死の支配者《モモンガ》は古き知恵の悪魔《マヨ✩マヨ》と笑う 作:布施鉱平
私もあれぐらいのペースで進めたいところ。
賛否両論ありますが、私はアニメも好きです。
どちらかというとドラマCDのほうが好きだけど。
封印の魔樹なんか、劇場版でもいいくらいだと思う。
「交渉でございますか!?」
メガネに覆い隠されたデミウルゴスの瞳が、カッと見開かれた。
「交渉、ということはつまり、マヨ✩マヨ様は武力ではなく、
「あ、ああ、その通りだよ。デミウルゴス」
さらっと事実を言っただけだったマヨ✩マヨ。
だが、デミウルゴスの反応は予想を遥かに超えて大仰なものだった。
「素晴らしい!!」
デミウルゴスが感極まったような声を上げ、それを全身で示すように両手を大きく広げる。
「あぁ、なんという…………なんということでしょう。私では、そのような方法は到底思いつきません! いったい何を…………何を交換条件として提示されたのですか!? まさかナザリックの保有する
必死だ。
冷静沈着というイメージが強いデミウルゴスが、これほどまで感情を
デミウルゴスのその態度に、モモンガとマヨ✩マヨは自分たちがどれだけ浅はかなことをしたのか思い知らされた。
考えてみれば、彼らNPCにとっては今の世界も前の世界も変わらず
彼らはモモンガたちの暮らす【
彼らにとって【
モモンガとマヨ✩マヨは、仮想現実が現実になったという結論にたどり着いていながらも、まだこれが
だからこそ、「自分たちの偉大さを少しでもアピールできるかな?」くらいの軽い気持ちで、安易に
『ど、どうします? マヨさん』
モモンガからうろたえた
だが、どうしますと言われたって、マヨ✩マヨにだってどうすればいいのかなんて分かるわけがなかった。
「デ…………デミウルゴス」
黙り続けているわけにもいかず、マヨ✩マヨはなにも考えがまとまらないまま口を開いた。
「はっ」
そして、キラキラとした視線をこちらに向けるデミウルゴスに対して、言葉を続ける。
「僕が…………僕がどのような交渉によって
マヨ✩マヨの言葉に、デミウルゴスが喜色を顕にする。
「非才なる我が身の願いを聞き届けてくださり、恐悦至極────」
「だが」
と、マヨ✩マヨは精一杯声を低くして威厳を演出しつつ、デミウルゴスの言葉を遮った。
「本当に、それを語ることに意味があると思うかい?」
発した言葉には、特に深い意味などない。
ただ少しでも時間を稼ぎつつ、最終的には「後日教えてあげよう」的な落としどころに持っていきたい。
それだけのつもりだった。
しかし────
「申し訳ありません!」
デミウルゴスは雷にでも打たれたかのように背筋を震わせると、マヨ☆マヨでは視認不可能な速さで頭を下げた。
「誠に申し訳ありません! モモンガ様、マヨ✩マヨ様! 私の思い違いにより、至高の御方々に無駄な時間を取らせてしまうところでございました!」
「…………へっ?」
なんのことやらさっぱり分からず、素で聞き返してしまうマヨ✩マヨ。
だが幸いなことにその声は小さかったため、デミウルゴスや他の守護者たちには伝わらなかったようだ。
『…………マヨさん、どういうことだか分かります?』
『いえ…………さっぱりです』
キラキラとした表情をかき消し、まるで悔恨の極みとでもいうように眉間に皺を寄せるデミウルゴス。
いったい今の会話のどこに、彼をそのような状態にまで追い詰める要素があったのか、二人にはまるで分からない。
「どうか…………どうかこの愚かなる下僕に相応しい罰をお与えください!」
二人の沈黙を怒りからくるものだと捉えたのか、デミウルゴスはさらに深く頭を下げ、謝罪を重ねる。
「よ、よい、デミウルゴス。頭を上げよ」
床を突き破らんばかりの勢いで頭を下げるデミウルゴスを止めるため、モモンガが声をかけた。
「ですが…………」
「よい。と言っているのだ、デミウルゴス。私たちはお前の全てを許そう…………それに、お前が何に対して謝罪しているのか分からない者もいるのではないか? お前が何に対して謝罪しているのか、それを他の者にも説明してやるがよい」
(うまい!)
モモンガの見事な誘導に、マヨ✩マヨは心の中で感嘆の声を上げる。
このやり方なら自分たちが説明しなくても、デミウルゴスが分かりやすく説明してくれるはずだ。
「…………はっ、畏まりました」
モモンガの命を受けたデミウルゴスが、一礼して一歩前に進み出ると他の守護者たちに振り返った。
「ではまず、私がなぜ許しを請うたのか、その理由が分からないものはいますか?」
デミウルゴスの言葉に、アウラ、マーレ、シャルティア、コキュートス、ヴィクティム、セバスが手を挙げる。
ぶっちゃけアルベド以外全員だ。
「なるほど…………では、分かりやすく説明しましょう。…………アウラ、交渉をするために最も必要なものはなんだと思いますか?」
「えっ? えーと…………お金?」
『…………一発目からアウラ正解』
『マヨさん、
「違います。ではマーレ、なんだと思いますか?」
「え、えーと…………く、口の上手さ、でしょうか?」
『それもあるね』
『流石はぶくぶく茶釜さんのNPC。優秀だ』
「それも必要でしょうが、そうではありません。シャルティア」
「さっさと殺してから奪えばいいと思うでありんず」
『ないね』
『流石はペロロンさんのNPC。不憫だ』
「論外です。コキュートス」
「フム…………交渉モ一ツノ戦イダトスルナラバ、相手ノ情報ダロウカ?」
コキュートスの言葉に、デミウルゴスが満足げに頷く。
「そう、交渉相手の情報です。相手がどのような性格なのか、どのような嗜好の持ち主なのか、何を望んでいるのか。それを知ることこそ、交渉の要なのです」
『意外な伏兵でしたね』
『建御雷さんは相手の手の内を読む戦いとか好きでしたから』
二人が
「私の『どのような交渉をされたのでしょうか』という疑問に対し、マヨ✩マヨ様は『それを語ることに意味などない』と仰られた…………当然です。交渉相手の情報を何も知らぬ私が、その交渉の内容だけを聞いたところで得られるものなどありはしないのですから」
『『ああ、そういう…………』』
デミウルゴスの説明を受けて、ようやく二人も納得がいった。
ようはデミウルゴスの頭が良すぎるために、何でもない一言を深読みしまくったというだけのことだったのだ。
しかし、せっかくデミウルゴスが自爆してくれたこのチャンスを逃すわけにはいかない。
「そ、そういうことだよ、デミウルゴス。交渉というのは思考を読み合い、腹を探り合い、言葉を交わしあった結果として実を結ぶものだ。僕が交渉した内容を君に伝えたところで、交渉相手のことを知らない君には僕の真意を理解することはできなかっただろう」
「誠に、仰る通りでございます。私の行為は木を見て森を知ろうとするほどに浅はかなもの…………至高なる御二方にはお許しを頂きましたが、やはり許されることでは…………」
「────それぐらいにしておきなさい、デミウルゴス」
またしても自らの断罪を望もうとするデミウルゴスを止めた声は、守護者統括であるアルベドのものだった。
「あなたは至高なる方々のお慈悲によってすでに許されているにもかかわらず、それをまた蒸し返して、さらに御二方から貴重なお時間を奪おうというの?」
「…………っ、失礼いたしました!」
さすがはNPCのトップというべきか、その一言によってデミウルゴスは最後に一度だけ謝罪すると、大人しく元の位置に戻っていった。
「モモンガ様、マヨ☆マヨ様。守護者という地位を
「い、いや、よいのだアルベド。皆も、また私たちに対して疑問や質問があれば、遠慮なく聞いてくれてかまわない」
「そ、そうそう。もちろん今回みたいに、全部に答えられるわけじゃないけどね」
「格別なるご慈悲をいただき、感謝の言葉もございません。我ら一同、更なる忠誠を至高なる方々に誓います」
「「誓います!」」
アルベドの声にあわせて、セバスを含むNPC全員の声が唱和する。
『『…………はぁ』』
何気ない一言から膨れ上がった一連の騒動に疲れを感じ、モモンガとマヨ☆マヨは同時にため息を吐いた。
◇
ちょっとした騒動はあったものの、その後は問題なくマヨ☆マヨが帰還した経緯などを無事説明し終えることができた。
もちろん、全てをありのままに伝えたわけではない。
マヨ☆マヨは
だが、今回の異変を察知したモモンガからの要請により、病の拡散を防ぐレアアイテムを使用して帰還を果たした────というストーリーだ。
病が完治した、と発表しなかったのはマヨ☆マヨの強い希望によるものだ。
その理由を、マヨ☆マヨはモモンガに話していない。
守護者たち(特にアウラやマーレやヴィクティム)は当然マヨ☆マヨの健康状態を強く心配したが、それに対しては無理をしなければ問題はないとだけ伝えてあった。
「────では最後に、皆が私たちのことをどう思っているか聞かせてもらおう。まずはシャルティア、お前にとって私たちはどのような存在だ?」
この質問も、王座の間で行った二人の緊急会議によって決められたものだ。
今までの会話や態度などから、NPCたちが二人に対して強い忠誠を抱いているのは間違いのないことだと思う。
だがそれでも、基本小市民である二人ははっきりと言葉で聞きたかった。
「モモンガ様は美の結晶。全ての世界で最も美しい方でありんす。マヨ☆マヨ様は全ての世界で最も優れた
間髪入れぬその答えに嘘は見えない。常日頃からそう思っていなければ、即座に答えることなどできないだろう。
「────コキュートス」
「モモンガ様ハ守護者各位ヨリモ強者デアリ、マサニ支配者ニ相応シキ方。マヨ☆マヨ様ハ戦局ヲ左右スル技能ヲ持ツ、ナザリックニ欠カセヌ方カト」
「────アウラ」
「モモンガ様は慈悲深く、深い配慮に優れた方。マヨ☆マヨ様もまた慈悲深く、機知に富む方です」
「────マーレ」
「え、えと、モモンガ様はすごく強くて、すごく頭のいい方だと思います。マヨ☆マヨ様はすごく優しくて、その、すごく…………格好いい方だと、お、思います///」
「───デミウルゴス」
「モモンガ様は賢明な判断力と、それを瞬時に実行される行動力に優れた方。マヨ☆マヨ様は優れた発想力と、それを実現させる実行力を持つ方。どちらも端倪すべからざるという言葉が相応しい方々です」
「────ヴィクティム」
「モモンガさまはすべてをひきつけるカリスマをもつ、ナザリックのしんのしはいしゃです。マヨ☆マヨさまはわたしのそうぞうしゅであり、わたしのそんざいのすべてをささげてつくすべき、しこうのそんざいです」
「────セバス」
「モモンガ様は至高の方々の総括として就任され、最後までこのナザリックに残られた慈悲深き方。マヨ☆マヨ様は御身の危険を顧みず、このナザリックの危機に駆けつけて下さった義侠心溢れる方です」
「最後になったが、アルベド」
「モモンガ様は至高の方々の最高責任者であり、私どもの最高の主人、そして私の愛しい方です。マヨ☆マヨ様は
「なるほど…………」
全てを聞き終え、モモンガは鷹揚に、マヨ☆マヨは無言で頷いた。
「お前たちの考えは十分に理解した。私たちからの信頼の証として、今後は私たちの仲間が担当していた執務の一部を任せるとしよう。マヨ☆マヨさんからは、何かありますか?」
「では…………」
モモンガからバトンを渡され、マヨ☆マヨは覚悟を決める。
これから話そうとしていることは、モモンガとの打ち合わせにはなかったことだ。
「僕から皆にお願いがある。このナザリックに存在する、全てのものに対してのお願いだ」
『えっ、ちょ、マヨさん?』
マヨ☆マヨのアドリブに、あわてて
だがそれを無視して、マヨ☆マヨは言葉を続けた。
「アルベド、僕の言葉をナザリックの全NPCに伝えてほしい。頼めるかな?」
「ご命令とあれば」
「違う、僕がするのはあくまでも
「…………っ、承りました」
『マヨさん…………? いったいなにを…………』
モモンガの困惑が深まる中、アルベドとデミウルゴスは何かを察したような顔でマヨ☆マヨの言葉を待っていた。
そして────マヨ☆マヨは告げる。
「皆に聞いてほしいお願いはたった一つ。それは、今後皆が従うのはただ一人、モモンガさんだけにしてほしいということなんだ」
「マヨさん!?」
さすがに堪え切れなくなったモモンガが声を上げる。
だが、それでもマヨ☆マヨは言葉を続けた。
「これは、絶対に必要なことなんだ。アルベド、ナザリックを運営していく上で最も重要なことは?」
「至高の方々に対する絶対の忠誠でございます。マヨ☆マヨ様」
淀みなくアルベドが答え、マヨ☆マヨが頷きを返す。
「じゃあデミウルゴス。ナザリック
「各々の能力にあった仕事が過不足なく割り振られ、その命令系統が一元化していることかと」
「…………っ!」
デミウルゴスの言葉に、モモンガもマヨ☆マヨの言いたいことを理解した。
確かに、これは今言わなければならないことだろう。
そして、他ならぬマヨ☆マヨの口から発せられなければ、後々しこりを残すことにもなりかねない。
息を呑み、口を閉ざしたモモンガに心の中で謝罪し、マヨ☆マヨは言葉を続けた。
「そう、デミウルゴスの言う通り、命令を下すのは常に最上位にある存在────モモンガさんでなければならない。これから先、僕が皆に何かお願いすることはあるだろう。だけど、それは決して
アウラ、マーレ、シャルティア、コキュートス、デミウルゴス、ヴィクティム、セバス、アルベド。
ここにいる全てのNPCに目を合わせ、マヨ☆マヨは言葉を伝えていく。
「もし僕のお願いと、モモンガさんの命令がぶつかるような事があれば、迷うことなくモモンガさんにそれを報告し、モモンガさんの命令を優先してほしい。これが、僕から皆にお願いする最も大きなお願い事だ。────アルベド、いいね?」
「────はい。マヨ☆マヨ様のお言葉、そしてそのお心。この守護者統括アルベド、確かに理解いたしました。すぐにマヨ☆マヨ様ご自身のお言葉として、全てのNPCに伝えさせていただきます。モモンガ様、よろしいですね?」
「…………あ、ああ。任せる」
にっこりと。
実にうれしそうににっこりと微笑みかけるアルベドに対して、モモンガはそう答えるしかなかった。
◇
「…………随分な不意打ちじゃないですか。マヨさん」
「ふふふ…………怒りました?」
あの後、すぐにモモンガの私室に転移してきた二人の会話は、当然のようにモモンガの詰問から始まった。
「はぁ…………怒っちゃいませんよ。タイミングが遅れれば遅れるほど、俺とマヨさんが不仲なんじゃないか、とかいらぬ憶測を呼びそうですし。あそこで言うのがベストだったんだってのは理解してます。でも、事前に相談くらいしてくれてもいいじゃないですか」
「でも、事前に相談してたらゴネたでしょ?」
「うぐっ…………いや、うん、たしかにそれは否定できませんけど…………」
「すいません。今のは完全に責任転嫁でした。ごめんなさい」
「ああ、いえいえ、俺のほうこそ……………」
二人は互いに頭を下げて謝罪し、同じタイミングで頭を上げる。
「は、はははっ」
「ふふふふふ」
そして顔を合わせた瞬間、どちらからともなく笑いが漏れた。
「あー、笑った…………マヨさん」
ひとしきり笑いあったところで、モモンガが改まった声を出す。
「なんです? モモンガさん」
マヨ☆マヨが答えると、モモンガはその骨だけの白い右手を差し出した。
「俺たち、うまくやっていけそうですね。
「…………ええ、一緒にがんばりましょう。
この一連の異常事態に陥ってから数時間。
最後まで残った男と、最後の最後で帰ってきた男は、様々な思いをその言葉に込めながら、互いの手を強く握り締めたのだった。
そろそろBL(保険)の(保険)を外してもいいかもしれない。
もちろんモモンガ×マヨ☆マヨはないので安心してください。
望んでる人は…………いない、よね?