東方扇仙詩   作:サイドカー

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二カ月ぶりとかバカなの死ぬの?
ほんまに申し訳ないことをした



第六十七話 「MEGANE」

「いらっしゃい。初めて見る顔だね」

「まーな」

 少女マンガに出てきそうな銀髪眼鏡の優男が薄く笑みを浮かべた。その気があれば夜の繁華街でホストにもなれる甘いマスク。年齢はオレよりもほんの少し上といったところか。あくまで外見は、だが。

 時代遅れのオモチャなどのガラクタ。何世代も前のもはや化石レベルの電化製品。それらの中にレアそうなブツもさり気なく混ざってあった。素人目だと奇抜なデザインのフラスコにしか映らない嗜好品――水煙草。

 わざわざ人里から離れた辺鄙な場所にある店つっても話の通じないキチガイではなさそう。一クセも二クセもある捻くれ者を危惧したのものの、どうにも杞憂で終わっちまった。

 幻想郷の古道具屋『香霖堂』の店主――森近霖之助が一番奥の専用席に陣取って悠々と来客を待ち構える。

 

「フッ、一見さんはお断りのクチか?」

「いやいやまさか。多少の冷やかしも歓迎しよう。もっとも、金を落としてくれる良識的な客であれば尚良い」

「っかー、ぶっちゃけたなオイ。ここにあんのが全部売り物なんか?」

「ああそうだ。ただし、僕が売っても良いと判断した場合に限る。あと言い値になるけど構わないかい?」

「客の足元見てイイ具合にぼったくってやろうってぇハラか」

「それもまさか。物の価値を正しく判断するだけの目利きはあるつもりだ。これでもれっきとした商人だからね。付け加えれば、この僕を納得させることができればそれなりに交渉にも応じよう」

 

 眼鏡のド真ん中を指でクイッと持ち上げて銀髪の男は言い切った。さほど明るくない店内にもかかわらずレンズに光が反射する。コナンかよ。

 

「心配には及びません」

 

 ニヒルな男同士の会話に女の声が入ってきた。マジメな性格が滲んだかのような真っ直ぐに澄んだ声音が耳に心地よい。ガラクタに溢れた古道具屋に似つかわしくない桃色の華が咲いた。

 オレと共に来ていた茨木華扇がやけに自信たっぷりに前に出しゃばってくる。

 

「もし暴利を貪ろうものなら私の手で正してあげます。覚悟することですね」

「しないって。少しは信用してくれ」

「フフ、まぁそこまで言うなら信じてあげないこともありませんよ?」

「やれやれ、世知辛いなぁ……」

 

 仙人サマにしては珍しく?意地悪して愉しんでいやがった。美人な顔立ちに小悪魔チックな表情を浮かべて、銀髪眼鏡の男をチクチクと弄る。Sっ気な仙人サマに言い返せないのか、霖之助はガックリと力なく肩を落としておった。インテリ枠ホストな風貌もこれじゃザマぁない。

「この店は相も変わらず閑古鳥が鳴くのですね」

「ほっといてくれ。言っておくけど火の車ではないよ。アルバイトを雇えるだけの儲けはしっかり出している」

「あら意外」

 華扇と森近霖之助の気兼ねしないやり取りに親しい間柄が伺える。この女にも食い物屋の他に行きつけの店があったのか。

「綿間部、今何かとんでもなく失礼なことを考えませんでしたか?」

「気のせいだろ」

 いつものことながら何つー嗅覚の鋭さだ。それとも女の勘であろうか。オレってそんなわかりやすいか……?

 ちなみに香霖堂に行くと言い出したのも華扇である。アレは昨夜のことだ――

 

『綿間部、明日は空いていますか?』

『あー……今のところ依頼はねぇから空いてるぞ』

『よかった。じゃあ出掛けましょう? 連れていきたい場所があるんです』

『そらいいけど、朝っぱらからは止めろよ』

『フフフ、善処します』

 

 そして只今の時刻はおおよそ二時過ぎ。

 もちろん午前ではなく午後、言い換えるなら十四時。紛うことなき真っ昼間。全然善処されてなかった。さすが仙人サマ、見事なまでに期待を裏切らねぇ。

 とりあえず仙人サマと古道具屋が話し込んでいる間も、こっちはこっちでテキトーに物色させてもらう。

 って、ガラケーどころかポケベルまで出てきやがった。むしろコイツを向こうに持ち帰ったら逆にプレミアが付くんじゃなかろうか。上手く行けば、あぶく銭ぐらいにはなるかもしれん。どうする。とりあえず買っておくか……?

 

「今日も董子君と待ち合わせかい?」

「約束はしていませんけど彼女のことですから。おそらく、そろそろ来る頃合いでしょう」

「まったく、うちは待ち合い茶屋じゃないんだが?」

「あら? そう言うなら場所を変えても良いのよ? それで困るのはどっちかしら」

「……前言撤回。好きなように使ってくれ」

 

 インテリ眼鏡の伊達男が華扇にいいように言い負かされている。まさにタジタジといったカッコ悪さに見ていられない。冷静沈着な営業スマイルも心なしか引きつっていた。哀れ。

「弱みでも握られてんのか?」

「ははは、そんなところだ。『外』の世界と繋がる稀少な人物がいるんだけど、そのパイプ役が何を隠そう彼女なのさ。下手に機嫌を損ねれば数少ない入手ルートを失ってしまう。だからこちらは何を言われても従うしかない」

「何やその地味にえげつないやり口は……華扇オメー、んなコトしてんのかよ」

 大人げなさに若干引きながら、桃色ミディアムヘアの女に疑惑の視線を投げつける。いくら何でも容赦なさ過ぎんだろ。

「ち、違います! 彼の過剰表現ですっ!」

 そしたら、さっきまでの勝ち誇ったドヤ顔とは打って変わって、赤みがかった瞳をあっちこっちに流したり両手も振り回したりして仙人サマがあせあせと慌てふためいた。ちょっと面白い。

 せっかくなので追い打ちをかけてみる。決して真っ昼間に外に引き摺り出された仕返しじゃねぇかんな。

「ホントにホントかぁ?」

「もお! 嘘じゃありません! そんな脅すような真似するはずがないでしょう!?」

 マジメなヤツほどこの手のからかいに耐性がない。華扇も例にも漏れず、ムキになって言い返してきた。

 覚えておけよ華扇、弄ってイイのは弄られる覚悟があるヤツだけだ。

 しかしながら、何事もやり過ぎればオチにしっぺ返しが来るのが世の常。そう、繰り返しになるが弄っても問題ねぇのは弄られる覚悟があるヤツだけなのだ。

 いつしか華扇の表情が徐々に膨れっ面に移り変わっていく。オレが気付いた頃にはもう手遅れだった。

「……綿間部、私がそのようなことをすると本気で思っていたのですか? へぇ、そうですかそうですか。これは少し話し合う必要が出てきましたね」

「あ、ヤベ」

「逃がすと思いますか?」

 説教オーラを纏った華扇が据わった目つきですかさずオレに詰め寄る。むしろ勢い余って互いの身体が触れた。柔らかい肢体と女の匂い。なしてこーゆー時に無防備を晒すのか。

 その頃、森近霖之助はといえば、華扇の矛先がテメェからオレに変わったことでちゃっかり難を逃れ、今や楽しげに対岸の火事を見物していやがった。オイコラ、笑ってんじゃねぇぞコノヤロウ。

「わ た ま べ ?」

「だーもう近ぇって!」

 両頬を風船みたく膨らませて、見るからに機嫌斜めな女に壁際まで追い込まれる。

 その最中、香霖堂の扉がぶち壊さんばかりに威勢良く押し開けられた。

 

「ちーっす! 店長ぉー、華扇ちゃん来てる~?」

 

 女子高生が乗り込んできた。お下げにメガネという特徴は典型的な地味キャラのそれ。しかし侮るなかれ。やたらテンション高いうえに傍若無人そうな態度も相まって、なんつーかキャラが濃かった。

 そんなJKオブJKな申し子の乱入に動じることなく、それどころか華扇は呆れた様相で向き直った。

 

「董子、やっぱり来ましたね。また居眠りですか?」

「いーじゃん、いーじゃん。ちょっとだけ! 先っちょだけだから!」

「まったく。後も先もないでしょうに」

 

 董子と呼ばれた小娘が我が物顔で香霖堂に入り浸る。ちとエグい発言があったような気もするが。幸か不幸か仙人サマは気付いてない模様。

 服装は紫ベースのチェック柄なスカートと同じカラーリングのベスト。その下に襟付きの白シャツを着ている。どこぞの制服の夏服バージョンといったところであろう。

 そう、学校の制服だ。着物でも和服でもない。巫女装束でもなければ異世界チックな個性派ファッションでもない。ま、ちょいとコスプレっぽいデザインだけどよ。

 華扇がその眼鏡女子を呼びつけて、オレの前に立たせた。

 

「綿間部、紹介します。彼女は宇佐見董子。この子もまた『外』の世界の人間です」

「ども! 宇佐見董子、花の女子高生! 秘封倶楽部の初代会長やってまーす」

「あぁ、オレは――って宇佐見だと? オマケに秘封俱楽部だぁ?」

「うえ? そうですけど何かヘンでした?」

「こら、質問はちゃんと最後まで名乗ってからにしなさい」

 

 華扇に小言を言われちまったが、今はそんなことどうでもいい。

 あの女子大生コンビと同じサークル名だと。しかも、よりにもよって黒髪ショートの方と苗字まで一致しやがった。行き過ぎた偶然に思わず二度見しちまう。ホントに偶然か……?

「あのー……?」

「いや、何でもねぇ。気にすんな」

「いやいやそれ逆に気になっちゃうやつだから」

 つい深読みしそうになったが、ふと我に返って鼻で嗤う。

 さすがに考え過ぎだ。宇佐見なんつー苗字はちったぁ珍しいかもしれんが別になくもない。サークル名がダブることだってあるわな。実際、そこまで奇抜なネーミングでもねぇし。

 

「華扇、コイツ知り合いか?」

「ええ。今日ここに来たのも彼女を紹介したかったからなんです。正確に言えば、幻想入りした外来人とは事情が異なるのですが……」

「あ? どーゆーこった。ミス八雲に拉致されたんじゃねーのか」

「彼女の場合は夢幻病と呼ばれる症状によるものです。簡単に言ってしまえば、あちら側で寝ている時にだけ幻想郷に入り込めるの。ほら、前にも似たようなことがあったのを覚えていますか?」

「あー……マエリベリーの時と同じってぇワケか」

「厳密にいえばそれも違いますけどね。董子が自ら異変を起こしたりと色々ありましたから、その影響で発症したのでしょう」

「ちょっとー、人がイキッてた頃の黒歴史なんか勝手に話しちゃダメだってば。ちょっとは反省してるんだから」

「へぇ、()()()()ですか?」

「うそうそうそ! 思いっきり反省しました!」

 華扇の眼光に気圧されて宇佐見菫子が冷や汗混じりに敬礼をかます。こやつも仙人サマには敵わないらしい。

 つーか、このJK今以上に調子乗ってた頃があったのかよ。眼鏡のレンズ越しの吊り目が、密かに周囲を見下している姿を想像すると確かにしっくりきた。自分は他の連中とは違うとか自惚れてそう。

 その自尊心を博麗の巫女に叩きのめされたか、それとも華扇に性根を叩き直されたか。どのみち負けたのは間違いあるまい。

 先ほどの華扇のセリフからこの眼鏡っ娘が授業中に居眠りしてんのも察した。

「ってこたぁオメーの本体は今もどっかの高校にあるワケか」

「そゆこと。あ、でもこっちでも実体はあるよ。ほらほら、こうやって物も持てるし」

 さらりとタメ口になった宇佐見菫子が、昔流行った気色悪いフクロウみてぇな喋る人形を手のひらに乗せてみせる。幻影だったらこんな芸当は不可能だ。同じく霊体のセンも消える。

 なお、電池切れなのか某人形はうんともすんとも言わなかった。

 

「ほーん、なるほどな……」

「言っておくけど、もし自分の手で確かめたくてもお触り厳禁だかんね? 生の女子高生の身体はそう安いものじゃないのよ。プププ、残念でした。目の前に可愛いJKがいるのにねー」

「まな板に興味ねぇよ」

「しばくぞワレ」

 

 その瞬間、鬼の形相と化した宇佐見菫子がギラついた眼光でオレを睨み上げた。さらに異様に低くなった声色にも殺気が込められている。キレる十代かオメーは。つか目ぇ怖っ。

「まぁまぁ董子、落ち着きなさい、それに乱暴な言葉遣いはいけませんよ?」

 般若ヅラの眼鏡JKをなだめるべく、桃色ミディアムヘアの仙人サマが諭しながら割って入る。華扇も他意はなかっただろう。だが、タイミングが悪かった。

 

「――――」

「えっと、董子?」

 

 宇佐見菫子の視線がある一点に釘付けになる。紅い中華衣装の真ん中あたり、薔薇の飾りと前垂れをハッキリと押し上げる。豊満な二つの膨らみ。

「?」

 トドメに華扇が前かがみになれば柔らかく揺れた。圧倒的な差を目の当たりにした瞬間、眼鏡っ娘は死んだ魚の目にまで堕ちた。言うまでもなく勝敗は決した。

 

「大丈夫ですか?」

「うひひ、ダイジョウブ――じゃなぁあああいッ! 華扇ちゃんは巨乳だから持たざる者の気持ちがわかんないのよぉ!」

「きょにゅっ……!?」

 

 どこまでもオブラート引き剥がした直球ストレートに、さしもの華扇も目を丸くして固まってしまう。美人な顔を赤らめて胸元を腕で隠すのがあざとい。

 それでも華扇は頑張った。仙人の矜持かけて踏み止まり、どうにかいつもの調子を取り戻そうと凛として立ち振る舞う。

 

「コホン、いいですか。何も女性の魅力は胸に限りませんよ。心の在り方が美しければそこに惹かれる者もいます」

「でも華扇ちゃんの胸おっきいの事実じゃん。そこがイイって男だって絶対いるから。例えばその人とか!」

「ふへぇや!?」

「ちょバカこっち振んなや!」

 

 トンテモねぇキラーパスが飛んできて華扇だけじゃなくオレまで取り乱す。何さらしてくれとんのやオノレは。

 あまつさえメガネJKの暴走はまだまだ止まらない。桃色仙人のたわわな果実を悔し気にガン見する。オメー若干私怨も入ってねぇか?

 直後、ヤツは驚愕の発想を閃いて躊躇なく言い放った。まるで衝撃的な真実に気付いた名探偵の如く、

 

「――ハ!? もしかして夜な夜な揉んでもらって大きくなったんじゃ!? 女性ホルモンとかフェロモンとかエッチなやつだ……ッ!」

「ば、馬鹿者ッ! そんなはずあるわけないでしょう!?」

「本当に? これまで! 一回も! 男性におっぱい触られたことないの!? 気になるあの人とかに!」

「そ、それは」

「一緒にお風呂に入って洗いっこしたり、どさくさに紛れて胸を押し当てたりしてないわよね!?」

「そっ、そこまではしてませんッ!!」

「そこまでは……?」

「……ぁ」

 

 自ら墓穴を掘った失言に華扇が気付いた頃には手遅れ。すでに宇佐見菫子は口の端をひくひくと痙攣させておった。

 そこで言い間違い聞き間違いだと言えればまだ間に合っただろうに、桃色の女はあまりにも正直すぎる反応をしてしまう。

「えぇっと」

 赤みがかった瞳を色っぽく潤ませて、熱に蕩けた表情でオレをチラ見しながら指を絡ませる。そのせいでオレまでイロイロと思い出しちまった。うっかり顔に出さないよう咄嗟に明後日の向きへ目先を逸らす。って、オレまで何やってんだ。

 オレたちのわかりやすい行動を眼鏡女子が見逃すハズもなかった。

 

「うがー!」

『!?』

 

 いきなり叫び出した眼鏡JKのケモノもかくやな豹変ぶりにオレと華扇は思わず肩が飛び跳ねた。そんなものお構いなしに、宇佐見菫子は帽子越しにガシガシと頭を掻きむしった。

 やがて、今度は暴走したエヴァンゲリオンみたくユラリと脱力した体勢で、次の標的を定める。オレでもなければ華扇でもない。この場にいるもう一人。

 直後、眼鏡女子の脚力が爆発した。今の今まで一人だけだんまりを決め込んでいた森近霖之助のところに突貫していった。

 

「テンチョー! テンチョー!! 華扇ちゃんが、華扇ちゃんがぁあああ!!」

「ちょっと!? 董子待ちなさいッ! 何を言うつもりですか!?」

「君たち頼むから静かにしてくれないか」

 

 この男、もしかしなくても苦労人かもしれん。

 

 

つづく

 




董子は貧乳キャラですね間違いない(冒涜)
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