東方扇仙詩   作:サイドカー

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チラリズムってのはなぁ!
見えそうで見えないギリギリの瀬戸際で「見えた気がする!」っていう一瞬の煌めきが大事なんだよ!
全然見えないのもダメだしハッキリ見えてもダメなの!

でも見えたら見えたでご馳走様です(クズ)


第七話 「何でも屋、蹴られる」

「探している猫が紛れ込んでいるかもしれねぇ。おい猫娘、案内を頼めるか?」

「お願いできますか、橙さん」

「わかりました。ついてきてください」

 少しも渋ることなく快諾した式神の後ろに続いて、本格的にマヨヒガの敷地内に入る。同じくして、一斉に猫集団の注目を肌で感じ取った。警戒されたか? マタタビを用意しておかなかったことが悔やまれる。ま、いざとなりゃ華扇がどうにかするはず。多分。

 まずは外を一通り調べて回った。不運にも、やはり標的は見つからなかった。残るは例のボロ屋のみ。玄関で一応靴を脱いでから上がらせてもらう。爪痕でボロボロに破れた障子の戸を開けると、そこにも寛ぐ野良連中の姿があった。

 畳の上でゴロゴロと背中を擦りつけているのもいれば、柱で爪とぎするお約束なヤツもいる。そして、数匹集まって井戸端会議と思しき猫達の中に、他の奴らと比べて毛並みが良い猫が一匹ばかり混ざっていた。

「あ、いやがった」

「あら本当」

 思わず二人して間の抜けた声が漏れる。

 間違いない。事前に聞かされていた特徴と寸分違わず一致する。さっき不運といったが前言撤回。よもや依頼を受けたその日のうちに標的を見つけられるとは、こいつは幸先が良い。

 さっさと捕まえて日勤は終わりにしてやろう。そして帰ったら夜になるまで仮眠する。誰にも異論は認めさせてなるものか。

「華扇、アイツが逃げられねぇように入口を塞いどいてくれ。オレが捕まえる」

「大丈夫なんですか? 私が話してきた方が早いと思いますが……」

「フッ、心配すんな。要は気付かれる前に取り押さえればイイだけだからよ」

 これも何でも屋に来た仕事。だとすれば、最初から他人任せにするのはどうにも釈然としない。早い話、単なるオレの意地なのだが。それに、数多の依頼のおかげで経験豊富な今のオレに手にかかれば、猫畜生の一匹や二匹簡単に捕獲できる。無名だったあの頃とは違うんだよ。

 姿勢を低くして構える。息を潜め、自らの気配を最小限に留める。お得意のステルスによって足音もなく、僅かでも確実に距離を縮めていく。

 ふと、ターゲットの耳がピクッと動いた。しかし彼奴がこちらに気付くよりも一歩早く、その胴体を持ち上げてやった。

 

「ほい捕まえた。ってオイコラッ、暴れんなや!」

 シャーッ!! フカーッ!!

 

 毛を逆立たせて牙を剥き出しながら小さな猛獣が全力の抵抗を見せ始める。前足をバタつかせるたびにオレの手に引っ掻き傷ができる。痛ってぇコイツ爪立てやがった! だけどコイツさえ押さえれば……

 そう思っていた時期が、オレにもありました。

 ここで予想外の事態が巻き起こる。なんと井戸端会議していた他の猫どもが、囚われた仲間を助けんとオレに襲いかかってきたのだ。

 

 ニ゛ャァア゛ア゛ア゛ッ!! ナァアアアアゴ!!

「あだぁッ!? このヤロッ……えぇい、止めぃやテメー等ぁああ!!」

「ちょっと綿間部!? 大丈夫なの!?」

「はわわぁ……」

 

 全身のバネを駆使したしなやかな体裁きで一斉攻撃を繰り出す小さな戦士たち。華麗にかつ容赦なく入り乱れるその様は、まるで心の怪盗団のようであった。

「いっで……!」

 その時、一匹から手の甲を引っ掻かれた拍子に、うっかり力が緩んでしまう。この機を逃すほどヤツも野性を捨ててはいなかった。「やったぜ」とばかりに迷い猫が拘束から抜け出す。

「おのれぇ逃がさん……ッ!」

 四肢を伸ばして宙を泳ぐ逃亡者を追って、こちらも両手を伸ばして飛び掛かる。我ながら見事、再確保に成功した。だが、勢いは殺し切れるものではなかった。

 その結果、まるでフライ球をキャッチした甲子園球児みたいに、オレは腹からスライディングをかますハメになってしまった。

「ぜぇ……ぜぇ……もう逃げらんねーぞ」

 

「わ、綿間部……?」

 

「…………あ?」

 頭上から聞こえてき華扇の声に、視線の先を猫から前方へとずらす。

 まさしく目と鼻の先だった。すぐ間近に女の素足が立っていた。靴下もストッキングも穿いておらず、スラリと細くキメ細やかな美肌を余すことなく表に晒す。足フェチには堪らないだろうな、などと下世話な感想を抱くあたり、オレも疲れているのだろうか。やはり柄にもなく朝っぱらから働いたのが原因か。

 そのまま何となしに視線をさらに上に持っていくと、ミニスカの裾を両手で押さえて顔を赤らめた桃色の少女がオレを見下ろしていた。ワナワナと肩を震わせてながら。

 二人の眼差しが交錯する。ようやく自分が華扇の足元に滑り込んだのだと理解した。それと時を同じくして。

 仙人サマの羞恥と怒りの火山が大噴火した。

 

「どっ、どこ見てるんですか馬鹿者! 厭らしい人ですね!!」

「ごばぁッ!?」

 

 スカートを抑えたまま美脚を後ろに振り被り、目にも留まらぬ速さでサッカーキックを叩き込まれる。狭い和室の中で放物線を描いて仰け反るオレを前に、橙と猫連中はただただ言葉を失う。彼らの呆然とした顔を最後の記憶に、呆気なくオレの意識は途切れた。

 

 かのイエスキリストは、右の頬を打たれたら左の頬を差し出せと説いたという。

 ならばオレは神に問いたい。右の頬を容赦なく蹴り飛ばされた場合はどうすれば良いってんだ?

 

 

「ったく……チョー痛いんですけどぉ」

「だから最初から私に任せてくれれば良かったんです! どさくさで破廉恥な行いまでして、綿間部はスケベな人だったんですね!?」

「ありゃどうみても偶然の産物だろーが……」

「それとこれとは話が別です!! だいたい――」

 目覚めたら、あれだけ逃げようと暴れ回っていた猫畜生が華扇の胸に抱かれて大人しくしていやがった。んだよもー! テメッ、女が相手なら大人しくなんのかよ!

「ちょっと綿間部! 聞いてるんですか!?」

「聞いてるって……」

 何せこちとら、ガミガミと説教を垂れる桃色の髪の仙人サマによって正座させられているのだ。

 ちなみに説教と説明が半々の話しをまとめると。彼女も自負する動物の扱いに長けた能力についてだが、彼らと意思疎通ができる領域にあるそうだ。つまり、そこの猫畜生に飼い主が心配して帰りを待っていると伝えて一発解決したのである。それもオレが失神している間にな。泣けるぜ。

 一方その頃、一部始終を見届けていた猫娘はというと、

「スゴイです。みんながあんなに一致団結したの初めてです」

「あぁうん、確かに凄まじい一斉攻撃だったぞ…………ま、蹴りの方が百倍痛かったけどよ」

「綿間部? 何か文句でも?」

「……いーえ、滅相もねぇですよ」

 ニッコリと魅力的な笑顔でオレに詰め寄る華扇から即座に目を逸らす。鬼気迫るナニカさえ感じた。

 やれやれ、色々と疲れる結果となったが依頼は半ばクリアってところか。あとは帰って上白沢女史に下手人を引き渡すだけ。

 財布から百円玉を取り出し、橙の手のひらに乗せてやる。

「騒がしたな。こいつは協力してくれた駄賃だ。持っとけ」

「いいんですか?」

「働きに応じた正当な手柄だかんな。実際、お前のおかげですぐに片付いたしよ。オヤツでも好きなもん買えや。じゃな」

 長居は無用。さっさと立ち上がりボロ屋ひいてはマヨヒガに背を向ける。決して仙人サマの説教から離脱できそうな絶好のタイミングだったからではない。

 あれだ。早く届けて飼い主を安心させてあげようというオレの心意気ってことで。

 

 帰り道、いつの間にか機嫌を取り戻した華扇がおもむろに口を開いた。

「ちょっとだけ見直しました。小さい子どもに対しても、きちんと働きに見合った対価を支払ったんですね。立派な考えです」

「どうせこの後に成功報酬も貰うしな。それに」

「それに?」

「……いや、何でもねぇ」

 大した理由じゃない。相手を見下したり足元を見るやり方はオレの主義に反するってだけに過ぎない。

 言ったろ。ショボっちい依頼でもタダ働きはしないと。そして、そのスタイルはオレ自身に限らず協力者にも当てはまる。それだけのことだ。

 そういえば言い忘れてしまったが。噂の乱射魔とやらによろしくと伝えるべきだったか?

 

 

 人里に戻ってからの顛末については、別にこれといって特筆するものはなかった。飼い主のガキんちょと忠猫タマ公による感動の再会シーンがあったぐらい。その際、華扇がタマ公に「もう心配をかけさせないように」と注意していたし、アフターケアにも抜かりはない。

 そして、オレは上白沢女史から依頼達成の金を受け取っているところだった。

「頼んだ私が言うのもなんだが、その……本当にこれだけで良いのか?」

「ああ、どっちみち大したヤマじゃなかった。この辺が互いにとっても相応の額だろうよ」

「しかし……」

 ったく、見た目通りの真面目なやっちゃな。この先生も。

 申し訳なさげに眉尻を下げる女教師を見ていると、あまりの人の良さに呆れて嘆息してしまう。ちなみに彼女がそうなった原因は、この一件に対してオレが微々たる額しか報酬を求めなかったため。

 このままじゃ埒が明かないので、こちらとしては貰った金銭で何も問題はなく、よって上白沢女史が気にする必要は何一つないと懇切丁寧に伝えてやることにした。

 タダ働きはしないが、かといってボッタクリもしない。こちとら居なくなった猫を見つけてきただけ。それでも気になるなら初回限定サービス価格ってことにしとけ。

「そうか……うん、ならもう気にしないよ。今回もありがとう。黒岩」

「フッ、毎度あり」

 小銭を片手に子屋を出ると、軒先で桃色の髪をなびかせて少女が待っていた。彼女はオレの姿を捉えると、声を弾ませて駆け寄ってきた。

「戻ってきましたね。では、成功祝いに行きましょう!」

「…………え、今から?」

「はい、今からです♪」

 ルンルン気分の華扇の笑顔が眩しい。どうでもいいけど楽しそうだな、お前。

 もちろん彼女に手伝ってもらった手前、報酬も二人で山分けすべきだ。なのだが、ぶっちゃけると半々に分けられるほどの金額もなかったりする。我ながら迂闊過ぎて言い訳できねぇ……

 確かに、こりゃ二人のメシ代の足しに使った方が手っ取り早いかもしれんな。フッ、二日続けて収入が食費に消えるとは……泣けるぜ……

「ま、いいけどよ。今度は何が食いたいんだ?」

「そうですねぇ……あ、お蕎麦なんてどうですか?」

「ふーん、いいんじゃねぇの」

 コイツといると食ってばっかな気もするが、案外それも悪くない。いつしか、そう思い始めている自分がいた。っていうか今日まだまともに食事してなかったわ。寝起きに液キャベ飲んだだけやんけ。

 早速と歩きつつ、ふと思い出したことを口にする。

「まさか動物と会話できるなんてなぁ……」

「むっ、もしかして信じてなかったんですか?」

「そういう意味じゃねーって。ところで、お前はペット飼ってないのか?」

「飼ってますよ。虎と鷲と、あと龍もいますね」

 何やそのプロ野球チームみてぇな組み合わせは。つーか物騒なのばっかじゃねぇかよ。怖ッ! しかもさりげなく龍とか言い出しおったぞ、この女。

 ペットという枠組みを余裕でブチ抜くメンツに驚きを隠せない。やはり仙人ってのは伊達じゃないってか。しばし呆気にとられるオレに華扇がクスクスと笑みを零し、おまけに可愛らしくウインクを決めてきた。

「もちろん皆私の言うことを聞きますよ。よければ今度、私の屋敷まで遊びに来ませんか? お望みなら修行もつけてあげます」

「あーうん、まぁ……そのうちな」

「約束ですよ? もし嘘ついたら後で酷いですからね」

「へいへい」

 

 華扇と他愛のない会話を交わしながら、彼女がご所望する蕎麦屋に向かう。

 その道すがら、オレは密かに一つの決心を固めていた。

 

 ――次こそは、今度こそゼッタイに夜になってから活動してやるかんな!

 

 

つづく




ほんのりイチャつく程度のソフト&ウェットなラブストーリーが書くはずが
何故かこうなった
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