東方扇仙詩   作:サイドカー

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これヤバいんじゃないかってくらい筆が進む進むの

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サンキューようつべ! アイシールド21めっちゃオモロイ


あと今回ヒロインの出番はかなり後の方になります。許してヒヤシンス
そんなこんなで此度もごゆるりと楽しんでいただけると嬉しいです。


第八話 「異世界屋台 ~お前に食わせるタン塩はねェ!~」

 模様すらない黒いネクタイを締める。少し緩め、ラフなスタイルに仕上げた。オレにとっては大事なファッションアイテムの一つ。やはりコレがないとどうにも気持ちが引き締まらない。

 次いでベストを羽織る。当然こっちもブラック単色なのは譲れない。昼間は暑くてしんどい重ね着も、この時間帯ならさして苦にならない。何より全身をあらゆる黒で統一してこそ、オレの二つ名が活きるといえよう。

 最後にオールバックの髪型を今一度手櫛で梳いて、息を吐く。

「行くとするか」

 テントのファスナーを下げ、いざ外へと身を乗り出す。ひゅう、と夜風が吹いた。

 わざわざ見渡すまでもなく、辺りはとっくに薄闇に包まれていた。天上の遥か彼方には、光年単位の煌めきがポツポツと疎らに点在する。ネオンライトがやけに眩しい繁華街では、まともに星を見てなかった。つい立ち尽くしてじっくり眺めてしまう。

 フッ、帰ってきたんだな。喜びもあまりニヒルな笑みが零れるが、それを咎める者など誰もいない。

 皆々様方お待ちかね、いよいよ夜の幕が上がるのだ。ここからがオレの時間だコノヤロウ。

「さてと、お仕事開始といこうじゃねーか」

 そう、オレは夜に生きる男。例えモノローグでもこのセリフを言わねば始まらねぇってな。

 

 連日続けて朝っぱらから押しかけてきやがった某仙人の目を欺くため、オレはこっそり拠点を人里の隅っこ、それも裏通り付近の特に目立ち難い場所へと移していた。さらにカモフラージュとして、そこら辺の資材置き場から簾を拝借してテントに被せておけば、非の打ちどころがない隠れ家と化す。

 その効果たるや期待通り。おかげで今日は華扇の襲来を受けず、日没まで英気を養うことができたのであった。ったく、最初からこうしとけば良かったわ。

「ま、別にあの女を避けているワケじゃねーけどな。せめて営業時間くらい守れってんだ……」

 独り言をぼやきつつ、裏通り抜け出て人里の往来を歩いていく。

 数は多くはないものの表通りに沿って明かりが灯る。さすれば宵口の雰囲気と合わさって得も言われぬ情緒を醸し出す。行燈の滲んだ黄色が輪郭を浮かび上がらせ、軒先に吊るされた提灯が揺らり揺れる。果てはレトロなガス灯らしき街灯まであった。

 って明治時代の初期か、此処は。何かもう色々と入り混じり過ぎて統一性ねぇよ。文明開化の音がすんぞオイ。

 未だに慣れない時代錯誤な景観の中を、ひとまず中心地を目指して進む。やがて近付くにつれて人々の喧騒が聞こえてきた。なのだが……

 

「………!!」

「……――ッ!? ……ッ!」

 

「あ?」

 イマイチ飲んで騒いでのドンチャン祭りってな感じがしない。どちらかといえば、言い争う怒声に近かった。んだよ、どうにも穏やかじゃねーな。

 もしやと思い、僅かに足を速める。曲がり角を通り抜けた先には案の定、互いに胸倉を掴んで睨み合う男二人組の姿があった。

 

「馬鹿野郎どこ見て歩いてんだ!!」

「テメーの方からぶつかってきたんだろうがッ!!」

 

「…………はッ」

 場違いにも鼻で嗤っちまった。

 何やこのテンプレ。どっちもどっちで既に酔っ払っており、酒気帯びの赤ら顔はあたかもタコのようであった。海に帰したろか。

 上白沢女史曰く、人里の秩序は守られているそうだが。とはいえ人が集まって住めば、多少なりともいざこざは避けられないというもの。ましてや、下手に酒が入ろうものなら度が過ぎた輩も出てくるだろう。まさにこんな風にな。一見平和そうでも毎週アンパンとバイキンが殴り合っている世界だってあんだよ。

 もっとも、オレからすれば陳腐としか言えない在り来たりな場面でも、通りすがりの村人達には堪えるようだ。いつストリートファイトに発展してもおかしくない空気に竦み、ハラハラと狼狽える者ばかり。「誰か、慧音様を呼んで来い!」と騒ぎ立てる声を受けて、何人か走り去っていった。無情だが、彼らが戻ってくる頃にはもう手遅れなんじゃね?

 この場をどうにかできそうな適任者は、一人。

「しゃーねぇ、黙らせるか」

 早速こうなるとは、オレもツキが回ってきたか。言うても悪運の方だかんな。

 そうそう起きないハズの人里の揉め事。そいつをこうも連続で引き当てるとは、もしや悪魔でも憑りついているのではなかろうか。ま、そうだったら面白いとさえ思えてしまうオレもオレで大概だわな。

 さて、今にも第一ラウンドをおっ始めそうだし、ここは手っ取り早いやり方で片付けてやろう。ベストの内側に手を入れる。

 

 ――相手は二人。彼らにとっては幸か不幸か、今夜のオレは切り札を()()()()持ち歩いていた。

 

 

「――へぇ、そんなことがあったんだ。お客さんカッコいいね」

「フッ、この程度なんざ容易いこった」

 お通しの枝豆を口に放り、その殻を小鉢に落とす。塩も使っていないのか。茹でただけなのだが、だからこそ素材の味が活きて美味い。日本酒の香りと炭火の煙が、さらに味わい深さを引き立てる。

 月夜の下で、道端にひっそり佇むナニカの赤い灯を偶然見つけた。人里を後にしてあぜ道を散策していた折の出来事だ。

 近付くと、その正体は居酒屋それも移動式の屋台だと分かった。今時にしてはあまりに珍しい。興味本位で暖簾を潜れば、すぐさま木目調の褪せたカウンターが客を出迎える。古いが趣のある大正浪漫。

 その店の雰囲気を気に入ったのもあり、ふらりと誘われるように一杯引っかけていくことにした。

「お客さんモテるでしょ?」

「生憎だが生まれてこの方、一度たりともそんな経験ねーよ。言わせんな恥ずかしい」

「えー、うそだぁ」

 オレの話に相槌を打つのは着物姿の少女。名前をミスティア・ローレライといった。

 小豆色に染めた反物から楚々とした和の風情を見出す。焦げ茶色の帯と合わさってなお、地味さなど微塵も感じさせない。どこぞの仙人を思い出させるピンク色のショートヘアに藍色の頭巾を被っており、少女でありながら女将スタイルがよく似合う。そして、彼女の背中には鳥類らしき羽がしっかりと広がっていた。

 

「あら、お酒が空じゃないの。もう一杯いかが?」

 

 着物少女におかわりを勧められる。 ちなみに、この屋台は彼女が一人で営んでいるそうだ。こちらに話しを振ったりしながらも調理の手は休めない。その手際の良さに感心してしまう。

 個人的にはバーボンが好きなのだが、そもそも幻想郷に洋酒があるのかも定かではない。なかった場合は今後どうしたものかと悩みの種が芽を出した。

 ま、此処の日本酒はやけに美味いし今日の晩酌はコレでいいだろ。しかも竹筒をグラスとして使っているのがまた風情がある。やってくれるじゃねーか。

「なら同じやつを頼む。一合で」

「はーい。それじゃ失礼して」

 カウンター越しにうら若き女将からお酌してもらう。と、あやうく溢れて零れそうになり慌てて口をつけた。よく冷えた喉越しを追いかけて、喉の奥でカァッとした熱を発する。くーっ、この清涼感とアルコール分の繋ぎが堪らねぇんだよな。

「何か食べる?」

「あぁ、だったら刺身でも一つ」

「いいわね、ちょうど今日捕ったばかりの川魚があるのよ」

 着物姿の少女がニコッとスマイルを咲かせる。

 明るくて愛想も良し、そしてこの女も容姿が整っていた。彼女目当てに来る男性客も少なからずいるだろう。って、つくづく美人が多くねぇか幻想郷。オレはともかく女に弱いヤツが来たらどうなるんだか。

 何となく、刺身だけでは物足りない気がしてきた。追加でもう一品ばかし欲しいところ。そう思い、オレは深く考えずにこう口走ってしまった。

「ついでに唐揚げか手羽先あたりも頼めるか?」

「……………お客さん」

「ん――うおぉッ!?」

 顔を上げた瞬間、ズバッ!と鼻っ柱に菜箸を突きつけられて目を疑った。この間僅か数秒足らず。き、急に何すんだオイ!?

 身動き取れないオレに対して、営業スマイルを失くして女将が声を低くする。無論、箸はそのままである。包丁じゃなかっただけ救いがあるのかもしれないと、現実逃避せざるを得ない。

「あたしの背中見てわかんないかなー……これでも夜雀、れっきとした鳥の妖怪なんだけど。そんなのを前にして鶏肉料理が食べたいなんてデリカシーに欠けるんじゃない?」

「わ、わぁーった悪かったよ。今のなし、やっぱりフライドポテトにすっから」

「フライドポテト? なぁに、それ?」

「…………揚げ芋でお願いします」

 苦し紛れに言い直す。「はいよろこんでー」と返事をして、再び笑顔に戻った夜雀が調理に取り掛かった。女将のお料理風景を肴にして、チビチビと日本酒を舐める。び、ビビってねーし!

 しかし此処ではバーガーとポテトのセットは存在しえないのか。はたまたこの鳥娘が偶々知らなかっただけなのか。幻想郷の謎は尽きない。アメリカンな妖怪はいねぇのか……?

 

「~~~~♪」

 

 リズミカルな包丁さばきを披露しながら、いつしか少女は歌を口ずさみ始めた。

 女性らしい澄んだ歌声が酔い始めた耳に心地良い。聞き覚えのない歌だが、彼女が即興で作ったオリジナルというセンも有り得る。そういえばローレライつってたな。なるほど、その名の通りってか。

「上手いな、歌」

「ありがと。自分でも得意だとは思ってるけど、やっぱり誰かに褒めてもらえると嬉しいね。お客さんも歌は好き?」

「人並みには。まぁ何だ、歌声が綺麗な女は嫌いじゃねぇ」

「やだもう、照れるじゃない」

 満更でもなさそうにはにかむミスティアを見て、不覚にもオレまで口元が緩んでしまう。

 繁華街で過ごしていたときも、生演奏や歌姫のコーラスを聴ける落ち着いた店で、カウンター席でバーボンを飲むのが好きだった。それに、ああいう静かな雰囲気は依頼の話しをするにも持って来いなワケで。ほんの数日前までの日常が、やけに遠く感じる。

 しばし物思いに耽っていたが、コトッと皿を置かれる音で意識が現実に帰ってきた。

「はい、お刺身。揚げ芋もすぐにできるから」

「ん、どーも」

 醤油皿にワサビを溶かし、刺身の両面にたっぷり浸してから舌の上に転がす。確かな歯ごたえと、舌から鼻にかけて突き抜ける青い刺激が自ずと酒を進ませる。

 人里から幾分か離れているおかげで他者のざわめきもない。耳に届くのはミスティアの歌声と、外に集う鈴虫の囁き。まるで静寂という水面に落ちた一滴の旋律。小波を揺らすようなほろ酔いに身を委ねる。

 あぁ、良い夜だ。やはりオレの生き様はこうでなければ――

 

「見つけましたよ! 綿間部!!」

 

 オレの時間、終了のお知らせ。

 ここ数日ですっかり耳に馴染んだ女の声が、オレのすぐ真後ろから体当たりしてきやがった。言わずもがな、振り返ればヤツがいた。赤みがかった目をこれでもかと吊り上げて、プンプンと怒りを露わにする桃色の仙人サマのご登場である。

 あと何故か知らんが、今夜は一段と不機嫌そうだった。言っとくがオレ何もしとらんやろ。

「よう、華扇」

「よう、じゃありませんッ! 一体どこに隠れていたんですか!? 昼間いくら探し回っても居ないし、道往く人に尋ねても知らないと返されるし……心配しちゃったじゃないですか!!」

「そらご苦労なこって……どっちみち、こうして見つかったんだからイイじゃねぇかよ。とりあえず落ち着けや」

「ダメです許しませんこのッ馬鹿者ぉお!」

「だーもう! 店で騒ぐなっつの! せっかくのムードが台無しじゃねぇか」

「ムードですって!?」

 ついさっきまでのセンチメンタルなひとときは、華扇が来たことによって瞬く間に霧散してしまった。これは酷い。大体、たった一日会わなかったぐらいでどんだけ大騒ぎしてんだよ、お前は。

 そんなオレと華扇の喧しいやり取りを見兼ねたのか、女将が仲裁役を買って出る。

「まぁまぁ、二人ともケンカはその辺にして。それより仙人様もどう? お腹空いてない?」

「むぅう……じゃ、じゃあ食べながらお説教ですからね。あなたには言いたいことが山ほどあります」

「っかー、おいマジか……」

 口をへの字に結びながらも、華扇はオレの隣を陣取った。お互いの肩が触れ合いそうなほど隙間なく。いやどう見ても狭いだろうが。

「おい」

「……つーん」

 どうやら彼女もこちらが言いたいことは察しているらしい。だが、むしろ頑なに距離を広げようとしなかった。なんでやねん。あと、わざわざ声に出してつーんとか言うなや。

 兎にも角にも狭くて動きづらいことこの上ない。もう一度だけ言ってやろうと……

 

「ダメ、ですか……?」

「ふぐぅ…………ッ!?」

 

 潤んだ瞳で見つめられ、ほんの一瞬だが頭が真っ白になった。

 急にしおらしくなってしまった華扇の表情を目の当たりにして、変な声とともに口を噤んでしまう。そしてふと気付く。先ほどの彼女のセリフにあった一言に。

 

『心配しちゃったじゃないですか!!』

 

「……はぁあ。へーへー、好きにしてくれ」

「綿間部……はい、好きにさせてもらいますっ」

 ったく、降参だ。そんなん反則だろ。

 オレが白旗を上げると、桃色の少女はみるみるうちに顔に輝きを取り戻す。やれやれ嬉しそうなこって。ま、落ち込まれるよりかは百倍マシだけどよ。その調子で説教も水に流してくれればもっと有り難い。

「あーあ、酒が美味いぜチクショー」

 とりあえず、真横と正面それぞれの女達から向けられるむず痒い視線を誤魔化すべく、オレは酒に逃げることにした。

 

 思えば、こうやってこの女と飲み交わすのは三日振りか。ってまだ三日しか経ってないんかい!

 

 

つづく




おかみすちー入れてトライアングラーになったりはしませんのであしからず




タブンネ
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