死の支配者《モモンガ》は古き知恵の悪魔《マヨ✩マヨ》と笑う   作:布施鉱平

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 なんか同時に書いてる『モモンガ様自重せず』を書くのが楽しくなってきてしまって、こっちの更新が途絶えてました。

 すいません。

 


二人の男胸と蟲

「モモンガ様、マヨ✩マヨ様、ご機嫌麗しゅう」

 

 突然現れたゴスロリファッションに身を包んだ少女は、フリルの付いたスカートの裾をつまんで二人に挨拶をした。

 

「ああ、うむ。シャルティアよ、よく来てくれた」

「至高の御方からのお呼び立てでありんすもの。なにを差し置いても馳せ参じるのが、至高の御方によって創造された階層守護者の務めというものでありんしょう」

 

 モモンガからの(ねぎら)いにそう答えるや(いな)や、妙な言葉遣いの少女────第一から第三階層の守護者であり真祖(トゥルーヴァンパイア)であるシャルティアは「ああ、我が君────」と恍惚とした表情でモモンガに抱きついていった。

 

「ん、お」

 

 突然の抱擁に、モモンガが固る。

 アルベドの時には目的を持って自ら行動した為か、かなり大胆な行為に及ぶことも出来ていた。

 だが、相手の方からモーションを起こされると途端にどうしていいかわからなくなってしまう。

 童貞の悲しい習性(さが)だ。

 

 そんなモモンガを横目に見つつ、マヨ✩マヨはシャルティアの製作者であるペロロンチーノについて思いを馳せていた。

 シャルティアの突飛な行動に疑問を持ったからだ。 

 

 マヨ✩マヨとモモンガによって設定をいじられたアルベドならまだしも、妙齢の少女(に見える)シャルティアが、モモンガに対してこうも()()()()()な求愛行動を取るだろうか、という疑問だ。 

 

 いくらモモンガがこのナザリックの最高権力者であり、最後まで残った心優しいギルドメンバーだからといっても、彼の外見は骸骨なのだ。

 肉も皮も…………下世話な話だが()()すらも付いていない。

 

 普通の感覚の持ち主であれば、間違っても恋愛感情など抱かないだろう。

 

 だとすれば、ペペロンチーノがシャルティアに特殊な設定を付けたのだとしか思えない。

 いや、むしろそうでなければ困るのだ。

 

 もし設定に無いにも関わらずシャルティアがあんな行動をとったのであれば、NPC達はかなり自由な自我を持つということになってしまう。

 

 ナザリックに存在するNPCの総合レベルは2750。

 そのうち階層守護者は、四階層のガルガンチュアと八階層のヴィクティムを除く全員が100レベルの強者だ。

 

 もしそれらの全てが、設定に囚われない自由意思を有していたとしたら………… 

 

(エロゲーイズマイライフを標榜(ひょうぼう)して(はばか)らなかったペロロンチーノさん…………彼は確か、シャルティアにエロゲーにありがちな設定をこれでもかと詰め込んでいたはず…………)

 

 肉食獣に追いかけられるインパラの気分を味わいながらも、マヨ✩マヨはペロロンチーノから聞かされたいくつもの設定を必死に思い起こしていく。

 

 加虐性愛(サディズム)被虐性愛(マゾヒズム)血液淫虐(ヘマトフィリア)嫉妬性愛(ゼロフィリア)眼球愛好(オキュロフィリア)失態愛好(ハーマトフィリア)疑似獣姦(スードウズーフィリア)踏付愛好(アルトカルシフィリア)、そして────────屍体愛好癖(ネクロフィリア)

 

(ああ…………)

 

 ほっとひとつため息をつき、マヨ✩マヨはモモンガに伝言(メッセージ)を飛ばした。

 

『単純にモモンガさんが性的指向に合致するみたいです』

『え?』

『シャルティアですよ。モモンガさんに抱きついたのは、ペロロンチーノさんが屍体愛好癖(ネクロフィリア)っていう設定を付けたせいだと思います』

『い、いや、ちょ、なに一人で納得してるんですかマヨさん! 伝言(メッセージ)なんて飛ばしてないで、早く助けてくださいよ!』

『うーん…………でもほら、僕ってモモンガさんと同じ嫉妬マスク同盟の一員じゃないですか』

『え、あ、そう、ですけど…………?』

 

 嫉妬マスク────

 それは、性なる夜の19時~22時の間に二時間以上ユグドラシルにログインしていた者に強制的に送りつけられるという、ある種呪われたアイテムだ。

 

 廃プレイヤーが多かったアインズ・ウール・ゴウンのメンバーにも当然多数の所有者がおり、それらの者たちが秘密裏に結成した内部組織こそ【嫉妬マスク同盟】。

 

 活動内容は1/1、2/14、2/27、3/14、4/10、4/14、4/23、5/9、5/23、6/12、7/7、8/9、9/10、9/14、10/30、11/11、12/12、12/21、12/24、12/25、12/31日に、男女が入り混じったパーティーに嫉妬マスクを被ったまま襲い掛かり、「シット(クソ)!」という叫び声を上げながらPKすることである。

 

 戦闘系のビルドをしていないマヨ✩マヨは実際の戦闘にこそ参加しなかったものの、陰湿なバッドステータスを付与するアイテムなどを作成してその活動に貢献していた。

 

 ゆえに、栄光あるアインズ・ウール・ゴウンの内部組織、嫉妬マスク同盟の一員であるマヨ✩マヨとしては、アルベド、シャルティアとタイプの違う美女に連続で迫られるモモンガに対してこう叫ばざるを得ないのだ。

 

『シット!』

『今!?』

 

 もちろん本気で言っている訳ではないことくらい、モモンガだって理解している。

 だが、この場に存在する唯一の友人からの助けは期待できないようだった。

 

「ちょっと、いい加減にしたら…………」

 

 しかし、助けは現れた。

 その重く低い声に反応し、モモンガの感触(骨だが)を堪能していたシャルティアが振り返る。

 

「おや、チビすけ、いたでありんすか? 視界に入ってこなかったから分かりんせんでありんした」

「あんだけ派手にモモンガ様の召喚した根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)と戦ってたんだから、見えないわけ無いでしょ!?」

 

 シャルティアが現れた事を察知したアウラは、その後シャルティアがどのように行動するかを予測し、モモンガに対する蛮行を阻止すべくマーレに戦闘を押し付けて駆けつけたのだった。

 少し離れた場所から「ふえぇぇぇぇぇっ」という叫び声が聞こえてくるが、睨み合う二人は気にした様子もない。

 

「だいたい何さ、その胸!」

「な、なんでありんすか? わ、わたしの胸がいったいどうしたと…………」

「偽乳」

「くひぃ!」

 

 ビシッと指を突きつけて断言するアウラと、図星だったのか奇妙な声を上げるシャルティア。

 それを見ていた至高の二人も、視線をシャルティアの盛り上がった胸へと移動させる。

 

『あっ、盛ってたんだ』

『なんかちょっと感触が変だったから、そうかなとは思いましたけど』

『…………モモンガさん…………』

『あっ、いえっ、偶然! 偶然ですよ! ほら、シャルティアがいきなり抱きついてきたから!』

『シット!!』

『くひぃ!』

 

「そんだけ盛ると、走るたびに胸がどっか行くでしょ!」

「黙りなさい、このチビ! あんたなんか無いでしょ。わたしは少し…………いや、結構あるもの!」

「ふふん。あたしにはまだ先があるもんね! それに比べてアンデッドは未来がないから大変よねー。どうするの? スライムでも飼い慣らして、その青白い皮膚の下に注入でもする?」

「おんどりゃー! 吐いた唾は飲めんぞー!」

 

『聞きました、モモンガさん? アンデッドには未来が無いんですって』

『うぅ、アウラ…………俺もアンデッドなんだよ。そしてさっきからマヨさんが冷たい…………』

 

ふえぇぇぇぇぇっ…………お、お姉ちゃーん

 

 そして聞こえてくるマーレの声。

 事態はすでに収拾不可能なほど混沌と化していた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「サワガシイナ」

 

 時と共に混沌具合を増していく空気を打ち壊してくれたのは、人間以外のモノが無理やり人の声を出している、そんな歪んだ硬質な声だった。

 

 四人の視線が、声のした方向に向けられる。

 そこに立っていたのは、ライトブルーの外骨格を持ち、常に冷気を周囲に放つ異形。

 第五階層守護者である蟲王(ヴァーミンロード)のコキュートスであった。

 

御方々(おんかたがた)ノ前デ遊ビスギダ…………」

 

 至高の四十一人のひとり、武人建御雷が創造したNPCだけあって、その佇まいはまさに武人そのもの。

 手にしたハルバードの刀身を地面に叩きつけアウラとシャルティアを威嚇すると、その周辺の大地がゆっくり凍りついていった。

 

「この小娘がわたしに無礼を働いたんでありんす!」

「あたしは事実を言っただけだよ!」

 

 だが、コキュートスの諌めも二人の諍いを沈めるには至らなかった。

 再び言い争いが再燃しかけるが────

 

「…………シャルティア、アウラ。じゃれあうのもそれぐらいにしておけ」

「「もうしわけありません!」」

 

 コキュートスの登場により我を取り戻したモモンガの言葉によって即座に静められた。

 謝罪した二人に対して鷹揚に頷いたモモンガは、救い主であるコキュートスに向き直る。

 

「よく来たな、コキュートス(本当にありがとう)」

「オ呼ビトアラバ即座ニ、御方」

 

 そしてなんだか落としどころを失って困っていたマヨ✩マヨも、久しぶりに見たコキュートスの威容に圧倒されながら挨拶を交わした。 

 

「久しぶりだね、コキュートス」

「オ久シブリデゴザイマス、マヨ✩マヨ様。ゴ壮健ソウデ何ヨリデゴザイマス」

「ご壮健? ふふふ、ご壮健ね」

「ナニカ…………?」

「いや、何でもないんだよコキュートス。僕の体のことを心配してくれた君の気持ちが嬉しかっただけさ」

 

 コキュートスに健康状態に関する言葉を向けられたマヨ✩マヨが考えたのは、当然()()()()()のことだ。

 モモンガと二人で異世界転移であると結論づけた今回の一件であるが、元の肉体がどうなったか、などの疑問は当然ながら晴れていない。

 

 もし精神だけがこちらに飛ばされて、肉体は向こうに残っていたら? 

 そして、精神と肉体には繋がりが有り、向こうで肉体が死を迎えるとともにこちらの精神も死を迎えるのだとしたら?

 

 全ては想像に過ぎない。

 

 しかし、可能性がないとも言い切れないのだ。

 

 不安になるだろうからモモンガにはこの考えを伝えていないマヨ✩マヨだったが、もしもそうだった場合、自分に残された時間はあまりにも短い。

 

 抗体の発生を押さえる薬の効果が消えるまで、あと一時間と少し。

 それまでにナノマシンを抜かなければ抗体の異常発生が再開し、全身を蝕んでいく事になる。

 

 そこでもし一番最初にやられるのが脳や心肺機能だった場合を考えると、マヨ✩マヨの肉体である田中徹の寿命は最短であと三時間ほどしか残されていないことになるのだ。

 

『どうしました? マヨさん』

 

 マヨ✩マヨが黙り込んだことを心配したモモンガが伝言(メッセージ)を飛ばしてくる。

 

 それに対し『何でもないですよ』と簡潔に答えを返すと、マヨ✩マヨは改めてコキュートスと向かい合った。

 

「ねえコキュートス、ひとつお願いがあるんだけど聞いてくれるかな?」

「モチロンデゴザイマス、マヨ✩マヨ様。シカシ、階層守護者タル我々ニ対シテオ願イナド不要デゴザイマス。タダ一言ゴ命令下サレバ、ドノヨウナ命ニモ喜ンデ従ワセテ頂キマス」

「ふふふ、ありがとう。でも、僕がするのは基本的にお願いさ。命令を下すのは────っと、これはまた後でね。で、お願いなんだけど…………」

「ハッ」

「…………マーレ、助けてきてくれないかな?」

 

 マヨ✩マヨが指差す方向にコキュートスが視線を向ける。

 

お、お姉ちゃーん

 

 その先にあるのは、巨大な炎の塊と対峙する褐色の少年の姿だった。

 

「…………承知イタシマシタ」

 

 本来であればとっくに勝負がついているはずなのだが、引っ込み思案なマーレの性格を考慮するに、モモンガが召喚したモンスターを倒すということに抵抗を覚えたのだろう。

 

 マヨ✩マヨにお願いされたコキュートスは、やや呆れた声を上げたあと、ノシノシと戦闘の場に向けて歩き去っていった。

 

 

 

 

 

 

 




 ────ちなみに余談ではあるが、数ある襲撃日のうち4/10は語呂合わせでシットの日であり、9/10は牛タンの日…………ではなく、ギルドメンバーでは数少ない既婚者であった、たっち・みーの結婚記念日だったりする。
 もちろん全て捏造である。
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