機巧少女は傷つかない ~白き妖刀と人形使いの物語~   作:井倉丼

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20話 弱点

 一直線に邁進する夜々を迎え撃ったのは、水を凝縮して作られた無数の槍だ。

 機関銃のように撃ち出される弾雨を見ても、夜々は止まる気配がない。助けようかと一瞬悩むが、すぐに必要ないと悟った。

 槍は夜々の体を貫通せず、肌を破ることもできずに弾かれていく。

 一瞬でエリザに肉迫した。振りかざされる大剣を躱し、宙を飛ぶ。そして足を振りかぶり、渾身の蹴りを繰り出した。

 魔術で強化された一撃必殺の威力を秘める蹴りが、見事にエリザの頭を直撃する。

 蹴りの勢いが強すぎたのか。エリザの頭部は砕け散り、大量の体液が水のように飛び散った。

 いや、吹き出る体液が多すぎる。よく見ると、壊れた部分と残された肉体の全てが水のように溶けていく。

「――ちがう。身体を液体に変化させたのか?」

 水滴となったエリザの身体は寄り集まると、再び元の人型へと復元される。

 水流を操り、己の肉体を液状化させることがエリザの能力か。結構シンプルな魔術だな。

 だけど、<魔術食い>は他の自動人形の魔術回路を集めていた。フェリクスが犯人であるのは間違いないが、抜き取った回路は何に使用したんだろう。

 考え中にも、エリザは攻撃を続ける。大地を蹴り上げ、今度は僕たちに目掛けて大剣を横薙ぎにぶつけようとする。

 ここはまだ空中のど真ん中。僕たちには逃げ場がない。

「くっ!!」

 瞬時に左手の武器を持ちかえ、ナイフを三本投げ飛ばす。

 ナイフは狙い通りエリザへ向かうが、エリザはまたしても肉体を水へと変化して躱した。ナイフは標的を擦り抜けて、周囲に生える樹木に突き刺さる。

 鶴姫が僕を庇い、手甲を盾にしてエリザの攻撃を受け止める。

 鉄と鉄がぶつかり、激しい金属音が広場に木霊した。強力な衝撃波に弾かれ、僕は鶴姫を巻き込みながら地面に叩き付けられた。

「雨水! 鶴姫!」

 雷真の叫び声が聞こえる。

「平気です。鶴姫は?」

「私も全然へっちゃらだよ」

 ポンポンと土を払いつつ、鶴姫は楽々立ち上がる。

 僕はまだ片膝を地面につけて、乱れた呼吸を急いで整える。ダメージこそないが、強烈な揺れのせいで頭がくらくらする。

 数秒深呼吸した後に立ち上がり、もう一度ナイフをエリザ目掛けて飛ばす。

 彼女は動く素振りも見せず、液状化で僕の攻撃を擦り抜ける。続けて水の槍を出現させ、僕と雷真へ同時に撃ちだす。

 人形使いへの直接攻撃。すぐさま夜々と鶴姫が動き、主を護る為に水の槍の射線上に立つ。

 夜々が目で追い切れない速度で手足を振るい、高速の槍を弾いて受け止める。鶴姫は手甲を槍の切っ先へ当てると腕を回し、上手く矛の道筋を逸らすことで着弾点をずらした。

 対極の姿の乙女が描く、見事な剛と柔の防御。

 それを見たフェリクスは唇を噛み、苛立たしく僕たちを睨んでいた。

「芸がないな」

 僕の物言いに、フェリクスは目元を吊り上げる。

「応用性のある能力だけど、そんな直線的な技。一晩中続けても僕たちには届かない。諦めて罪を認めろ」

 最期の説得のつもりだったが、フェリクスは笑ったまま引く気がない。

「僕からも言わせてもらおう」

 フェリクスが、お返しとばかりに喋り出す。

「君たちの自動人形は単純な力押しだ。殴る蹴るでリズは倒せない」

 挑発するように、フェリクスは笑みを強める。

「君たちの戦い方は見せてもらったよ。雷真は、人形の性能を活かして力任せに敵を捻じ伏せる。野蛮で原始的なスタイルだ。自身とのコンビネーションで戦術を複雑化させていてもーー」

 フェリクスが腕を振り、エリザの水の槍が一斉に雷真を狙って飛行した。

 とっさに回避行動をとるが、最後の一発が脇腹を掠めた。雷真は大地に膝をつき、溢れる血を手で押さえる。

 ただでさえ重傷で苦しそうだった顔から、さらに血の気が失せる。

「ほらね、動きが鈍い。その体では、あんな激しい戦い方は無理だ」

 夜々が泣いて雷真へ駆け寄る。

「よくも!!」

 怒りで手に籠る力が増す。握った鋼鉄のトンファーが、軽い軋み声を上げた。

 エリザに向かって一気に肉薄すると、問答無用で鋭い打撃を浴びせる。

 人間が相手だと舐めたのか、今度は能力を使わなかった。大剣を地面に置き、右手でこちらの攻撃を受ける。さすがに素の肉体の強度も高く、僕の一撃では全く怯んでいない。

 続けざまに、両腕をしならせてトンファ―をぶつけていく。縦横無尽に浴びせる鉄棒は、止むことのない雨のごとく敵を覆う。それを、エリザは冷静にガードし続ける。

 そうして敵の意識が僕に向いている隙に、背後に回り込んだ鶴姫が背後から掌底を喰らわせた。

「はあっ!」

 気合いの入った声で放たれた拳だったが、エリザが水に変化したことで直撃はなかった。

 すぐに二人合わせて後退する。牽制として飛ばしたナイフは、やはり液状化した彼女には触れずに周囲の木々へと吸い込まれていく。

「センスがないね」

 お返しとばかりに、フェリクスが愉快そうに告げた。

 彼が嘲笑を浮かべると、エリザは巨大な水流を生み出して鞭のように操る。こちらへ伸びる鞭の向かう先、その狙いは僕だ。

「させない!」

 僕を守ろうと、すぐに鶴姫が前に出てくる。

 それを見たフェリクスは、もう一度、不気味に笑ってから鶴姫を見た。

 あの表情。まさか、狙いはぼくじゃないーーーー!?

「鶴姫、あぶない!!」

「えーーー?」

 鶴姫は防御姿勢のまま、キョトンとした目で後ろを振り向く。

 水流は、鶴姫の手甲に激突する寸前で制止。そのまま十数本に分裂すると、四方から鶴姫へ襲い掛かる。

 鶴姫は反応できていない。今から気付いたとしても、あの数を腕の手甲だけで捌ききることはできない。

 だから僕は、迷わず前方へ跳躍すると、全力で鶴姫を突き飛ばした。

「ウスイーーーーーーッ!!」

 遅れて状況を理解した鶴姫が、離れながらも僕へ懸命に手を伸ばして叫ぶ。

 ――“大丈夫”。

 心配させないように、なんとかそれだけ言えた。

 次の瞬間、視界を埋め尽くすほどの濁流に僕は飲み込まれた。

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