東方扇仙詩   作:サイドカー

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2カ月過ぎの更新とかどうなってんだマジ申し訳ねぇ(百二十パーセント土下座マシマシ)
東方酔蝶華3巻が出たんでまたまた鯢呑亭回でござんす

感想欄でめっちゃ素敵な支援イラスト貰いました!感謝感謝


第七十話 「酒は飲んでも死ぬな」

「ハァ!? 奥野田が昏睡状態ぃ~?」

「そんな……」

 只事ではないネタにヘンな感じに声が裏返った。オレの隣にいる茨木華扇も赤みがかった瞳を見開く。さもありなん。知り合いが危篤と聞けば誰だってそうなる。オレもそうなる。というかなった。

 ソプラノ声で愛嬌を振り撒く鯨帽子の看板娘は、この場に居なかった。

 夜更けの鯢呑亭に物寂しさが漂う。閉店が近いのもあって客はオレと華扇の二人だけ。もっとも、それを差し引いてもここ数日は客の出入りは疎らであった。

 マジメな仙人サマが慎重に言葉を選びながら看板娘の安否を問う。

 

「それで彼女の容態はどうなのでしょう? お医者さんには診てもらいましたか?」

「お医者さんて」

「う、うるさいです。どこか可笑しいですか」

「まー、別に可笑しかねぇけどよ」

 

 やたら可愛げのある言い方につい反応しちまった。華扇も恥ずかしそうにほんのり頬を赤らめて、ぷいとそっぽを向いて拗ねる。悪かったって。

 ともあれトンデモねぇ事態が明らかとなったワケで。どーしてこうなった。

 しばらく姿を見かけてなかったから気にはなっていた。せいぜい風邪が長引いているモンだと高を括っていたのだが。まさかこんな重苦しい展開になっていやがったとは、よもやよもやだ。何か聞いたことがあんな今のセリフ。

 桃色の女が投げた問いかけに、白髪ハゲの大将は首を横に振ってからションボリとうな垂れた。

 頑固職人の背中が柄にもなく小さく見える。どっちかっつーと、愛娘の不幸を嘆く父親のそれであった。このオヤジ、もし奥野田に好きな男ができたら気でも狂うんじゃなかろうか。包丁が捌くのは、はたして食材か別の獲物か。

「というか、幻想郷には凄腕の医者がいんだろ? そいつに治してもらえば万事解決ちゃうんか」

 オレが聞くと、鯢呑亭の主人は弱弱しく手を振って苦渋の面容を浮かべた。そもそも口数が少ないのもあってか、ポツポツと顛末を喋っていく。

 医者側の見解によると病気の類ではなかった。正確には、タイミングが良いのか悪いのか人里に来ていた薬売りのウサミミな若い女がおって、ソイツが診察したそうだ。余談だが、噂の凄腕ドクターも女医らしい。ブラックジャックの女バージョンか。

 どーでもいいけど、バニーガールがヤクを売り捌いているとかイロイロと大丈夫なんか。どうせソイツも美人なんだろ。いつもの幻想郷パターンだわな。

「綿間部、何やら破廉恥な想像しませんでしたか?」

「してねぇって」

「ふーん」

 華扇がジト目でオレに疑いの眼差しを差し向けた。この洞察力の鋭さは一体どこから来てんだろうか。

 当たらずとも遠からずなので目を逸らして咳払いで誤魔化す。しばらく嘘くさそうに見据えられたものの、ほどなくしてヤツは追及を諦めて渋々と引き下がった。「それにしても」と仙人サマが話を戻す。

「医者の目には原因はわからない、ですか」

「つっても何日も起きないってぇんじゃ、ただの寝坊じゃねーわな」

「そうですね……とにかく今は、彼女が一日でも早く目覚めることを信じるしかありません」

 オレのぼやきに華扇も頷き返す。下手すりゃ植物状態と変わりない。そらオッサンも心配して当たり前だろうよ。

 ちなみに頭を打った形跡もなかったという。外傷もなく病気でもない。しかして眠り姫は夢現に囚われた。こんなん迷宮入りレベルの難事件だろ。

 もはやお手上げ。オレと白髪ハゲのオヤジが揃って腕を組んで唸る。すると、おもむろに仙人サマが包帯の巻かれた右手を上げた。

「あの、もしよろしければ彼女に会わせてもらえませんか?」

 

 

「ほーん、ここが奥野田の部屋か。案外フツーだなオイ」

「あんまり女性の部屋をみだりに見回すものではありません。ましてや当人は眠ったままなのですよ」

「わぁーってる。ま、むしろ騒がしくした方がコイツも起きんじゃねぇの?」

「そういう問題ではありません! まったくもぉ、この人は本当にわかっているのかしら……」

 奥野田美宵は何の変哲もない畳敷きの和室に寝かされていた。

 布団に包まれて静かに寝息を立てている。女性らしい長いまつ毛は伏せられ、眩い緑の瞳を覗くことはできない。毎度お馴染みの鯨帽子は壁に掛けてあった。外ハネしたピンク色ショートが枕に広がる。

「ふむ」

 顔色も悪くねぇし、うなされている様子もなし。この上なく安らかな眠りに就いている。こいつは確かに病に侵されているヤツのツラじゃねぇな。

 それはそうと、もとの素材がイイだけあってキレイな寝顔してやがる。何となく鯢呑亭の看板娘の寝姿に見入る。

 が、いきなり後頭部を軽く小突かれた。振り返れば、桃色ミディアムヘアで白シニョンの女が膨れっ面をしていた。というか顔が間近にあった。だから近ぇよ。

 

「何しやがんだ」

「それはこっちのセリフです! 女の子の寝顔をジロジロと眺めるなんて無神経にもほどがあります!」

「顔色チェックしてただけやんけ……」

「いいから綿間部は出て行ってください。彼女の身体に邪なものが巣食っていないか私の方で確かめます。衣服も少しはだけさせますから」

「へーへー、そーゆーことなら任せましたよっと」

 

 肩をすくめてこの場は大人しく退室する。さすがに服を脱がすと予告されて居座るワケにもいくまい。

 病気でもケガでもないときたら現代社会ならどうにもできねぇ。ところが、此処はファンタジー異世界の幻想郷。となれば、よくわからん術だの呪いだのという摩訶不思議な力が働いているセンもありえる。

 なら、オレはオレで他に手がかりを探すとしよう。原因もなしに何日も昏睡するとは到底考えられねぇかんな。

 

 華扇と別行動を取り、オレは再び店側に足を運んだ。

 この怪事件の数少ない証人、白髪ハゲのオヤジから聞き込みをするのが狙いだ。依頼でもないのに調査なんざらしくねぇけど、知り合いのピンチならやるしかあるまい。

 それに事情を知っているヤツがいないとはいえ、奥野田が意識不明となった鯢呑亭は通夜みたいでいけ好かない。

 

「で、だ。こうなる直前まで奥野田がいつもと違うことしてなかったか? 些細なことでもイイからよ」

 どうせなら腹を割って話そうやと、互いにお猪口を手にして男同士のサシ飲みと洒落込んだ。

 時間も時間だったため、店の表に吊るす暖簾もすでに下げてあった。コレもいつもなら奥野田の仕事なんだがな……

 初っ端から遠慮のない取り調べに、酔いの入った赤ら顔が困ったように薄い頭髪を掻く。それでも頭も首も捻りに捻って記憶の粒を掘り出していく。やがて、奴さんはあることを思い出す。

 曰はく、奥野田が秘蔵の酒をチェックするため試飲した。

「秘蔵の酒ぇ?」

 あからさまなフラグの臭いにさらに質問を畳み掛ける。

 聞けば、奥野田が開店祝いにどっかの客から贈り物として受け取ったブツだそうだ。ボトルの造りなどから外来の酒だと推測される。しかしながら、あまりにもドギツイ度数は焼酎なんぞとは比べ物にならず、誰もがひと舐めしただけで顔をしかめて敬遠してそのままお蔵入り。そのせいで開封したきりちっとも減ってないのだとか。

「っかー、幻想郷ですら店の奥に封印されてたんじゃ世話ねぇやな。ちぃと見してくれや」

 オレがそう言い出すのを予想していたのか、オヤジはこれだと言わんばかりにカウンターの上に酒瓶をドンと乗せた。

「ほーん、コレがねぇ……」

 洋酒のボトルにしてもかなり小さい。500ミリのペットボトルと大差なかった。透明かつ細身の瀟洒なデザインはいかにも『外』の世界にある代物。そのうえ中身まで透明ときた。この時点でウイスキーやホワイト以外のラム、ゴールドテキーラのセンはなくなった。というか……

「まさか」

 オレはこのボトルの正体を知っていた。後ろ向きになっていたラベルを回してこっちに向ける。

 

『SPIRYTUS』

 

「いや死ぬだろ」

 オレのツッコミにオヤジがギョッと目ン玉ひん剥いて腰を抜かす。アカン、言葉をマズッたか。

 

 スピリタス。

 ポーランドを原産地とするウォッカ。

 アルコール度数は驚異の九十六度を誇り、世界最高の純度をもつ酒として有名である。そのキツさは単純計算にしてビールのおよそ二十倍に迫り、日本酒と比べても十倍近くある。まさしく正真正銘のバケモン酒である。間違っても冗談半分で火を近づけてはいけない。

 

 とはいえ、ビミョーな疑問も残った。

 こんなんマトモに飲んでたら酔い潰れてもおかしくなかろう。かと言って、何日も目覚めないのはいくらなんでも度が過ぎる。

「しっかし、今一番アヤシイのもコイツなんだよなぁ……?」

 ガイシャが普段と違う行動を取ってこの酒を飲んだのは間違いない。現時点において最有力候補の手がかりといえよう。まだ原因と断定したワケじゃねぇが、誰がどう見ても怪しさしかない。

 物は試しにお猪口にほんの少しだけ注いでみる。まず匂いを嗅ぐ。もともとウォッカは無臭の特徴をもつ。この酒も例外ではなくヘンな匂いはしない。お次はいよいよ味見といこう。

「……さて」

 いざという時に備えて手元に水も準備しておく。もしヤバイ代物だったら速攻で便所に駆け込んで何もかもリバースするしかない。ま、客からの貰い物ならそこまで大惨事にはならんだろ。多分。

 深く息を吐いて、覚悟を決めてグイッと煽る。直後、喉が焼けた。

 

「――っ!? がはっ、ゲホッ!?」

 

 ほんの一瞬の出来事であった。

 強烈なアルコールの熱が喉の奥まで張り付き、気管に炎症を起こす。僅か一口にも満たない少量にもかかわらず、それがどうしたと世界最強の純度が王者の猛威を振るう。何度も咳が止まらない。

 その瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。

「…………ぁ?」

 どういうワケか目の焦点が合わない。目の前にある景色がまるで下手くそな絵画みたくグチャグチャに滲み、崩れる。

 戸棚に並んだ日本酒や焼酎のビンも、張り出されたお品書きに記された文字も、すぐそこにいるオヤジの顔かたちですら。もはや作画崩壊レベルであらゆるものの輪郭がブレまくって、世界そのものがボヤける。

「ぐ――」

 グラリ、と体の重心が傾く。自分が座っている感覚もなくなった。脳ミソに靄がかかったように意識が朦朧とする。何だ、コレ。

 オレの様子がおかしいことに気付いた鯢吞亭の大将が心配そうに声をかけてくる。だというのに、何を言っているのか理解できない。頭がイカれたせいか、聴覚にまで影響が出ていた。

 マズい。酔いが回ったなんて生易しいモンじゃねぇ。まるで睡眠薬を盛られたレベルの即効性が身体中に及ぶ。やっぱりコレが原因なんじゃねぇかよ。

「くそ……油断した……」

 力を振り絞って手探りで水の入ったコップに手を伸ばす。しかし、遠近感がオシャカになった今のオレに物が持てるハズもなし。掴むどころか行き過ぎてコップを倒してしまう。中身が零れてテーブルの上に水溜まりが広がった。

 ロクに体も支えられずカウンターにガツンと頭突きをかます。

「かせ、ん……」

 なぜか最後に桃色ミディアムヘアの仙人サマの名前を呟き、オレの意識は途切れた。

 

つづく

 




次回も投稿が遅くなったら零ちゃんぶつじょ(奇面組)
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