並列して接続される無数の意識。全てが自分で、けれど私以外私じゃないという奇怪極まる感覚。正気じゃない情報処理能力が濁流のようになって溢れ、私という意識を拡散させようとしてくる。
占錬回帰カドケウスを構成する根幹術式の推定を開始──完了
だけど、今の私は無敵だ。ほんの少し前までなら兎も角、そんな程度でどうにかなる程今の私は弱くない。
「次元神魔法を10種連結し並列行使する特殊魔法陣と分析終了。脳内術式との照らし合わせ終了。該当術式発見。連結再現」
魔剣製作開始──完了
試運転開始──完了
構成術式に不備なし、術式規模を除き再現は完了した。
術式規模の縮小提案──完了
しかし術式サイズを1/100にまで縮小可能と概算。
制御術式作成──完了
外殻生成開始──完了
「お義母さんとの情報共有完了、差異はなしと判断」
試作型魔剣として成立──完了
加速に加速を重ねて、人の生きる時間軸に戻って来られる限界まで意識を加速させて、全てのジャックした分身体が駆動する。現在進行形で増殖している10数万の機体の内、数秒おきに500と少しがオーバーヒートで爆発している。
だけど、そんなこと問題にもならない。こんな程度の苦労しかしてない私より、実際に身体を張って時間を稼いでくれているアインの方がよっぽど辛いのだから。
「シィッ!」
「
意識の方向を変えた先、世界に轟く剣戟音。硬質な物体が砕ける音。そして世界自体が悲鳴を上げているような、魂削る奇妙な異音。そこでは私が目で追えない速度で振るわれる巨剣と、オーロラのような魔術による、異形の剣戟が行われていた。
一呼吸のうちに最低でも10は墜星の斬撃が繰り出される。しかもこれまでの戦闘は手を抜いていたとでも言うつもりなのか、その斬撃全てに絶対切断の理が宿っていた。
無論当たれば、幾ら魔剣使いや聖剣の加護を得ていても即死は免れない致命の一撃。そんな無数の剣閃に、アインは常時展開している7〜8重のオーロラのような揺らめきで対応していた。
「俺の使命、果たさせてもらう!」
「通さぬと言った!」
オーロラは数度斬撃と接触すれば砕けてしまうけれど、砕けた瞬間に鋭い破片となって墜星に放たれる。どんな傷も再生されるせいで、当然のように分は悪い。でも防御と妨害、足止めとしては最高の働きをしてくれていた。
「なるほど、やはり貴様のそれは完全転身か。何故、純血種の獣人ではない貴様が使える?」
「敵に教える奴はいないと否定する!」
当然のようにアインの状態を見抜いた墜星に、誰がそんなものを教えるかとアインが吼える。時間稼ぎの札としては悪くないけれど、今切る手札ではない。
「属性は次元か。ならば大方、泡影辺りと共鳴したのだろうが……まあいいだろう。殺せば何も変わらん。その力に身体も技術も、まるで追いついていない」
「肯定する。確かに当方のこの力は、何の代価もなくポンと手に入れた物だ。だがそんなこと、何も関係ないと否定する」
「何だと?」
鋭く勢いを増した斬撃を聖剣も使って捌きながら、アインは墜星の言葉に首を横に振る。
「何せ今の当方は、大切な
そして何処か満足気な、不敵な笑顔を浮かべ、片手を唇をなぞるようにして言った。その、あんまりそう、さっきのことをひけらかすのは困る。流石に恥ずかしい。
「今の当方は、無敵だ」
「ほざけ!」
けれどその分、今のアインは一段と信頼できた。
現にほら、加速していく墜星の斬撃に一切遅れることなく墜星と斬り結ぶ事が出来ている。どうだ、私のアインは凄いだろう? なんて、そこまで傲慢にはなれないけど。これなら全部を任せられる。
「1番から200番にまで、占錬回帰カドケウスのレプリカを配備完了」
だからこそ、完璧だと感じてはいけない。
これで十分だと思ってはいけない。
たかだか試作型魔剣のレプリカを数百本配備しただけで? 墜星を足止めして? アインと私が助かり? 過去に跳ぶことが出来る?
バカを言っちゃいけない。この程度のことで、自分の限界すら超えないで、万事が万事上手くいくなんて、
「魔剣改造開始」
まず第1の問題として、再生産して理解したカドケウスの能力は、担い手1人だけを過去に飛ばすもの。つまり、私がアインか、どちらか片方しか過去には跳べない。二本以上あったとして、同じ時間軸に跳べるかも分からない。だからダメだ。そんなもの欠陥でしかない。まずはそこから改変する。
「基幹術式、改変!」
基幹術式のアレンジ、改変を開始──完了
エラーが発生
能力が崩壊しました
──エラーに対処完了
「能力対象を2人に拡大」
エラーが発生
能力が崩壊しました
──エラーに対処完了
「時間軸指定能力を強化」
エラーが発生
能力が崩壊しました
──エラーに対処完了
「要求エネルギー問題を解決」
エラーが発生
能力が崩壊しました
──エラーに対処完了
「安定性を再設定」
軽度のエラーが発生
能力は著しく不安定な状態と判断
──改善開始
「全定義を再設定。魔剣の構成素材、配置の見直しを開始」
暴走する濁流のような考えをまとめる為に、1つ1つ口にしながら秒単位で魔剣カドケウスを変質させていく。試作型魔剣のプロトタイプ、そんな未完成の魔剣であるというのなら、今ここで私が完成させる。
変更、解析、昇華、実行、検討、改善。超速で開発のサイクルを回し、技術と成果を更新していく。これでも私は、この世界の中では一番魔剣に詳しいと自負している。『もし自分が複数人いたら』そんな理想を叶えるこの状況で、技術革新の1つや2つやれない筈がない。
「っ、でも、やっぱり間に合わない……!」
時間さえあれば、何処までも駆け抜けて行けそうな全能感の中。決して看過できない光景が目に移った。
「ふむ、大凡見切ったぞ」
「ぐッ!」
遂にオーロラの守りも聖剣による防御も突破して、墜星の剣がアインを斬り裂いていた。防御帯の虚を突くよううに突き込まれた巨剣が、アインの左脇を貫いた。
相当に減速している巨剣では、いかな墜星と言えども魔剣を貫けなかったのだろう。肺と一緒に魔剣シルフィードに挿げ替えられている肋骨は、その鉄塊のような巨剣を弾く。しかしその先にあるのは、完全に生身である右腕。結果、当然のように右腕は刎ね飛ばされた。
「ッ──! 製造開始!」
思わず叫びそうになるのを堪え、最低限の完成で切り上げた魔剣の製造に取り掛かる。片腕になった以上、アインが耐えられる時間はもう僅か。それまでに、どうしても完成させなければいけない。
「無敵と言っていたが、もう終わりか?」
「まだ、だぁ!」
変形機能は排除した。どうせ今回1度きりの使い捨てだ、今はロマンなんて必要ない。
自己強化のシステムも排除した。能力を一度使えれば良いのだから、強化なんて必要ない。
ただ、どうしても安定性が不足している所為で詠唱は残る。其処だけは今の状況じゃ如何ともし難くて、けれど諦めるしかない。
そうして完成した魔剣は、既に形は魔剣に非ず。一見すれば何故か浮かんでいる∞を描くメビウスの輪状の物体と、緩いカーブを描く弓の弦のような一対のパーツという使用用途も不明な物体でしかない。
「完成。アイン、もう戻ってきて!」
「認識した! 転移術式《銀の門》・
緩いカーブを描いているパーツの方に、私のエターナルを叩き込みながら叫んだ。瞬く間に傷が増え、既に流れる血に勢いがなくなって来たアインを呼び戻す為に。
「させると思うか?」
だが当然、墜星はそれを妨害してくる。きっと最大級の一撃で、アインの描く魔法陣を崩壊させることで。何故ならば、転移を止めるにはそれが一番手取り早いから。
「知ってますよ、させないことくらい!」
だからこそ、占錬回帰カドケウスを持った分体を特攻させた。超速演算の代償として、既に期待は限界を超え爆発寸前。序でに持たせたカドケウスのレプリカも、散々実証実験を済ませた所為で絶賛オーバーロード中。何か刺激1つあれば、全てを巻き込み大爆発を引き起こす状態だ。
「くっ、ここまで躊躇いが──」
「吹き飛べ!」
そんな奴らを200体、よく頑張ってくれたと労いながら自爆させた。当然アインのいる数mの空間内部だけは、絶対に暴走した魔力も爆風も入らないよう、他の爆破で相殺済みだ。
「済まない、あまり時間を稼げなかった」
「大丈夫です、気にしません」
私本体の視覚で船を蒸発させる大爆発を見送りつつ、隣に転移して来たアインの手を取る。私が失くしたのは左腕、アインが失くしたのは右腕。必然的に並び立つことになって、私も聖剣を握ることになる。
体格的にはまるで違うが、要素的には線対称でバランスがいい。これならば必ず、2人一緒に跳べる筈だ。不備は多いけれど、そう設計したのだから。
「それよりも!」
「認識した」
今も感覚が同調している以上、これ以上の言葉は不要。
全く同じ動きで聖剣を構えて、全く同じ詠唱を口にした。
「「
私が作り上げた、始めての試作型魔剣。だけどさっき妥協した通り、この魔剣は急拵えの未完成だ。必ず動作してくれるなんて確証はなく、必ず正常に動作してくれる保証もない。
「「
だから、この詠唱で細部をリアルタイムで修正していく。今の私が行うべきは、感情に任せて祝詞をあげることじゃなくて、合理を用いて改変すること。
「「
アインの詠唱に重ねるのは、魔剣ユビキタスと繋がったことで覚えたシステム的な言語。最もこれを把握できているのは私だけで、アインにはよく分からない呪文のように聞こえていると思う。
「「
そんな怪しいことをしている私を疑いもせずに、こうして信じて詠唱してくれることが何よりも有り難かった。
「「
それぞれエターナルが叩き込まれた弧を描いたパーツが、片方はアインの方向に右肩部に、片方は私の左肩部に移動する。
「「
大きく広がった双方のパーツに、黒字に白で蜘蛛の巣模様が描かれた羽根が一枚展開された。エターナルにアトラク・ナチャを装填した時の模様そのままの羽根が装填され、自己進化を開始させる。
「「
次に装填されたのは虹色の羽根。ユメウツツそのままの羽根が展開されて、私たちを覆うように柔らかい光の波動が漂い始めた。
「「
次に装填されたのは白色の羽根。チョークの能力を発揮するそれで、不足気味だったカドケウスの能力を書き換えた。
「「
次に装填されたのは、どす黒く濁った黒色の羽根。憎悪と怨嗟に塗れた力だけど、それでも不恰好に誰かを助ける祈りは、決して忘れたりしない。
「「
次に装填されたのは木目が美しい羽根。私は誰かのお姫様にはなれなくて、とても弱いから。砕かれても砕かれても挫けない力を貸して欲しい。
「「
次に装填されたのは、青地に花の模様が浮かぶ羽根。過去と未来を視て、今を変える力の相性が悪いなんてことあるものか。
ただ、ここまでの詠唱を唱え終わった瞬間だった。特攻をさせ続けていたユビキタスの機体から報告が上がって来た。木っ端微塵に砕き蒸発させた筈の墜星が、完全に再生を完了したらしい。
「「
次に装填されたのは、黄緑色の羽根。修正に次ぐ修正で不恰好になってしまった術式を、綺麗に整え出力を上昇させていく。
再生が完了されてしまった時点で詠唱がここということは、本当にギリギリの勝負になる。そんなどうしようもない焦りが心を焦がすけど、繋いだ手をアインが強く握ってくれた。
「「
次に装填されたのは、また別の黒色の羽根。アインが私の不安を払ってくれたように、全部の能力とシステムが桁違いの試算結果を弾き出す。
「「
最後に装填されたのは、深紫色の羽根。そうして、エターナルを含め計10本の魔剣が装填されたことで、カドケウスが動き出した。ポツンと私たちの前に浮かんでいた∞が頭上へ移動し、翼のように広がるパーツが私たちを守るように覆い、閉じていく。
「何をしようとしているのかは聞かん。だが、討ち取らせてもらう!」
そんな中、ユビキタスの機体全てを破壊し突破して、遂に墜星が姿を現した。そして当然のように私では目で追えない速度を以て、私たちに向けてその巨剣を振り下ろしてくる。
「「
──
しかし、今回先手を取っているのは私達だ。展開された羽根は小揺るぎもせず巨剣を受け止め、私とアインで放った聖剣の攻撃により弾かれる。それだけで、時間稼ぎは完了だ。
色とりどりの羽根に包まれる中、頭上に浮かぶ円環が高速で回転を始める。準備は完了した、もう止めることは誰にもできない。
「「
詠唱の完了と共に、円環の回転が最高速に到達。
魔剣が起動して──いつかのように、世界は銀の光に染め上げられた。
アヤメ 残り?日
アイン 残り?日
《占錬回帰 カドケウス・真》
浮遊する∞を描くメビウスの輪状の物体と、緩いカーブを描く夢の弦のような1対のパーツからなる試作型魔剣。元となった占錬回帰カドケウス試作型魔剣の試作型のようなもので、詠唱が存在しなかったが、今際の際に奇跡的にアヤメが完成させた。
所有者 : アヤメ・キリノ、及びアイン・ナーハフート
【能力】
基準値 : A 限界値 : EX
照準 : EX 範囲 : B 操作 : A
維持 : A+ 強度 : A++
【詠唱】
──
【効果】
①通常駆動
・自身のステータス上昇500%
・魔法強化300%
・悪魔特効800%
②限界駆動
・時間遡行