弟と一緒に地球という人外魔境に送られた下級戦士だけど何か質問ある? 作:へたペン
ヤムチャを待っている間、外でクリリンと軽い組手をしている最中だった。
遠くで感じていたカカロットの気配が突然消えた。
何かの間違いだとスカウターで調べようとしたが壊れてしまってもうない。
もっと意識を集中してカカロットの戦闘力を探すと、カカロットよりも高い戦闘力を持つ気配がカカロットの気配が消えた位置から遠ざかっていくのを感じ取る事が出来た。
つまり、そう言う事だろう。
「キャロットさん、顔色悪いですけど大丈夫ですか!?」
クリリンが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
カカロットが何者かに殺された。
なぜ私はカカロットなら一人でも大丈夫だと楽観視してしまったんだ。
私はカカロットを殺した相手と、カカロットを追い掛けなかった自分自身が許せない。
怒りに拳を握りしめ、歯を食いしばり、背中にぞわりとした何かが芽生え、頭に血が上るのを感じる。
「絶対に許さない。あいつだけは絶対に」
カカロットを殺した奴の戦闘力の位置がはっきりとわかる。
なぜわかるかなんてこの際どうでもいい。
時間が掛かっても構わない。
私は宙を浮き、真っ直ぐ目標に向かって飛んでいく。
前よりもずっと速度が出る。
流石に筋斗雲には遠く及ばないが、今現在移動していた目標はその動きを止めている。
これならカカロットを殺した奴に追いつけそうだ。
気配を追って街に辿り着くと、丁度何かの店から目標が出て来るのが確認できたので目の前に着地する。
「ほう、武空術か。鶴仙人の新たな弟子か? ずいぶんと気が立っているなお嬢さん」
「カカロットをどうした」
「はて? カカロット?」
「孫悟空の事だ!! 貴様カカロットに何をした!?」
「ああ、あの小僧のことか。仕事で殺したよ。少々苦戦して見ての通り服をダメにしてしまった」
おかげでダサイ服を着る事になったとどうでもいい情報を吐く男に拳を振り抜くが片手で止められる。
「街から出ろ。ぶっ殺してやる!!」
「世界一の殺し屋、桃白白を殺すだと? 礼儀を知らんお嬢さんだ」
桃白白と名乗る男は街から出る気はないようだ。
だが攻撃的な私に対して殺気立っている。
襲う場所を間違えたかと一瞬後悔するが、悩むのはこいつを殺した後だ。
桃白白の戦闘力はおそらく私よりも高い。
それでもカカロットを殺したこの男を前に逃げ出すなんて選択肢は私にはない。
桃白白が強烈な蹴りを放ち、私はそれを力の入れられた方向へと受け流して蹴り返す。
しかし桃白白は体勢を崩された状態からすぐさま一回転して体勢を立て直し蹴りを腕で受け止める。
このまま足をつかまれたら不味い。
慌てて足を引いていったん距離を離す事にした。
「貴様、鶴仙流ではないな。それほどの実力……どこの者だ?」
「カカロットの姉で、貴様を殺す者だ」
「復讐か。こんな形でなければ鶴仙人に紹介してやれるいい目をしていたのだがな」
桃白白が人差し指を私に向ける。
何か来るが射線がわかっていれば避けようはある。
そう思ったのに、いつの間にか人だかりが出来ていて私の後ろにはギャラリーが居た。
何も知らない無関係な人間。
無視して避けてしまえば楽なのに、復讐だけを考えればいい筈なのに、私にはそれが出来なかった。
「どどん!!」
桃白白の指先から放たれる閃光を私は両手を前に出して掌で受け止める。
吹き飛ばされないよう何とか両足を踏ん張り、ギャラリー手前まで押し込まれてしまったが何とか周りを巻き込まずに済んだ。
ようやくここでギャラリー達は自分達の身の危機を感じて逃げていってくれる。
両手が焼かれて熱い。
しばらくは使い物にならないかと苦笑してしまうが、すぐに痛みが引いて行くのがわかった。
代わりに襲ってくるのは突然の疲労感。
両手を見てみると火傷一つない綺麗な手がそこにあった。
一瞬自分の身に何が起こったのかがわからなかったが、すぐに私は思い出せた。
確か私は神龍に『戦闘力の向上はそのまま、このくらいの傷ならすぐに完治する体にしろ』と願った。
そして神龍『不老の定義をそこまで下げるのであれば力の増加は問題なく行える。不死ではないが願いはそれでいいか?』と答えたのだ。
神龍があまりに願いの叶える幅が狭くてその場の傷が治ればいいと流れるように願いを言い続けたが、どうやらそれで私は『死ななければ傷が治る体』になったらしい。
今思えば自爆や時限爆弾の時もすぐに怪我自体は治っていたのかもしれない。
目の前で重症だった体が治っていく姿を見たのだ。
ブルーが私の事を化け物扱いする訳である。
だが一見最高の願いを叶えたように思えるが、体感的にこの体は欠点も持っている。
傷の回復に体力を一気に消耗するのだ。
スカウターがあるなら私の戦闘力が体力の低下でガクリと下がったところを捉えていただろう。
致命傷を受けた時はありがたいが、放っておいてもいい怪我まで治して無駄に体力を持っていかれるのは戦闘において致命的だ。
治るからといって攻撃を受け続けたら疲れ果てて動けなくなるか、爆弾の時のように気絶してしまうだろう。
「馬鹿な……まさか、私のどどん波が……」
戦闘力を指先に集めて放出するとっておきの技だったのか、桃白白がうろたえている。
傷を負う度に疲労するのでは迂闊に攻撃を防御するのも不味いかもしれない。
たたみかけるなら相手が動揺している今しかない。
エネルギー波を身にまとい突撃すると桃白白は慌てて迎撃態勢を取る。
桃白白の膝蹴りを両腕で受け止めながらそのまま体当たりし、被害が出ないよう宙へと跳ね飛ばす。
長期戦は勝ち目がない。
この追撃に全てを懸ける。
追撃で空を飛び追い掛け、拳を振り抜くが膝で防御されてしまう。
桃白白の蹴りがすぐさま来るが、空中戦は苦手なのか蹴りに勢いがない。
行ける。
私は身を僅かに傾けギリギリのところでそれを躱し、戦闘力を一点集中させた拳を相手の顎に振り上げる。
カウンターで放ったアッパーは顎に入り桃白白の体がよろめいた。
続けて殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。
拳によるラッシュをたたみかけて高度はさらに増していく。
「調子に、のるな!!」
桃白白の強引な回し蹴りが私の頬に当たるが、無理な体勢からの攻撃は威力が少ない。
まともに地上戦をしていたら今の蹴りで体力を一気に持っていかれただろう。
「地獄に落ちろクソ野郎!!」
頬に感じる痛みも、口の中に広がる血の味も、僅かに消費される体力も無視して顔面を殴り返す。
そのままスピリッツキャノンを放ち桃白白を街から少し離れた平地に叩きつけた。
この高さから落ちて生きているとは思えないが死体を確認しに地上へ降りる。
「すまん……私が悪かった……許してくれ……」
虫の息だがどうやらまだ生きているようだ。
薄汚れた鞄からカカロットが持っていたドラゴンボール3つが転がり落ちる。
それはカカロットを殺した証のようなものだった。
「殺し屋とか言ったな。貴様はそうやって命乞いをした奴を見逃してやった事はあるのか?」
「……許してくれ……もう二度と……悪い事はしない……」
こいつはカカロットを殺した。
許せる訳がない。
許していい訳がない。
なのにいざトドメを刺そうとすると躊躇ってしまう自分が居て、そんな自分が許せない。
振り下ろした拳は空を切り、桃白白の横顔を掠めて地面に突き刺さる。
悔しくて、悲しくて、切なくて、苦しくて、涙が溢れ出す。
私は結局、復讐すらまともにできない、なりそこないだった。
半端な気の察知が桃白白を襲う。
キャロットの回復はピッコロやセルのように気を消費しての回復となります。
悟空がどうなったかは次かその次の話辺りで判明する事でしょう。