死の支配者《モモンガ》は古き知恵の悪魔《マヨ✩マヨ》と笑う   作:布施鉱平

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 一~三話の誤字報告をしていただいた方、ありがとうございます。
 こういった場合にはお名前を出して感謝の意を表すべきなのか、イマイチよくわかっていないので、とりあえずはこの場でまとめてお礼を言わせていただきます。
 
 修正につきましては、したりしなかったりすると思います。
 あと、どこをどう修正したかなどは、あらすじにも書いてある通り特に明記しませんのであしからず。


大人たち子供たち

 ────ナザリック第六階層。

 

 至高の四十一人のひとりであるぶくぶく茶釜が作成した双子のNPC、アウラ・ベラ・フィオーラとマーレ・ベロ・フィオーレが階層守護者を務める、緑豊かな階層である。

 

 地面の下にあるというのに空には星が煌き、時間とともにその光景が移り変わっていく様は圧巻の一言だ。

 

 だが、モモンガとマヨ✩マヨがリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの力を確認がてら転移してきたのは、本物の自然としか思えない天地が存在する場所ではない。

 

 二人が現れたのは、薄暗い石造りの通路。

 硬質な足音を二つ響かせながら、二人はその通路を進んでいく。

 

 通路の両側に掲げられた松明の炎が揺らめく異形の影を壁面に映し出す中、二人は無言のまま歩を進めた。

 もはや軽口を叩き合える状況ではない。指示を与えて人払いをした王座の間とは違い、ここでは何処に耳があっても不思議ではないのだ。

 

 緊張と不安に包まれた二人(モモンガは時々沈静化)がたどり着いたのは、何層もある観客席に囲まれた空間────円形劇場(アンフィテアトルム)

 

 大きく息を吸い込み、本来であれば感じるはずのない草や土の匂いを感じながら、二人は【永続光(コンティニュアル・ライト)】に照らされたその中央に向かう。

 

 すると、まだ数歩も移動しないうちに、ふと何か視線のようなものを感じた。

 

「とあ!」

 

 掛け声と共に、正面の貴賓席から飛び降りた一つの影。

 六階建てに相当する高さから気軽に跳躍したその影は、空中で一回転すると体重を感じさせない軽やかさで大地に舞い降りた。

 

「ぶぃ!」

 

 そして「やりきった!」という笑顔と共にダブルピースを決める。

 飛び降りてきたのは、薄黒い肌、尖った耳、左右で異なる瞳を持つ、少年の姿をした()()

 

「アウラか」

「アウラですね」

 

 二人は太陽のような笑顔と共に登場した闇妖精(ダークエルフ)の少女の名を呟く。

 彼女こそ、この第六階層守護者の片割れであり、幻獣や魔獣を使役する魔獣使い(ビーストテイマー)野伏(レンジャー)のアウラだった。

 

 獣が疾走するような速度で、見る間に距離を詰めてくるアウラ。

 その姿は軽く小走りをしているようにしか見えないのだから、彼女の小さな体に秘められた力がどれだけ大きなものなのか、二人は嫌でも想像してしまう。

 

 アウラは二人の手前まで来ると急ブレーキをかけた。

 

「ふぅ」

 

 かいてもいない汗を拭う振りをしたアウラは、現れたときとはまた違うキラキラとした笑みを浮かべると、子供特有のやや高い声で────

 

「いらっしゃいませ、モモンガ様…………と、えぇ!? マ、マヨ✩マヨ様!? お戻りになられたのですか!?」

 

 ────挨拶をしようとしたが、モモンガの横に経つ人物に目を奪われ、思わず大きな声を上げてしまう。

 

「あ、し、失礼しました! モモンガ様、あたしの守護階層にようこそ! それと…………お帰りなさいませ、マヨ✩マヨ様!」

 

 笑顔、驚愕、困惑、そしてまた笑顔。コロコロ変わるアウラの表情を見て、モモンガもマヨ✩マヨもほっと内心で安堵のため息をついた。

 演技をしているようには感じられないし、[敵感知(センス・エネミー)]にも反応はない。

 

「あぁ、少しばかり邪魔させて貰うぞ、アウラ」

「そんな、邪魔だなんて! お二方はナザリック地下大墳墓の主人。絶対の支配者ですよ? 邪魔者扱いするなんてありえないです!」

「ふふふ、ありがとう、アウラ。…………ところで僕の薬草園はまだ残っているかな?」

 

 やや警戒心を解いたマヨ✩マヨが、ふと思い出したことを尋ねてみる。

 

 薬品を専門に研究する錬金術師であるマヨ✩マヨには、錬金素材としていくつもの植物や鉱物が必要不可欠だ。

 効能の高い素材は外に出て採取したり、高位モンスターを討伐してその素材データを手に入れる必要があるが、基本的なものはこの第六階層の片隅にある薬草園で育てていたのだ。

 

「もちろんです! と言っても、主にマヨ✩マヨ様の薬草園のお世話をさせて頂いているのはマーレですけど…………」

「ああ、そうだったね。僕がいない時は、マーレやその配下の植物系モンスターに世話を頼んでいるんだった…………ところで、そのマーレは?」

 

 マヨ✩マヨの言葉に反応したアウラは、くるっと振り返ると貴賓室の辺りを睨み、大きな声を上げた。

 

「ちょっと、マーレ! 至高の方々が来てるんだよ! 早く来なさいよ! 失礼でしょ!」

 

 マーレの視線に釣られて二人が貴賓室を見上げると、何かがピョコピョコ動いているのが確認できた。

 

「マーレもあそこにいたのか?」

「はい。そうです、モモンガ様。あの子ったら弱虫なんだから…………とっとと飛び降りなさいよ!」

 

 その声に、消え入るような声が返ってくる。

 

「む、無理だよぉ…………お姉ちゃん…………」

 

 はぁ、とアウラはため息をついて頭を抱えた。

 

「申し訳ありません、モモンガ様、マヨ✩マヨ様。あ、あの子は臆病なだけで、わざとこのような失礼な態度を取っているわけじゃないんです」

「無論、了解しているともアウラ。私はお前たちの忠義を疑ったことなど、一度もない」

「そうそう、これっぽっちも疑ってなんかいないよ。それに、怖いんなら無理に飛び降りさせなくてもいいんだよ? 僕が飛んで迎えに行こうか?」

 

 心の汚れた大人が二人、純粋な少女に嘘をついた。

 だが、大人とはそういうものだ。建前と本音、その二つをうまく使い分けることでなるべく波風を立てないように生きてきたのである。

 

「そ、そんな。マヨ✩マヨ様にお手数をかけさせるわけにはいきません! ────マーレ! 最高位者であるモモンガ様と、大錬金術師のマヨ✩マヨ様がいらっしゃってるんだよ! 至高のお二方を階層守護者がお待たせするなんてどれだけ最低なことなのか、あんただってわかるでしょうが! さっさと飛び降りないなら、あたしが行って蹴り落とすからね!」

「え、えぇ!? モモンガ様と、マ、マヨ✩マヨ様もいらっしゃってるの?」

「そうよ! だから、早く!」

「わ、分かったよぉ…………え、えい!」

 

 気の抜けた気合とともに、小さな影が飛び降りる。

 アウラと同じ闇妖精(ダークエルフ)であり、少女の姿をした双子の()であるマーレだ。

 

 着地と同時によろめくマーレには、見た限りではアウラほどの身体能力は無いように思える。

 しかし、実際にはアウラに匹敵する身体能力を持つはずだった。

 事実、落下によるダメージは皆無だったようで、直ぐにテッテッテという擬音が似合いそうな速度で走ってくる。

 

 …………内股で。

 かつスカートを抑えながら。

 

「早くしなさい!」

「は、は、はいぃ!」

 

 アウラはその走りに怒りを覚えたようだが、おっさん二人は少し萌えてしまった。

 

 そして、明るいアウラとオドオドとしたマーレ────太陽と月のような二人の対比に軽い驚きを抱く。

 

 NPCの設定が実際の性格にも影響していることはアルベドやセバスの態度から想定していた。

 しかし、こうも生き生きとした姿を見せ付けられると、自分たちがビクビクと警戒していたことがバカらしく思えてしまう。

 

「────これが茶釜さんの本当に望んだ、アウラとマーレなんだろうな」

「…………えぇ。できれば、彼女にも見せてやりたかったですね」

 

 この光景を、この感動を、もっと多くの仲間と共有したかった。

 できれば、自分たちを含めた四十一人全員と。

 

 それが叶わないことだと知りながらも、二人は束の間、アウラとマーレを囲む仲間たちの姿を幻視してしまう。

 

「お、お待たせしました、モモンガ様…………マヨ✩マヨ様…………」

 

 到着したマーレは、びくびくと二人を交互に上目遣いで窺う。

 二人は目を細め(モモンガは気持ちだけ)、対照的な子供たちを見つめた。

  

「二人とも元気そうで何よりだ」

「元気ですよー。ただ、このごろ暇でしょうがないです。侵入者も久々に来てくれてもいいのに」

「ふふふ、アウラの元気は疑いようもないね。あっ、そうだマーレ。僕がいない間、薬草園を管理してくれてたんだってね。ありがとう」

「めめめ、滅相もありません。マヨ✩マヨ様から与えられたお仕事ですから…………ぼ、僕が薬草園をお世話するのは当たり前のことで…………えっと、その、お礼なんて…………」

「そうですよ、マヨ✩マヨ様。あたしたちは、至高の方々のために働くことこそ喜びなんです」

 

 褒められながらも体を縮こませるマーレと、自分が褒められたわけでもないのに胸を張って誇らしげにするアウラ。

 

「ふふふ。それでも、戻りたくても戻ってこれなかった僕の代わりに()()を守ってくれていたんだ。お礼を言わせて欲しいな。もちろん、アウラにも」 

 

 そう言って、マヨ✩マヨは枯れ枝のような六本の指が生えた手で、二人のサラサラとした金色の髪を撫でた。

 

「ふわっ」

「あぅ」

 

 驚きの声を上げたアウラとマーレだが、その顔は直ぐに気持ちよさそうに蕩けていく。

 だが、撫で続けている内にマーレの細められた目から涙が一筋流れたことで、マヨ✩マヨはその動きを止めた。

 

「おっと、ごめんよ。僕の硬い指じゃ痛かったかな?」

「そ、そんなことありません!」

 

 意外にも、その言葉に即座に反応して大きな声を上げたのは活発なアウラではなく、大人しい印象のマーレの方だった。

 

「あの、あの…………僕、嬉しくて…………全然、嫌とかじゃないんです! その、凄く、嬉しくて…………」

「…………うん、そうか」

 

 マヨ✩マヨはアウラとマーレの頭を再度撫でながら、モモンガに視線を送る。

 その視線の意図を察して、モモンガは軽く頷いた。

 

 少なくとも、この二人に関しては反乱の心配はしなくても良さそうだ。 

 

「…………あれ? そういえばさっき、マヨ✩マヨ様「戻りたくても戻れなかった」って仰ってましたけど…………」

 

 撫でられながら、アウラが疑問を発した。

 

「ああ、それは…………」

「マヨ✩マヨさん、それは後にしましょう。今は────」

 

 答えようとしたマヨ✩マヨの言葉をモモンガが遮り、マヨ✩マヨも本来の目的を思い出す。

 

「っと、そうでした。アウラ、マーレ。そのことについてはあとでちゃんと説明するから、今はちょっと僕たちを手伝ってくれないかな?」

「はい! お任せ下さい!」

「は、はい! が、頑張ります!」

 

 至高の方々から仕事を与えられた。

 その喜びに、アウラとマーレの目が輝いた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 アウラが使役するドラゴン・キンによって立てられた藁人形が、モモンガの放つ[火球《ファイヤーボール》]、[焼夷《ナパーム》]によって焼却される。

 

 そして実験の締めくくりとして放たれたのは[根源の(サモン・プライマル)火精霊召喚(ファイヤーエレメンタル)]────八十レベル後半というかなり高レベルのモンスターを召喚する魔法だ。

 

 問題なく根源の火精霊(プライマルファイヤーエレメンタル)を召喚でき、召喚モンスターとの繋がりも確認することが出来たモモンガは、隣で歓声を上げるアウラに声をかけた。

 

「戦ってみるか? アウラ」

「えっ、いいんですか?」

「もちろんだとも。お前の力を私たちに見せてくれ」

 

 至高の存在であるモモンガに期待をかけられ、アウラはやる気に満ち溢れた顔で頷く。

 

「はい! 見ててください、モモンガ様、マヨ✩マヨ様! ほらマーレ、あんたも」

「え、えぇ? ぼ、僕はいいよぅ…………もう少し、マヨ✩マヨ様とお話ししていたいし…………」

「なにボソボソ言ってるのさ。ほら、早く!」

「う、うわぁぁぁ…………!」

 

 仲良く? モンスターとの戦闘に向かう双子をマヨ✩マヨが微笑ましく見送っていると、

 

『マヨさん、マヨさん』

 

 マヨ✩マヨの()()()に声が響いた。

 

「あれ、これって…………伝言(メッセージ)?」

『そうです、さっき色々と試してた時、ついでに運営やほかの仲間たち、セバスにも伝言《メッセージ》が使えないか試してみたら、セバスには通じたんです』

 

 モモンガの発言に、マヨ✩マヨは軽い驚きを覚えた。

 あれだけ攻撃魔法の実験を行っていながら、それと並行して伝言(メッセージ)が使用可能かまで試しているとは…………

 

「さすがモモンガさん…………っと『あー、あー、聞こえますか? どうぞ』」

『いやいや、無線機じゃないんですから』

『ふふふ、まあまあ。でもこれで少しは安心ですね』

『ええ、いざという時は頭の中で作戦会議ができますよ』 

『いざという時…………ですか』

『…………多いかもしれませんね、()()という時』

『…………不吉なこと言わないでくださいよ』

『自分でも言っててヘコみました』

 

 くくく、と二人の口から笑みが漏れる。

 傍から見れば、少年少女を見ながらニヤニヤと笑う危ない人物だ。

 片方は骸骨で片方は悪魔だが。

 

『それでセバスが言ってたんですけど、どうやら外が草原になってるみたいなんです』

『草原、ですか?』

 

 世界がまだゲームだった頃、ナザリック地下大墳墓の周りは毒の沼地が点在する湿地帯だったはず。

 

『はい、どうやらそうみたいです』

『という事はつまり、ユグドラシルが現実になったんじゃなくて、僕らだけがナザリックごと別の世界に転移した、という可能性が高いですかね?』

『俺も同じことを考えました。でも、確証はないですね』

 

 そう、どれだけ状況証拠が重なろうと、未だ全てのことは二人の想像に過ぎないのだ。

 確証を得るためにはもっと多くの情報が必要であり、そしてその情報を得るためには──── 

 

『いずれは、ナザリックの外に情報を求めないといけませんね…………』

 

 マヨ✩マヨがため息をつくように呟く。

 これから会う守護者たちの反応次第だが、アルベド、セバス、アウラ、マーレ、そして戦闘メイド(プレアデス)達を見る限り、他の守護者たちも同様に自分たちには忠実である可能性が高い。

 すると、強力な守護者たちに守られたナザリック内は基本的に安全だと言う事になる。

 

 だがそれに比べ、外は未だ未知数なのだ。

 もしかしたら、ワールドエネミークラスのモンスターが無数に徘徊する世界の可能性だってある。

 しかし、だからといってナザリックにひたすら引き篭るのは愚策だ。

 

 危険を冒してでも外の情報を手に入れなければ、すべてが後手後手に回って対応する間もなく詰むような状態にもなりかねない。

 

『ちなみに、空には星が輝いているそうですよ』

『えっ、本物の、ですよね?』

『ええ、特に幻術による偽装の痕跡も無いようです』

『本物の星空かぁ…………ブルー・プラネットさんが見たら喜んだだろうなぁ』

『六階層の()を作るときも、熱く語ってましたからねぇ』

 

 二人は自然を愛したかつての仲間を思い出す。

 ブルー・プラネット────この第六階層の空を並々ならぬ情熱とこだわりによって作り出した張本人だ。

 

『きっと誰よりも先に外に飛び出してたでしょうね』

『ええ、そして連れ戻しにいった俺達を逆に捕まえて語ってくれましたよ。自然に対する愛と知識を』 

『ふふふ、間違いなくそうなったでしょうね』

『見せてあげたかったなぁ』

『…………はい』

 

 モモンガとマヨ✩マヨは、六階層の天井に煌く星を見つめたまま、束の間の感傷に浸った。

 それは決して長い時間ではない。

 なぜなら────

 

「おや、わたしが一番でありんすか?」

 

 妙な言葉遣いの若々しい女性の声が、彼らの意識を現実に引き戻したからだ。




 マヨさんに誰をくっつけようか悩んだ結果、薬品系錬金術師という設定上、第六階層の守護者であるアウラがいいかな~、と思っていたのですが、蓋を開けてみればなんだかマーレと相性が良さそうな感じ。

 アウラは魔獣使いだから薬草あんまり関係ないしなぁ…………

 うーん…………男の娘かぁ…………


 ……………………


 ………………


 いいね!

 もうそっちの方向で進めちゃおうかな!

 今の気分だけで言ってるけど!
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