銀灰の神楽   作:銀鈴

125 / 224
3章、開始です


3章 加速する運命
叢雲は晴れ、しかして暗雲は立ち込める【01】


 言うまでもなく墜星・八岐……表向きには八岐がアルディート・ガラントであったことは伏せられている……の襲撃による被害は、あまりにも甚大だった。

 

 食糧生産区中央1番艦アルフレイム、墜落。

 魔法開発区右舷2番艦ニダリヴェル、表層壊滅。

 集合墓地区左舷2番艦ヘルヘイム、壊滅。

 

 幸いにも直接事態に対処した5名を除き、人的被害者は一切出なかったがそれだけだ。あれほどの襲撃でと考えればまだマシな結果だが、それでも魔王国第3首都ユ=グ=エッダが受けた被害はあまりにも大きすぎた。

 

 最も被害が軽かったのはニダリヴェル。重要な区画は全て地下に建設されているため、表層地区が豪炎に焼き払われた程度の再建が容易い被害で済んだ。

 次に被害が軽かったのはヘルヘイム。墓地としての区画であったため、心因的なものは兎も角として街の運行には支障をきたすことはない。遺骨や遺品自体が、艦内に保管されていたことも大きいだろう。

 

 今にして思えば八岐……アルディートさんの配慮だった気もするが、私たちが激戦を繰り広げたアルフレイムだけはそうもいかない。斬り刻まれ、破砕され、魔法を浴びた船体は大破。あの戦いの直後、私とアインでなんとか不時着はさせたものの、機能修復はそう簡単にはいかない状況だった。

 

 最も重要な『食糧生産区画』としての機能が8割ほど使えず、自走も不可能になったことでアルフレイムは実質機能停止。無傷で生存していた民を飢えさせることのないよう、大破したアルフレイムを守る様にユ=グ=エッダを展開していることで、航空戦艦としての機能自体も停止した。

 

 聖剣を使った反動で、揃いも揃って丸一日気絶していた私たちが目を覚ましてから聞いたのは、そんな大惨事そのものと言って相違ない話だった。

 

「と、いう状況故、アイリス・エターナル様、アイン・ナーハフート様には中央1番艦アルフレイムの修復を。リィン魔王陛下にはユ=グ=エッダの方針を決定する会議に出席いただきたいと表明します」

 

 見知らぬ病院で目を覚まし、取り敢えず状況の確認と飢えと乾きを何とかして一段落した後。来てもらったイトナミさんによる説明は、最後にそんな言葉で締め括られた。

 

「んー……取り敢えず、まずはアルフレイムを飛べる様にすれば良いんですよね?」

 

 今聞いた話を総合するに、最初に達成すべき目標はそこである様に感じた。

 魔界の土壌は呪われている。戦争の折に飛び交った秘呪や魔法、特に今は私たちの聖剣に姿を変えた2振りの魔剣の影響で、土地自体が超高濃度の呪詛に犯されている。そんな土では作物やまともに食べられる生物なんて育つ筈もなく、今は悪魔が跳梁跋扈するのが魔界の地上だ。

 今は他の艦からの光属性浄化系の魔法によってなんとか汚染を防ぎ、アナリューゼさんのユビキタスを総動員することで悪魔の襲撃から守っているらしい。だがそれは限界を迎えるのは目に見えている作戦だ。だからこそ、私に白羽の矢が立ったということか。

 

「肯定します。仮想海展開術式及び航行術式に関しては、私共から提供のご用意があります」

 

 そしてリターンもちゃんとしている。そもそも私達が原因で落ちた様なものだし、私とアイン、そしてリィンだけでは魔界の移動が覚束ない以上、直すことに異存はない。

 体感で凡そ3ヶ月、それこそ世界の滅亡と同程度の寿命しか残っていない身ではあるけれど。先人の残した魔法に触れるのは、私の数少ない趣味でもあるし。……それに、お義母さんにも八岐(アルディート)にも言われた、人間界を目指せという言葉。それに従うにしろ、そうでないにしろ。船の修復をしないという手はなかった。

 

「分かりました。あとは、後で船の図面もお願いします。あと、アインって魔法で何処まで金属作れます?」

「純度80%オリハルコンをまでであれば生成可能だ」

「なら純ミスリルはいけますね。私1人だとちょっと寂しいし手が足りないので、アインも手伝ってくれませんか?」

「認識した。当方の可能な限り力を尽くそう」

「目の前で堂々とイチャつかれるのは、余としてはかなり疲れるのだが……」

 

 良かったと、ほっと息を吐いていると、ゲンナリとした表情でリィンさんがそう言った。私達もそうなのだが、全身の至るところに包帯が巻かれていて痛々しい。

 そんな状態なのにストレスを感じるなんてこと、身体に悪いのは素人でも分かる。それにまあ、こう、なんというか。私とアインは晴れて恋人関係になったわけだが、微妙に距離を測り兼ねているのもまた事実。こういう場では自重しておいた方が良いのかもしれない。

 

「そして、現在はまだ試験段階ですが、ニダリヴェルにおいて実験中であった冒険者型人造人間(エクスプローラー)のType『Vorhut(フォーアフート)』『Nachhut(ナーハフート)』『Suche(ズーへ)』の再生産準備が完了。現状回収している個体を覚醒させることで、ユ=グ=エッダ全体の活性化を図るとの決定が成されていると報告します。その為、修復の手数は現状より増える筈だと進言します」

「それは有り難いですね。流石に数キロもある船なんて、本来なら修復に何万人もの職人が必要でしょうから」

 

 取り敢えず空に浮かべるだけで、一体どれくらいの日数が掛かるかも不明なのだ。人手と職人はいればいる程良い。だが、少しだけ複雑な気分でもある。冒険者型人造人間(エクスプローラー)が増えるということは、ある種の血縁者が増えることでもあるし……なんか、アインと同じ顔の人が増えるのは微妙に気に食わない。

 

「……? 当方の顔に、何かついているか?」

「いえ、別になんでもないです」

「イチャイチャするなと、言っておるからに……」

 

 やってられないとリィンさんが頭を抱えた。今回は私、何も言葉にしてないはずなんだけど。そして大きな、大きなため息を吐きながらイトナミさんに視線を向けた。

 

「まあ、それについてはもう良い。余がこの街の方針を決定する会議に出席とはどういうことだ? 余にそんな権限はないと思うのだが?」

「いいえ、否定しますリィン魔王陛下。ユ=グ=エッダの法律において、真魔剣ディーアボロスを持ちその能力を起動できる人物は魔王となります。そして国としての体裁を保つ為、例え陛下自身に参加する意思がなくとも参加して頂きます。

 要約すれば、最終的にGo出してハンコ押すだけですと説明します。勿論、意見があれば言ってもらって構いませんが」

「随分とはっちゃけておるなぁ……そういうものなら、参加せぬわけにはいかぬか」

 

 王とは休まらぬものなのだなぁ……と、リィンさんが虚空に向けて零した言葉は誰に向けてのものか。私達とはまた別に、リィンさんの苦労も絶えることはなさそうだった。

 

「まあ、とはいえです。私達も動くのに少し準備が必要です。会議の時間にもよりますが、時間がないってことはないですよね?」

「肯定します。丸一日眠っていた皆さんを、起きた瞬間から酷使するほど我々は弱ってなどおりません」

 

 どことなく言葉に刺があるというか、信頼度が低いような気配がしている。墜星の襲来は私達が……主に私が原因だから、何も言うことは出来ず許されないけれど。

 

「じゃあお言葉に甘えて」

 

 ぽすん、とアインの隣に座り、そのまま膝枕を教授する。リィンさんとイトナミさんが何か話し始めたけど、流し聞きする限り(まつりごと)の領分の話だった。なら聞いている必要も特にないか。

 

 仕事をするのに依存はないと言ったけど、その前に道具のチェックは欠かせない。移動手段の箒はいいにしても、戦闘装束の修復に私とアインの聖剣のメンテナンス、リィンの聖剣のメンテナンス、エターナルの制御鞘の再構成などやることは沢山ある。そして何より、斬り飛ばされた右獣耳をどうにかしたい。今は左獣耳を閉じることでなんとかしているけれど、音が変に聞こえて気持ち悪い。バランス感覚もアドレナリンが抜けた今になってみれば、どうしようもなく狂っているのが実感できた。

 

「義耳、どうせなら色々盛り込みますかね」

 

 耳のとしての機能の他に、どうせなら集音機とか探知能力とか後は念話の魔法陣を組み込んでも面白いかもしれない。今回は義足と違って、取り外しが前提だから複雑な機構でも許される。戦闘に耐えられる耐久性と保持力は必要だけど。

 

「膝借りてる身ですし、撫でたいなら良いですよ?」

「ッ、うむ。では失礼する」

 

 躊躇うように頭上を彷徨っていたアインの手を頭に誘導しつつ、準備運動がてらに魔力の線を指で描いて義耳を設計する。

 

 右耳の形をスキャンしつつ同サイズ……ちょっとだけ大きくサイズを決定。アインに撫でられてる右耳の残った根本部分と接続できるように骨組みを作成。位置固定用の次元魔法、今作った複合レーダーの魔法陣を内部に仕込みつつ、導線を組み、静音性を確保しつつ消費魔力を暫定。どうせなら、わざわざ狼耳に似せずにメカメカしくしよう。スピーカーみたいなのはカッコいいかも? デザイン決定。魔法陣はいつも通り純ミスリルでいいとして、外装は暫定黒でいいから、強度的にアダマンタイトの合金で。

 暫定重量が大体15kg……そんなもの付けてられないので、左耳と全く同じにまで修正。質量軽減……いや、折角だから今もらった仮想海を展開してそこに浮かべる方式にしよう。ちょっと燃費は嵩むけど、腰にある魔力炉心1個を専用化すれば帳尻は合う。

 

 と、言うことで。設計ができたのでサクッと出力。全体で5分くらいかかったけれど、無事に義足ならぬ義耳は完成した。膝枕も十分堪能したので、起き上がりつつ義耳を装着。腰部の魔力炉心を接続し起動する。

 

「位置安定。レーダー感度良好。ちょっと髪がしっとりするけど、ちゃんと聴こえるから問題なし」

「少し無骨過ぎるように見えるが?」

「それくらいを狙ってたのでOKです」

 

 その場でくるりと回ってみるが、設計通り義耳は動きについてきている。少しオーバーロード気味に魔力を流してみれば、水に浮かぶような感覚。燃費さえ気にしなければ多分空も飛べそうだ。念のため出力を上方修正、魔法回路を強化──完了。今のところはこれで良さそうだ。

 

「ならば似合っている。クールだと断定しよう」

「ありがとうございます。リィンはどう思います、これ?」

「似合っておるのは間違いない。だが……アヤメは、良いのか? 身体を別のものに置き換えて」

 

 アインとリィンが褒めてくれたおかげで少し気分を良くしていると、少しだけ言い淀むようにしてリィンさんが口を開いた。その視線が向けられている先は、義足と今作ったばかりの義耳。

 

「何も思わないってことは無いですよ」

 

 実際、脚が無くなった時は……特に何も思ってなかった気がする。あれは予想通りの結末だった。今回の右耳に関してもそうだし……唯一例外なのは、内臓機能が幾つかおかしくなっていることが分かった時だけか。

 そのことだけは、今も少し後悔している。もう少し慎重に動くべきだったとか、治療をしておくべきだったとか。尤もそう思ったのも、つい最近だけど。

 

「けど、失ったものはしょうがないですし。代替出来るならしますよ。それに改造人間って、かっこいいと思いません?」

「女子としての方向性ではないような気がするのだが……まあ、良いか。アヤメはアヤメであることがよくわかった」

 

 よく分からない生き物を見るような目で見られたのは何故だろうか。私はそんな、綺麗とか可愛いとかいった言葉が似合うようには思わないのだけど。腰の魔力炉心はともかく、今着てる服だって着やすさ優先の10着でまとめ売りしてたワンピースだし。

 

「どういうことですか、それ」

「うむ。そういうところだ」

「えぇ……?」

 

 何か釈然としない気分だった。流石に両腕が無くなるのは困るし絶対に嫌だけど、改造人間ってかっこいい概念だと思うのに。その点私とアインとの相性はバッチリだったのかも、なんて考えると少し心がぽかぽかする。

 

「そういう部分が、可愛らしいと補足する」

「アイン!?」

「当方は、アヤメはそのままで良いと考える」

 

 突然背後から不意打ちを受けて、恥ずかしさで尻尾の動きが止まらない。パタパタと意識しても動き続けるそれは、私の本心を映しているようでやめて欲しかった。

 

「と、とにかく。今のうちにまずは聖剣を整備します。午前中のうちに全部終わらせますよ!」

 

 恥ずかしさを誤魔化してベッドに座り言う。それから仕事用の道具を取り出せば、頭の中で気持ちも切り替わる。そう、胸がぽかぽかとするのは事実だが、空から私を見つめる視線があるのもまた事実なのだ。

 空からずっと私を見つめ続けている視線。八岐のものではない、獣人界から私を見つめ続けている目線。それを無視することは、絶対にしてはいけないから。

 




アヤメ 残り97日
アイン 残り97日
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。