レンタル☆まどか   作:黒樹

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待ち時間が長い話。

 

 

 

誰しも思いつくデートスポットは“遊園地”や“水族館”、ショッピングモールでのウィンドウショッピング、それから映画館へのデートが挙げられる。定番と言えば定番で、無難な選択肢であるのがこの四つだろう。

ただ、定番とはいえ初心者に遊園地はお勧め出来ない。理由を一つ述べるなら待ち時間だ。遊園地は有名どころ、絶叫系のマシンや観覧車は必ずしも一時間待ち以上の長蛇の列が出来るし、その待ち時間を何もせずに過ごすのは苦痛でもある。特に問題があるとすれば会話が苦手な人には長時間の無言耐久を要求される。そして、最後に気をつけなければいけないのは、間違っても夏に屋外のテーマパークで遊んではいけない。

 

–––何故かって?

 

「暑い……」

「言うなよ。余計に暑くなるだろ……」

「本当、どうにかなりませんのこの暑さは」

「青葉ー、溶けそうだよー」

 

–––お嬢様とお坊ちゃんがこんな調子だからだ。

 

上条君が思っても口に出してはいけない言葉を吐き、共感した志筑さんが清々しいほどの嫌味を太陽に浴びせ、逆にさやかが夏の赤外線を一身に受けるこの状況、誰が予想できたであろうか。斯くいう僕も恋愛初心者で、志筑さんと上条君の提案である“遊園地”をデートコースとして受け入れたわけだが、そもそもこれが間違いであった。夏に遊園地は地獄だ。

 

「大丈夫、さやか?」

「あつーい。喉乾いたー」

 

こんな風にアイスのように溶けそうになっているさやかは僕に寄り掛かって全力で体重を預けて来ている。少しでも重心をずらそうものなら、さやか共々この長蛇の列でドミノ倒しが始まりそうであった。

 

「飲み物なら一応あるけど」

「ありがと」

 

肩掛けのバッグから取り出したペットボトルのレモンティーを受け取るや、さやかはすぐに蓋を開けて凄い勢いで飲み始める。一気にボトルの二分の一が無くなった。

 

「あぁー、生き返るー!」

「あ、あの、さやかさん……?」

 

何やら赤い顔でわなわなと震える志筑仁美。その指が差すのは、さやかが飲み掛けのペットボトルだ。

 

「えっと……それ、飲み掛けではありませんでした?」

「ん。そうだね」

「はしたないですわよ!と、殿方の飲み掛けを飲むなんて!」

「いやーでも切羽詰まってたし」

「それでも、か、間接キスなど……!」

 

さやかの無防備さに志筑さんは糾弾するも、さやかはあっけらかんと流してしまう。しかし、二本持っていたのに未開封のペットボトルを渡したかと思えば、未開封のペットボトルが鞄の中に眠っているこの状況、言わぬが花であろうか。特にさやかも気にした様子はないし、僕が気にするのもおかしなことだろう。

 

「ハレンチですわ!二木さんもそうは思いませんか!?」

「いや、僕は別に」

 

佐倉に飲み掛けのペットボトル奪われるのはよくあることだし、僕も佐倉の飲み掛けのジュースを貰うこともある。結局は飲み物がなくなって二人で買いに行くオチがついているが。

 

「佐倉とはよくあることだし」

「不貞ですわ!」

「佐倉とは家族みたいな感じだからね」

 

もちろん、女性としても見ているが。

 

「そういえば、さやかと二木は付き合っているんだよな?」

「ダブルデートしようって言ったのは上条君でしょ」

「いや、それはそうなんだが……なるほど。カップルにはそういう関係もあるんだな」

 

多少、訝しんだようだが上条君は僕とさやかの仲を認めたらしく、感心したように頷くと自らもペットボトルを取り出して志筑さんに手渡した。ちなみに、飲み掛けである。

 

「ほら、仁美も。熱中症になったら大変だ」

「あっ、うぅ……そ、その、私は遠慮いたします!」

 

志筑さんは真っ赤な顔で拒否した。これが普通の反応だ。

 

「それにしたってこの日差しどうにかなんないかなぁ」

 

それから四人で待ち時間をひたすら会話で潰していたが、ついにさやかは愚痴を漏らした。眉根に手を翳して日差しを遮り、難しそうな顔で太陽を睨む。

 

「帽子持ってこないからだよ。ほら」

「お?麦藁帽子?」

「ワンピースならこういうの似合うと思って買っておいたんだ」

 

雑誌で見つけた麦藁帽子を神浜市で探して買っておいて正解だった。よく雑誌で見掛けるモデルが被っていて、それで覚えていたのだが役に立ったようだ。

 

「あげるよ」

「んー、中々可愛いね。似合う?」

「そりゃあ、似合うと思って買ったんだから似合わないと困るよ」

「そう言われると照れ臭いからやめて」

 

帽子を眺め回したさやかが試しに被って似合う?と聞いてくる。その仕草が一々可愛くて、自分で聞いたくせに頰が赤くなっちゃうところとか、何故に上条君は惚れなかったのだろうか。

 

「上条君、逃がした魚は大きいよ」

「いきなり何の話だ?」

 

呆けた上条君はさておき、さやかは照れ臭いながらもお礼を言った。

 

「ありがと。大事にするね」

「せめて、この夏の間くらいはクローゼットの肥やしにしないでほしいかな」

「しないよ。絶対」

「でも、さやかはずぼらだからなぁ」

「あー、ひどーい」

 

お互いに戯れながらアトラクションの待ち時間を潰していた。そうしていれば、いつの間にか僕達の番が回って来ており、クルーの人達に誘導されて絶叫系のアトラクションに乗り込むのであった。

 

 

 

 

 

 

「あぁー、面白かったぁ!」

「……そうだね」

「でも、待ち時間に対して楽しいのは一瞬って遊園地って罪だよねぇ」

「それがいいんじゃないかな」

 

昼食までに二度ほど絶叫マシンに乗ったが、さやかはご満悦のようで笑顔でマシンを降りていた。さやか以外にも上条君と志筑さんも楽しんだようで、最初の頃の硬い表情がなくなって、次第に楽しそうな表情に変わっていった。

その足で僕達は予約していたレストランへ。案内された席で、このように感想を漏らしていた。

 

「……あれ?青葉は楽しくなかったの?っていうか、顔白くない?大丈夫?」

「大丈夫。楽しかったよ」

「それにしては口数が少ないよね。いつもより」

 

顔面蒼白らしい僕に気づいたさやかが心配そうな顔を向けてくるが、別に体調が悪くなったわけではないと一応の弁明をしておいた。

 

「体調が悪そうなら、少し休みますか?」

「そうだぞ。無理はするな」

「無理っていうか、なんていうか……」

 

二人まで心配してくれるのは有り難いが、だからこそ余計に視線を逸らさざるをえなかった。

 

「……実は、高いところとかダメなんだよね」

「「「え?」」」

 

三人が揃って意外そうな声を上げた。

 

「だからあんたジェットコースターが上に昇る時、高笑いしてたの!?」

「なんかもう笑えてきちゃって」

「どんなメンタルしてんのよ……」

「でも、あれはあれで楽しかったよ」

「ドMか!」

「僕がそうなったとしたら、大半はほむらのせいじゃないかな?」

 

軽く受け流しながらメニューを見る僕を見て、三人も呆れ返ったようにメニューを見始めた。ちなみに上条君と志筑さんが隣合うのは当然のことであり、僕の隣がさやかなのも必然だ。さやかと一緒にメニューを見ていると、彼女は困った顔で唸り始める。

 

「う〜ん、迷うなぁ」

「食べたいものある程度は決まった?」

「このスペシャルハンバーグプレートと夏野菜のパスタで悩んでるんだけど」

「じゃあ、パスタを普通サイズにしてこれを二人で分ける?」

「おぉー、ナイス提案!」

「上条君と志筑さんは決まった?」

 

二人も物珍しいメニューに悩んでいるみたいである。

 

「この星野菜のカレーというのはなんだ?」

「マジックスティックってなんですの?」

 

たまにあることだが、テーマパークなどでは商品の見本写真がついていない場合がある。だが、そうではなく、ちゃんと写真がついており二人は商品名に物申したいようだった。

 

「星型に切った野菜のカレーと野菜スティックじゃない?」

「なんでこんなわかり難い名前にするんだ?」

「そうですわね。私もおかしいと思います」

「そう言われてもなぁ……」

 

二人は納得のいかない顔で思案していた。

 

「そろそろ決まった?」

「ええ、私はパスタにしますわ」

「僕はハンバーガーセットだな」

 

悩み抜いたところ無難な商品に目をつけたようで、二人はそう言って面白みのない商品を名指した。カップルなら他にも頼むものがあったであろうに、本当に面白くない堅実なカップルである。

 

「–––はい。ご注文はお決まりでしょうか?」

 

備え付けの呼び出しボタンでレストラン専属のクルーを呼んで、僕は全員分のメニューを注文した。

 

「それとこのカップル限定夏色ラブリーソーダを二つ」

「ご注文を確認致します–––」

 

店員は噛むことなく数点の商品名を呪文のように唱えると、すぐに裏方へと引っ込んでいった。

後に残されたのはポカンと思考停止した三人。実に面白い絵面である。

 

「……そんなもの、誰が飲むんだ?」

 

一度、メニュー表を見たから当然三人は知っている。擦りおろしたチェリーやリンゴ、パイナップル、レモンをソーダでミックスした炭酸飲料であることを。しかし、問題なのはそこではなくデカイグラスに一本しかストローがないことだろうか。ただ、そのストローはハート型で二人で飲むカップル専用のメニューだ。

 

「それは決まってるでしょ」

 

ピースサインを両手で二組作り、片方で僕とさやか、上条君と志筑さんを指した。

 

「いや、でも流石にそれは……」

「お金のことなら安心して。僕が払うから」

 

最近は魔法少女レンタルサービスを利用していないからお小遣いなら余るくらいある。それを提供する代わりに、二人にはきゃっきゃっうふふな展開を見せてほしいとお願いしているだけだ。

 

「いや、そういうことではなくてだな……」

「カップルなら当然、できるよね?」

 

他人を疑わしげな目で見てくれたのだから、それくらい出来て当然だろうと二人を煽ってみる。

 

「や、やりますわよ、きょ、恭介さん!」

 

“カップル”という単語で簡単に志筑仁美が釣れた。案外、ちょろい人間だった。男女間の距離感に疎いのか触発されて変にやる気を出しているようである。

 

「まぁ、仁美がやるっていうなら……」

 

上条君も彼女がやるって言っていて、拒否する気がなくなったようだ。

横から袖を引かれて、耳元にさやかが顔を近づける。

 

「えっと、青葉……正気?」

「ここでカップルだってところを見せなきゃ疑ったままじゃないか」

「それもそうなんだけど……」

「二人には僕達がカップルだってところを信じさせなきゃいけないんだろ」

「わかってるよ。まぁ、青葉の奢りだしね!」

 

タダで飲めるとあって、さやかも気にしなくなったようだ。

 

「–––お待たせしました」

 

程なくして注文した料理が運ばれてくる。パスタにハンバーガーセット、それとハンバーグのプレートだ。

 

「そして、此方がカップル限定夏色ラブリーソーダです」

 

最後に良い笑顔の店員が青と赤、黄色のコントラストが綺麗な飲み物を置いていく。写真の通りストローは一つ、それもハート型で見ているだけで南国気分が味わえる一品であった。

 

「さて、じゃあ飲もうか」

 

「食べようか」ではなく「飲もうか」、三人分の喉を鳴らす音が響く中、僕はストローの片側に口をつける。

 

「どうしたのさやか?」

「えっと……二人同時にストローを咥える意味はあるのかな〜なんて」

「じゃあ、上条君やる?」

「なんで僕がッ!?」

 

僕としてもBL展開はお断りだが、他に選択肢がなかったため仕方がない。志筑さんは他人の彼女だし遠慮してもろて。そう考えると残る選択肢は上条君しかない。

 

「それはなんか絵面的に嫌だからあたしが飲むよ……」

 

観念したさやかがもう片方の先端を咥える。

 

「どうしたのさやか?飲まないの?」

「……いや、なんかこれ、思ったより恥ずかしい」

 

正面にあるさやかの顔は真っ赤だ。

 

「早く飲まないと僕と永遠に息を交換することになるけど」

「なっ!?」

 

言うなれば間接キスより恥ずかしい事態で、その事実に気づいたさやかは耳まで真っ赤になって、ただ黙々とジュースを吸い始めた。

 

「というわけで二人もどうぞ」

「できるか!」

「できませんわ!」

 

結局、二つ目も僕とさやかが飲んだ。

 

 

 




ガチャ引いちまった……。
四周年、いいキャラ来たら課金不可避だなぁ。
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