東方扇仙詩   作:サイドカー

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東方ダンマクカグラに茨木華扇の参戦おめでとうございます
CVが拙僧の一番好きな声優様で狂喜乱舞したナリ


第七十三話 「頭文字ミッドナイト早朝版」

 夜明けが来る。

 人静かな通りに朝霧が仄かに立ち込める。薄っすらと白い霞のベールに包まれて静謐な空気に澄む。早朝ならではの冷え込みに微かな肌寒さを感じてしまう。

「寒っ」

 この時ばかりは夏であることも地球温暖化なんぞも疑う。間もなく明け方に染まっていく人里の軒並みを突っ切って先を急ぐ。

 日の出とともにシャッターを下ろす夜間営業のハードボイルドな何でも屋。それがオレだ。なのだが、どーしたものか今から仕事に向かう最中だったりする。

 こんな朝一番の仕事ってぇと牛乳配達か新聞配達か。答えは似て非なる。

「正解は博麗神社までの豆腐の配達ってか」

 ()()()を看板に掲げて商売をしてるからにはイチイチ文句も言えん身の上。こちとら日銭を稼がねば生きられんワケで。ましてや此処はファンタジーなド田舎異世界の幻想郷。アウトローな言い方をすればロクに法律なんざなかった。そこまで世紀末じゃねぇけど。

 

 ひっそりと、って程でもないが小ぢんまりした店舗が見えてくる。

 さらに近付けば店先に二人分のシルエットが霞越しにボンヤリと佇む。片方はこの店の親父。そしてもう一人は……

 柔らかな桃色の髪に白いシニョンを結って、薔薇が飾りの中華衣装を着た仙人サマが、オレを見つけて「あ」と声を上げる。そこで笑顔を咲かせるならまだしも、すぐさま腰に両手を当ててあざといくらいの『怒ってます』ポーズを取った。

「やっと来ましたね」

「おー、今来たところだ」

「開き直らない!」

 まだ朝日すらマトモに昇ってない時間にもかかわらず、到着するなりムダに通る声で叱咤される。お前こそご近所連中が寝てんだから静かにせんかい。

 遠目でチラッと見えたときは余所行きの営業スマイルで談笑していたってぇのに、オレが現れた途端に百パーの素になりおってからに。ま、今になってネコ被る間柄でもねぇか。

「つーかまた来たのかよ。よく飽きねぇなオイ」

「当然です。綿間部が朝早くから労働に勤しむ貴重な機会ですから、しっかり見届けないと」

「さいですか」

 この仙人サマ、ようやくオレが日中に働く真っ当な人間になったとかで、この間からエラく上機嫌なのだった。しかも「私も一緒に行きます」などと宣いやがった始末。ちなみに豆腐デリバリーの依頼はコレで五回目かそこら。

 いつの間にか噂が噂を呼び「クロくんが持ってきてくれるならうちもお願いしようかな」「えっ、お客さんが届けてくれるの? それならあたしの屋台にもお願い」「うちはいいわ。必要ならこっちから買いに行くから」と口コミが広がり大人気。最後のろくろ首だけ辛辣だった。あとなぜか華扇が途中から膨れっ面だった。

 既に荷車の台に水を張った木箱が積まれ、中を覗けば角ばった豆腐がギッシリ詰まっている。冷蔵庫がないのがフツーなこの幻想郷じゃ、こうやって日持ちしない生モノ食材をこまめに届けるのも珍しくないそうだ。いつかの華扇の話だと、噂の氷の妖精とかの力を借りれば冷蔵保存はできるらしいが。生憎とオレは会ったこともない。ちなみに雪女もいるらしい。冬眠ならぬ夏眠でもしてんのか。

 ま、元いた世界でもウーバーなんちゃらで食料のデリバリーも多くなってきた。案外どの世界でも大差ないのかもしれんわな。

「どっちにしたって多くねぇか?」

「最近、霊夢が豆腐に凝っているそうなんです。なんだかんだ言っても博麗神社は訪問客も多いですし宴会場所にもなりますからね。その分思いのほか減りが早いのでしょう。食材を無駄にしないだけマシです」

「こーしてリアカーに積むほどとか一日二日でどんだけ食うんだか。ったく、お前じゃあるめぇしよ」

「むっ」

 油断してうっかり出た軽口にも華扇は耳聡かった。失礼な、と言いたげに眦をキツくしてオレの脇腹を肘鉄で小突く。地味にイテェからやめーや。

 いざこざやってると、店の奥に引っ込んでいた豆腐屋の親父が戻ってくる。片手に持つのは何の変哲もない湯飲み。中身もただの水。そいつを荷台と木箱の隙間に差し込んだ。

 ヤニ咥えた糸目の中年オヤジが『文々。新聞』を広げつつ、投げやりにお決まりのセリフをぶつける。

「零すなよ。豆腐が崩れる」

「へーへー、わぁーってらぁ。その言葉だけで耳にタラコができとるぜ」

「タラコではなくタコです、馬鹿者」

 不愛想な豆腐屋のオヤジとぶっきらぼうな何でも屋のやり取りを聞いて、桃色ミディアムヘアの仙人サマが呆れ顔でツッコむ。うるへー。わざとだ、わざと。

「だーもう! ぼちぼち出んぞオラ」

「はい。では行ってききます」

 ハンドルと呼ぶにもショボい棒状の取っ手を握り、豆腐屋の荷車(通称「八郎」。あのツラで愛車に名付ける謎のギャップ)を引き摺る。華扇はオレの隣を並んで歩く。ホントに見守るだけで手伝わない。

 ふと思い出したように華扇が振り返って豆腐屋に声を飛ばす。

「あ、お豆腐は戻ってきてから貰いますね!」

「取り置きしてんのかい」

 

 

 博麗神社。その本殿に続く長ったらしい石段のスタート地点までどうにか辿り着いた。

 田舎道の凸凹を進んだせいで湯飲みの水がちぃとばかり零れてしまった。が、とりあえず豆腐は無事だったからエエだろ。これでも安全運転してきた方だ。

 

「お豆腐屋さん、華扇様! 本日はお日柄も良く!」

 

 石段の麓でオレたちを待ち侘びていたちんまい小娘がハキハキした声量を飛ばしながら大きく手を振っていた。

 苔色の長めな髪に渦巻き――ルナチャイルドみたくお嬢様テイストの縦ロールじゃなくて鳴門もかくやなグルグル模様。頭の天辺から三角錐の角が突き出る。星熊勇儀と比べると尖がりの鋭さもなく短い。それでも当たると痛そうだけど。

 先日の魂魄妖夢よりも背丈が低い娘っ子の名は高麗野あうん。自称、生きた狛犬。犬型ゴーレムとかじゃなくれっきとした生身をもつ。幻想郷ならよくあるハナシだろう。慣れたわ。

 朝イチの元気な挨拶に品行方正な仙人サマが穏やかに顔を綻ばせた。

 

「おはようございます。今朝も早起きですね。結構なことです」

「えへー、ありがとうございます!」

「どーでもいいけどオレは豆腐屋じゃねぇっつってんだろうが」

「? でも今日もお豆腐持ってきてくれたんですよね」

「そらまぁ、そいつが依頼だからな」

「じゃあやっぱりお豆腐屋さんです」

「オイ」

「プフッ、もう二人して笑わせないでください」

 

 これまで何度か豆腐を届けに上がって面識を持ったまではイイが、どうにも間違った方向に覚えられとる。その度に訂正しても無意味だった。解せん。

 この先は徒歩。まさか荷台を引っ張って石段に挑むわけにもいくまい。

 とりあえず木箱の一つを狛犬に押し付けてやると、高麗野は嫌な顔しないどころか意気揚々と石段を駆け上っていった。マジで元気なやっちゃな。

「さて、もうひと踏ん張りしましょうか」

「フッ、そーだな」

 小さいヤツが頑張っている手前もあってか、今度は華扇も自ずと手伝った。数段上の所で『待て』状態の狛犬のもとまで追いつく。

「霊夢はまだ?」

「ですね。昨晩も萃香さんが妖精さんたちを連れてやってきまして、そのまま宴会でした」

「それはまぁ、後片付けも期待できませんね……」

「あうぅん……そうなんです」

 女同士の会話を小耳に挟みながら、伊吹萃香が三月精やらクラウンピースやらを引き連れている場面を思い浮かべる。ダメだ。先頭に立つガキ大将とその子分のチビ共に見えてきた。

 とりとめのない雑談をしながらも石段を最後の一段まで踏み越えて、神社のシンボルたる赤い鳥居を潜った。境内は石畳ばかりで散らかっていない。どうやら室内で呑んでいたようだ。

 ちょうど縁側に続く障子戸が開けっ放しになっている。そこから居間の内が覗けそうだ。華扇と共に様子見がてら回ってみると、

 

「うぉ」

「はぁあ……予想はしていましたけど、まったくもってはしたない」

 

 それはそれは散々たる有り様であった。

 博麗霊夢はそこで眠っていた。いびきこそかいちゃいないが、折り畳んだ座布団を枕にして、その辺にあったであろう布を腹に覆って雑魚寝していやがった。

 卓袱台も空になった大皿に数人分の箸が無造作に放り込まれている。トドメに中身が空っぽなのをいいことに酒瓶が横向きに転がっているわ、まだ底に若干残っている盃が畳に直置きされてるわ。

 まさに宴の後の残骸を呈しておった。一言でいえば杜撰。コレはヒドイ。

「オイオイ、一人暮らしの女子大生かよ」

 おっと、そいつも偏見か。下手すりゃ女子会に夢見る純朴な青少年たちの夢を砕きかねない失言であった。忘れてくれや。

 数少ない女子大生の知り合いでもあるマエリベリーなら育ちも良さそうだし、こんな痴態は晒すまい。ただし宇佐見はあり得る。どっちかっつーともう一人の宇佐見、メガネJKの方がもし進学したらこうなるかもしれん。セクハラ教授に日頃の鬱憤を溜めて居酒屋でチューハイのジョッキ片手に憂さ晴らししてそう。

 ひとまずグースカ爆睡中の巫女は放置して、目的のブツを調理場まで運んでしまおう。しかしよくよく考えれば確かに、奇襲からの宴会コンボが事あるごとに起こるならあっという間に食い尽くすのも頷ける。醤油かければそのまま食えるし、酒のアテとしちゃド定番だかんな。

 全員が木箱を調理場の片隅に置いたところで、華扇が「よし」と妙な気合を入れた。何となく面倒そうな予感がしてならない。そして案の定、

「新鮮な豆腐もあることですし、お味噌汁でも作ってあげましょう」

「っかー、そこまでやるたぁ気前のイイこって。大層なアフターサービスじゃねぇか」

「フフ、ついでですよ。折角ですから私たちもご相伴に預かりましょうか」

「みんなで一緒に朝ごはんですね!? 大賛成ですよ!」

 万歳する狛犬に微笑み、お優しい仙人サマは壁際に吊るしてあった割烹着に袖を通した。博麗霊夢のサイズに合わせてあるため一部が盛り上がって窮屈そうだった。あえて何も言うまい。というかオレはどこ見て考えてんだ。

「二人は居間の片付けと洗い物をやっておいてください。あのままでは朝餉も並べられませんから。あと霊夢はまだ起こさなくてもいいですよ」

「はーい! お任せください華扇様!」

「って、オレもかよ」

「つべこべ言わない。ほら行った行った」

 こっちの苦言も容易く受け流され、華扇はパンパンと手を叩いてこの場を取り仕切る。お袋じゃねーか。

「行きましょー、お豆腐屋さん」

「だから豆腐屋じゃねぇっつの」

 朝っぱらからテンション高めな渦巻ヘアスタイルの狛犬に急かされ、あれよあれよと飲み会の後始末に駆り出される。依頼達成してんのにまだしばらく帰れそうもなかった。泣けるぜ。

 

 

「いやー、こんなことまでしてもらっちゃって悪いわね」

 朝食のイイ匂いで目を覚ます、っつー何とも羨ましい起床を迎えた紅白巫女が悪びれない笑顔でしれっと告げた。ホントそれな。

 白米、味噌汁、冷奴に白菜の浅漬け。牛丼チェーンのモーニングメニューみたいな質素な献立が食卓を占める。味噌汁の具材は豆腐の他にも刻み葱と椎茸が薄切りにしてあった。

 円い卓袱台を四方から囲み、それぞれ自らの食事に箸を伸ばす。

 

「それにしても霊夢、ここのところ豆腐ばかり食べてはいませんか?」

「体に良いでしょ。よく言うじゃない。豆は畑のお肉だって。大体暑くて夏バテするのよ。でも冷奴なら手間もかからないし食べやすいしね。あとお手頃。これぞ万能食だわ」

「だからといってそれのみで済ませるのは感心しません。このままだと夏バテを前に栄養が偏って体調を崩します。食欲がないのを甘んじて受け入れるのではなく、少しでも食べやすいように工夫を凝らすべきです。特に夏野菜は体を冷やす作用がありますから、この時期だからこそ率先して摂るようにしないと。それに旬のものを食べるというのは、その季節を味覚で感じ取れてなかなかに風情があるものですよ」

「うるさいわねぇ……食材があればちゃんと食べるわよ。だから買いに行けるようにお賽銭ちょうだい」

「賽銭箱さえも通り越して直接手渡し要求してきやがったぞオイ」

 

 白メシに味噌汁ぶっ掛けそうなズボラな口振りに反して、紅白巫女は正座の姿勢を崩すことなく白米を口に運ぶ。華扇は言うまでもなく背筋を真っ直ぐに伸ばして行儀良く食事を進める。

「あうーん、おいしいです!」

「あぁ、うん。そらよかったな」

 意外なことに高麗野あうんが味噌汁茶漬けやってた。小柄なクセに豪快に汁だくの丼飯を掻き込む。狛犬なのにねこまんまとは。

 そいつはさて置き、だ。実をいうとさっきから気になっていることがあった。

 

「なぁ華扇。豆腐は平気なんか?」

「えっと……? 平気とは何がでしょう?」

「いや何がってオメー……大豆アレルギーだったんじゃねぇのかよ」

「そうなの? あー、そういえば節分のときも私が豆炒ってたらすごーく嫌そうな顔して遠ざかってたわね」

「ほーん、やっぱお前――」

「そ、そんなことよりもっ! おかわりはいかがですか!? ご飯も沢山炊いてありますしお味噌汁も多めに作りましたからまだまだありますよ! ね!?」

 

 あからさまに誤魔化しが見え透いた早口トークで、桃色の仙人サマがこの手の話題を強引に断ち切った。理知的な女に似つかわしくない手口に博麗霊夢も面食らう。「え、えぇ。じゃあ味噌汁ちょうだい」と半ば困惑しながらもお椀を華扇に預けた。押し切られたともいう。

 おかわりを貰いつつ紅白巫女がオレに視線を移す。

「わたなべも遠慮しないで食べてっていいわよ。あうんと一緒に片付けしてくれたみたいだから」

「フッ、もとより遠慮するつもりはねーよ。タダ働きほどわりに合わんものはねぇだろ」

「同感ね」

「こら! 貴方たちは変なところで意気投合するんだから。さ、綿間部もお椀貸してください」

「おー、悪ぃな」

 さりげなく博麗巫女がオレの名前を呼び間違えたが、こんなん日常茶飯事に過ぎない。三月精だって今でもワタナベさん呼びだしよ。

 先ほどから口数少なくなっていた狛犬を見れば、味噌汁茶漬けに浅漬けをトッピングして味変を試みている途中だった。いよいよもってズボラ飯やんけ。もっともさすがに冷奴は乗せないようだが。

 紅白巫女も暢気に味噌汁を一口啜って、ほぅと一息ついた。

「宴会の翌朝に飲む味噌汁は格別ねぇ」

「あー、そらわからんでもない」

 オレも華扇によそってもらった二杯目の味噌汁を啜る。

 ほんの少しだけ薄味な気もするが、飲み会の次の日と思えば程好く胃に優しい仕上がり。何なら慣れない早朝働きしたオレにとっても丁度イイ。

 そもそも薄味といっても貧相さを微塵も悟らせない。それどころか料亭のお吸い物のような上品な味わいが口に広がる。味噌のふくよかな香りが湯気と一つになって身も心もほぐす。

「確かに美味ぇぜコイツは」

「うふふ、ありがとうございます。そう言ってもらえると作った甲斐がありました」

 いつも食べ歩きばかりしているようでいて自炊も上手い。何でもそつなくこなすのはさすが仙人といったところか。しみじみと感想を呟く。

「こーゆー味噌汁なら毎日でも飲んでみてぇかもな……」

 

 ガチャーンッ!!

 

 のどかな食卓をブチ壊す物音が響き渡った。その場に居た誰もが驚いて犯人に注目する。

 

「はぇ、ぁ……ぇぅ……ッ!?」

 

 白米のおかわりを盛ろうとしていた仙人サマがそのままの体勢で硬直しておった。

 彼女の手から零れ落ちた茶碗が畳の上を転がる。よそう前だったのがせめてもの救いであろう。

 桃色の女は赤みがかった瞳を大きく見開いて口をパクパクさせている。酸欠ではなく、何か言おうとしても上手く言葉が出てこない様子。相変わらず表情豊かなこって。

 数秒後、まるで沸騰したように真っ赤になった華扇が怒涛の剣幕でオレに食ってかかった。

 

「な、なな、な――何てことを言い出すのですかこんな人前だというのに!!」

「いや別に下ネタかましたワケでもねぇだろうがい。お前こそどーした大丈夫か?」

「う、うるさーい! このばかっ、ばかもの!」

 

 食事中でなければ駄々っ子パンチでも繰り出しかねない。この女が拳を叩き込むと冗談じゃすまないから助かった。さりとてイマイチ理解が追いつかない。どーしてこうなった。

「本当にもぉ! 綿間部はこれだから!」

「いいから落ち着けや。ホレ、味噌汁飲むか?」

「こんのっ……誰のせいだと!!」

 説教なんだか地団駄なんだかとにかく騒がしい仙人サマが感情を爆発させる。もう一方で、オレは箸とお椀を持ったままなぜか責められる。状況が謎過ぎんだろ。何だコレ。

「はぁ、ご馳走様ご馳走様」

「あれ? 霊夢さんもう食べないんですか?」

「そういう意味じゃないわよ」

 

 

 朝メシだけでなく、ついでに食後のお茶もちゃっかり一服してから博麗神社をお暇した。

 あくまで配達そのものが依頼だったので帰る時間が遅くなったとしても支障はない。

 石段を最下段まで下り、路駐していた荷車を回収して人里に向けて再び歩き始める。

「……」

 華扇はなぜか荷車の後ろにくっついてきて、行きは手伝わなかったのに帰りはこっそり押してくれている。ぶっちゃけ荷物もなくなって軽いから押さなくても平気なのだが、何となく言わないでおいた。

 それはそうとお茶飲んている時もビミョーにニヤけていたのが気になった。よくわからんがオレが知らん間にイイコトがあったらしい。ったく、羨ましいこって。

 とりあえず帰ったら寝るか。どーでもいいことを考えていたら後方から話しかけられる。

 

「綿間部っ」

「あー? 何や」

「……こ、今晩は何が食べたいですか?」

「ン――!?」

 

 あまりにも脈絡のない問いかけに足を止める。

 晩飯をご馳走してくれるってことだろうか。にしては、どこか甘く震えた声音に言外に込められた別の意味がありそうな気もした。

 今の華扇がどんな表情をしているのか見たくなって振り返ろうと――

 

「な、なーんちゃってぇ! 冗談ですよ冗談ウフフ綿間部ったらもぉ本気にしちゃってイヤなんですからぁ♪」

「ってうぉオイィ!? ちょおまバカ押すな押すな下り最速になっちまうだろがぁアア!?」

 

 突如急加速した荷車のドリフト音と華扇のテンションおかしい歓声さらにオレの絶叫に近い叫びが、ようやく本格的に朝を迎えた幻想郷の果てまで行き渡った。

 

 

 豆腐屋に戻ってきた時には湯飲みの水は全部飛び散っていた。オレは悪くねぇ!

 

つづく

 




華扇からバレンタインチョコ貰いてぇなぁ!(魂の叫び)
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