レンタル☆まどか   作:黒樹

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※まどマギ作品のタイトルを考えている時に思いついたネタです。


prologue

 

 

「やぁ、僕の名前はキュゥべえ」

 

絶望する一人の少女の前に、一匹の小動物が現れた。

世にも不思議な、話す獣。白い毛並に長い耳と尻尾。瞳が赤い宝石、或いは血のように不気味に光り、果てには心の奥底すらも見えない瞳の一匹の獣。しかし、その耳にある金属製に見えるリングは天使を装う。

その獣、言葉を話すだけではなく、少女に話しかけているようだった。

話しかけられた少女といえば、いきなり摩訶不思議な「キュゥべえ」と名乗る獣に話しかけられて、困惑を隠せない。それもそうだ、いきなり獣が現れて、あまつさえ人の言葉を喋る。これに驚かないわけがない。

そんな困惑し切った少女に、その獣は甘言を吐く。

 

「僕はどんな望みも、願いも、叶えてあげられるよ」

 

その言葉に嘘偽りはない。世界の理すら変えてしまう力、それが獣にはあった。

 

「それって……本当?」

 

眉唾物の口先でも少女は問わずにいられない。嫌疑の眼差しを向けてくる少女に、キュゥべえはにこりと微笑む。小動物らしいそれはアニマルセラピーのように深く少女の傷の隙間に入り込んだ。

 

「でも、もちろんタダとはいかない」

「……な、何を支払えばいいの?」

「簡単なことさ」

 

笑うことのない瞳を瞑り、口元を緩める、魔性の獣。

 

 

 

「–––僕と契約して魔法少女になってよ!」

 

 

 

 

 

 

「なぁ、二木。知ってるか?」

 

見滝原にはこんな噂がある。と、前の席に座る彼は言う。

 

 

 

「見滝原には中学生のレンタル彼女がいるんだってよ」

 

 

 

夜の歓楽街を利用する大人の男達と、所謂キャバ嬢やホスト、風俗店のような裏路地の人間で知らない者はいない。そんな噂を仕入れて来たのが中沢君。僕と同じ見滝原中学校に通う二年生男子生徒。

 

しかしあれだ。レンタル彼女とは何だろうか。

言葉通りなら、聞くまでもなく、そういう存在なのだろうが。

 

「なんだよお前、レンタル彼女も知らねーの?」

 

中沢君はやれやれと首を振って、

 

「レンタル彼女ってのはなぁ。えーっと、なんだっけ。つまり、彼女を借りるってことなんだよ」

 

そのまんまを答えた。だから、僕は疑問点を訊ねる。

 

「彼女を借りるって、他人の?」

「ん、いや、仕事みたいなものらしいから……そういうのもある、かも」

 

僕は大人のお店を想像した。

まったく無縁の場所だ、法律的にどうなのだろうか。

中学生が、そういう仕事って。

しかも他人の彼女。虚しいことこの上ない。

 

「言うなよ。こっちまで虚しくなってくる」

 

そんな気分にさせたのは彼の方ではないか。

 

「いや、でも、違うんだってそういうのと。なんでも名目上は癒し系の仕事らしい」

「それってセラピー的な?」

「そうそう。なんでも、一日だけ彼女になってくれるらしい」

 

なるほど。理解した。

 

「つまり、お金を払って一日彼女になってもらうってことだね」

「そうそう。そうなんだよ」

「……言葉にすると余計に虚しいね」

「言うな。やめろ」

「偽物か……」

「やめろって。でも、恋人気分を味わえるらしいぞ」

「……中沢君もそういう願望が?」

「う、うるせぇ、お、俺にも彼女がいたことくらいな……」

「先生みたいに破局したとか?」

「喧しい。俺はまだ玉砕してねぇ!」

 

とまぁ、冗談はこれくらいにして。

それがどうしたの、と聞くと彼は身を乗り出して話の続きを聞かせてくる。

 

 

 

「–––それがさ。いるんだよ。この学校にレンタル彼女が」

 

 

 

噂だけどな。と、中沢君は言った。

 

「それで?」

「え、それで、って……お前、他にもっとこう……なんかないの?」

「そんな怪しい仕事がバレたら、教育委員会や生徒指導の対象になるね」

「まぁ、そうなんだろうけど……」

 

何故か煮え切らない反応で中沢君は唸った。

 

「……お前、恋人欲しいとか思わないの?」

「思うけどさ。……先生のあの愚痴聞いて、今は別にいいやって思う」

 

先生から大事なお話があります。と、口を開けば破局した経緯を語り出すあの女教師の惚気と愚痴はもう聞き飽きた。

彼女ができるようないいところがない僕としては焦ったところで意味がない話だ。だってモテないんだから。

 

「それで、なんていうの、その……レンタル彼女サービスってのは」

「そうそう。名前が妙にファンタジーで、乙女チックなんだけど。名前は確か……」

「何の話をしてるんだい?」

 

話に割って入って来たのは、最近、交通事故で入院していたイケメン。上条君だった。しかも、ヴァイオリンの天才で、非の打ち所がないときた。別世界の住人である。

 

「可愛い幼馴染持ちのお前には関係のない話だよ」

「え、え?」

「そして、他の女の子に告白されてYesと応えた上条君にはね」

「……なんだかよくわからないけど、僕責められてる?」

 

罪深い男だ、と中沢君は呟いた。

 

 

 

 

 

 

『魔法少女レンタルサービス〈レンタル☆マギカ〉』

 

それが、中沢君の手に入れたサイトの名前らしい。しかし検索を掛けても引っかからないらしく、何か特別な方法でないとサイトに繋ぐことすらできないらしい。

 

学校も終わり放課後、帰宅した僕はテレビをつけてだらだらとする。着替えて制服を掛けてで気力はゼロ。いちご牛乳をセッディングしてもうソファーから動く気は無い。

 

……アプリゲームのノルマ達成。暇だ。携帯を手にしていると何かしたくなる。その衝動に任せて思い出したサイトの名前を検索エンジンにかけてみる。

半信半疑、悪戯のつもりで、いやマジで、そのつもりで他意はないが検索してみた。

 

「……ん?」

 

スマホの画面に何かが横切った。そんなはずはない。いつものWebページ。変なサイトにはアクセスしていない。というのに、自動でURLが変更されている。検索して、いつのまにかサイト内部まできていた。

 

「魔法少女レンタルサービス……レンタル☆マギカ」

 

妙な話である。教室で中沢君が検索した時には、何も起こらなかったのに。

しかし当然のことながら、利用規約云々の説明書き等が書き連ねられていて、問題はここからのようだ。

取り敢えず、怪しいところ以外は流し読みして、アプリゲームのように適当に利用規約に同意する。

どうやら登録のみなら年会費も登録費も永劫かからないようだし、そうしてみた。すると、サイトのトップページへと辿り着いた。

 

そのサイトに入った瞬間、真っ白なマスコットキャラクターが出てきた。小動物型の可愛らしいそれ。中沢君の話ではレンタル彼女という如何わしいサービスだったはずだが、妙に不釣り合いで、自分の予想がかなり偏屈だったのだろうと反省。でも怪しさ全開なので疑念が晴れたわけでもないが。

しかしまぁ、読み進めていくとわかったことは一つ。

中沢君の言葉通り、レンタル彼女サービスというやつで、そのお仕事についている少女達のことを「魔法少女」と呼ぶらしい。随分凝った設定である。派遣される魔法少女達が一日彼女になってくれる、というものだ。

 

「さて、と……」

 

問題はもう一つ先。見滝原中学校にいるという、レンタル彼女。派遣される魔法少女のプロフィールを観覧できる欄があったので、試しにクリックしてみると、顔写真付きのプロフィールが表示された。

 

「えっ……?」

 

途端、吃驚して画面を凝視。学校で見慣れた少女達の顔写真と名前が貼り出されたのだ。

『鹿目まどか』『暁美ほむら』『美樹さやか』『巴マミ』『佐倉杏子』

一人知らない人がいるが、他はともかく三人は同じクラスメイト、そしてもう一人は校内で一度見かけたことがあるようなないような曖昧な人物だった。

 

「……本人、かな?」

 

他人の空似。同じ名前の、同じ顔。その可能性もなくはない。

僕は取り敢えず、疑念と共にスマホの画面を消した。

 


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