レンタル☆まどか   作:黒樹

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青の少女

 

 

 

見滝原中学校は現在、テスト期間に入った。部活は一時活動を停止し勉学に励めと学校側が取り決めているため、全校生徒は私用がない限り、殆どが勉学に時間を割いているだろう。そういう僕、二木青葉は勉強というものが好きではない。故にいつもの自堕落なネットサーフィンを敢行していた。

しかしまぁ、とても気になることが一つある。

「レンタル彼女はテスト期間中も活動するのか?」という疑問。流石に企業側もそんなブラックっぽい事はしないだろうなぁ、と思うもののサイトは通常通り運営している。なので、ネットサーフィンも飽きた頃、一人呼び出してみることにした。

まどかは選択肢から除外(テスト期間中にもし来たら可哀想)、暁美ほむらも同じく除外(呼び出したら何されるかわからない)、美樹さやかはからかい半分でありか(勉強してなさそう。あとイタズラくらい笑って許してくれそう)。他にも色々いたが、割愛する。

 

「よし、君に決めた!」

 

ポチッと。

「美樹さやか」で〈契約〉をタップ。

確かに、受領した。

 

 

 

–––ピンポーン

 

 

 

そうして、程なくしてインターホンの音が部屋に響いた。

 

わっくわくしながら玄関に出る。ドア越しに覗き穴から外を見るとそこにはなんとまぁ忘れもしない魔法少女ルックの青の衣装に身を包んでいる美樹さやかの姿。若干、不機嫌っぽい。さすがにやり過ぎたかと反省するが居留守は可哀想なので自重する。ドアを開けると、すぐに彼女は職業スマイルへと早変わり。

 

「どうもー、魔法少女レンタルサービスから来ましたー、さやかちゃんだぞー☆」

 

痛々しいセリフ。しかし、さながら覇気に欠けるそれはため息と共に声を発しているようで、若干目を逸らし気味に義務だしやるしかないかー感しかない。

 

「……どうしたの、元気ないね?」

「……おっ?その声は……あっ、二木じゃん。なに、あんたの父さんが今回のお客さん?自分の息子と同い年の女子が対象とか今すぐ家族会議開いた方がいいよ」

 

開口一番、父の性癖がロリコンになった。

まぁ、確かにうちの母親は身長が140cm代と童顔でロリっぽいが。

 

「残念ながら呼び出したのは僕なんだよねー」

「……なるほど。あんた、まどかをこんな方法で呼び出したんだ。で、浮気かー。親友の彼氏を私が奪っちゃったどうしよー。……あ、あたしも人のこと言えないわぁー」

 

こんなところで上条君の件を出して自滅をしないでほしい。

 

「……あんたさぁ、私じゃなくてまどか呼び出しなよ。恭介と仁美は今頃二人っきりで勉強してるっていうのにさぁ」

 

もはやどっから突っ込めばいいのか、ここは慰めるべきだろうか。

 

「まぁいいや。付き合え」

「それはいいんだけどさ、勉強は?」

「ちょっとそれ今くらい忘れさせろよー」

「あっ、うん……」

 

やはり、彼女は勉強中ではなかったらしい。

 

 

 

 

 

部屋へ通すと早速、もはや恒例行事のように服を着替えた美樹さん。取り敢えず、まどかと同じように紅茶とケーキを用意しておもてなしの準備はオーケー。よくよく考えたら、僕はなんでもてなしてるんだろう。まぁいいや、好きでやっていることだしと考えないようにした。

 

「おぉ。さすが、私から見てもポイント高いね。まどかもこうやって口説き落としたの?」

 

一仕事終えた感出していると、リビングに入って来た美樹さんが机の上のティーセットを見て感嘆の声を漏らした。感嘆と言ったら感嘆だ。

 

「口説いてないから」

「いやいや、普通こう対応されて何も感じない女子はいないっての」

「女子の感性って複雑だなぁ」

「まぁ、たくさん勉強してけって。このさやかちゃんがとくとご覧に入れよう」

「世間一般的に君ってダメな部類に入るから、参考にはならないと思うけど……」

「なにをー!」

 

怒った風に突っかかってくるが、それも紅茶を飲んだだけで機嫌を直す。情緒不安定なんじゃないか、この子。言い方を変えればチョロい。

 

「んー、染み渡るー。こんなの初めて。これなに?」

「チャイだよ。シナモンとかジンジャーとかいろんなスパイス入れてるの。あったまるでしょ」

「香辛料かー。カレーにしか使ったことないわ。完成品に味付けたり。つーか、カレーなんてルー入れたら完成だし。女子力高いなぁ、二木は。それに比べて私は……」

 

もう事あるごとに自爆を始める美樹さん。ティーカップの縁を指でなぞり物憂げな表情。哀愁漂うその姿につい頭を撫でたくなってしまう、いやもうなってしまったので、机に突っ伏する彼女の頭を優しく撫でてやった。すると、一瞬心地好さそうに目を細めてからそのままの姿勢で見上げてくる。

 

「よく見れば、美樹さんも可愛いと思うよ」

 

今の感想である。

 

「へー、たとえば私のどんなところが?」

 

そう言われると、どう言葉に表していいものやら。

 

「……女の子っぽいところ?」

「へぇー、私のどこが女の子っぽいって?」

 

答えに窮する。答える度に追い詰められるこの感じ。そんな目で見た事ないから正直わからん。

 

「……うん。取り敢えず、そうやっておとなしくしてたら普通に可愛いと思うよ」

「あんた傷心の女子に向かってなんてことを……! 私全否定されてんだけど」

 

「うぅ〜」と唸りながらあからさまに落ち込んでみせる美樹さん。「どうせ私なんてぇ、私なんてぇ」としょげているところを見るとやはりとどめを刺してしまったっぽい。

ふと気づいたら、そんな彼女の頭を撫でてしまっている自分がいた。

 

「……二木?」

「なんだろう、そうやって弱っているところを見ると無性に構いたくなるんだよね」

「……これが下げて堕とすってやつかぁ。あまりの高等テクニックにさすがの私もちょっとキュンときたわ」

 

うりうりと頭を押し付けてくる、どうやら頭を撫でられるのが気に入ったようだ。その雰囲気につられるように僕もまた雰囲気に流され始める。

 

「やっぱりお嬢様より身近な人が一番だよね」

「二木はいいこと言うなー」

「小動物みたいで可愛いね、美樹さんは」

「私、猛獣ってよく言われる……」

 

まぁ、確かに、思わなくもないが……。

 

「こんなに可愛い幼馴染ほったらかして何であっちに行っちゃったかなぁ」

「まぁ、別にもう私も割り切ってるんだけどね。割り切っているつもりだし、仁美に対しても素直におめでとうって言えればいいけど、私さぁ、あいつが仁美と付き合い始めて、なんていうか音楽人間なあいつと実際に付き合っている仁美観ているとちょっと安心したっていうか……酷いよね。私さ、恭介がああいうやつで、仁美が恋愛に四苦八苦してるのを見て複雑な感情なんだ」

 

濁した言葉の本当の意味。きっと『悪感情』があるのだろう。喜んであげたいやら、そして同時に幸せになりきれていない親友を見て少しほっとする、最悪な感情だと責めている様子。

 

「……美樹さんはこういう風に誰かに甘えたことはある?」

「……あぁ、私ね、恭介には実際自分から絡んで甘えるというより、世話焼きしてた感じかな。そうでもないと、恭介って音楽以外に興味を示さないから」

 

あぁ、うん、納得だ。口を開けば「ヴァイオリン」顔を思い出すだけで脳内に言葉がリフレインする。

 

「って、こんな話しても面白くないよね。やめだやめ–––」

「そんなことないよ」

 

アッハッハと笑いだす美樹さんの言葉に何を思ったのか、実際、退屈はしていなかったので……。

 

「好きなだけ愚痴を零せばいいよ。ここには親友もいないんだし、そんな告げ口みたいなこともしないからさ。僕でよければ、話くらいなら聞くよ」

 

慰めの言葉を掛けていた。どう慰めようとしたのかはわからない。それでもただ、一人で潰れてしまうよりはマシだろう、それに話は面白いし、話題に窮することもない。傍に寄り易い。……なんというか美樹さんがお友達でと言われる理由がわかるような気がする。

 

「あんたっていいやつだねぇ。二木、いや、青葉。……お代わりない?」

「ケーキもチャイも山のように。これ幸いなことに、趣味がケーキ作りとお茶を淹れることだからね。材料ならいくらでもあるし、作り置きのケーキも沢山ある」

「んじゃあー、今からパーティーだー!」

「準備するね」

 

 

 

–––数時間後–––

 

 

 

「…………私の何がいけないんだよぉぉぉぉ!!」

 

……見事に美樹さんは出来上がっていた。

おかしいな、飲んでいたのはチャイでスパイス入れただけなのに。酔うはずないんだけどなぁ。

アルコールの類なんて一ミリも……と疑問に思いながら美樹さんに近づくと、確かに甘い匂いに混じってアルコールの匂いがした。机の上にはチョコレートケーキ。そういえば、母親用にチョコレートケーキの材料にお酒を入れた記憶が……。え、まさか、酒菓子で酔ったのだろうか。

 

「ほーら、よしよし、美樹さんは何も悪くないよー。悪いのは全部、上条だから」

「あははははは!!!!」

「ちょっ、いたっ、痛いって」

 

今度は、笑いながらベシベシと背中を叩いて興奮した様子。しかも、手加減一切なしの平手打ち。さすがの僕も平常心ではいられない。

 

「美樹さん、怒るよ」

「……」

 

ガッと腕を掴んで止めれば、見つめ合う形に。途端におとなしくなった美樹さん。

 

「……あんたってそういう強引なところもあるんだ」

「何勘違いしてんの」

「べっつにー。……いっそこのまま無理やりキスでもして忘れさせてくれるくらいの甲斐性見せてくれたらなぁーって」

 

まだ酔ってるな。酔ってるわ。まぁ、慣れてるからいいけど。

 

「あっ、そうだ、美樹さん、時間」

「んー?まだ朝の七時だよー。やーん、朝帰りー」

「夜の七時ね。あんまりふざけてると……」

「ふざけてると?」

「……」

 

……この場合、何と言えば?

 

「ちょっとこっち来て」

「なになに?なにすんの?」

 

警戒心もなしにちょこちょこと近寄って来た美樹さんの肩を抱いて、携帯の機能で写真を撮る。いわゆる自撮り、ツーショットバージョン。

 

「ありがと。さて、送ってくから準備して」

「じゃあ、ちょっとトイレ借りるわ。……一応、言っておくけど、覗くなよー」

「なにそれフリ?色気も何もないなぁ」

「うぅ、なんか知らないけど馬鹿にされたー」

 

さっさとトイレに引っ込む美樹さん。その間にこの写真をどうするか考えた。黙考。良案はなし。

 

「じゃあ、おやすみー」

「あ、うん、おやすみ。……って美樹さん!?」

 

いつのまにかトイレから帰って来た彼女はすやすやと寝入ってしまった。

 

 

 

 

 

 

仕方なく眠った美樹さんを背負って夜の街へ。メールでまどかに美樹さんの住所を聞いたところ一悶着あったが、なんとか現住所を聞き出すことに成功した。明日が怖い。「明日、学校でね」と通話で直接言われたが生きた心地がしなかった。だって、詳しくは二人から直接聞くと言って聞かないんだもん。正直、幸せそうに背中で眠っている美樹さんが羨ましい。

 

「まったく……無防備にもほどがあるよ」

 

背中に乗る彼女の体温と、柔らかさと、膨らみと、湧き上がる邪な感情にため息を吐く。それに呼応するように美樹さんは身動ぎを一つ。

 

「んん〜。青葉ぁ〜……」

「はいはい、ここにいますよー」

 

どんな夢を見ているのか、気になるものの僕は無視した。

いい夢見れるといいな。そして、それが覚めた時のあの虚しさときたら。

邪魔をしないように徐行していると、夢の中で何やら変化があったようだ。

 

「–––青葉のエッチ」

 

突然、そんな寝言。耳元で囁くような声音。

 

「……美樹さん、起きてるよね?」

「わ、私に…そんなこと…するなんてぇ…」

 

確信犯と断定して、お望み通りちょっとした悪戯を思いつく。膝裏近くを支えていた手を徐々に背中側に回す。美樹さんの剥き出しの太腿へ。そして、かなり際どいスカート一歩手前でピタリと停止。

 

「もしまだふざけるつもりなら、このまま手がスカートの中を悪戯しちゃうよ」

「……ごめんなさい」

「うん。わかればよろしい」

 

美樹さんを背負い直してもう一度、歩き出す。

そうすれば、落ちないように今度はぎゅっとしがみついてくる。

 

「……そういえばさ、青葉。私があんたのこと名前で呼んでるんだから、あんたも呼びなよ」

「了解。さやか」

「ん。よろしい」

 

満足げに頷いて一人納得した様子。本当、妙なところで可愛げを発揮する妙な魅力を持っている。今日一日の出来事に色々あったなと遠い目で振り返ってると、急に肩を叩かれる。

 

「–––おまえら、見滝原の生徒だな?」

 

その声に「げっ」と女の子らしくない声を漏らしたのはさやかだ。

 

「あっ、どうも、剛田先生」

 

振り返った先には見滝原中学校の体育教師、剛田。独身。男性。まるでゴリラの化身だ。

 

「こんな時間に何をしてるんだ。今はテスト期間中。さっさと帰れ」

「すみません。僕の家でテスト勉強をしていたもので」

「男女でか?」

「あぁ、剛田先生には縁のない話でしたね」

「うぐっ」

 

カウンターのボディーブロー。それが深々と刺さる様を見て「うわぁ」とさやかが呆れた声を漏らす。

 

「では、さようなら」

「うむ。–––いや、ちょっと待て」

 

ヒクヒクと鼻を動かすゴリラ。

 

「む〜?酒の匂いがするぞ」

「女子の体臭嗅いで変態臭いですよ」

「おまえら、まさか–––」

「酒菓子です。いやぁ、間違えて酒菓子を食べさせちゃって」

「そうか。気をつけるんだぞ」

「はーい」

 

今度こそ、その場から離脱。

直後、背後のゲーセンから中学生くらいの男子二人が出て来た。

ファミレスからも男女一組のカップル、だが年齢は言わずもがな。

二組は、目敏くゴリラに捕まり強制連行されていく。

これから学校で反省文でも書かされることだろう。哀れな。

 

「……あんた口がよく回るねぇ」

「一応、これでも人と話すのは苦手なんだよ。でも、嘘八百なら十八番だよ」

 

結局、さやかを下ろしたのは家の前でだった。

それもさやかの両親に見られて一悶着あったのだが、そこはあずかり知らぬところなので割愛する。

 

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