レンタル☆まどか   作:黒樹

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密輸入

 

 

 

『–––次は〜神浜海水浴場前〜、神浜海水浴場前〜』

 

次の駅のアナウンスが流れて、だんだん電車がスピードを落とし始める。

電車のブレーキ特有のキィィィという甲高い音が鳴り響き、電車は件の駅のホームへ停車した。

 

「みんな、降りるよ」

 

さやかを尋問していた四人に声を掛けると、まだ満足していないのか「この続きはまたあとで」と言わんばかりの視線をさやかに投げかけてから、降車準備に入る。

それぞれキャリーケースを片手に電車を降りて駅のホームに出ると、そこでさやかはようやくついたとばかりにぐっと伸びをする。

 

「はぁ〜、やっとついた〜」

 

鉄の箱ならぬ、鉄の檻。彼女の疲れきった表情からは哀愁すら漂っている。そこからようやく解放されたとあって、彼女は本当に嬉しそうであった。

 

「で、どこなんだっけ?」

「親戚の家はここからすぐ。あたし達が泊まる予定の宿泊施設は海の近くで、鍵とか貰いに挨拶に行く予定になってるよ」

「それじゃあみんな忘れ物ない?行くよ」

 

駅のホームを出て、改札を通る。

そして、駅から徒歩五分ほど歩いたところで一件の二階建ての家屋の前に来るとそこでさやかは立ち止まった。

 

「おばさーん」

 

インターホンを鳴らして、すぐに家主が出てくる。

四十代くらいの主婦がさやかと二言三言会話した。

それからすぐに、僕達を順ぐりに見て……僕にだけ視線を数秒止める。

男だから仕方ないとは思うけど、そこは事前に言っておいたらしい。何やら興味深そうな視線を感じたが僕は気にしないことにする。

 

「あら、本当に上条君じゃないのね」

「あいつは彼女とデートしてるかヴァイオリンの練習だよ」

 

一瞬の動揺すら見せずにさやかは世間話のように親戚の話を聞き流す。そして、受け流すついでに僕達の挨拶も済ませて、僕達は今日から宿泊する施設へと案内された。

民宿は一見すると古い家屋で、平屋の少し広めの建物だった。いかにも民家という感じでおじいちゃんおばあちゃんの田舎の家という感じだ。

 

「諸々の説明は以上ね。それじゃあ私は仕事があるから、戻らせてもらうわね」

 

簡単な説明をしたあと、さやかの親戚は自宅へと戻っていく。

残された僕達は、ここでようやく緊張して強張っていた肩をほぐすことができた。

 

「さて、と。それじゃあ荷物置いてから、みんなで買い物に行こっか」

「そうね。お昼は海の家で食べるにしても、夜は自分達でしなきゃいけないものね」

 

さやかの提案に、年長のマミが賛同する。すると他の三人からも異存なしと返答があった。

 

「それじゃあ三十分後。荷物の整理してから集合ってことで」

 

斯くして僕達は、一旦解散する。……って、どこへ?

 

「部屋割りは?」

「–––っと、そうだった。適当でいいと思うけどなぁ。泊まってるのあたし達だけだし」

「そもそも部屋っていくつあるの?」

「う〜んと、いくつだろう……?あたしも把握してないんだよね。昔何回か来たことあるけど。だいぶ小さい時だし」

「取り敢えず女子は大部屋で、僕はどこか適当な部屋に……」

 

そう言って適当な部屋を探しに行こうとした瞬間だった。

 

「別に同じ部屋でいいんじゃないかしら」

 

マミがさらっととんでもないことを言った。

 

「「「「!?!?!?」」」」

 

驚く面々だが、すぐに気を取り直す。

 

「ま、まぁ……一緒に寝た仲だしね」

「そ、そうだよね……」

「まぁ、悪くない提案だよな……」

「……何かしたら殺すわよ。オスとして」

 

一人だけニュアンスが違うような気もしないが、反対意見はないらしい。だが、今回に限っては問題ばかりである。

 

「一緒に寝るのはいいけど、水着に着替えたりするんだし一応部屋は分けておくべきだと思うんだけど」

 

僕としては精神統一する……一人になる時間が欲しいのだ。水着なんていやらしい姿を見せられて、寝る部屋も一緒となれば僕自身何するかわからないのだ。僕の意思とは関係なしに。

 

「んじゃあ、一応分けておこっか」

「そうね。それがいいわ」

「でも部屋が遠いのは寂しいよね。隣とかあるかな?」

「大丈夫。確かあったはずだから」

 

女子達が大広間を占拠。僕はその隣に小さな居間を見つけて、そこを荷物置き場にすることにした。

 

「ふぅ。さて、と」

 

隣ではわいわいと女子達が騒ぐ声がする。女三人が寄ると姦しいとは言うが、なるほどよくわかる事例である。

 

キャリーケースを床に置いてファスナーを外す。

本当に忘れ物がないか最終確認をしようと、開いた時に僕は入れた覚えのないものを見つけてしまう。

そいつは“生物”とも呼ぶべきもので、白いシルエットに小さな赤い宝石の粒の瞳をしていた。ケースが開くとゆるりと尻尾と首を持ち上げて、にっこりと微笑んでくる。

 

「やあ、二木青–––」

 

まるで友人のように話しかけてきた“キュウベェ”にびっくりして、僕はキャリーケースを慌てて閉じた。「きゅぷ!?」という潰れたような鳴き声が聞こえた気がしたが、僕は何も知らないし見ていない。きっと気のせいだろう。

 

「–––酷いじゃないか。急に蓋を閉めるなんて」

 

しかし、あの白い悪魔は何事もなくキャリーケースを貫通して出てくる。種も仕掛けもなければ、穴も空いていない。彼が通ったキャリーケースは閉まったままだ。

 

「なにその能力?」

「ボクは壁や床くらい透過して通れるんだよ。壁なんてあってないようなものさ」

「さては、おまえ……日常的にやってるな?」

 

プライバシーも何もあったものじゃないキュウベェの登場に、僕は呆れた視線を向けながら再度キャリーケースを開ける。そのまま荷物の整理を始めた。

 

「っていうかさ、なんで人の荷物に入ってんの?」

「君達が神浜市に行くと聞いてね。どうにか潜り込めないかと思って荷物に入ったんだよ。僕は何故かこの神浜市に入れないから」

「入れない?」

「そう。入ろうとすると体が拒絶反応を起こすんだ。今も無理やり入ったせいか頭の中で爆音でクラシックが流されているみたいに頭痛がしてるんだよ」

「密入国かよ」

 

そして僕は犯罪の片棒を担がされてしまったわけである。厳密には密入国ではないので犯罪ではないだろうが、何か悪いことをさせられた気分だ。

 

「というかいつの間に入ったの?」

「君達が切符を買っている時にこっそりとね」

「じゃあ、なんで僕の荷物に?」

「ボクだって不本意だよ。できるならまどかかマミの荷物に紛れ込みたかったけど、暁美ほむらに気付かれる恐れがあったからね」

 

女性用衣服の中に埋もれているキュウベェが脳裏に浮かぶ。羨ましいとは思わないけど、絵面が犯罪的だった。

 

「しかしまた、なんで神浜市に?」

「実は神浜市にも魔法少女がいるんだけど、元々彼女達はボクの管理下にあったんだ。だけど、今はあいにく彼女達はボクの管理下になくてね。謂わばフリーランスで魔法少女をしてるんだよ」

「へぇ〜、そういうのもあるんだ。で、キュウベェ的には面白くないと?」

「そうは言ってないじゃないか」

「いいや、仲介料取れなくて不満タラタラって顔してるよ。それに競合がいると面倒だもんね」

「……」

 

当然キュウベェの表情は変わらない。ポーカーフェイスというよりは、表情が変わらないだけだ。おそらく感情がないのだろう。少女達をこんなことに利用できるわけだし。

 

「フリーランスとは言っても、彼女達のそれはボクの事業体系とは違うよ。パパ活や出会い系のサイトってあるだろう。あれと一緒さ」

「……めっちゃ口汚く罵るじゃん」

「事実を言ったまでだよ。言っておくけど、ボクはただ利益のためだけに仲介料を取ってるわけじゃないよ。魔法少女の安全のための警備体制とか色々投資が必要なんだよ」

「利益のためだけに、ね」

 

嘘は言わないけど、聞かれていないことには答えない。闇のある回答に僕は色々と悟った。

 

「……ところで、税金はどうなってるの?」

「それこそボクには関係ないね。そもそも公にできる事業だと思うかい?」

「女子中学生をいやらしいことに使っているって時点でもうアウトだよね」

 

キャリーケースの中身の確認を終えて、今度はしっかりとファスナーを閉じる。またキュウベェが潜り込まないように。

 

「話が逸れたね。それでボクの目的だけど、神浜市の魔法少女の視察だよ。神浜のビーチで海の家を経営しているらしくてね」

「へぇ〜、神浜市の魔法少女が海の家で……」

「おや、興味が出てきたかい?」

「それはね。どんな女の子がいるかとか気にならないわけじゃない」

「……そうだね。君が神浜市の魔法少女の視察をしてくれるなら、費用はボクが出すよ」

 

甘い誘惑で僕を誘うキュウベェ。だけど、僕は魔法少女を裏切ることをしたくない。こんな畜生に少女達の情報を渡していいものか。おおいに悩んだ。

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