事務員の初音さんとネギについて
ミクさんのネギ好きは筋金入りなんて言葉を通り越して、もはや病的と言ってもいい。
うどんやそばには麺が隠れるほど山ほどの刻みネギをトッピングしたり、コンビニの弁当や外食のメニューでは必ずネギが入っているメニューをチョイスし、極めつきには「小腹がすいたから」とネギを丸々一本かじり出す始末だ。
見かねた風花さんや美奈子さんが日頃の食事の栄養バランスについてお説教をしたり、お弁当を用意したりと手を尽くしたが、美奈子さんのお弁当とは別に自前でネギを用意しだした辺りであの美奈子さんもとうとう匙を投げた。
「あれはネギを食べる頻度を抑える方法を探すより、ネギを使ったメニューで他のものを食べさせた方が早いと思うんだ」
困った顔で乾いた笑いを浮かべた美奈子さんを見たのは、後にも先にもこの時だけだった。
【なんでみんな私のネギをセーブしようとするんだろう……体にいいのに……】
「ミクさんのは度が過ぎているからだと思いますよ……」
【あはは、静香ちゃん大げさだなぁ。これくらい普通だよ?】
「ネギを生食で丸かじりするのは女性としても現代人としてもどうなんですか……?」
クレッシェンドブルーのレッスンを見てもらった後にネギを丸かじりするミクさんを目撃したときは、流石にその場の全員二の句が継げなかった。
志保と星梨花は目を丸くして驚き、茜さんは頬を引きつらせてドン引き、あの麗花さんも「そういう妖怪かと思った」と怯えだす始末だ。シアターで一番の自由人と言われる麗花さんをもってしてもネギの丸かじりは許容範囲を超えているらしい。
流石に劇場で白昼堂々とネギを何度も丸かじりされるとまだ年少の子たちの教育にも良くないということで、ミクさんもあれ以降は控えているようだ。
「ミクさんは体の線が細いんですから、ネギだけじゃなくてお肉や他のものもきちんと食べるべきです」
【お酒やお菓子よりはだいぶ健全だと思うんだけどなぁ】
「それとこれとは話が別です!!」
食事を一向に改善しないミクさんを説教していた風花さんとこのみさんが、この一言で危うく論破されそうになったことは記憶に新しかった。
「大体、私とうどんを食べに行った時だって、ネギをあんなに沢山盛ってましたけど、あんなにネギを入れたら出汁の風味もうどんの小麦の香りも全部飛んじゃうじゃないですか! うどんにおいてネギはあくまで食べ進めていく上でのアクセントとして……」
【静香ちゃん静香ちゃん】
「……なんですか?」
【今は事務所に静香ちゃんしかいないし……ネギ食べちゃ、ダメ?】
ニコニコと笑うミクさんの手には、いつの間にか大きく立派なネギが一本握られていた。
勿論、直後私の雷が落ちたのは、言うまでもない。