朝起きたらそこは天国だった。
「んん〜、二木君……」
右を見れば巨乳の美少女が寝ている。
「チーズ、なのです……」
左を見れば幼女が寝ている。
そして、更に周りを見れば美少女達が無防備な寝顔を晒している状況。これを天国と言わずなんとする。と、二度寝に興じようとしていた僕の脳はフル回転を開始する。
「これが朝チュンってやつか……」
本来ならもっとエロいのなのだろうが、これも所謂朝チュンというやつではないだろうか。あくまで健全なバージョンとしての朝チュンという言葉に胸が躍る。
「しかし、よく見るとマミ先輩ってやっぱりおっぱい大きいよなぁ」
ころんと横になっているマミ先輩のおっぱいははちきれんばかりにパジャマの胸部を自己主張している。呼吸をするたびに胸が揺れてえっちぃのなんの触ってみたいという欲求が僕の心の底から顔を出した。
「……柔らかそう」
そーっと手を伸ばしてみる。指を一本突くか、はたまた手で全体を覆うか、触れるか触れないかギリギリのラインまで伸びた魔の右手を僕の左手が抑えつける。
「鎮まれ僕の右手ぇぇぇ!」
–––寝ているとはいえねぇ。やっぱりダメなわけですよ。バレたらやばいじゃないですか。なんなら僕の中学校生活が詰む可能性すらあるわけで、恥も外聞も失くせばそれはそれで一時の天国を味わえるが、恒久的な地獄を味わう羽目にもなる。だが、それを加味しても触る価値はあるのがタチが悪いところなのだろう。
そんな葛藤をして、僕は欲望をなんとか抑えた。
「–––ふふっ。寝ている私に何をしようとしていたのかしら?」
……今、人生終了のお知らせが来なかっただろうか。
ゆっくりと視線を声のした方に向けるとマミ先輩がしっかりと両目を開けていた。寝起きすら大人の色気を醸し出す彼女はまさに女神のようで……とか、言っている場合じゃない。
「……おはようございますマミ先輩」
「うん、おはよう二木君」
一周回って思考は冷静になる。
マミ先輩は悪戯っぽく微笑んで僕に言った。
「それで二木君は寝ている私に何をしようとしていたのかしら?」
寝転んで腕で胸を持ち上げるような仕草をする。絶対わざとだ。
「素直に言ってくれたら、考えないこともないのよ?」
「ちょっとマミ先輩のおっぱいに触ってみようかなーっなんて」
「じゃあ、触ってみる?」
……いまなんと?
「いいんですか」
「でも、友達同士でこういうことはよくないわよね?恋人の関係なら考えなくもないんだけど」
「よろしくお願いします!」
僕は速攻で堕ちた。
「本当にいいんですね?触りますよ?」
「ダメに決まってるでしょーが」
手をワキワキと節足動物のように動かしてマミ先輩に迫るとその両脇から羽交い締めにされる。いつの間に起きたのか、さやかが背後から抱きつくような形で止めていた。ただ、残念なことに感触は乏しい。
「後生だ。止めるなさやか!」
「いやいや、冷静になりなよ青葉。マミさんの(巨乳)触ったら戻れなくなるよ!」
「いいんだ。一生に一度のチャンスなんだ!」
「もうなりふり構ってないね!?」
呆れたような声で僕を諭すさやかだが、僕を拘束する手は緩めない。
「もし僕がおっぱいに触れずに死んだらどうするのさ!?」
「そこまで深刻な悩み!?」
もしかしたら、こんなチャンスは一生巡ってこないかもしれないのだ。そう言うとさやかの拘束が若干緩んだ。ルパンダイブでマミ先輩(のおっぱい)に襲い掛かろうとすると、彼女は蠱惑な笑みを浮かべる。
「あら残念。美樹さんが起きちゃったからまた今度ね」
マミ先輩は枕を盾にガードすると、頭から突っ込んだ僕を受け止めた。そして、そのまま僕は空中で一旦停止して重力に従って布団に落ちていく。
–––男子中学生の純情を弄びやがって!
僕は涙目で枕から顔を上げた。
「……やっぱり揉む?」
しょんぼりしている僕を見て、マミ先輩が心配そうに顔を覗き込んできた。
「……いえ、もうそういう気分ではなくなったので遠慮します」
気を取り直して、僕はさやかとマミ先輩を見る。二人ともパジャマ姿で寝起きということもあり妙に扇情的な格好をしていた。ボタンは上まで閉まっていない上にマミ先輩に至っては胸の谷間まで見えていた。わざとか?
「おはよう。さやか」
「おはよー。朝から元気だね」
「あれは特例。今は普通」
「……ごめんって。もし青葉が結婚できなかったら、あたしが結婚してあげるからさ」
いつもなら食いついていた話題だが、今回は別の意趣返しを考えていた。
「昔の上条君にも似たようなこと言ったの?『大きくなったら結婚する』みたいな」
「……うん。言った」
やはり、幼馴染の間では結婚の約束は定番らしい。
「ていうかやめない。あいつの話はさ」
「ごめん」
実情は、まだ引き摺っているようでさやかは暗い笑みを見せた。それもすぐに別の表情に上書きされる。
「そんなことよりさ。あたし聞きたいことあったんだよね」
「聞きたいこと?」
「うん。実際、青葉って誰好き?」
「その話、前もしなかった?」
ラーメン屋でそんな話を佐倉とさやかにした気がするのだが、さやかは興味津々なようでケラケラと笑った。
「だって、修学旅行って言ったらお泊まり、修学旅行って言ったら恋バナ、じゃあお泊まりって言ったら恋バナじゃん!」
「合同条件かな?」
数学のその分野は苦手だからやめてほしい。
「それにさ。ほら、前と比べて環境とか色々変わったでしょ?」
「確かに……」
前は佐倉と一緒に住んでいなかったため、彼女のことを考えたこともなかった。それにこの期間で関わった時間も増えているため心の変化もあるかも、とか考えたのだろう。
「誰って言われてもなぁ」
「誰が一番気になるとかさ」
「全員気になるんだよね」
「おっと、ここに来てハーレム宣言?」
僕にそんな度胸はない。
「まどかは優しいし、ほむらだってあれで一人で抱え込んじゃうところがあって放っておけないし、佐倉は寂しがり屋で家族愛に飢えているところがあって離れられないし、マミ先輩も歳上の威厳ってのがあるけど実際は年相応の女の子で寂しがり屋でしょ。さやかもなんていうか一緒にいて楽っていうか……」
「おい、あたしが男みたいって言いたいのかー!」
ガーッと怒るさやか。男子曰く、さやかは男みたいで気兼ねなく話せるらしい。多分、女子の中では男の友達が一番多い女の子だ。故にお友達でと言われるところがあるわけだが。
「さやかのそういうところ好きだけどな。僕は」
–––もしかしたら、上条君はさやかを女性としてではなく男性と見ているのかもしれない可能性に気づいてしまった瞬間である。
「な、なんていうか面と向かって言われると恥ずかしいね」
さやかは照れて頰を紅く染めるとそっぽを向いた。
「今のところ誰か一人に絞れって言われてもね」
「あら意外にもちゃんと考えてたのね」
正直、五人の中で付き合うチャンスがあるならその餌に食いつくのは間違っていないと思う。マミ先輩が付き合った瞬間から獲物を逃さない態度を見せてもだ。
「僕の方はいいんだけどさ。さやかの方はどうなの?まだ上条君のこと好き?」
「えー、あいつの話に繋がんの?」
「恋バナしたいって言ったのさやかじゃないか」
「まぁ、そうなんだけどさ」
さやかは枕を抱えて顎を埋める。
「あたしは本当に引き摺ってないよ」
「志筑さんに幼馴染寝取られた件については?」
「正々堂々だったから」
「じゃあ、もし僕が志筑さん好きだって言ったら?」
「あんたの目が覚めるまで殴る」
–––それはダメらしい。
「冗談だよ。あんなお嬢様、僕には手に負えないって」
というか趣味ではない。人気らしいが何処か近付き難いところがあって僕は苦手だ。
「お嬢様って言うとマミさんもお嬢様っぽいけど?」
優雅にティータイムしちゃうところとか、中世の貴族にいそうだなって思うことはある。ただ、この人の場合は見栄を張っている部分もあると思うのだ。実は社長令嬢って線もある。
「マミ先輩はなんというかお姉さんって感じがするし、頼れる感じがするから」
「ふーん。そう。そういう風に思ってたのね」
マミ先輩は嬉しそうにクスッと笑む。
「マミ先輩は好きな人いないんですか?」
「いるわよ。目の前に」
……そんなストレートな告白を受けるとは思っておらず、僕は赤面する。
「美樹さんに、鹿目さん、暁美さん、佐倉さん、それになぎさね」
–––かと思いきや、まさかのフェイントであった。
僕は赤面した顔を更に赤くさせる。耳まで真っ赤になって、自分がハブられていることに気づき一瞬で血の気が引いた。喉を空気が通らなくてかぼそく鳴いた。
「……あぁ、そういう」
落ち込む僕の唇に指が立てられた。
マミ先輩の腹の指に口付けをする形に僕の顔は硬直した。
「二木君は特別だからね」
ウィンクをして、小悪魔的な笑みを浮かべる。
また弄ばれた。
「ねぇ、ところで二木君」
「はい」
「君の好きな女性ってどんな人?」
「……はい?」
突然、好みを聞かれた僕は硬直する。真面目に考えてみるもそれらしい意見が出ない。だが、絶対条件は確定しているのだ。
「優しくて」
「他には?」
「料理上手で」
「それで?」
「それだけあれば他には何も望まないですね」
「外見は?」
そう言われて条件を絞ってみる。
「髪は?」
「長い方が好きですね」
「乳房は?」
「ないよりあるほうがいいですかね」
特にマミ先輩クラスだと嬉しい。
「顔は?」
「世に戦争でも起こすつもりですか?」
「真面目な話よ」
「別に容姿とか平凡でもいいんですけど」
さらさらとメモを取っていくマミ先輩は、そこでパタンとメモ帳を閉じた。
「つまり私ね」
条件は全て当て嵌まっている女性がここにいた。
「マミさん何言ってるんですか」
結論から言ってしまったマミ先輩をさやかが咎める。だが、さやかはぐりんと視線を僕に向けて首を傾けた。
「青葉もさ、やっぱり胸がいいってわけ?」
「待って。あればいいって話でむしろ僕は貧乳も好きだけど!」
「へぇ、誰と誰が貧乳だって?」
後退り逃げる僕の肩ががっしりと掴まれる。
振り向けば、仁王像が仁王立ちして僕の退路を絶っていた。
「えーっと、ほむらさんに佐倉までどうしてそんな顔をしているのかな?いつから起きてた?」
「あんたがおっぱいに触るか触らないか騒いでたあたり?」
「そうね。あなたが煩くて目が覚めてしまったわ」
周囲を見渡せば、まどかも起きてこっちを見ていた。
最初から全部、聞かれていたようだ。
「で、貧乳がなんだって?」
–––僕は死を覚悟して、土下座をした。