銀灰の神楽   作:銀鈴

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遅れました。


帰郷 交渉 ライオンハート【04】

「はぁ……ふぅ……中々、やるね。アヤちゃんと付き合うなんて、大言壮語しただけは、あるじゃないか」

「肯定、する。アヤと共に、過ごすならば、この程度の、力が無ければ、生き残れない」

 

 女性冒険者たちの質問攻めを何とか切り抜け、振り払うことが出来た後。リュートさんとアインの戦闘は、殆ど終局に差し掛かっていた。

 何故かお互い魔剣も聖剣も持たない徒手空拳。全身に打撲跡や切り傷を無数に作りながらも、ファイティングポーズを解かずに向かい合っている。私への質問攻めに参加していなかった冒険者組は、そちらに釘付けになっていたらしい。

 一部の人は完全に寛いだ様子で、酒を片手に声援を飛ばしている始末だった。いや、良いのだろうかと問いたい。最も責任も権力も立場もある人が、その全てを放り投げて殴り合いに興じているとはいえ。信用第一の冒険者として。

 

「うぉぉおぉぉぉぉぉッ!!」

「はぁぁぁぁァァッ!!」

 

 取り合われている側としては、置いてけぼりにされている気がして少し寂しいけれどそれはそれ。私だってこういうシーンのカッコよさは理解できる。ママも何処か男っぽい部分があったお陰で、私は男の浪漫が理解ができる女なのだ。

 

「それでも僕は、」

「それでも当方を、」

「認めない!」

「認めてもらう!」

 

 そんなことをぼんやりと考えつつ、取り敢えず回復魔法とポーションの準備をだけはしておく。万が一があってからでは遅いのだし。

 

「アヤよ! アヤよ! アヤはどちらが勝つと思っておるのだ!?」

 

 ポーションを即効性を重視した調合に変更し、投げ付けて使えるようにしていた時だった。完全に古い獣人界の空気に染まったリィンさんが、興奮した様子で話しかけて来た。

 

「一応取り合われてる側としては、そういうのに言及するのは避けたいんですけど……」

「良いではないか、どちらが勝ったとしても今の関係を変えるつもりはないのであろう?」

「まあ、それはそうですけど」

 

 直球で言いたくないと言ったのに、意見を突き通して来られたら折れるしかない。実際リュートさんがアインを打ち倒して私に別れろと言ったところで、一切アインと別れるつもりは無いのだし。

 

「であれば、いっそ言ってしまった方が盛り上がると余は思うぞ?」

「とは言っても。正直どっちが勝つか分からないんですよね、私も」

 

 片腕というハンデを背負いながらも、長年の経験と近距離〜中距離戦が専門ということから上手く立ち回り、翻弄するリュートさん。

 両腕が使えるアドバンテージがあり万全だが、本来の後衛とは違い近距離という不慣れな間合いで、懸命に反撃を繰り返すアイン。

 共にレベルシステム上は成長上限。リュートさんには老いというハンデがあり、アインには若さ故の俊敏さがある。リュートさんの方が一撃は重いが、リーチと手数はアインの方が上手。

 更に他の要素を加えて考えたとして、少しリュートさんが有利の五分五分と言ったところだろう。だからこそ、応援などのプラス要素やアクシデントによるマイナス要素で、結果はどうとでも変わり得る。

 

「ではアヤは、どちらに勝って欲しい?」

「言うわけないじゃないですか。こういうのは拮抗してる今が、1番意地の張り合いもあってかっこいいんですから」

 

 取り合われる側ではなく、そこら辺の冒険者たちと同じ観客として見た場合、今この瞬間こそが思いと想いのぶつかり合う1番かっこいいシーンなのだ。

 これが私の知らない場所で起きていて、後から私が駆けつけ傷ついたアインを見た場合。或いはこのまま戦いが続き、アインが負けそうなピンチの時でもなければ、女の声援なんで無粋の極みだ。浪漫が無い。

 

「ううむ……やはり余には良く分からぬ話だ。男のロマン、であったか? それよりも余は、こういう場合はアインが勝ちハッピーエンドの方が良いと思うぞ」

「そういう世界もあるってことです。特に意味もなくドリルを武器にしたり、存在しない筈のコードネームで呼ばれる謎の人物に憧れたり」

 

 口には出さないけれど、むしろ私はそういう正義を自称する主人公が必ず勝つ……なんて話の方が苦手だった。聞こえはいいけどそれじゃあ、正義なんて曖昧なものに成敗される側があんまりだから。

 

「「これで、トドメだぁぁぁぁぁァッ!!」」

 

 そんならしくもない気持ちを思い出してしまったタイミングで、男同士の戦いに決着が訪れた。裂帛の気合いと共に繰り出された両者の拳。それは全く同じタイミングで、それぞれの防御をすり抜け直撃した。

 

 びっくりするほど綺麗なクロスカウンター。握り締められた拳はお互いに、重い一撃となって互いの顎を捉え脳をシェイク。脳震盪を引き起こし、立っている力を奪い取り両者を大の字に倒れ込ませた。

 恐らくそう時間をかけずにに復活するだろうけど、これでダブルノックアウト。問答無用で引き分け、一目瞭然な決着だ。

 

「なるほど、ね。アイン君の気持ちは、拳から痛いほど伝わってきた……」

「当方も、貴方がどれだけアヤのことを、大切に考えているか、理解した……」

 

 白黒つかない決着であったのに、当人たちは何故か通じ合った様子。満足そうな笑みを浮かべていた。拳と拳の男の世界。こういう決着もありだと思っている自分と、私を放っておいて勝手に完結していることに複雑な気分の私もいる。なんとも言えない不思議な感覚だった。

 

「これは……良いのか? アヤよ」

「どっち付かずですけど、これはこれでアリです。少し恥ずかしいですが」

「やはり良く分からぬ世界だ……」

 

 リィンさんの言うことも一理ある。私自身そう感じてる部分もあるのだから。ただ同時に、一試合拳闘に興じたいくらいには昂っている部分もある。そんな無粋な真似なうえ、無力化できることのわかっている試合はするつもりもないが。

 

「だから、そうだね。健全なお付き合いなら、僕も許そう……曲がりなりにも、娘の選んだ君だ。アヤちゃんを、守るだけの力もある。だから、手を繋いでデートとか、そういうのは、目を瞑るよ……」

「認識、した。だが当方は既に、キスまでして──」

「死にたいらしいね」

 

 アインがとんでもないことを言いかけた瞬間、金色の波紋を通ってリュートさんの手に黄金の魔剣が出現する。しかも纏っている雰囲気が、ついさっきまでとは違い戦場のそれへと変化している。

 

「刃金に満ちよ、我が祈り──希望の明日を……」

「ストップです。これ以上はただの殺し合いにしかなりません」

 

 更にあろうことか、ボロボロの身体で魔剣の詠唱を始めようとしていたので、流石にそれは見逃せないと介入した。

 糸に操られた人形のような動きで起き上がり、リュートさんが放った刺突。それを金属を魔法で生み出し受け止めつつ、アインを引っ掛ける様にして背負い回収。魔剣の切先が届く前にその場を離れた。

 

「リィン!」

 

 同時にリィンさんに合図をしてアインを回復して貰いつつ、私もエターナルを抜刀。一連の動きとして放たれた斬撃を、背負ったアインの重さも利用して吹き飛ばされることなく受け止め、払い、受け流した。

 

「ッ、その魔剣は!」

 

 しかしそれも慣れた動きなのか、リュートさんの動きには次の一撃とその次の一撃と更にその次と繋がる動きが見えている。しかし目は明らかに正気そのもので、剣筋にもちゃんと意思が宿っている。 なのにこうして、剣戟を続けているのは──まるで、今度は私を試す番だとでも言いたげな意志を感じた。

 

「アイン。受け身とって下さいね!」

「認識した!」

 

 このままでは受け切れないと判断して、お願いだけしてリィンの方へアインを投擲。その反動を利用して身体を回転させ、踵落とし気味に第2撃を迎撃。反動で静止した身体を、上空に炎を噴射することで強制着地。次に後方へ噴射して推力を確保しつつ、蹴りを繰り出していない脚で踏み切り。リュートさんの魔剣を膝蹴りで弾き飛ばしつつ、空いた腕に絡みつくように組み付き、同時に私の魔剣は収納。トドメとして十字固めの要領で、遠心力も利用しながらうつ伏せに倒し腕を決め固定した。

 

「ぐッ」

「落ち着いて下さいリュートさん。私は体動かせて満足ですけど、ここまでやるのはやり過ぎです。殺す気ですか」

「アヤちゃんが無理矢理手籠にされたって聞いたら、そりゃあ殺さなきゃ……」

「したのは私からですし、手籠になんてされてませんよ!」

 

 後でこのことはレーナさんに言い付けると決めつつ、固めた腕を更に捻り上げる。全く、どうしてこんなプライベートな情報を、態々知り合いたちの目の前で暴露しなければいけないのか。こんなのただの公開処刑だ。

 

「残り少ない命なんです、これくらい自由にさせて下さいよ……」

「アヤちゃん、それってどういう」

「長くなるので後回しです」

「……分かった。だけど後から聞かせてもらうからね」

 

 うっかり零した言葉を耳聡く聞き取ったリュートさんが聞いてきたけど、今それを話すには長い説明が必要となってしまうから却下する。

 

「アヤちゃんの実力も分かった。これで僕の用事は殆ど済んだから真面目な話に戻りたいんだけど、離してくれるかい?」

「離しても、アインに刃を向けませんか?」

「約束するよ。だからその、本当にそろそろ離してほしい。最近四十肩気味だから、この体勢は本当に辛い」

 

 それは良いことを聞いた。幾らリュートさんとはいえど、殺すことも厭わず剣を向けてきたことは簡単には許せないし、小さな恨みは溜まっているのだ。これでも人体については色々と学んだおかげで、本当に壊れてしまうラインは知っている。だからこそ、

 

「これ一回で、許してあげます。せいっ!」

「ぃッ──────!!!!!」

 

 少しだけ肩を、四十肩の限界可動域を越えて動かした。

 その結果は言うまでもなし。リュートさんの同年代の冒険者たちが顔を青く染める悲鳴が轟き、私達が王都へ連行されたその後までずっと、リュートさんの肩は上がらないままだった。

 

 

 そうした()()()()()()()()()()()()()()動きが起きている獣人界辺境、その遥か上空。墜星・玉兎はそこで、地上で起きている出来事の全てを見下ろしていた。

 

「傑作! 傑作! 私怨が死ぬ程表に出てんじゃねえか馬鹿弟子。愛娘の好いた腫れたってのは、やっぱそうなるよなぁ!」

 

 バチパチパチと、耐えきれないといった様子で玉兎が手を打ち鳴らす。誰も耳にすることがない遥か空の向こうで、過去の思い出に浸りながら玉兎は笑う。

 

「にしても、ほんの少し前までただのガキだったアイツも、今じゃもう人の親ってか。嗚呼、イイ、いいね。悪くねぇ」

 

 しかしその慈愛と欲に塗れ、本来の所有者と変わらぬほど怠惰に満ちた目はすぐに細められた。

 愛しい作品である後衛型と万能型の完成度は、規定値を超えつつも想定値の範囲内であるから問題はない。

 寧ろ素体から考えれば、後衛型に関しては破格の強さに育っている。名前と記憶を取り戻せば、アインス特有の変貌も遂げるだろう。万能型に関しても、肉体性能は当時の7英雄を設計時点から凌駕している。精神面は未熟だが成長の兆しはあり、聖剣を扱える点も含めて最終兵器としての役割は果たしてくれることだろう。

 

 故にこそ想定を超えていたのは、格闘戦技術に関してアヤメ・キリノの錆落としが予想以上に進んでいること。母親からの遺伝か、足りないリーチと重量の2点を除けば、予想以上の結果が眼下の世界には映し出されていた。

 

「剣聖技の練度は十分。私好みじゃあねぇが白虎の殺法も皆伝。大鎌は……まだ見てねぇ以上判断は早計か。だがまあ悪くねぇ。いや、寧ろ良い誤算と考えるべきか」

 

 最終的に成すべきことの大前提。処理しなければいけない前段階。自分たちの世代が残した最低最悪の遺産に対処するには、魔法や精霊術、秘呪に頼れない。そういう神秘に頼った時点で勝つことが不可能になる、最狂にして最凶の存在。

 神秘の塊である墜星に成った今、完全復活した自分たちの主人以外斃すことの出来ない悪魔の王。それを斃す為の己の肉体と技術、そして聖剣。それが揃っていることは、喜ばしい話であることに間違いない。

 

「なら予定の1から20番は簡略化していい……が、イレギュラーが死ぬ程重なったせいか? ここまで予定とズレてんのは、なんか気に入らねぇな」

 

 舌打ちをしながら玉兎が呟く。本来の計画とは大きくズレた現状は喜ばしい点も多い。しかしその皺寄せがどこにあるのかが不明な以上、決して楽観視することが出来る状況でもない。それを理解して、ガリガリと玉兎が頭を掻きむしる。

 

「ったく、どうしてこういう時に限って予定外が頻出すんだか。余計な手間増やしてくれやがって。私にゃ馬鹿弟子を相手にしなきゃならねぇってのによ」

 

 生前であれば、やってられねぇくだらねぇと酒に逃げることもできたが、もう既にそれが許される状況にはない。

 人間界に閉じ籠り最後の時を待ち続ける墜星・勇者や、誰よりも勤勉過ぎるが故に怠惰に傲慢にも人類を守護する墜星・金烏とは違い、天から全てを見定める墜星・玉兎は──かつて命を賭して守ったこの世界が、何処までも追い詰められていることを誰よりも知っている。

 

「神楽舞え、舞い続けてみせろ銀灰の巫女。いつか世界を救えると、証明して見せてくれ」

 

 だからこそ、祝福しよう。

 狂い哭け、お前達の末路は"大罪人(えいゆう)"だと。

 




アヤメ 残り95日
アイン 残り95日
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