十数年前、未だ人族・獣人族連合及び魔族と悪魔の軍勢が争っていた英雄戦争の時代。時の政府が英雄イオリ・キリノの作り出した魔剣による戦争を拒否し、エクスプローラー計画が実行されていなかった頃。それぞれの種族は、魔剣と共に歩みながらそれぞれの種族特有の方法で悪魔に対抗していた。
人族であれば、人体を機械へと置き換えることによるサイボーグ・アンドロイド化による基本能力と連携の底上げ。
獣人であれば、身体を恒常的に精霊と精霊と合一させることによる徹底的な個の力と連携の底上げ。
そして魔族であれば、その身に宿す魔の力を深く呼び覚すことによる暴走・使い捨てを前提とした一時的なブーストといったように。
それらの方法の内、魔界にある1組の男女がいた。竜人である男の名はドラッヘ・イグニスタ、吸血鬼である女性の名はメディウム・レクイエスタ。それぞれが自我を保てる限界3歩手前まで魔の力を活性化し、方や燃えるような熱さを持った龍に最も近い人として、方や氷河のように冷徹さを持った残酷なる鬼として活躍を重ねていた。
残り僅かな寿命と正気を削りながら戦い続けていた彼らの消耗は、絶焦剣ムスペルヘイムと絶凍剣ニヴルヘイムという決戦兵装を得たことで加速した。数多の兵を率い、死なせ、悪魔を殺し、殺され、無数の戦場を渡り歩いた果てに──彼等は、寿命より先に正気が尽きる。
そうして引き起こされた、2振りの試作型魔剣を暴走させることによる自殺。大規模の悪魔と
問題は、そのあとだった。
彼等は余りに魔に、モンスターに近い存在となり過ぎていたのだ。故に散らばった肉片は、臓器は、骨は、10年という歳月をかけ1つに集まり自我を喪失した化け物として再生しようとしていた。己の肉体だけではなく、殺した悪魔や同族の死体までをも巻き込んで。
『はーん、コイツらはあの時の』
その時はまだピンク色のスライム状の物体でしかなかった彼と彼女に目を止めたのが、残敵相当の見回りに来ていた墜星・玉兎だった。
『悪ぃな。今の私にゃ、これくらいしかしてやれねぇ』
バツが悪そうに、墜星が肉塊に蒼色の結晶を叩き込む。そうして作り出される、かつて魔族であったものと、悪魔であったものを結晶により繋ぎ合わせたパッチワーク。失敗作であったエクスプローラー2人を繋ぎ合わせた時とは違い、完全に独立した個体として再生した彼等は、姿形は生前に近いままの自我を持たない人形として蘇った。
◇
「勘弁してくださいよ……どうして、貴方がそんな姿になっているんですか」
転移による
『………』
そこにいたのは、火柱の中に佇む紅蓮の鱗を纏った人型の龍。ドラッヘ・イグニスタ・ムスペルヘイムで“あった”存在は、呟きに言葉を返さない。それどころか、虚ろに濁った目はガラス玉のように世界を写すだけで、タツミヤを見ようとすらしていなかった。ただただ、目に付くもの全てに向けて、かつての精彩など見る影もなく衰えた炎を叩きつけ続けている。
幸いなことは、この艦はあくまで魔法開発区であったこと。表層部分には住居や市場等再建可能な建造物しか存在せず、重要な区域は地下に集中していたことだろうか。
「……気配で、貴方が悪魔であり結晶憑きなことも分かっています。ですが、貴方なら、きっと──そう、思っていたんです。これでも私は……僕は、貴方が率いた最後の部下だから」
タツミヤ・クリマクスは転生者である。それも産まれは地球でもこの世界でもない、世界ごと悪魔に滅ぼされた世界の最後の生き残りである。イオリ・キリノにそんな世界で生き残っていた腕を買われ、この世界へ転移し、ドラッヘ部隊に最後まで所属していた経歴を持つ文字通り異世界の人間である。
彼をその世界に転生させた神は悪魔に滅ぼされたが、その身に宿した
『……そう、か。貴様が、敵か』
故にこそ常人なら理解し得ない悪魔や、結晶憑きの言葉もタツミヤには理解出来る。理解できてしまう以上、かつての師が既に存在しないことも理解できてしまっていた。
「……分かり、ました。最後の生き残りとして、命令に従います」
かつてドラッヘ部隊に所属していた百余名のうち、現代に生き残っているメンバーは既にタツミヤのみ。それでも、かつて仲間と誓った約束に……正気を失った仲間は部隊の仲間が葬る約束に従って、タツミヤは魔剣を抜き放つ。
「全く、堪えるねぇ……こんなことしてくれちゃって」
同刻、同じく転移による
『……』
そこにいたのは、氷嵐の中に佇むニホンという国から輸入された和服を着た女性。ほんの少し色白な点を除けば、そこらの人族と変わらない姿形をした人型の魔。メディウム・レクイエスタ・ニヴルヘイムで“あった”存在は、口を開かず虚空を見つめる。虚ろに濁った目はガラス玉のように世界を写しながら、凍てつく風を静寂に包まれた船に吹雪かせる。
最悪なことは、この船が墓地として利用されていたこと。参拝客が訪れやすいように、重要な施設の大半が表層部分に集中している。無数の英霊の遺骸こそ地下にあれど、墳墓としての役割を果たしていた諸々は全て分厚い氷に覆われ、或いは砕かれてしまっていた。
「とはいえ、この手で家族の仇を討てるってのは気分がいい。神のお目溢しってもんだと、そうは思わないかい元族長さん?」
スマイヤー・ラプティスという魔族は、この時代にはありふれた悲劇に襲われただけの存在である。それ以上でもそれ以下でもなく、ありふれた悲劇の被害者でしかない。
特筆すべき点があるとすれば、それは彼の種族が吸血鬼であり旧姓がレクイエスタであること。氏族単位で活動して“いた”吸血鬼には、他氏族との婚姻を介し決して砕けぬ同盟を結ぶ風習があった。そんな風習により、悪魔と戦争という二大危機に対抗するため2人の婚姻は結ばれた。
「ああ、アンタは何も答えなくていい。
尤も、全て目の前に立つヒトモドキと化した族長が、辺り一面を巻き込む自殺を行なったせいで御破算になった。当時最大派閥であったレクイエスタも、次点の勢力を誇るラプティスも、全てが氷に包まれ、砕け、消えてしまった。
『あなたも、すくって、差し上げます』
そんな煽りが聞いたのか、錆びついたオモチャのような鈍い動きで女性がラプティスに顔を向ける。それだけで、憎悪とともに蘇る脳裏に浮かぶ変わり果てた故郷だった場所。砕けてバラバラになった妻と子供。そんな惨劇の中心で、満足そうに、笑顔で氷に包まれた族長。ラプティスは……
「変わってないねぇ、族長は。だからまあ──潔く死ね。黄泉がえりなんて真似、
無論タツミヤもラプティスも、これが自分たちをピンポイントに狙った足止めでしかないことは理解している。だがそれでも、無視するには因縁が余りにも深く、頼れる仲間がいることを彼らは知っていた。
『背中とサポートは任せなさい。アナリューゼと魔剣ユビキタスが、万全のサポートを敷いてあげる』
「了解。さっさと片付けて、墜星に対処する」
「はいよ。嬢ちゃん達だけに任せちゃ、面子がないからねぇ」
あらゆる場所から、無数に湧き出る蟻の機体。それぞれが捕縛兵装に防御兵装、支援兵装を装備して集合する。そうして形成されるのは正真正銘の
「「刃金に満ちよ、我が祈り──希望の
意図することなく、異口同音に重なる詠唱。既に限界駆動済みのユビキタスを除いた2振りの魔剣が、唸りを上げて解き放たれた。
「億千万もの絆を紡ぎ、驕り赴いた死の波止場 犇めきし悪夢の大群に、我は全てを失った
勇猛果敢な獅子の爪も、雲中白鶴な疾風の翼も、堅牢堅固な霊亀の護りも、全てが卑しく貪り喰われた
誰1人として忘れるものか、全てを己の痛みに変えて、涙を流して立ち上がる!」
吹き荒ぶ熱波の中、過去の己を戒める様な詠唱が紡がれる。同時に、タツミヤの握る象牙色と蒼の煌めきを持つ刃を中心に世界が歪み始める。
そうして出現するのは、紅の装甲に包まれた8本の脚。炎熱という環境に適応進化した形で、タツミヤを守る鎧の様に蜘蛛脚が展開された。それは未来で両断された形とはまるで違う。時間こそ数分掛かるが、徹底的に外敵へのメタを張るように進化するという、対象特化型の本領が発揮されようとしていた。
「死を恐れ、死を拒み、死を遠ざけ、死を求めて、狂い焦がれて幾星霜
死の波止場を流離い続け、生の全てが希薄となった
なればこそ、食べ飲み遊ぶ享楽も、血肉湧き踊る戦いも、等しく全てに価値はなし
灰に変わった惰性の世界に、己を満たす悦は消えた」
対して、吹き荒れる氷嵐を斬り裂く無数の斬閃。それは不安定な進化めいた、静寂でありながら荒々しい小さな嵐が具現化したような暴威だった。
ラプティスが振るう2振り一対の黒刀が氷嵐を無数に割断し、次元を斬り裂いたことによる小規模な爆発を起こしながら時空が歪んでいく。そのエネルギーを喰らい、起動を始める魔剣機体。一撃必殺を叩き込むべく、舞台は刻まれ完成していく。
「そうだ案ずるな、契約者よ
まだ我がいる、忘れたか かつて汝が打ち倒せし、世界を滅ぼす大蜘蛛を、我が忌み名を忘れたか
例え体が朽ちようと、貴様の命脈尽き果てるまで、我が契約は途切れぬと知れ」
そう、2人の魔剣は方針こそ同じだがアプローチの方法がまるで別だった。
タツミヤは魔剣に宿るかつて苦楽をともにした魔物達が、剣に蓄えた知識を以ってして対抗パターンを算出。それをもって、現在の機体を即座に改変・自己進化を開始する。
そうして完成させた機体と、魔界型の魔剣で唯一機体と合一しない特徴を利用した
「故にこそ、再び舞い降りた死の波止場、出会った貴様は逃がさない
牙を剥け、武器を構えろ、腰を引かすな立ち向かえ
死線を越え、その手で我らの命を断つがいい」
一方のラプティスは、ただひたすらに己の経験のみで状況に対応する。魔剣機体に搭載された擬似人格と脳を直結、膨れ上がった膨大な演算能力で身体を制御しながら必殺を放つその時を待ち続ける。
今はまだ、狩人の如く姿を潜める魔剣機体。溜め込んだエネルギーを機体と身体を合一させることにより、爆発的に解放させ放つ、大気の壁を破り、音を超え、光に迫らんとする総てを断つ無双の一閃。初撃完結。一撃必殺。
それは戦闘を生業にする者であれば、誰でも一度は夢見る術理。そんな夢想が、凪いだ水面のように穏やかに現実に引き起こさんとしていた。
「今こそ呼ぶがいい、我の名を!」
「先に逝くぞ好敵手。駆け抜け果てた空虚な道に、我らが墓標を突き立てよう」
そして今、2つの魔剣が世界の
「
「
適応進化完了。ドラッヘ・イグニスタ・ムスペルヘイムだった存在を封殺することに特化した、紅蓮の機甲蜘蛛が目を覚ます。逆巻く炎の中最後の相棒と並び立ち、魔剣を構えるかつての師と相対するその姿は……約束と覚悟に縛られた、哀愁が漂っていた。
『殺そう、砕こう、貪ろう。ドラッヘは龍である故に』
「だからこそ、僕はあなたを殺します」
氷に閉ざされた静謐の墓所では、ラプティスの姿が0と1の羅列に分解された。正しく魔剣と合一とはこうなることだと示しながら、黒色の機甲蟷螂がその両鎌を鞘走らせる。しかし相手は吸血鬼。その尋常ならざる認識速度を超えない限り、線での攻撃は致命打には成り得ない。
『くす、クス、クす。掬って救って巣食いましょう。私は鬼、吸血鬼。怖れで生きる、それ故に』
「地獄に帰るといいよ、独り善がりのクソ
蝙蝠の群体として斬撃を避け、再構成された体でメディウム・レクイエスタ・ニヴルヘイムの残響は嗤う。口汚くソレを罵りながら、ラプティスが双鎌を構え直す。
幕開けるは3つの戦場、それぞれの引き摺る過去の清算。音を立てて回り始めた運命の歯車は、ゆっくりと、しかし確実に勢いを付けて回り始めていた。
アヤメ 残り158日
アイン 残り100日
《Ⅱ型魔剣 : アトラク・ナチャ》
自在に操作できる糸で繋がれている、蜘蛛の牙を加工したスペツナズ・ナイフ型の魔剣。担い手次第では、人の身のままかつて大罪と玄徳が開けた大穴を陣取っていた、化けグモの力を振るうことができるだろう。
魔剣機体の特徴として、使用者の脳と直結して動作する。
機体の大きさは大凡50mほど。基本色は黒であり、巨体に見合わぬ極めて俊敏な運動性能を誇る。意思1つで性質を変えられる毒腺と糸の発生能力を持つ。ただし、無限に繰り返す自己進化によりこの情報は当てにならないだろう。世界に残る魔界型魔剣の中でも、ハイエンドに分類される強力な魔剣。
所有者 : タツミヤ・クリマクス
【能力】
基準値 : B 限界値 : A++
照準 : A 範囲 : E 操作 : C
維持 : A+ 強度 : B
【詠唱】
刃金に満ちよ、我が祈り──希望の
億千万もの絆を紡ぎ、驕り赴いた死の波止場 犇めきし悪夢の大群に、我は全てを失った
勇猛果敢な獅子の爪も、雲中白鶴な疾風の翼も、堅牢堅固な霊亀の護りも、全てが卑しく貪り喰われた
誰1人として忘れるものか、全てを己の痛みに変えて、涙を流して立ち上がる
そうだ案ずるな、契約者よ
まだ我がいる、忘れたか かつて汝が打ち倒せし、世界を滅ぼす大蜘蛛を、我が忌み名を忘れたか
例え体が朽ちようと、貴様の命脈尽き果てるまで、我が契約は途切れぬと知れ
今こそ呼ぶがいい、我の名を!
【効果】
①通常駆動
・自身のステータス上昇110%
・生物特効100%
・悪魔特効500%
・魔剣の意思発露/機体の出現、搭乗可能
②限界駆動
・自己進化・自己再生・自己分割
《Ⅱ型魔剣 : メメントモリ》
光を反射しない黒に染まる、2振りの刀型の魔剣。実体を持つ魔剣のように見えるが、その実態は極めて高度な幻術で作られた刃である。故に、魔力というリソースの限り刀身は延長が可能。また、反りの内側にも刃が存在する。
起動して出現するのは、15mほどの蟷螂の機体。装甲色は基本黒だが、その場の環境に応じて自在に変化する。世界に残る魔界型魔剣の中でも、ハイエンドに分類される強力な魔剣。
所有者 : スマイヤー・ラプティス
【能力】
基準値 : A 限界値 : A++
照準 : A++ 範囲 : E 操作 : C
維持 : D 強度 : B
【詠唱】
刃金に満ちよ、我が祈り──希望の
死を恐れ、死を拒み、死を遠ざけ、死を求めて、狂い焦がれて幾星霜
死の波止場を流離い続け、生の全てが希薄となった
なればこそ、食べ飲み遊ぶ享楽も、血肉湧き踊る戦いも、等しく全てに価値はなし
灰に変わった惰性の世界に、己を満たす悦は消えた
故にこそ、再び舞い降りた死の波止場、出会った貴様は逃がさない
牙を剥け、武器を構えろ、腰を引かすな立ち向かえ
死線を越え、その手で我らの命を断つがいい
先に逝くぞ好敵手。駆け抜け果てた空虚な道に、我らが墓標を突き立てよう
【効果】
①通常駆動
・自身のステータス上昇125%
・生物特効150%
・悪魔特効480%
・幻術能力
②限界駆動
・対象を存在する空間ごと切断することで、特別な耐性を持つ相手以外を問答無用で斬り捨てる絶対切断
・自身が開いた次元の裂け目に潜行することで、一時的に世界から消える潜伏・迷彩能力
・自身の位相をズラすことで、こちらが何かする場合、或いは相手に位相を合わせられる場合を除いた絶対防御