ふざけて投稿したものが思ったより閲覧数とかが伸びてそっちに少し集中してました。
マギレコでついにクールなほむらが出て、百回そうとして五十で出てつい嬉しくなってしまった。基本無課金だとお出迎えが限界です。
「ただいまー」
靴の有無で誰だってやってしまうであろう滞在確認をしながら帰還を宣言する。「おかえり」には期待していなかったが、佐倉もうちの母親も薄情とは言わないでおこう。僕は今疲れているのだ。
即行で自分の部屋へ。久しぶりの我が家に取り敢えず飯食って風呂入って寝るの欲求を満たそうと思って自室の扉を開ければ、そこには佐倉がベッドの上で膝を抱えていた。ピクッと反応をすると、僕の姿を視界に収めるや否やベッドのスプリングですら利用して兎が如く脚力で跳び出し思いっきり体当たりをかましてきた。
「ゴフッ。……あの、佐倉さん、痛いんですけど」
まさか出待ちはそこかよ。鳩尾に良い一撃を貰い、僅かに息が漏れる。対して、佐倉は無言で腕の中でぐりぐりと頭を鳩尾と胸の中間に擦り付けてくる。
「もぉ〜可愛いな〜佐倉は」
「うるせぇバカ」
満更でもないので頭を撫でたり、背中を撫でたり、終いにはハグをするとあちらも無言で抱き締め返して来た。
「……心配したんだからな」
「ん?」
もしや、今回の作戦が佐倉には伝わっているのだろうか。こっちで色々と誤魔化しておくとほむらには教えてもらっていたのだが、その誤魔化した内容の詳細については教えてもらっていない。だから、こちらからボロを出さないように慎重に聞き出そうと質問の内容を捻り出してみる。
「心配することなんてないだろ。別に危険なことしていたわけでもないんだし」
「へぇー、そりゃそうだ。あんたは暁美ほむらと二人きりであいつの別荘に旅行に行ってたんだからな。まさか、変なことしたりなんてしてねぇだろうな」
「……あははは。ない。ないよ」
あの女狐と言いたげな爛々と光る眼光に気圧されて、ほむらに詳細を聞いておかなかった自分を悔やむ。後悔先に立たず、もうこの際どうにでもなれというのが正直なところ。しかし、放っておけばほむらの手の上で踊らされるのが目に見えている。ささやかな抵抗として否定くらいはしないといけない。事実無根なのだから。だが、裏で辻褄合わせをしていないため、強く否定し過ぎると後々面倒なことになるのだが。
「佐倉、嫉妬してるのか?」
「ふん。別に……あんたが何処の女といちゃついてようがあたしには関係ないし」
その割に怒った様子でそっぽを向く。なお、腕の中から退くという選択肢は存在しないようだ。階下からあの声が聞こえるまでは……。
「二人ともー、ご飯よー」
「はーい」
するっと腕の中から抜け出した佐倉は階段を降りていく。トタトタと駆け出した佐倉の消える背中をなんとなく悲しい気持ちになりながら見送る。
「ほら、行くぞ?」
「……ご飯に負けた」
「バカなこと言ってんじゃねーよ」
それでも顔だけをひょっこり出し待ってくれる佐倉を追い掛けながら、やっぱり『ご飯』に負けた事に釈然としない気持ちを抱くのだった。
『早く座れよ』と待ての状態で痺れを切らした佐倉の視線に苦笑いしながら席に着くと、隣に佐倉が座って来た。最近は母の隣で食事をしていたというのに珍しい光景である。もっとも来たばかりの頃は肩がひっつきそうなほど近くだったため、なんら違和感のない行動なのだがそこは目敏い母、ニマニマと人を不快にさせる笑みを向けてくる。
「なんだよ母さん」
「んーん。別にー、仲がいいなーと思って」
「べ、別に仲良くないし……」
「じゃあ、ご飯にしましょうか」
ツンデレ佐倉の言い訳も軽く流す母、僕と佐倉共通の敵である。合掌して食事に対する感謝の言葉を述べると佐倉は箸を手に黙々と食事に集中し始めた。
「ところでアオちゃん」
「なに?」
「ほむらちゃんと旅行行って来たのよね?」
「そう、だけど……?」
そう。どうやら共通認識はそうなっているらしいのだ。ほむらと僕が旅行に行ったというのは確定事項らしい。母の耳にまでそう届いているということは、もうそういうことなのだろう。しかしそんな母が突拍子もなくこんなことを言い出したのだ。
「懐かしいわー。ほむらちゃんって、あの眼鏡かけた奥ゆかしい女の子よね?」
「……んん?」
奥ゆかしい?いや、その前になんと言った母よ。暁美ほむらが奥ゆかしい?かどうかは置いておくとして、眼鏡をかけているところなど僕は一度も見ていない。あるとすれば、まどかに見せて貰った眼鏡ほむらの写真だけだ。
本気で首を傾げる僕に母は言う。
「覚えてないの?昔、とっても仲が良かったのよ。いつも一緒で『大人になったら結婚するんだ』って二人揃って言うものだから微笑ましくてねー」
「へぇー、まさかあんたにそんな秘密があったとはねぇ?」
横から威圧的な声音がした。箸をバチンと箸置きに置くと、とても綺麗な笑みを浮かべる佐倉さん。たまに覗く瞳が笑っていないところを見るに佐倉さんはご立腹だ。
「えっと、佐倉、僕は何も知らないんだけど」
「アオちゃんったら昔はよくほむらちゃんと食べさせあいっこしてたのよー」
いや、知らんし。構わず爆弾を投下してくる母の猛威に煽られてさらに佐倉から底冷えとする威圧が降りかかる。
「あっそ」
だが、謎の威圧感と比べて簡素な言葉で会話は終了した。
それから黙々と食事に手をつけた。流石に僕も謎の威圧感を放ったままの佐倉の前で、何をしでかしたかわからない子供の頃の話を母から引き出すなど自殺行為だと本能が囁いている。なので、食事に没頭するしか残された道はないのだが、突然箸が目前に突き出されれば間抜けな声が出るものである。
「うぉっ!」
「なに驚いてんの?」
「いや、普通びっくりするよ。目の前に箸が突き出されて、咄嗟に目を庇うのは自然な行動だと思うけど」
「何されると思ったのさ?」
「目潰し」
真面目に答えたら佐倉は不機嫌そうに口を閉ざした。ご丁寧に唇を尖らせる。
「キスして欲しいの?」
「ちげぇよバカ!ほ、ほら、見てわかるだろ!」
そう言って更に箸を突き出す。しかし、よくよく見ると箸は目ではなく口元を狙っていた。その上、今晩のおかず唐揚げが挟まれているというオプション付き。
なるほど、これでわからんほど馬鹿ではない。
パクリと佐倉が差し出した唐揚げに喰いつく。
少しだけ、さっき食べた唐揚げより美味だった。
「ど、どう?」
「うん。美味しい」
母が補足説明を入れる。どうやら今日のメインの唐揚げは佐倉が作ったものらしく、僕が帰ってくるとわかるなりいきなり言い出したらしい。そんな事を赤裸々に暴露された佐倉は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
夕食後、真夏の夜の生温い風に当たるため窓を開けて電話をかける。風呂に入ったと言えど暑いので汗をかくのは普通のことだ。それを極力抑える為、そして本来するべきだった打ち合わせをするべく、相手の出方を待っていた次第。コール音が数分鳴り響き、通話状態になったのはそれから少ししてから。
『しつこい男ね。数分間に渡って電話を鳴らし続けるなんて』
「ごめんごめん。緊急の用でさ。それに嫌だったら切るなりすると思うけど?」
『お風呂に入っていただけよ』
声音にどうやら怒気は含まれていないようだ。取り敢えず、安心しておく。
「実は僕があそこに行っていた間のアリバイの件なんだけど……」
『そういえば忘れていたわね。あなたのことだから携帯の内容を確認すれば察しが付くと思ったのだけど』
「内容?」
『メールのやり取りよ』
現在通話中、確認する術はない。
『もう気づいたかもしれないけど御察しの通り、私と旅行していたことになっているから。二人っきりで』
「……それが僕に一体どれだけの不幸を呼んだと思ってるんだよ。せめて両親が一緒だったとかあると思うけど」
『そこまで手を回すのは面倒よ。実際、私もうちの別荘を両親に貸して貰ったわけだし、口裏を合わせるのに両親を巻き込むのは些か不服なの。面倒だし』
「……まぁ、確かに」
言いくるめられた。面倒だと二回言われた。まさか本心は面倒だからという理由で適当なアリバイ作りをしたわけではないよな?
『それに両親が一緒だとあなた更に面倒なことになるわよ?』
「えっ、なんで?」
『自分で考えなさい』
黙考する。電話越しに続く沈黙。
「ごめん、わかんない」
『……あなたって妙なところで鈍いのね』
「あっ、わかった。両親に恋人だと勘違いされるからか」
『妙に惜しい回答ね。ま、半分正解だけど』
「困るのはほむらだとして、実際僕には無害だよね?」
『……じゃあもし、私が困らない、としたら?』
……。
「それで、ほむらの両親がいて困る理由なんて見当たらないんだけど」
『露骨に話題を逸らしたわね。まぁいいわ。一生考えてなさい』
「えー」
ほむらの両親に会ったら、何か困ることが佐倉達にあるのだろうか。謎は迷宮入りした。
『でも実際、口裏合わせておかないと後々困るわね』
「……大丈夫、夏休みが終わる頃には誰もそんなこと覚えてないと思うから」
『あなたまさか忘れたわけじゃないでしょうね?』
「え、何を?」
勿体ぶった言い方をするほむらに僕は完全に呆けていた。
『会わなきゃいいと思ってるみたいだけど、夏休み中みんなであなたの家に泊まる約束をしたじゃない』
そして、矢継ぎ早に告げられたのはとんでもない話である。
「……現実的に考えよう。女子中学生が男子中学生の家に泊まる事をみんなの御両親は絶対に許可しないと思うよ」
現実的に考えて、男の家に実の娘が泊まりに行くのだ。お父さんのみならずお母さんも反対するだろう。ほむらとの件は棚に上げてもだ。そもそもほむらの件はどうやって御両親を説得したのか。
「いったいどんな魔法を使って君は自分の両親を納得させたのさ」
『簡単よ。どうせもう気づいてるんでしょ?』
「……僕とほむらが昔会った事あるって話?」
『その様子じゃ覚えてないのでしょうね。あなたの名前を出したら、うちの両親は心良く送り出してくれたわ。お陰で私は別荘でバカンスだったわね』
話は逸れたが重要な話を聞けたので僕は相槌を打っておいた。それで、本題へと戻る。
「で、泊まるって話だけど」
『簡単な話よ。元々表向きの話はお泊まり会を開催したいって流れで始まったのだけど、どう考えてもあなたは不参加だから何ならもう杏子の家でやっちゃえばいいじゃない、って流れになったのよ』
「あー、そうだったね」
『私は居候の身だから、って渋ってたあの子に「いいんじゃない?」って許可を出したのはあなたよ?』
「……はい。そうでした。ごめんなさい」
つまり、表向きは女子会である。女子の宅に同性の友達が泊まりに行く。よくあるイベントだ。健全だし、不健全さは何処にもない。
「……待って、僕関係なくない?」
『参加しないという選択肢はないわよ?』
どうやら僕に拒否権はないようだ。
諦めて、口裏合わせをした。海の見える別荘に行っていたという設定らしい。参考資料として送られてきた写真を見るに中々綺麗な海と砂浜にすぐそこは山だった。滞在期間は終業式からそれこそ今日まで。あとは適当に海で遊んだり思い出の場所巡りをした、ということにされた(僕が覚えてなくても問題はないらしい、寧ろ好都合だとか)。
そんなこんなで十時を回った頃。
ガチャリと、僕の部屋の扉が開いた。
「佐倉、どうしたの?」
「……」
扉の前に立つ佐倉はパジャマ姿に枕を抱いていた。それで口元を隠しながら、意を決したかのようにスタスタと歩くとベッドの半分を占領するように座った。
なるほど、これが新手の夜這いか。
逆夜這いと見せかけてのまな板の上の鯉。
薄いタオルケットのようなものを被り、じっと見つめてくる。
もうすぐ寝るつもりだったので、僕も同じベッドに入った。
「もしかして一緒に寝たいとか?」
「あ、あたしの部屋の冷房壊れてんだよ」
それは災難だったな。と、言おうとして僕が得をしたので災難ではないことに思い至る。
「それで夜這いか」
「違うって言ってんだろ」
「じゃあ、おやすみ」
「ああ、おやすみ……て寝るな」
いきなりぎゅむっと体当たりをかましてきた。布団の中なのに中々器用な奴である。そしてそのまま、ギリギリまで身体を近づけて殆ど手と手が触れ合う位置で、風呂上がりの少し潤いのある肌と触れ合い、シャンプーの香りが佐倉から漂って来た。
「……なぁ」
「ん?」
お互いに無言で数秒沈黙。それから少しして、佐倉が問い掛けてくる。
「あたしのことどう思ってるんだ?」
顔色を窺おうと視線を向けてみれば、ちょうど見えない位置に向けていて窺い知ることはできなかった。だが、その声音は夏の蟲の鳴く声よりも小さく、心細いという感情が伝わって来た。
「……正直、あんたが殆ど何も言わずにいなくなった時、あたしのこと嫌でいなくなったんじゃないかと思ったんだ」
「いや、どうしてそう思うのさ」
「……だって、最初あたしがここに来ること、あんた乗り気じゃなかったみたいだし」
どうやらそこに誤解が生まれていたようである。思わず微笑ましくなってしまい、顔を上げて見られたら怒られるだろうなーという表情をしていたら、佐倉が急に顔を上げて来た。
とんでもない速度のフラグ回収である。
「なに笑ってんだよ」
「いや、そんなこと不安に思ってたの?可愛いなぁって」
「なっ、こっちが真剣に悩んでる時に……!」
怒った佐倉が可愛いと思ってしまったのは本当だ。
「だってさ、こんな可愛い女の子と一緒に住めるのに嫌だって思うのはおかしいでしょ」
「……あんたが一番おかしい」
よく言われる。主に上条君や中沢君に。
「そ、それに、あんた名前で呼んでくれないし……他の奴は、呼ぶのに」
そんなことを考えていれば、ぎゅっと袖を掴まれて文句を言われた。それは彼女からすれば距離感を表しているようにも聞こえてしまったのかもしれない。
そんな佐倉の頭を安心させるために撫でながら、かねてより思っていたことを口にする。
「前から使っていた呼び方って定着すると変え辛くてさ。それに、佐倉自身どうして欲しいのかも全然言わないし、もう一つ付け加えるとするなら……」
もう一つ、理由はあるのだ。
「佐倉は佐倉だから」
一応、親権なり養子なり色々と手続きはあったものの、佐倉自身が『佐倉』という名から変わることを拒否したことも含めて、それを尊重した母を見て、佐倉を見て、僕は思ったのだ。
佐倉自身が、そのままがいいと。そう願うなら、僕もそれでいようと。どう接するかなんてわからないし、わからないなら馬鹿なりに考えて友達のように接しようと思ったのだ。確かに妹みたいな存在と言えばそうなるのだが、妹として見るには少し特殊過ぎたし時間も足りなかった、何より出会いからして不思議だったのだ。
「なんだよそれ」
「まぁあれだ。魅力的な女の子が妹ポジションについて困惑してるんだよ、僕も」
「……でも、まぁ、嫌われてないと思っていいんだよな」
「僕にどうあって欲しいか決めるのは佐倉だ。兄でも恋人でも可」
「え、どっちかというと弟だろ」
「……いつも不安そうに後ろについて来た女の子はどこの誰だったかなぁ?」
挑発すると「むぅぅ」と可愛らしい唸り声で威嚇してくる。
それから僕らは二人、眠りに着くまで笑いあった。
はよ寝やなやばい。