食わないみたいで、水色の妖精が勝気そうな瞳をこちらに向けて不満を露わにした。

「何だよもー、ノリ悪いわね。そんなんじゃシュッセしないわよ」

「フッ、生憎と出世するような仕事じゃねーんでな」

「まぁまぁ。私はやりますから、ね?」

「お! あんたはいいやつね!」

 氷娘の手のひら返しが早すぎて目が追い付かねぇ。オセロかよ。

 マジメな仙人サマはワンパクな幼心の扱い方を重々心得ていらっしゃるご様子。見事な手腕でおてんば娘の機嫌をあっさり取り戻した。あるいは氷娘が単純なだけなのかもしれん。

 勝つ気満々に雄叫びを上げるおバカに見えないところで、大妖精が「ありがとうございます」と華扇にこっそり耳打ちしていた。やっぱり保護者じゃねーか。

 

「よぉし、いくわよー?」

「いつでもオッケーだよ」

「が、がんばります」

「フフ、そうですね。頑張りましょうか」

 

 せーの、と。

 掛け声に合わせて、オレとミスティアを除くメンツがさくらんぼの茎を一斉に口に放り込んだ。ゲームスタートってか。

「お客さんは誰ができると思う?」

「あー……リグルあたりじゃねーか?」

 先ほど絶妙な舌技を披露していたし、成功率高そう。

 どいつもこいつも片側の頬を不自然に膨らませたり、四苦八苦しながら顎をモゴモゴ動かしたり、うねるように舌を動き回したり。思い思いに試行錯誤を繰り返す。

 揃いも揃って百面相している有り様。なかなかどうして傍から見ている分には面白かった。

 

 数十秒……数分……

 

「っぷは。あーもうダメ、全然できそうにないや」

 やがて限界が来たのかギブアップの声が上がっていく。

 まさかのオレの予測に反してリグル・ナイトバグが真っ先に降参した。危ねぇ。下手に賭けてなくて助かった。

 ともかくこれで残された挑戦者は三名。ますます勝負に熱が入る。

 

「………ッッ!?」

 次にリアクションを起こしたのは水色の元気娘だった。

 ただし勝利のVサインなどではない。むしろその逆で敗北宣言であった。

 より具体的には、負けまいと意固地になり過ぎたのが災いして、哀れにも顎の筋肉をつったようだ。グルンと白目を剥いてド派手な音を立てながら引っ繰り返っちまった。事件現場かよ。

「チルノちゃぁああん!!」

 それにつられて緑色サイドテールの妖精っ娘もリタイア。悲痛な叫びを上げて、やや形容し難い表情で長椅子から転げ落ちたおバカな相方の元に駆け寄った。

 嗚呼、こりゃどうしようもねぇ――

 

「……ん、出来ました」

『………え?』

 

 阿鼻叫喚となっていた真っ只中、桃色ミディアムヘアの仙人サマがさらっと言ってのけた。

 誰もが耳と目を疑って彼女の手元を覗き込む。包帯の巻かれた手のひらの上に、しっかり結び目が施されたチェリーの茎があった。

「うおー! スゲー!」

 興奮のあまり一回休み状態だったハズのチルノが飛び起きた。復活するの早過ぎんだろコイツ。残機持ちか。

「本当に結んであるね」

「すっ、すごいです!」

 立て続けにリグルも感心した様子で、大妖精に至っては尊敬に瞳をキラキラと輝かせて見入っていた。

 ガキんちょ共から羨望の眼差しを浴びて、華扇も得意気なのが見え見えのドヤ顔を浮かべておった。もとより表情豊かなヤツだ。それにしてもわかりやすいこって。

「さすが仙人様ね。何でもそつなくこなしちゃうんだもの。器用でいいなぁ」

「うふふ、それほどでもありません。どうですか、綿間部」

「ま、イイんじゃねぇの?」

「むぅ、何ですか。つまらない反応ですね」

 ちょっぴり不服そうに頬っぺたを膨らます仙人サマ。んなコト言われてもオレにどうしろってぇんだ。

 そんな中、ミスティア・ローレライが好奇心ついでに核心を突いてくる。愛嬌のある瞳がオレを映す。あざとい。

 

「それでお客さん。これができると何がわかるの?」

「ベロチューの上手さ」

「えっ」

「ベ……ッ!?」

 

 オブラートなんざ一切なしに包み隠さず教えてやった。

 まず華扇が顔を真っ赤にして仰け反った。まさかそんな意味合いなどと考えもしなかったのであろう。その証拠にメッチャ動揺している。

 その近くで大妖精も似たようなツラであわあわとテンパっておった。送り狼のフレーズに対する反応といい、清純派に見せかけた耳年魔タイプなのは把握できた。あと怒らせたらヤバい性質ということも。

 

「あはは……お客さんにとっては嬉しい?」

「オレに聞くな。頼むから」

 

 場を和ますために和服女将が苦し紛れの冗談を口にする。しかしながら、今その手の話題は気マズさしかない。って、何でオレまで意識してんだ。違ぇから。別にヘンな想像してねぇから。

 

「リグル、べろちゅーって何よ?」

「大人のキスさ」

「あんたァだーっとれい!」

 

 アホ面で質問するおバカに訳知り顔でボーイッシュな虫っ娘がキメ台詞っぽく言いやがった。つい謎口調になっちまっただろうが。

 そこからの屋台はコントもかくや。バカにお利口に毒舌にあざといがてんやわんやの大騒ぎ。誰もがキャラの個性が強すぎるうえに、テンションが空回りしているのもあってますます収拾がつかない。もうどうなっても知らんとオレも酒に逃げた。

 ただ一人、華扇だけが赤面したままプルプルと肩を震わせていた。やがて、ハッと我に返ってすぐさま必死になって取り繕う。時すでに遅しこの上ないが。

 

「ま、待ってください! これは何かの間違いなんです! わわっ、私はそんなはしたない行為したことありませんからッ!! 信じてください!!」

 

 無自覚で自らに秘められたとっておきの特技を見せつけてしまったのだ。そらハズイわな。

 しかも知らずにやった分、今になって羞恥心が急ピッチでこみ上げてきたのであろう。ましてや性根がマジメな仙人サマなワケだし。バレないように、つい彼女の唇に目が行く。

 まぁでも何だ。もし、あのジンクスがマジモンだというのなら――

 

「綿間部!? まさか、い、いかがわしいこと考えてませんよね!?」

「バッ!? か、考えてねぇわ!」

「うそ! ならこっちを見なさいッ!」

 

 カンベンしてくれ。

 

つづく

 




茨木華扇はキスが上手?
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