夜の二木家の居間に女子達の姦しい声が響く。激しく身体をぶつけ合う乙女達の攻防はまさに色っぽく、しっとり濡れた肌が扇情的に服の合間から覗く。マットの上で淫れ合う彼女達は実に美しい。
「むむむむむ、さやかちゃんピーンチ」
「ううっ、マミさんちょっと苦しい」
「ご、ごめんなさい鹿目さん」
「ちょっと今押したの誰だよ!」
「巴マミ、あなたのおっぱいは凶器ね。まどかが窒息死するわ」
絡み合う身体と身体、特に脅威的なのがマミ先輩のおっぱいだ。参加者全員を跳ね除けんと形を変えながらも応戦する姿はえっちぃ、思わず僕も目を逸らしてしまった。
「はい、次はほむら右手をピンクね」
「くっ、二木君あなた私に命令するなんていい度胸ね」
「仕方ないじゃないゲームなんだから」
「ゲームが終わったら覚えておきなさい」
僕達がプレイしているゲームは定番のパーティーゲーム『円環の理』と呼ばれるものだ。サークルマットの上に書かれたマスに指定された四肢を置いてどちらかが倒れるまで続けるという何処かで聞いたようなルール。なお、販売元はキュゥべぇでレンタル彼女サービスから受けられる接待の一つだとか。
「も、もうダメ……」
ゲーム開始から数分、マミさんのおっぱいに顔を埋め過ぎてまどかが恥死。マットの外に転がり出て来た。
「……何見てんだよ」
「いや、佐倉は可愛いなぁって」
「はぁっ!?」
僕の視線が気になって佐倉も脱落。
「ちょっ、マミさんおっぱいで押すのやめて!」
「ごめんなさい美樹さん」
さやかもマミさんのおっぱいに押し出された。
「ふふっ、負けないわよ暁美さん」
「私もあなたみたいな卑怯な女には負けないわ」
そして、一騎討ちが始まった直後、またもマミさんのおっぱいが暁美ほむらを押し除けた。
◇
事の発端は一時間前、お風呂上がりのパジャマ女子達が僕の部屋に集まったことが原因だった。揃いも揃って歳頃の女の子が男子の部屋に突入するという夢のシチュエーションにドギマギしていると、さやかが突然こんな提案をしたのだ。
「ねぇ、暇だしゲームしない?」
まだ寝るのには早い時間だし別に構わなかった。
問題はどんなゲームをするかである。
テレビゲームはコントローラーどころか参加人数が超過しているし。人生ゲームはあるが最近やったばかり。せっかく皆集まったから普段やらないゲームがいい。
「実はこんなこともあろうかと持って来たんだよね」
さやか的にはかなり今回のお泊まりは楽しみだったようで、用意があると言うとすぐに自分の鞄を漁り始めた。そして、取り出したるは折り畳まれたレジャーシートのようなもの。
「じゃーん、『円環の理』ゲーム」
「なにそれ?」
「私達のレンタル彼女サービスあるじゃん?それのオプション」
「えっちぃやつですか」
「ううん、至って健全。ツイスターのキュゥべぇ版って言うのかな」
「ぶっちゃけたね。っていうかパクリじゃん」
「その高級版サービスだよ」
要は気持ちである。どうやらあの白い獣には権利的な概念はないらしい。
さやかは特に気にした様子もなくレジャーシートを広げる。折り畳まれていたからわからなかったが、広げればレジャーシートは丸い絨毯のようなものだった。その中に五色の小さな丸が幾つも描かれている。ピンク、青、黄色、紫、赤。全色三つずつ。形状は違うが普通にツイスターゲームなのが妙に腹立たしい。
「で、そのオプションいくらするの?」
「諭吉が数枚飛びます」
「お触り禁止では?」
「だから、高いんだよ」
「へぇー、ところでそのサービス皆はしたことあるの?」
その一言にピシリと空気が固まった。
「「「「「………………」」」」」
誰もが目配せをして確認を取る。おまえからいけよみたいな雰囲気で視線で会話を図り、切り出したんだからおまえいけよとさやかが売られた。
「あったよ。まぁ、大体の客がセクハラしてくるから何処からともなくキュゥべぇが現れてたいしょしたけど。そのあと、そのお客さんから連絡貰ったことはないかな。何故か客が離れちゃうんだよね」
それはきっとペナルティーで高額請求か地下帝国送りになってしまったのではないだろうか。と、僕は思わず震えた。
「まぁいっか。やろうよ」
「青葉、セクハラって聞いてから乗り気だねぇ」
「やましいことはありません」
「そう。なら、あなたは不参加でいいわね。精々女の子が絡み合っているのを眺めていなさい」
「ほむらが言うならそうさせてもらうよ」
参加できなくてちょっと残念だとか思ってないんだからね!
「そうがっかりしないの。あなた面倒臭い人ね」
どうやら僕は心底がっかりしているように見えたらしい。
女の子と接触できる機会を益々逃した僕は、渋々引き下がることにした。
がっつくと嫌われるし。
そう。これは戦略的撤退である。
◇
–––と、いうわけで女の子が組んず解れつ絡み合う魅惑のゲーム大会が開催されたわけである。最初の一戦を全員でやって貰ったわけだがもう何処を見ればいいか分からず、終始マミ先輩のおっぱいばかり眺めていたわけだが、これはこれで眼福なので不満はない。それにこのゲームの醍醐味はゲームマスターの方にあった。
–––女の子に命令するのってなんか背徳的。
必然的に支持する役割を持つ人が必要になってくるわけだが、このゲームはルーレットのようなものがなく好きな場所に動かすことができるのである。それは、好きな絵を観れるということ。誰と誰を絡ませたりとか。
「流石に五人はキツかったみたいだね」
「あはは。確かにちょっときつかったかな〜」
暑そうにさやかはパジャマの襟を引っ張り、パタパタと仰ぐ。そういうずぼらな行動であったのだが、男子的には非常にエロい構図で目のやりどころに困る。
「……青葉のえっち」
僕の視線に気づいたさやかが仰ぐのをやめて、襟元を隠した。いつになく可愛らしいさやかさんに僕は翻弄されっぱなしである。
「確かに暑かったな。まだ続けんの?」
扇風機を起動してチュニックの中に大胆に風を身体に送り込む佐倉の姿に、今度は視線が奪われた。
「……別にあたしだからいいけどさぁ。あんた見過ぎ」
チラチラと見えるおへそが気になってると、悪戯っぽい笑みで揶揄われた。
「そうね。お風呂に入ったばかりで汗もかきたくないしやめにする?」
「青葉君も参加できないしね。皆で他のゲームにしよっか」
次のゲームに移ってしまうのか。それはとても残念だ。できるならもっと観たい。
「観てるだけでも割と楽しいよこのゲーム」
むしろ、観てるから楽しいまである。
「ただゲームするのもつまんないしさぁ。なんか勝ったら景品とかないの?」
「佐倉が言うなら用意するけど、なにがいい?」
佐倉の提案で景品を用意することになった。それが彼女達のモチベーションアップに繋がるなら大歓迎だ。ただ、何を景品にするかが問題で全員で唸っていると、傍らで無邪気な声がとんでもないことを言う。
「なぎさはお兄さんと一緒に寝たいのです!」
部屋の空気がピシリと固まった。
ギギギ、と全員の視線が僕に集められる。
「青葉君の隣で、寝る……」
「青葉の隣かぁ……まぁ、悪くないよね」
「まぁ、あいつが一緒に寝たいってんならしょうがないよなぁ」
「二木君……男の子と一緒……子供が……」
「先に言っておくけど、一緒に寝たからって妊娠させるような行為はダメよ。やったら殺すわ」
–––獰猛な猛獣が五匹いた。爛々と瞳を怪しく光らせる猛獣が、僕を狙っている。
トーナメント形式で大会が開催されることになった。組み合わせは公平に僕が決めることになり、初戦の発表はもう間も無く行われる。今か今かと待つ乙女達はいつも以上に艶っぽい。
「組分けを発表するよ。第一回戦はまどかとほむら、二回戦はさやかと佐倉、三回戦は……マミ先輩はさっき勝ったからシードで」
当然のことながらなぎさちゃんは不参加だ。マミ先輩が勝ったら、二人で僕を独占することになる。だからこそ、一番敵視されているのはマミ先輩と言ってもいいだろう。枠が一つ減るから。しかし、この審議に物申す人がいた。
「ちょっと待ちなさい二木君」
「なに、ほむほむ?」
「ほむほむって呼ぶな–––って、今はどうでもいいのよそんなこと。少し不公平じゃない?」
「何が?」
「一人だけ一回戦をやらないことよ」
確かにとマミ先輩以外の全員が頷く。
そこでほむらはとんでもない提案を持ち込んできた。
悪魔の如き完璧な笑みで。
「だから、巴マミの初戦の相手はあなたがすればいいと思うの」
「えぇ、二木君と私が!?」
衝撃的な発言に僕とマミ先輩は動揺を隠せない。マミ先輩なんて顔を真っ赤にして狼狽えているし、僕も鼓動が早くなり過ぎて心臓がパンクしそうだ。
第一回戦。鹿目まどかVS暁美ほむら。
戦いの火蓋は切って落とされる。
初期位置は本人達の意思で好きな位置に。
まずは二人とも棒立ちだ。
「じゃあ、まずはほむらから。右手を紫に」
ゲームの公平性を期すためにゲームマスターはこの僕、二木青葉が努める。僕の指示に従ってほむらが身体を動かす光景に、なんだか奇妙ながらも妙な満足感があった。
「次、まどかは右手をピンクね」
公平に次はまどかに指示を出す。
「ほむらは左手を黄色に」
二回目の指示でほむらが四つん這いになる。
普段、強気な女の子が僕に従っていると思うと……。
「覚えておきなさい二木君、後であなたを社会的に抹殺するわ」
本人に酷く冷たい目で睨まれた。四つん這いになっているから必然的な上目遣い。背筋が凍るような具体的な刑を告げられたが、ただの照れ隠しだと断じてゲームを続行する。
「まどかは左手を紫に」
これで二人とも四つん這い。
眺めていると僕は世界の真理に辿り着く。
パジャマの襟、その間からおへそが見えたのだ。
それだけではない。
胸の谷間ならぬ、逆さまになった山が見えた。
胸の谷間とか双丘とか呼び方があるなら、襟元から見えるそれは鍾乳洞と呼ぶべきか。
むしろ小乳洞–––。
「……」
不意に顔を上げたほむらと目が合う。
数秒後に顔を下げて、腕が限界なのかワナワナと震えた。
「……まどか、私の負けよ」
敗北を宣言したほむらが立ち上がる。彼女が一歩を踏み出す前に、僕は足を折り畳み額を床に擦り付けていた。
「殊勝な心掛けね」
「……お褒めに預かり光栄な限りで」
僕の後頭部に足裏が乗せられる。
「……見た?」
「さて、僕にはなんのことやら……」
「私の下着よ」
「え?ほむらブラなんてつけて–––」
語るに落ちるとはまさにこのこと。直後、ゴッと音を立てて額が床と熱烈なキスをした。ほむらが僕の頭を思いっきり踏んだのである。これには聴衆も大慌てで止めに入る。
「ちょっと待ちなよどうしたってのさ?」
「この男、私の胸を見たのよ。万死に値すると思わない?」
佐倉も止めに入ってくれたが、ほむらの答えを聞いてすっと身を引いた。というかドン引きされた。
「まぁまぁ許してあげなよ。青葉だって男の子なんだしさ」
ケラケラと笑って僕の弁護をしてくれたのは、次を控えたさやかだ。付け足すようにこう言う。
「それに全然見てくれないよりはマシじゃない?」
あまりの説得力にほむら、佐倉、マミ先輩は沈黙した。
何か考え込むように腕を組み、情状酌量の余地があると判断したのか、いくらか空気が緩和される。
だが、僕の後頭部は女王様の足置きのまま。
グリグリと踏まれて、顔を上げられない。怖いからいいんだけど。
「……そうね。見たことは許してあげる。でもあなた今私の胸が小さいとか思わなかった?」
「いや、そんなことは……まどかやマミ先輩と比べると小さいけど。ほら、まだまだこれからだし」
「女の子の胸を嬉々として見ておいて、小さいって文句を垂れるなんていいゴミ分ね」
怒りの原因はそちらに移ったらしく、とんでもないニュアンスで罵倒された。
「顔を上げなさい」
顔を上げた直後、女王様の足裏がとんできた。
第二回戦。美樹さやかVS佐倉杏子。
両者共に運動部の所属だ。
さやかはソフトボール部。佐倉はダンス部。
先程とは打って変わって、熾烈な争いが予想された。
「さっさと始めようぜ」
「まあまあ楽しもうよ」
開始早々、相手に絡みつくように指定された色へ四肢を伸ばしていく二人。四つん這いになった時には既に複雑に絡み合っていた。それどころか押し合ったり潰しあったりしてる。
「むむ、やるねー」
「余裕ぶっこいてんじゃねぇよ美樹さやか」
「それは杏子もじゃない?」
さやかはソフト部仕込みの耐久力、杏子はダンス部で培ったバランス感覚と体の柔らかさで勝負をしている。正直、佐倉の手足の動きが滑らかで艶っぽく見えて見惚れたほどだ。ガサツに見えて、一番女の子しているのが佐倉である。
「次、右手を赤」
佐倉が指示に従って右手を離し、指定された色に置く。
彼女はブリッジをしてその柔らかさを披露してみせた。
弧を描く、佐倉の身体。
まだ余裕綽々で、ニヒヒと笑ってみせた。
「ねぇ、杏子。あたしに勝ち譲ってくんない?」
「はぁ?なんで?」
「だって、いつも一緒に寝てるんでしょ?青葉と」
「はぁ!?」
突然の絡め手に佐倉が悲鳴を上げる。
顔を真っ赤にして、すぐに反論した。
「い、いつもじゃねぇよ!」
「たまに?」
「…………た、どうだっていいだろそんなこと!」
素直に答えようとして声を荒げる。キレているようだが照れているだけだ。
「杏子さ、そんなに青葉と一緒に寝たいの?」
「あ、あたしは別に……」
「お兄ちゃんを奪られるのが嫌なんだー、可愛いねぇ」
「おまえ何言ってんだよ!」
接戦ならぬ舌戦に佐倉はたじたじだ。
押し込める、と思ったのかさやかがニヤリと笑う。
「いつもドルフィンパンツとチュニックで一緒に寝てるの?えっちだねぇ」
「こ、これは涼しいし動きやすいからで」
「そのチュニック結構捲れてるけど大丈夫?」
ブリッジしていれば重力に従って服が捲れ上がるのは道理だ。もう既に大部分が捲れ上がり、佐倉の可愛いおへそが見えている。
「きゃあ!」
可愛い悲鳴を上げて佐倉は飛び退った。
「はい、あたしの勝ち〜」
佐倉は涙目で僕を睨んだ。
第三回戦。巴マミVS二木青葉。
両者ともまだ開始位置についていない。
「二木君からお先にどうぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
レジャーシートの端に立つ。
僕の立ち位置が決まってから、マミ先輩もレジャーシートに乗った。
「え?」
「お手柔らかにね」
マミ先輩が初期位置に選んだのは真正面、僕の乗っているマスの隣だ。
このゲームのレジャーシートはマスの感覚がかなり狭い。
どれだけ狭いかと言われると、少し動けば僕の胸板とマミ先輩のおっぱいが触れ合うくらいには。
つまり、動けば(社会的に)死ぬ!
「じゃあ始めるわよ。二木君、右手を紫に」
仮のゲームマスター、ほむらの指示に従って僕は動く。
「……って、ほむらさん?紫のマス一マスしかないんだけど」
紫のマスはマミ先輩と僕が二つ踏んでいる。
そして、残りはマミ先輩の向こう側にしかない。
「開始早々いきなりハードだなぁ」
それから悪魔–––もとい、ほむらの無理難題を押し付けられたが、なんとかやり過ごす。マミ先輩は特に苦もなく柔らかい身体を駆使して応戦してきた。
–––開始から十分後、事態は急転する。
「二木君、左手を青に」
ほむらの指示で左手を動かす。ただ、青の位置が近くにはマミ先輩の胸の下にしかない。触れないようにそっと手を伸ばし事なきを得たがさっきから際どい指示しかきていなかった。
「次、巴マミ、右手を黄色」
仰向けの僕に覆い被さるようにマミ先輩が動く。
「次、二木君、左足を赤に」
ほむらの指示はよりマミ先輩の懐に潜り込むようなもの。
胸と胸がくっつき、柔らかに形を変えるそれを見て、僕は冷静でいられなかった。
「巴マミ、左手をピンクに」
「……チェックメイトよ。次で決めるわ」
「マミ先輩、何言ってるんです?」
仰向けの僕には色が見えない。
マミ先輩は左手を置いていた場所から離して、そして……。
「ふもっ!?」
ひとつ先へ置いた。
その瞬間、柔らかな塊が顔面を直撃する。
温かくて、柔らかくて、暗い。
突然の状況の変化に戸惑っていると、悪魔が告げた。
「巴マミの胸に顔を埋めた感想は?」
僕の顔を覆っているのは母性の象徴、マミ先輩の……。と、考えたところで僕の思考は熱暴走を始める。許容限界だ。いくら性的な好奇心旺盛の男子中学生でも、思春期には刺激が強過ぎたのだ。
「な、なんでぇ!?」
「ふふっ、二木君ったら可愛いわね」
慌てふためく僕の姿を見たマミ先輩は母性本能を擽られたらしく、息子を可愛がる母親のような態度で僕に接する。要するになぎさちゃんと同じ扱いだ。
「待って。降参、降参だから!」
三人分の冷たい視線が僕を襲った。
前から書く気はあったけど、ネタに詰まってました。