ダイの大冒険の序章、主人公とヒロインを男女逆にしただけのお話。
あたしはダイナ。
この怪物島デルムリン島の、たったひとりの人間。
なんでも赤ちゃんの頃に乗っていた船が難破してこの島に流れ着いたんだっていう話なんだけど…詳しいことはわからないの。
将来はこの島の平和を守る勇者になるんだから!
3ヶ月前、この島にやってきてゴメちゃんをさらった、勇者様の名を騙るでろりん一味をやっつけて以来、真の勇者を目指すために日夜修行に明け暮れているの。
ブラスおじいちゃんはあたしを魔法使いとして育てたいらしいんだけどね。
ある日、聖なる船に乗ってたくさんのお付きを連れてやってきたのは、賢者の国パプニカのレオン王子様。
なんでも洗礼の儀式のために来たんだとか。
とても素敵な人で、思わずドキドキしていたら、
「キミが、勇者ダイナ…!?
ぶはっ!
こんなちんちくりんなんだ!!カッコ悪ィ〜!!」
…とりあえずコイツに様とか付けるのはやめることにするわ!
顔は綺麗なのに性格悪い!!
地の穴の道案内を請われて、あたしは嫌だと思ったけど、王子のお付きの人に『ブラス老』なんて畏まった呼ばれ方をされて浮かれきったブラスおじいちゃんは、断ることを許してくれなかった。
この島のモンスターは全員あたしの友達。
この間のニセ勇者退治の時に一緒に戦ってくれた子たちもいて、もう戦友ね!
地の穴までの道を歩きながら、時々道をふさいでるモンスターに挨拶して道をあけさせてたら、レオン王子が感心したような声を上げた。
「へえ〜っ、スゴイじゃん。
ちょっと見直しちゃったよ、おチビちゃん」
「ダイナよっ!」
褒めてくれつつも失礼な言い方に、ムッとして言い返すあたしを、レオン王子は面白そうに見つめてくる。ムカつく。
「ねえ、キミ他に特技は?魔法とか?」
…悪かったわね。魔法は使えないわよ。
魔法使いの修行を受けてるし、おじいちゃんの意見に従ってありとあらゆる儀式も受けたけど、未だにひとつもまともにできないのよ。
きっと才能ないんだと思うわ。
ちょっと落ち込んだあたしを見て、レオン王子は少し考えるような表情をした。
何やっても様になるんだから、美形は得よね。
地の穴の入口に着いて、お付きの人たちが儀式の準備をし始めると、何となくまだ落ち込んだ気分のままでいたあたしに、レオン王子がニコニコしながら歩み寄って来た。
そしてあたしの目の前で、腰に挿していた短剣を抜く。
驚いて身をすくめたあたしに笑いかけながら、レオン王子はそれをあたしに差し出した。
「これ、キミにあげるよ。
魔法がてんでダメなら、武器くらいいいのを持っといた方がいい。
結構、由緒正しいナイフなんだぜ、それ。
オレが持ち歩いてると、テムジンたちが怒るけど」
強引にそれをあたしに持たせ、びっくりして固まったままのあたしの体に、素早くその鞘を着けてくれた、その近い距離に不覚にも一瞬ドキッとしたわ。
「できないものはできないんだからさ、クヨクヨしないで剣の腕でも磨きなよ!」
これ、ひょっとしてあたしが落ち込んでたから、慰めてるつもりなのかしらね。でも…。
「…アナタって、思ったことなんでもズケズケ言っちゃうのね」
「その方が相手のためになるだろ?
オレもその方が気持ちいいし」
最後のが無ければと思ったけど、案外いいヤツかもね。
彼のドヤ顔を見て思わず吹き出すと、つられたように王子も笑い出し、気づけばなんだかなし崩しに、和やかな雰囲気になってた。
・・・
「…まさかっ!あの魔のサソリを持ち込んだのは…!?」
「その通りだ小娘。
あのまま放っておけばその小僧もひと思いに死ねたものを…余計なマネをしやがって…」
「なんでそんなことを…アナタ、賢者でしょ!?」
「レオン王子には…この島で死んでもらわねば困るのでな!!」
魔のサソリの毒に冒されたレオン王子と共に、裏切った賢者バロンによって洞窟の大穴に落とされてしまったあたしは、彼を背負いながら、脱出経路を探していた。
けど、行けども行けども行き止まり。
目を覚ましたレオン王子は、毒が回ってきているのか、ひどい顔色で。
「あたしに強い力があれば…魔法が使えれば、アナタの傷も治せるのに…!
ここから脱出する事だって…!
ごめん…ごめんなさい…」
謝る事しか出来ず、ボロボロ泣くあたしに、レオン王子はなぜか、笑いかけた。
「…ダイナちゃん、知ってる?
魔法ってさ、人によっては、絶対に使えないものも…あるんだって。
ダイナちゃん、殆どの呪文…契約できたんだろ?
それ、才能ある証拠だから…。
いつか必ず、魔法、使えるようになるから…」
「レオンッ!!」
「…泣くなって。ブスになる…ぞ」
そこまで言ったところで、レオン王子の体から力が抜ける。
そんな…いや!
「レオン!レオンッ!!死んじゃだめよ!レオンッ!!」
体の奥から、何かが溢れてくる。
何かわからないけど、大きな力が。
…死なせない。絶対死なせないわ…!!
「死なせてたまるかあーーーっ!!!」
額が熱い。そう感じたのも一瞬の事。
閃光と、それに続く衝撃が、目の前の壁を破壊して、そこから陽光が降り注いだ。
・・・
不思議な力が漲るに任せて退治した奸臣たちを捕縛して、事件は終わりを告げた。
レオン王子はおじいちゃんにキアリーをかけてもらい元気になった。
もう少し遅かったら命が危なかったみたい。
無事に儀式を済ませた王子が、帰りの船の前であたしと握手を交わすのに、パプニカの兵士たちが拍手する。
なんだか照れくさいわね。
「ありがとう、ダイナちゃん。キミは命の恩人だ」
「レオン…いえ、王子も、無事でよかったわ」
「将来立派な勇者になったらパプニカにおいでよ。
オレの専属メイド兼ボディガードに使ってあげるからさ」
「要らないわよ!」
あたし達のやりとりに、兵士さん達が笑い出した。
「さよなら…王子」
船のタラップに足をかけるレオン王子の背中に、もう一度声をかける。
あたしの声に立ち止まって、振り返ったレオン王子は、なぜかあからさまに不機嫌そうな顔をしていた。
「…レオン、だ」
「え?」
「“王子”じゃなく、“レオン”。
次会った時、そんな他人行儀な呼び方したら、返事しないからな」
そう言って、レオンは綺麗な笑顔で、あたしに向かってウインクした。
またね、レオン!!
次会った時には、絶対に魔法使えるようになってるわ!
☆☆☆
この数ヶ月後、この地上に魔王が復活して、あたしは勇者としての道を踏み出す事になる。
新たな仲間、戦い、そして…。
「おまえも私の娘ならば、私に従え!」
「ポップを返してよ!
アナタなんか父さんじゃないっ!!」
運命の戦いが、新たに幕を開けた。
すいませんでした。