銀灰の神楽   作:銀鈴

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夢現つ【03】

 その日の夜、私は部屋で1つの巻物とノートを広げていた。

 ノートには私が知る限りの魔剣とその特徴が、巻物には獣人界で行方不明の魔剣とその特徴が。それぞれに書かれている。この2つがあればとりあえずの特定は出来るはず。

 

「あった。多分これ」

 

 昼間見聞きした特徴から照らし合わせて、恐らくこれだろう。アマルさんが持っている魔剣の銘は【ユメウツツ】。

 種別はⅡ型。形状の特徴もほぼ一致している。

 基本的な殺傷能力は低めだけど、その分限界駆動時の能力は特殊な物。

 その効果は『所持者の見たい夢を現実化する』『所持期間が長ければ長いほど、実現できる夢の範囲は大きくなる』の2つ。

 更に注釈として、能力が暴走する可能性が高いと書いてあった。

 

「でも、どうしよう」

 

 私は魔剣を集める必要がある。

 そうするべきと自分を決めたから。

 でも私は、アマルさんから魔剣を取り上げるなんて出来そうもない。

 チラリと覗いた結果見えた虚弱なステータスと、アルビノという体質を鑑みるに……恐らく、魔剣なしでアマルさんは生きられない。

 女王様と同じ道具を渡せば、最低限の日常は確保できるかもしれない。けど、それではこの村には居られないだろう。

 

 同時に、魔剣を特定したことで『預言の巫女』のカラクリにも気がついた。

 夢に見たことが1回実現したら、それは正夢。

 それが2回実現したら偶然。

 それが5回実現したら変人。

 それが10回実現したら、それは預言と呼ばれ出す。

 ママがどんな考えで【ユメウツツ】を作ったのかは知らないけど、夢を現実に持ち出すならそれは預言と言って過言じゃない。

 鶏が先か卵が先か、みたいな話だけど。

 

 まあ、それについてはどうでも良いというのが私の所感だ。

 魔剣を取り上げたくはないし、そうやって村の生活を壊す気もない。少し協力はしてもらうけど。

 

「けど、暴走の可能性があるのは無視できない」

 

 暴走の内容はノートにも、巻物にもデータがない。

 けれど魔剣の能力から推察するに、恐らく『夢の際限ない実体化』あたりだと思う。今日話を聞いた限りでは、地滑りを予言したらしいから干渉力も十分に高い。

 

 つまり、暴走の危険はすぐそこにあるということだ。

 

 『墜落する夢』を見れば、村ごと大規模な地盤沈下に襲われるかもしれない。

 『ナニカに襲われる夢』を見れば、そのナニカが出現し暴れ始めるかもしれない。

 『殺される夢』を見れば、所持者を問答無用で殺すかもしれない。

 ……しかもそれらには、力の強さが災いし魔剣でしかまともに対抗出来ない。

 

「なら、取り上げるしかない、のかな」

 

 冒険者のアヤじゃなく、犯罪者のアヤメとして。

 それならきっと、不幸は最小限だし私が汚名を背負うだけで済む。障害になりそうなのはそれこそアウルさんくらいだし、きっとこれが正解だ。

 どうせ、アヤメとして正体がバレたら打ち首だ。今更罪状が1つや2つ増えたところでなんともない。

 私が、私だけが我慢すれば良い。それでこの村の人はアヤメを恨むけど、何も起こらず平穏に過ごせる筈だ。

 

「私に、そんなこと出来るかな? お義母さん……」

 

 形見として貰った聖剣を納めた魔剣を、縋るように抱きしめる。

 呟きは誰に聞かせる訳でもない。ただの身勝手な願望だ。

 ただ、魔剣は鋼の冷たさしか返してくれない。最初に触れた時以来、お義母さんの聖剣はうんともすんとも言ってくれない。それが、どうにも見捨てられてしまったように感じて……少し寂しかった。

 

 そんな風に感傷に浸っていると、ドンドンドンと扉が凄い勢いで叩かれた。

 こんな深夜に誰だろうか。広げていた資料をスキルに仕舞い、最悪の想定をして刃を構える。こんなことで身バレとか、シャレにもならない。

 

「どうぞー!」

「夜分に悪いな、邪魔をする」

 

 そう言って部屋に入ってきたのは、生傷だらけのアウルさんだった。

 僅かに血の臭いも漂ってることから、負った傷の多さが伺える。息も切らしているし、きっと何か良くないことがあったに違いない。

 

「魔物ですか? 悪魔ですか? 結晶憑きですか? いずれにしても、手は貸しますよ」

「いや、違う。そうじゃない。この傷はそうじゃないんだ」

 

 ポーションを投げ渡しつつ、思いつく限りの原因を挙げたがどれも違うらしい。では、なんだろうか? 魔剣を抜いてない私よりは確実に強い、この人を傷付けた原因は。

 

「助かる。いや、それよりもだ。巫女に、あいつに会ったんだな?」

「ええ、今日。妹さん、なんですってね」

 

 投げ渡したポーションを頭から被りつつ、アウルさんが頷いた。

 ということは、兄弟関係というのは本当のことだったらしい。なら、もしかしたら、説得できたりするんじゃないのか。そんな考えが頭をよぎった。

 そして、その考えを口にしようとした瞬間のことだった。

 

「そうか。そこまで知ってくれてるなら、話は早い。

 この村の人間じゃない、お前にしか頼めないんだ。

 アイツを、アマルのことを解放してやってくれ」

「え……?」

 

 アウルさんが、そんなことを口にした。

 予想外も良いところだ。なんでこうなったのか、まるで訳がわからない。

 

「あの。どういう、ことですか?」

「アイツの巫女の力なんてな、嘘っぱちだ。親父の形見の魔剣が作り出した、幻でしかない」

 

 思わず声を出しそうになり、誤魔化すように息を飲んだ。

 最初に会った時とは違う、巫女に対して嫌悪するような表情。アウルさんが浮かべるその表情からは、嘘偽りを感じられない。

 

「魔剣って……あの?」

「ああ、どっかの英雄がばら撒いた、悪魔を殺す兵器だ。あの魔剣の名前は【ユメウツツ】、夢を現実に持ち出す力を持っている」

「それは、良い能力なんじゃないですか? Ⅱ型なら、多分あのアルビノの体質も中和できますし」

 

 既に知っている情報を、さも知らないかのように答え質問も返す。

 思ったよりもきついけど、頑張れば出来ないことはない。

 

「ああ。年端もいかなかったアマルと違って、全部聞かされていた俺は、だからこそアイツに魔剣を渡した。だがな、あの魔剣が持ち出すのは良い夢ばかりじゃなかったんだよ」

 

 あの魔剣は、節操なく夢を持ち出すんだよ。

 疲れ果てた様子で、自嘲気味にアウルさんが呟いた。

 

「最初は、親父が死んですぐの夜だった。

 アイツが魘されていると思ったら、隣の家が火事になった。誰もいない空き家で、発火する理由もないのにな。

 次は、その数週間後。またアイツが魘されて、今度は村に大量の魔物が襲撃してきた。

 それから何度も、何度も同じようなことが繰り返された。

 その果てに最近、地滑りまで起こしたんだ。決まってあいつが魘されてる時に異変を起きる。もうこれ以上、放ってはいられないんだよ。あんな物、壊して捨ててやる」

 

 吐き捨てられたそんな言葉に、ズキンと胸が痛んだ。

 本当はきっと、誰も悪くはないのに。

 ただその役割を全うしてただけなのに、憎しみが生まれている。

 

「悪い、話が逸れたな。それで俺が頼みたいことは、アイツから魔剣を奪ってくれってことだ。あいにく俺は、アイツがいる場所に近寄らせてもくれないからな」

「でも、そんなことしたら……妹さんは、この村にいられなくなるんじゃ」

 

 体質的にも、立場的にも。

 さっき立てた予測を、さも今思いついたと言わんばかりに語った。

 

「だろうな。日中に動けない、目も悪い、身体も弱い。そんな奴をこの村は置いておいちゃくれないだろうさ」

「なら、なんでそんなことを──」

「たから、アマルを連れて村を出る。その為に、金を貯めてこれも買ったんだ」

 

 アウルさんは、決意に満ちた目であるものを取り出した。

 真紅の宝石がついたネックレスと、あまり目立たない形の眼鏡。魔力を感じるから、きっと魔導具なのだろう。しかしその能力はあまりに貧弱で、しかも明らかな手抜きの痕跡がある。

 騙されて掴んだ粗悪品、アウルさんには悪いがモノ自体はその程度の物だった。

 

「これがあれば、魔剣が無くてもアイツは活動できる。日の下に出て、一緒に旅をできる。アイツを散々利用したこの村なんて、どうとでもなっちまえばいい」

「そう、ですか。まあ、アウルさんの腕前なら冒険者で十分食べていけると思います、よ?」

 

 一応、こんな私でも食っていけないことはないのだから。

 アウルさんなら問題ないだろう。何せこのご時世、戦える人はそれだけで重宝されるから。

 

「ああ、Sランクにそう言ってくれるならありがたい。だから、アイツから遠慮なく魔剣を奪ってくれ」

「分かりました。でも、その前に少しいいですか」

「ん、ああ、構わないが……」

 

 私はアウルさんがやろうとしてることを、応援はするが干渉はしないつもりでいた。

 だけど、目の前でそんな物を見せられたら黙ってなんていられない。あんな、手抜きで作られたゴミと体質を理解してない解決策は、放っておける訳がない。

 

「その眼鏡とネックレス、一体幾らしたんですか?」

「金貨10枚だが、それがどうかしたのか?」

 

 金貨10枚。それは、おおよそ100万円に相当する。

 対し、効果からみてネックレスとかの値段は、よくて大銀貨数枚……数万円に足りるかどうか。

 

「完全にボッタクリです。その2つじゃ、妹さんの問題はほぼ解決しません」

 

 虚弱体質と日光による害を防ぐと思われる、真紅の宝石がついたネックレス。その効果は、Ⅰ型魔剣どころか市販の魔導具にも劣る有様だった。眼鏡も同様、アルビノの弱視は眼鏡では改善したりしない。

 

「嘘だ! この国の王女だって、同じ方式で日の下に解放されたじゃないか!」

「作り手の腕が違います。それこそ、天と地以上に」

 

 もしアウルさんが鑑定系のスキルを持っていたら、これは違う話になったかもしれない。でも、今となってはもうたらればの話だ。

 ああだけど、ムカつく。

 手抜き魔導具を高価で売りつけ、弱者から搾取する……同じ生業の人間として、心の底から軽蔑する。

 

「ネックレスの効果は、今視てみた限り性能不足で効果が見当違いの方向に向いてます。身体能力の強化は信じられないほど低いけどまあ100歩譲っていいとして、火属性の耐性をあげて太陽光を防ぐとか、そんな説明でもされたんじゃないですか?」

「あ、あぁ」

「太陽はそんな単純じゃないんですよ。それだけじゃ、ちょっと日焼けし難くなるくらいしか効果ないです」

 

 どうにかしたいというなら、1年くらいに効果を限定しても相当な力量が必要となる。

 例えば昔ママが、当時同年代だった王女様に渡した物みたいに。高位の闇系魔法で魔法効果自体を消して太陽光を相殺してるから、周囲が薄暗くなる欠陥もあったみたいけど……太陽光の中和なんて、そうでもないと出来やしないのだ。

 

「後、妹さんの目が悪いのは眼鏡じゃ解決しないです。私たちの目が悪くなるのと違って、本当に体質的なものなので」

 

 アルビノとは、そういうものなのだと学んだ。

 主にママが王女様に残した、アルビノ用の魔導具をメンテナンスする過程で。まあ、その役目は途中で奪われちゃったけど。

 

「じゃあ、どうすればいいんだよ……!」

 

 グッと襟首を掴まれ、詰め寄られた。

 ちょっとした息苦しさは感じるけど、まあ気にしはしない。

 

「一応、私これでも高位の錬金術師でして。助けた後、粗悪品を使ってたから死んでしまう……そんなの、後味が最悪じゃないですか」

 

 私はそんな結末は見たくない。

 自分勝手な都合で魔剣を奪って、その先がバッドエンドだなんて許さない。それに、助ける手段を知ってるのに無視なんてしたくない。

 

「だから、作りますよ。本当に効果のある魔導具を」

 

 少し時間を貰えれば、私だってそれくらいを作る実力は持っている。ママの娘として、毎日続けてきた訓練は張りぼてなんかじゃない。

 

「そうですね……お代は、壊して破棄するっていう魔剣【ユメウツツ】でどうでしょう?」

 

 私は魔剣を、2人は自由を。

 これは悪くない取引なんじゃないかと思う。だってどちらにも、利益しか残らない。でもアウルさんの語ったことが本当であれ嘘であれ、実行すればきっと村人には不幸が訪れる。

 だが、それでも私は目的を実行する大義名分(依頼)を得てしまった。

 支援はギルド経由でお願いする。でもその前に訪れるだろう不幸は、十字架として背負おう。どうせとっくに私は、犯罪者なんだから。

 

「どうやって、信じろっていうんだよ」

「まあ、そうなりますよね。けど、実力を見せれば納得してもらえますよね」

 

 何せ、力を重んじる獣人なのだから。

 けど、普通そんなこと言ったって、信じてもらえないのは分かっている。何せこんな見た目なのだ、素直に信じてくれる方が異常で疑うべきだ。

 

「今からそれは見せます。納得してくれたら、これから行きましょう? 逃げられる前に、それを売りつけてきた相手のところへ」

 

 もしかしたら、あの魔導具を作った人は悪くないのかもしれない。

 アウルさんの注文に、誠実に答えただけかもしれない。だが手抜きしてのぼったくりはいけない。バレなきゃ犯罪じゃないと言うが、バレたのだから相応の覚悟はしてもらおう。

 

「そいつをふん捕まえて、金を取り返して、目の前で作ってプライドをへし折って、廃業させてやります。そういう奴がのさばってると、商売し辛くなりますから」

 

 そう、そんな奴らは消えてしかるべきなのだ。

 事情によっては情状酌量の余地はあるけど、基本は有罪。許すべきではない。

 

SS(ダブルエス)SSS(トリプルエス)も形骸化して久しい今、ギルドに所属してる最高戦力の1人が力。見せてあげますよ」

 

 そうしたら、次は妹さん……アマルさんから、魔剣【ユメウツツ】を奪う番だ。どうかそれが、暴走前に間に合ってくれますように。

 

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