お前サノバ二次は和奏ちゃんしかかけないんじゃないか?という疑惑をかけられ、事実そうかもしれないと思ってきた今日このごろ。

今回も和奏ちゃんの二次創作です。共通ルート(誰ともフラグを立てずハロウィンを迎えた)の後に結局付き合い始める二人というのを書きたくてかきました。自己満展開や所々端折った点についてはご容赦をば。

pixivと同時投稿です。

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素直な気持ちで

ハロウィンパーティが終わって、間もなく冬休みかという頃。どうしたことかハロウィンパーティでの、一回きりのバンド復活の話が持ち上がった。仮屋は意外と乗り気で、海道も同じような中、オレが抗うはずもなく、来春の文化祭に向けて再始動した。

 

「おう、待たせた」

「大丈夫、アタシもいま来たところだから」

「こうやって柊史や和奏ちゃんと外出、ってそう言えばあんまりしたことないよな。まあ高校なんて、帰りに買い食いだってできるし、わざわざ会う必要もないし。」

「そう言えば、確かに。もう高校2年なのにアタシたちが集まって休日に、ってのはなかったね。」

「…何だよその目は」

今日はもともと練習のために予定を開けてたのに、スタジオが一杯で暇になったため急遽3人で遊びに出ることになった。集まって他愛のない話をしていると、なぜかオレに目線が集まる。

 

「別に?でも、柊史がこういうの提案するなんて想像もできなかったんだけどな」

「保科がわざわざ人を誘って外出するなんて、もしかして今日ひどい夕立でも降るんじゃ、傘持ってきてないんだけど」

「お前たちの評価ひどすぎないか?」

確かに、オレが今まで人との関わりを避けようとしていたことは間違いない…が、ここまでいろいろ言われるレベルだったと思うと少し凹む。

 

「和奏ちゃん、夕立降ったらそこで雨宿りしよ」

海道が指差す先にはいかがわしげなネオン街が。

 

「制裁!」

回し蹴りが海道の尻に叩き込まれる。遠心力を適切に活かし、適切な重心移動による安定感のある素晴らしい蹴りだ。さすが仮屋、海道のケツを蹴り慣れているだけのことはある。

 

「ありがとうございます!」

「海道のことだから下心がないのはわかるけどさ、年頃の乙女に言って良いジョークかどうかわきまえなさい!」

「年頃の…乙女…」

「あ゛?保科もなにか言った?」

「いえいえ何でもありませんので寛大な処置を」

「…はぁ、まあ、アタシが本当にそういう目で見られてるならこの状況は確かに危険かもね」

「大丈夫だって、人によっちゃ兄妹に見えるかもしれないしな」

「まだ蹴られ足りないか海道」

「冗談だよ冗談、流石に顔も違うしそんな訳無いだろ!」

今日の目的はギターの弦の調達、海道のスティック買い替えと、基本はバンドの準備みたいなものだ。

 

楽器店に行き、ちょうどほしい弦が見つかった。オレのもちょっと交換を考えていたから、ついでに調べて買っておく。海道も新しいスティックが買えてご満悦といった感じだ。

 

「そろそろお昼にしない?」

「ココならフードコートか、あるいはレストラン街だけどどっちに行こうか」

「どっちでもいいよ、混んでない方にしよう」

休日のショッピングモールとはいえ、混み具合はほどほどと言ったところか、フードコートのほうが待たなさそうだ。オレたちはそこで昼ごはんを済ませ、少しの間だべっていた。

 

「このあとどうする?まだ昼過ぎだけども」

「うーん、ここって確か映画館あったよね、アタシちょっと見たい映画あるんだけど」

「おっ、それなら話は早い。映画行こうぜ」

エスカレーターに乗り、映画館へ。この前公開された映画って何があったっけ。デッ○プールとか、のみ○り侍とか、ってどれも女の子が見たがる映画じゃないな。

 

プルルルル……

「おい、海道、携帯なってるぞ」

「うおっ、マジか…もしもし」

 

「マジかよ…わかったすぐ戻る、すまん柊史、和奏ちゃん、ちょっとうちのじいちゃんが急に入院することになったらしいから呼び戻された。明日は多分大丈夫だから、ちょっと今日はここで帰るわ」

「あらら…それはお大事に」

「それなら仕方ないな、また明日」

次の階につくなり海道がエレベーター目指して小走りで向かっていく。そして残されたオレと仮屋。

 

「あのさ、海道帰っちゃったけど映画でいい?保科が嫌なら別にいいんだけども」

「オレは映画でいいよ、一人だとなかなか行かないし」

「そっか、それじゃ行こうか」

そう言いながら連れてこられた映画館。仮屋が見たい映画ってなんだろう。

 

「…はい、わかりました、それじゃそのシートで」

「チケット買ってきたよ」

渡された半券には「仮○ライダー」、仮屋って特撮好きだったのか。もう付き合いも2年になろうかというのに、ギター以外の趣味もロクに知らなかったんだな。もっとも、ギターすら最近知ったというのに。

 

「それでさ、席なんだけどちょっと…」

「…まさか」

「…うん、混んでたからソファーシートにしちゃった、もし保科が嫌なら変えてくるけど。まだ一人席ならいくつかあるみたいだし」

「オレは気にしないから良いよ、むしろ仮屋のほうがそういうの嫌じゃなかった?」

「アタシは大丈夫。せっかく来たのに別々ってのもね」

「それならそのままでいいよ、ソファーならちょっと寛げそうだし」

「映画はちゃんと見るよね?」

「シートが良いから寝るとか、そんなことはないよ」

「ふーん…あっ、そうだ。保科、ポップコーン買ってきて」

「良いけどさっき昼ごはん食べたばっかりじゃ」

「映画といえばポップコーンとコーラに決まってるじゃない」

「まあ食べ切れるならいいけど」

上映までの時間はあっという間に過ぎていった。時間になってシアターの中に入る。

 

「なんか、思ったより狭いね」

「まあ仮屋なら小さいし、大丈夫じゃ」

「なにか言ったか保科」

「いえなんでもありません」

席について少しすると照明が落ちる。隣にいる仮屋の顔がぎりぎり見えるかどうかぐらいの暗さだ。しばらくして映画が始まり、仮屋は映画に見入っているようだ。入る前に買ったポップコーンに手を伸ばそうとすると、思わず仮屋の手に触れた。映画鑑賞の邪魔をしたかと思ったが、当の仮屋は気づいていない様子だ。それにしても、小さくて柔らかい手だな。練習のときに運指とか教えてもらうときに幾度も指の位置を直されたけれども、その時から小さな手だと思っていた。この手であれだけギターを弾けるようになるには相当の苦労があったことがうかがい知れる。

 

「ちょ……っ、保科――!」

小声で仮屋から促されて気づいた、もともとポップコーンを探すつもりが、気づいたら仮屋の手を触ったままになっていた。徐々に強まる酸味に、仮屋が相当恥ずかしがってたことが伝わってきた。

 

「あっ……ごめん」

さっと手を離してもとの目的に戻る。さっきから感じていた酸味は徐々に甘さを伴い、すぐに引いていった。今すぐ謝ろうかとも思ったけど、映画に集中しているところ悪いなと思い、オレも映画に集中することにした。

 

「いやぁ楽しかった!わざわざ付き合わせちゃってゴメンね」

「オレ一人じゃなかなか見ないからいいよ、それに結構楽しかったし」

「そっか、それならよかった」

そう話しながら、所在なさげに目線が合わない仮屋の様子を見て上映中のことを思い出した

 

「あっ……さっきは、ごめん」

「えっと、いや、その。アタシはいいんだけど……それよりもどうしたの?もしかして、ホントは退屈だった?」

「映画は全然退屈じゃないよ、さっきも言ったとおり楽しかった。それとは別に仮屋の手、小さいなって」

「まぁ…確かに。そりゃこの身長で手だけ大きくてもね」

「よくその手でギター弾けるなって、ちょっと感心してた」

「ふーん……褒め言葉は褒め言葉として、ありがたく受け取っておくよ。でも、映画見ながらそんな事考えてたんだ」

「あとは手が思ったより柔らかくて気持ちよかった」

「―――っ!」

仮屋の顔が一気に真っ赤になる。嘘偽りない本心を言ったつもりだったが、反応を見るにもう少し言葉を選んだほうが良かったかもしれない。

 

「へ、へぇー…アタシの手が柔らかい、ねぇ」

「別に嘘は言ってないけれども、なんかごめん」

「いや、いいよ。ただそう言われたのが初めてで…。ほらギターやってると指にマメとか作っちゃうから結構硬いところとかできて、いびつになっちゃうからさ」

そう言いながら手を差し出してくる。触ってみると確かに所々に硬いところがあって、普通の女の子の指といった様子とはちょっと違う。

 

「……そろそろ良いかな」

「あ、あぁ。ごめん」

それだけの練習を積み重ねていたことに改めて驚くと同時に、さっきから感じるその妙な酸っぱい味の意味を考えていた。自分から差し出してきたにもかかわらず、ずっとこの調子だ。

 

その日は映画を見終わってからファミレスでご飯を済ませ、家に帰った。週が明け、いつものように部活へと行く。ハロウィンパーティの成功もあってか、オカ研の存在も昔よりはるかに知名度が増した今、前以上の相談者が来るようになった。

 

「……はい、それならよかったです」

「オレ、ここで相談してよかったです、ホント助かりました」

「私達はただ助言しただけですよ、うまく行ったのはあなたの頑張りですから」

綾地さんはあれでもネコをかぶっている、との七緒さんの評価だが、こうやって見ていると全くそんな様子はない。まさに優等生、といった見た目で相談者の不安を解きほぐしていく。

 

「それじゃ、次のかたどうぞ」

「失礼します…ってあれ、確かお前は同じクラスの」

そう言いながら現れたのは、同じクラスの男子。名前がちょっと怪しいが、確かクラスにいることは覚えている。

 

「なるほど、そういうことですか……それじゃまずは占いでも試してみますか」

「お願いします。にしても、この部活って女子ばかりなんですね」

「確かに、言われてみればこの部活って女の子ばっかりですよね。ちょっと前までは戸隠センパイもいましたけど、今はめぐるに、寧々センパイ、紬センパイですし」

「ちょっとオレは」

「別に忘れてたわけじゃないですよ、逆に男の人がセンパイしかいないからわざわざ言わなくてもいいと思っちゃいました」

確かに、言われてみればこの部活はオレ以外全員女の子だ。もともと綾地さんとオレだけで動いていたことを考えると当然といえば当然かも知れないが、せめて海道ぐらいは引き込んでおくべきだったかと思いつつも、アイツが入ったらいろいろ混乱しそうな気も少しはしてしまう。

 

「へぇ……完全にハーレムじゃん」

相談者がぽろりとこぼした一言は、教室ぐらい大きければ拾われなかっただろうが、小さい部室では十分に響き渡った。途端に周囲から強烈な感情がオレに向けられる。

「な、な、何を言ってるんですか!」

「そうですよ、私なんて、こんな格好だからもはや女の子のくくりにも入らないかなって」

「そもそもこの部活は私と保科くんで人集めしてたんですから、そういうつもりじゃ」

「……」

気まずい。周囲から伝わるのは嫌な感情ではないものの、この酸味に似た感覚は相当恥ずかしさを隠しきれていないようだ。

 

「あっ、ごめんなさい、聞こえちゃってたか」

名前すら怪しいクラスメイトを軽く睨みつけつつも、悪意が無いことがわかっている以上どうしてもこれ以上責める気にもならない。それ以降は少しぎこちないながらも相談を終え、部活の時間が過ぎていった。

 

「お疲れ様でした、今日もたくさんの人が来ましたけど、皆さんの助言もあっていい感じに悩みの解決や、占い対応できてると思います」

「めぐるも早く寧々センパイみたいに占い出来るようになりたいなぁ…」

いつものように今日の振り返り、だが、空気がやはり重たい。完全にあの失言から周囲が変な意識をオレに向けてしまっている。本当に嫌な感情はゼロだが、胃が痛い。

 

「…それじゃ、オレはちょっと先に帰るね」

「お疲れ様です」

 

帰り道、今の部活を振り返ってみるとそのアンバランスな男女比が気になってくる。まあ、これ以上人が増やすのは綾地さんの代償の問題や、そもそも常時代償を払わせられている椎葉さんのことを考えると難しい。それに、今見ている感じだと、オレ抜きでも十分部活は回っているように見える。もしかして、オレは部活からちょっとずつフェードアウトしたほうが良いのではないか、と多少思いつついつもの道を多少ゆっくり歩いていく。

 

翌週、登校してクラスに入ると綾地さんと椎葉さんがいる。簡単に挨拶は返すも、先週のことがちょっと気になっているのは未だにそうらしい。目線や向けられるその感情がいちいち胸を締め付けるかのようだ。

「よっ、おはよう柊史」

「海道、おはよう」

「なんか浮かない顔してんな、どうしたんだ」

「ん、保科、目の下にクマもできてるよ……もしかして、昨晩はムラムラして寝られなかったとか?」

「そんなわけあるか!って女の子がそんなこと言うなよ」

「前も言ったけど、女の子だって性的な話ぐらいするさ。むしろ、そんなことを考えているのが男の子だけだなんて思い込み、アタシからしたらただの偏見でしかないよ」

「まあでも、柊史の顔色がすぐれないのは事実だから。どうした、昨晩は一晩おたのしみだったか?」

「別に、単にちょっと考え事してただけ」

いつもの二人に会い、さんざんいじられていると少しは気が楽になった。オカ研の人間関係について、この二人に相談するのも悪くはない、が基本的にはオレだけで解決すべき問題だろう。

 

「あっ、もしかして、オカ研がハーレムすぎてつらいってか?」

「――!?」

「うわっ、いきなりお茶吹き出さないでよ!もしかして図星?」

「ちがっ、ゲホッゴホッ、違う、違うんだけども」

「「だけども?」」

「そんなことをちょっと言われて、それからなんか他の人達から明らかに避けられつついる感じがあるんだよ」

結局なし崩し的に話してしまった。まさか海道が一発で当ててくるとは。

 

「ふーん、なるほどねぇ。柊史もオトコになったもんだ」

「まあ、確かにあれはハーレムだよねぇ。みんなかわいいし。おっぱい大きいし…ってそれは違うけど」

「なぁ、和奏ちゃん。もしかしてそれは触れるべきところ?」

「話には触れてもアタシには触れないでよこのヘンタイ」

「うっわ辛辣、流石に和奏ちゃんのまっ平らなものでも触らないぐらいのデリカシーはあるさ」

ドヤ顔で言い放つ海道。これはヘンタイの称号を免れ得ないわけだ。まあ、こうなると当然。

 

「制裁っ!」

「ありがとうございます!」

いつもの。しっかりと遠心力を活かし、放たれた回し蹴りは海道の大腿部をしっかり捉えた。

 

「全く……でも、確かにそれはちょっと問題だね。最近の保科変わったなって思ってたけど、オカルト研究会がなくなったら元通りになっちゃうかもしれないし」

「オレは普通に友達と思ってたんだけど、なかなかそう言われてしまうがあるとね」

「いてて……オレたちがこうやってバカしてても周りからなんにも言われないのとは何が違うんだろうな。もしかして、和奏ちゃんは女の子に見えないほど小さすぎるのか?」

「今度は腰椎狙って放ったろか」

「大変申し訳ございませんでした、って、まあオレたちが自然と受け入れられているんだから柊史もそのうち大丈夫と思うけどな」

「確かに、アタシたちがこうやって話してて変な目で見てくる人はいないし、それと何か違いあるのかな」

「うーん……」

仮屋、海道、そしてオレ。普段からよく話しているから自覚はなかったが、確かに男2人に女の子が1人って状況は、オカルト研究会の逆状態だ。それでも少なくとも、オレたちはお互いに気を使うことなく話している。周りからも、特段怪しまれるようなことがあるわけではない。それの違いは……

 

「そういやさ、保科ってだいたい名字呼びだよな?」

「確かに、保科が下の名前呼んでるところなんて見たことない」

「特に深い意味は無いけど…なんかまずい?」

「ダメ。距離感がただただ遠くなる。」

断言されてしまった。確かに海道は仮屋に対して和奏ちゃんと、久島先生に佳苗ちゃんと呼ぶぐらいだ。ある意味軽いとも言えるが、距離感は遥かに近いだろう。

 

「まずはそこからだな、お前、前ほどじゃないけど人と距離とりすぎなんだよ。オレだってたまにはお前から秀明って呼ばれたいぞ?」

「そ、そうなのか……秀明?」

「そう、それだよ!ああ良かった、オレが親友だと思ってた奴から一回も名前を呼ばれることなく高校卒業することにならなくて!」

「ひどい言い草だな……」

「オレ相手には名前で呼べたんだ、他の相手もほら」

「ううむ……和奏?」

「――っ!?」

一瞬心臓が爆発するんじゃないかってくらいの興奮と恥ずかしさが伝わってきた。その感情の主は仮屋からで間違いは無いだろう。もしかして、オレに呼ばれるのが嫌だったのか?

 

「ひゃ、はい?」

「……あのさ、どうして和奏ちゃんは顔真っ赤なの、柊史も」

「べ、べつに、なんでもないさ、わはは」

「ほら、和奏ちゃん完全にカタコトになってるよ?」

「オレは普通だろ?」

「顔は真っ赤だけどな……まぁ、柊史はもう少し人との距離を詰める努力をしようぜ。これだと解決する問題も全く解決しないぞ」

「そうだよ、アタシぐらい簡単に名前呼びできないとこれから苦労しちゃうぞ」

そういう仮屋から流れてくる感情はさっきから何かをごまかす嘘の味がする。ただ、何かを嫌がっているわけではないみたいだ。オレに名前で呼ばれたことが意外すぎた、とか、そういうことなのだろうか。

 

「こんにちは」

「こんにちは…ってあれ、保科くんですか」

「あれ、他の人達は?」

「今日はみんなちょっと用事があるみたいで、今日は部活も短縮営業で占いとかメインにしておこうかなって思います」

「ふーん……」

結局、無策で部活の時間を迎えてしまった。綾地さんはいつもどおりを装っているが、今はこの狭い部屋に二人きり。さっきから胃が痛いのはオレの緊張だけでなく、相手からの緊張も影響している。しかも今日に限って相談者が来る気配はない。

 

「そうだ、たまにはオレも占ってよ」

「えっ、保科くんを、ですか」

「うん、占いしてる綾地さんは普段から見ていても、占ってもらったことってあまりないなって思って」

「そうですか、とりあえずタロットでやってみましょう」

慣れた手付きでカードを繰る。占いに集中しているからか、その緊張は徐々にほぐれ、気づいたらさっきから強く感じていた胃の痛みも消えていった。

 

「……はい、審判の正位置ですか。意味は復活、改善、発展。保科くんの悩みが何かはともかくとして、これから良くなっていくことだと思いますよ」

「ありがとう、ちょっと気が楽になったよ。そう言えば、結局この部活で占いができるのって綾地さんだけだよね」

「確かに……言われてみれば。因幡さんも最近頑張っていろいろ試しているみたいですけど、中々覚えることも多くて苦労しているみたいです」

「オレもやっぱり覚えたほうが良いのかな、もともと綾地さんだけの部活に、なんにもできないオレが入って、今では人が更に増えて……」

そう言いながら入ったきっかけを思い出す。自然と顔が赤くなってしまったのを見咎められ

 

「…その心がけはいいんですけど、一体何を思い出したんですか?」

「怖い怖い、目が笑ってない」

「もうやだぁ…お家帰るぅ…」

「ごめんごめん、ともかく、今のままだと綾地さんがいないと部活がまともに成り立たないわけだし、いなくても多少のことはできるようになったほうが良いと思うから」

「それもそうですね、保科くんに合いそうな占いといえば…」

その日は来客0だったが、その分綾地さんと話をしながらゆっくりと時間を過ごすことができた。少しでもオカ研の力になれるよう、自分にできることを探していくうちに綾地さんから感じていた緊張もとれ、かつて他の部員がいなかったときのような時間が過ぎていった。

 

その日、部活を終えた後の帰り道、近所のカードショップに設置されたゲームコーナーへと足を運ぶ。確かここにいつも……

「よっ」

「ん、ってあれ、保科センパイじゃないですか、一体なんでこんなところに」

「部活の帰りに通りかかったら見えたから、今日来なかったけどどうしたの?」

「ええと、ちょっと病院に。めぐる、家ではメガネなんですけどそっちの度が合わなくて」

「毎日ゲームやりすぎで視力落としたのか?」

「失礼な!ゲームは明るいところできちんと画面から距離をとって...って、別にセンパイから説教されたくてここにいるわけじゃないんですけど!」

「ココのゲームコーナー、噂によるとローカル部屋にめちゃくちゃうまい人が居るって聞いたんですよ。ぜひとも一度お手合わせ願いたいなって」

「ついでだしオレも一緒していいかな」

「センパイが良いなら、とりあえず、それっぽい人が来るまで素材集めでもしてますか」

最初こそ微妙に緊張があったものの、ゲームの話をはじるとそれは吹き飛んだ。そしてお互いがゲーム機を開き、プレーを始める。もとからゲームが上手い因幡さんはあっさりと効率よくステージを進めていく。オレはというと……

 

「あーっ!また落ちちゃった、ここさっきも奇襲されてダウンしてませんでした?」

「えっ、マジで?」

「マジもマジ、大マジです。はぁ…センパイがココ選んだ時点でめぐるが止めるべきでしたね。推奨レベル75以上の周回マップですし」

「…あれ?オレのレベルは?」

「センパイのは……82ですか」

「……やっぱオレ向いてないのかな」

「あっ、ちょっと、ごめんなさい言い過ぎました、まあここさえ安定すれば本当にラクに高級アイテム手に入るのでもう一回行きませんか?」

本心のところそこまで落ち込んでいるわけではないものの、後輩の女子にゲームが下手とこき下ろされる先輩というのはちょっと悲しいものがある。とはいえ、その後は結局因幡さんにおんぶに抱っこでヒイヒイ言いながらプレーして、目当てのアイテムもたくさん手に入った。

 

「来ないみたいですね……流石に時間も遅くなっちゃいますし、帰りますか」

「うん、もう周りも真っ暗だし。今日のところは一旦帰ろうか」

そう言って店を出て、因幡さんと帰る。道中は結局来なかった、噂の名人にまつわるよもやま話で大盛り上がりだった。

 

「…それでついた異名が『百獣組手のジョー』って…非公式ながらタイムアタック最速記録持ちなんて話もあるんですよ」

「それなのにあのゲームスペースに現れるって……逆にあのお店はなにかあるの?」

「ウワサだと、あのお店の店長さんを弟子にとっているから指導のついでに来てるとかなんとか」

自分の好きなことを生き生きと語る因幡さんは本当に楽しそうだ。オレにはこれといって趣味らしい趣味もなかったけれども、本当にハマったらこのぐらい楽しく話せるのだろうか。

 

「あっ、そうだ、センパイ。明日部活の時に、寧々先輩入れて3人で配信ステージ行きません?めぐるもまだ攻略前で、初回はぜひみんなで行きたいんですよ」

「配信って言うと……昨日追加の?」

「それです、多分寧々センパイぐらいのレベルでも十分いける難易度なんで明日ぜひ」

「わかった、それじゃまた明日」

「じゃあね」

 

翌朝、いつものように登校していると、見覚えのある、背丈の低い学ラン姿の少女がそこにいた。だが、ちょっと様子がおかしい。

「おはよう椎葉さん、どうしたの?」

「あっ、保科くん」

見るとその先には他校の制服を着た男子学生がいた。そして、そこからピリピリとした悪意も感じる。これは絡まれてしまったのだろうか。

 

「おい、ちょっと」

「ん、なんだよテメエは、そこのチビのツレか?」

「そういうお前たちは一体何なんだ」

「ただのクラスメイトだ」

「ふーん、こっちはそっちの男に用があるんだ、お前はさっさと失せろ」

ちょっと待て、今こいつ男って言ったよな、いくら服装がこれだからって椎葉さんが男に見えてるのか…?

 

「だから、男の子じゃないって!」

いや、そこは今否定する必要がある内容ではない。とはいえ、さっきからさんざん言われてたのだろうか、椎葉さんの苛立ちが先に限界に達しそうだ。

 

「ちょっと待った、一体何があったかはわからないんだけど、少なくともこの子は男じゃなくてれっきとした女子生徒だ」

「は?なにそれ、からかってんのか」

「逆にこのシチュエーションでオレがウソを付く必要があると思うか?」

「って、よく見たらこいつおっぱいでけぇな、そりゃ男なわけねぇわ」

「ふえっ!?」

さっきまで張り詰めていた空気が一気に切れる。そこのヤンキーもさっきまでは明らかな敵対心をむき出しにしていたが、今はむしろ笑いを必死に堪えているかのような、奇妙な感情が伝わってくる。

 

「あーもうアホくせぇ。姫松にこんなカッコしたヤベェ奴がいると聞いて、こいつかと思ったら人違いみたいだ、テメエら勝手にしろ」

捨て台詞を吐いて、そいつはオレたちとは逆方向に歩き出した。なるほど、喧嘩売りに行ったら人違いだった上に、その子は女子という事実でいろいろどうでも良くなったってことか。

 

「ふぅ……なんとかなった…」

「ほ、保科くん、ありがとう。いきなり絡まれて、私じゃ追い返せなくて」

「それは大丈夫……にしても、椎葉さんが男の子に見える人なんているのか」

「それは私に言わないでよ!」

「だってこんなにおっぱいも大きいし」

「もう……なんでそこなのよ!」

「ほら、最近は可愛い顔した女の子みたいな男もいるし、男のむすめって書いて男の娘なんて」

「だからって私をそれと一緒にしないでよ!?」

「って、もう学校始まっちゃう、急ごう」

「ってあっ、ちょっと保科くん!」

 

その日の部活は、朝の珍事の件で持ちきりだった。いつもの部活の光景、何ら変わりのない状態。良かった、先週感じた緊張はもう完全にほぐれたみたいだ。それにしても、距離感か。確かにオカ研の中ですらまだ一線を引いていたところがあったのかもしれない。この2日で皆と一人ひとり話す時間がとれてよかった。

 

部活を終え、今日はちょっと寄り道。参考書や文具を用意しようと駅の方に行くと何やら視線を感じる。振り返ると、そこには私服姿の仮屋がいた。

「あっ保科」

「あれ、仮屋どうしたの」

「ちょっと買い物。保科こそどうしたの、学校帰りにわざわざこっち来るなんて」

「オレも買い物」

「ふーん、それで、こんな時間まで制服ってことはさっきまで部活?」

「ちょっと思ったより長引いちゃって」

「その様子だと、この前相談してきたことは解決したみたいで良かった」

やはり多少の心配はかけていたらしい。まあ、朝の様子ですでにその空気が解消されつついることには気づいていたと思う。

 

「そういやそれで思い出したけど、結局アタシのことも海道のことも名字呼びなのね」

「うーん、なんか馴染めなくて」

「まっ、アタシも突然保科から名前で呼ばれたらびっくりするかもね」

「そうか……和奏?」

「だ、だからっていますぐ呼ぶもの!?」

顔を真っ赤にしてちょっと怒りを見せる。伝わる感情は相当激しく、でも拒絶に近い感情はあまりなさそうだ。ただただ驚きの感情や甘酸っぱさが伝わってくる。

 

「そんなに驚かなくていいだろ」

「いや、普通驚くって。あの保科が人を下の名前で呼ぶなんて」

一体どんな人だと思われているのか、それだけは疑問をはさみたい。読んだ直後は感じたあの苦しいまでの感情は徐々に消え、穏やかながらもちょっと喜びに近いものが見え隠れしている。

 

「そんなことより、和奏は一体何買いに来たの?」

「って、まだそれ継続するの!?」

「いや、だってそんな嫌そうじゃないし。提案してきたのはそっちじゃん」

「だけど、だからって…!」

「そうか、嫌ならやめようか」

「いいや、保科がちょっとは社交的になるならそのままで」

「まるでオレをコミュ障かなにかの様に言うなよ」

まあ……確かにコミュ障というか、人と一線を引くような生き方をしてきた。それがこういう友達に恵まれて、ちょっとでも変われるならと思えるようになったのは一つの収穫だ。少なくとも、今のこういう時間はかつてなら想像すらできなかっただろう。

 

「それで、和奏は何を買うの」

「ギターの弦とストラップ。ちょっとおしゃれなのも欲しいしね。しゅ、柊史は?」

「文具と、あとはこの前出た家電をちょっと見繕うつもり」

「アタシのほうはもうだいたい終わったし、ちょっとついて行ってもいい?」

「いいよ、特に面白いこともないとは思うけど」

言い終わってから、和奏からやたらと強い恥ずかしさの感情が伝わってくる。何かこの会話の間に恥ずかしいことはあったか?確かになにかに違和感を覚えた気がしたが……そうだ、和奏がオレのことを柊史と呼ぶことなんて今まで一度もなかった。そうか、自分が呼んだことないのに、オレに勧めてたってことに気づいて恥ずかしくなってるということか。

 

「な、なあ和奏」

「ん、どうした?」

「さっき、オレのことを柊史って呼んだよな?」

「そ、そうかなぁ。アタシ覚えてないや」

薬っぽい味はウソの味。確証を得たオレはもう少し意地悪がしてみたくなった。

 

「そっか、和奏はオレのこと下の名前で呼んでくれないぐらいの仲だと思ってたんだ」

「――って!?なんでそうなるのさ!」

「だって、下の名前で呼ばれたとき、和奏はびっくりした感じだったし、何より呼んでくれないし」

「それは――ッ!わかったよ、さっきは試しに柊史って呼んでみたよ。だってアタシが呼んでみたらって言ったくせに呼んでないのも変…かなって」

そういう和奏からは恥ずかしさは伝わってくるものの、本気で嫌がっている様子はない。むしろこういう状況を少し楽しんでいる様子すらある。オレもこの能力でわかってないとこんないじり方はできないだろうが。

 

「まあ、どっちでもいいよ。呼びやすい方で」

「いいや、わかった、それじゃこれから柊史って呼ぶよ」

ちょっと意固地になってる様子だが、和奏がオレの名前を呼ぶ度ちょっとだけ甘い味がしたのは気のせいだろうか。

 

 

予定していた家電量販店を見に行き、目当てのものをその場で購入。と行きたいところだが、あいにく手持ちがないので今日は帰るつもりだ。

「すまないね、買い物に来たのに結局家電ばっかり見ていて」

「いや、いいよ。ただ、なんか店員さんに変なこと言われたのだけはムカツク」

「あはは……」

高校生二人、しかも男女が家電を見て、その男が興味津々といった様子で試してみている図は店員にはそうとう奇妙に映ったらしい。だからといって、お二人で住まれているんですか、って質問はあまりに無茶苦茶だと言わざるを得ない。ましてや見るからに同じ高校の制服というのに。

 

「お二人で住んでいる、って。アタシが妹かなにかに見えたってこと!?」

「身長は確かに低いけど、まさか......」

「そりゃ、身長も低いし、おっぱいも小さいし…って、なんでこんな惨めなことをじぶんでいわなきゃならないわけ?」

思い出してはあの店員に対する怒りがふつふつと湧いていく和奏を見つつ、ふと母さんが存命だった頃の親父はどうだったんだろうと考えてしまう。家にあるものは、もちろんある程度買い替えて変わってるものもあるけれど、俺が物心ついた頃からずっとあるものもある。親父はそこまでこういうのに詳しくないだろうから、選んだのは母さんだと思うけれど。

 

「ねぇ柊史?どうしたの?」

「ん、いやなんでもない」

考え込んでしまい、気づいたら無言で立ち止まってしまっていた。

 

「ふーん…それにしても、確かに普通こんな感じで家電見てたら、新居に引っ越すか何かと思われるかもね。柊史が制服じゃなきゃ」

「確かに、普通はそうでもないと見には来ないか」

「となるとアタシはさしずめ…――ッ!」

急に和奏の顔が真っ赤になる。そして恥ずかしさまで一気に伝わってくる。何を考えていたのか、ちょっと考えてから、つまりは和奏がオレの彼女に見られていた可能性を考えていたことに気づく。

 

「な、なぁおい和奏」

「は、は、あはは。なんでもない、なんでもない。もしかして店員さん、アタシが柊史の彼女って思ってたのかなってちょっと思っただけ。ぜんぜん違うのにね」

そう言いつつ必死で取り繕う和奏の顔はますます赤みを帯びて、伝わる感情の強さも更に激しくなる。嫌がっている様子こそないが、確かにそう思われていたとしたら相当恥ずかしいのは理解ができる。

 

「ま、まあ。仮にそう思われてても不都合はあんまりない、かなって」

「そ、そうだよね。問題があるわけ、じゃないもんね」

そう言いつつ、微妙に気まずさを引きずったまま駅まで向かっていく。途中、ちょっとした会話をかわそうと何度も試みるも、やはりお互いのバツの悪さからなかなか会話にならない。

 

「それじゃ、また明日」

「じゃあね」

最後は何事もなかったかのように挨拶をして別れる。家につこうかという頃に、携帯に和奏から連絡が入っていた。

 

「ごめん、明日ライブハウスとってたつもりがダブルブッキングでキャンセルって言われちゃった…海道はもとから来れないってことだったけど、保科はどうする?明日はナシにしようか」

流石にテキストだとまだ保科呼びだった。それはともかく、ライブハウスが使えないなら…そういえば明日は親父が飲み会で日付が変わるくらいまでは帰ってこないなんて話してたな。

 

「明日、親父が飲み会でいないからウチで練習できるけど、それじゃダメかな」

「アンプ繋がないでできる練習ならそれでもいいかな、それじゃ明日は保科の家に行くよ」

メッセージを送るとすぐに返ってくる。コレで決まりだな。

 

 

翌日、放課後。今日は部活を休み、家で練習に専念する。

「もう、ここ、また失敗してる。この前教えた基本の動きだよ?」

「うっ…ごめんなさい」

「まったく…前に比べたら柊史もうまくなったけど、まだまだ練習は必要そうね」

この日は和奏による熱血指導が繰り広げられる事になった。細かい指の動きから、リズムのズレまで、その指摘は多岐にわたった。

 

「ただいま」

「おかえ……って親父!?」

場が一瞬凍る。何らいかがわしいことをしていたつもりはないが、まさか親父が帰ってくるとは思っていなかった。

 

「おや、誰か来てるのか?」

玄関の靴が一足多いことに気づいたらしい。まあ、いかがわしいことをしているわけじゃないなら事情を説明したほうが早そうだ。

 

「そうそう、楽器の練習で今見てもらってる」

「こんにちは、柊史くんのクラスメイトの仮屋です」

「こんにちは、ってええと、柊史、いくら払った?」

「今クラスメイトって聞いたよな?」

「えっと、仮屋さん。柊史から友達料、いくらもらってる」

「そうですね……だいたいこのぐらい」

そう言いつつ和奏が手のひらの上に数字の2を書き込む。

 

「父さんからの小遣いを使ってまで友達を…柊史、もうちょっとこれからは増やしておくからな」

「だから息子をそんなかわいそうな扱いするな!」

「あはは、柊史って家じゃこんなキャラなんだ」

「まあ、冗談はさておいて。楽器の練習ってことはこの前のバンド一緒にやってた子かな」

「その節はどうも、柊史くん結構頑張ってましたよ」

自然と親父と会話をする仮屋、何者だ本当にと思いつつも、二人の会話はどんどん盛り上がっていく。そして、戸棚においてある母親の写真に話は移り…

 

「あぁ、その写真は」

「柊史くんのお母さん、ですよね。実は昔、小学校でも一時期柊史くんのクラスメイトだったときに聞いたことがあって」

「そうか、それなら話は早い。ウチはそれ以降ずっとオレ一人でこいつを育ててるから、たまに悪いなって思うときはあるんだけどもね」

親父のそういう言葉を聞くのは実のところ初めてだった。もしかしたら、家に連れ込めるほど仲の良いクラスメイトがいたことにちょっと浮ついているのかもしれない。

 

「ま、暗い話は抜きにして。お母さんはすごかったぞ。本当父さんの考えてることをすべてわかってるかのように、とっても気が利く人だった」

「……」

「一度、父さんは聞いたんだ。どうしてオレと結婚してくれたんだって。そしたら、嘘偽りなくて裏表なく愛してくれたからって。なんかコレだと自慢っぽいな、ハハハ」

親父の母親自慢はよく聞くところだったが、この話も初めてだ。そうか、親父からだったのか…。

 

「その時思ったよ、オレは自分に素直に生きてきて、その結果としてこういう結果をつかめたんだなって。やっぱりストレートな言葉は大事だな!」

「親父、それ初めて聞くし、何より親の馴れ初めとか聞いてるこっちが恥ずかしい」

「おっと、そういや柊史にも話したことなかったな」

「…」

さっきから黙って聞いている和奏から、どうにも複雑な感情が伝わってくる。甘酸っぱさや微妙な苦味、決して嫌な感情を抱いているわけではないのはわかるが、この感情の原因は一体なんなのか。

 

「あっ、そうだ。アタシそろそろ帰らなきゃ」

おもむろに、和奏が帰り支度を始める。時間を見るとまだ時間はちょっと早い。今日の練習はもう少しやる予定だったはずだが。

 

「って、あれ、ちょっと早くない?」

「ううん、流石にお父さん帰ってきたのに私が残るのは悪いし。晩御飯とかそろそろ支度しなきゃでしょ」

確かに、それは事実だった。だが、さっきから感じている微妙な感情がずっとオレの中で尾を引いている。

 

「それじゃ、お邪魔しました」

そう言い和奏は帰っていった。玄関のドアが閉まると親父が話しかけて来る。

 

「なあ、柊史。あの子と付き合ってたりしないのか?」

「いや、仮屋とはバンドする仲ではあるけれども」

「そうか……なら、せめて送っていってやったらどうだ、クラスメイトだろ?しかもこの時期の外はもう真っ暗だし、女の子一人で帰るにはちょっと怖いと思うぞ。ほら、行った行った」

「って、おい、わかった、わかったから」

半ば追い出されるかのように和奏を送ることになってしまった。さっきの親父からの質問、あのとき感じた感情は、心の底から誰かを心配するときのそれだった。まあ、確かに暗い夜道を女の子一人で返すのが気になる、というのはわからなくもないが。

 

「おーい、和奏」

「って、あれ、柊史。どうして」

「送って行けって、親父から」

「そ、そうなのね。ちょっと、そこのコンビニ寄っていいかな」

そう言い、コンビニに寄っていく。暖かいものを買い、並んで歩きながら飲む。少し無言の空間が広がって、どちらかが話を切り出そうと間合いを測るような時間が続く。気づけばあたりはわずかに白いものが降り積もり、オレたちの足跡がちょっと残る様になっていた。

 

「ねぇ、柊史」

「どうした?」

「昔、一緒のクラスだったことがあるって話したよね、ちょっとあのときのことを思い出してたんだ」

「……」

「思えば、あの時からそうだったのかなって」

何を言いたいのか、身構えていたオレは引き寄せられ、姿勢を崩したとき、唇に突然柔らかいものが押し当てられる。そして、間を置かずに一気に強い感情が流れ込んで来る。まさか、これって。

 

「ずっとごまかしてたんだ、ホントは。初恋の相手と再会して、バンドの練習までしてたら抑えきれなくなっちゃって……」

「……」

「この前だって、店員さんに彼女に間違えられたときにちょっとだけ嬉しく思ってしまって……なんか恥ずかしいなって思いながらも、がまんできなくて」

「和奏...!」

そう言いつつ、強引に唇を奪ってきた女の子の体を抱きしめる。そして、改めて今度はこっちからキスをする。まさか、と目を見開く和奏からは驚きと喜びがないまぜになって、鋭くオレの脳天を貫いた。

 

「うひひ…こんな強引な方法だったけど、柊史に嫌われなくてよかった…」

「嫌うわけないだろ、オレだって。嫌いだったらここまで一緒にバンドだってしなかったよ」

抱きとめて和奏の体温を感じる。そうやってお互いの思いを確認した後は、また何事もなかったかの様にまた歩き始める。自分の気持に素直、か。確かに今まではそんなことを考えもしなかったけれども、今は少なくとも、この幸せを噛み締めたい。

 


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