銀灰の神楽   作:銀鈴

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作者が野生に帰ってました。これはもしや月1投稿か……?


魔剣(つるぎ)の彼方/聖剣(つるぎ)の此方【01】

 ジーク兄ぃとアインは、何故かあの後とても仲が良くなっていた。何があったのか聞いても話してくれなかったが、2人の様子からして悪いことではなかったのだろう。これ以上は突いたら藪蛇を踏む予感がしたので、そういうことにしておく。

 

 と、まあそんなことがあった翌日。

 獣王剣ライオンハートの修復を行う為、私とアインは王城へ登城する準備をしていた。私は昨日仕上げた単純なドレスを、アインは昨日仕立てたスーツに近い服装をで正装している。

 

「はぁ……ちゃんと髪をセットして、化粧までしたのなんていつ振りでしょう。決まりなのは分かってますけど、面倒ったらありゃしませんよ」

「まあまあ、アヤメちゃん。あんまりそういうこと言わないの、折角綺麗なんだから」

 

 そして私は、いつ振りかも分からないほど真面目に身なりを整えていた。自分の手だけじゃ出来ない部分はカンザキ家の人に手伝って貰い、恐ろしいほど無数の手順を重ねてまずは自然なメイクを完了させた。次に髪型も編み込みや捻り込みをしながら短く纏め、最後に魔法まで使い身なりを完全に身なりを整えた。もはやフルアーマーと言っても過言じゃない。

 

「それに、折角カッコいいアイン君の隣を歩くなら、アヤメちゃんも可愛くて綺麗な方がいいでしょう?」

「それはまあ、そう、ですけど……」

 

 レーナさんの言うことは確かにその通りだ。折角バッチリ決めたアインと並ぶのなら、かっこよく、そして可愛く在りたい。そういう機会として考えるならば、今回のこれは良いタイミングだったと言えるのではないだろうか。

 だがそれでも、魔剣の修復を始める際には解く正装に、1時間もかけるのは徒労に思えてならない。周りに迷惑をかけるだけになる以上、文句は言ってもするが。

 

「ほら、アイン君も何か言ってあげて」

 

 そんなことを考えていると、レーナさんがアインにそんなことを促していた。別にわざわざ言ってもらわなくてもいいのだが……何故かアインは、私を見て固まっていた。

 もしかして、何かおかしな部分でもあるのだろうか。だとしたら、一からやり直しをしなければならないのだけど……

 

「アイン?」

「……すまない。見惚れていたと謝罪する。こういう場合、どう言葉にすれば良いのか当方の知識には不足している。だが、端的に言って……綺麗だ」

「そうですか」

 

 まあ、こう言って貰えるなら悪くはない。馬子にも衣装ってやつだろう。かけた時間が無駄ではなかったことだけは確からしい。だが今は仕事優先、少しガッツポーズをするだけに留めておく。

 

「そっけなく対応してるつもりなんでしょうけど……アヤメちゃん、耳と尻尾、全然隠せてないわよ?」

「えっ」

 

 レーナさんの言葉に探知を起動させれば、確かにそこには勢いよく振られる自分の尻尾があった。そして獣耳に関しても、動かない義耳は兎も角、もう片方はあからさまに嬉しそうにピクピクと動いている。

 詰まるところ、感情がダダ漏れだった。取り敢えず鷲掴みにして止めたけれど、思った以上に力が強い。というか私、アインに褒めて貰えるだけでこんなに嬉しがるんだ……

 

「さて、リュート君ももう写真は撮れたわよね? 待たせることになってもいけないわ、早めに城に乗り込みましょう」

「そうだね、細かい説明は馬車の中でしようか」

 

 満足そうな笑みを浮かべ、構えていたカメラを黄金の波紋に隠しながらリュートさんが言った。アインに褒められたことといい、いつの間にか写真を撮られてたことといい、微妙に調子が狂う。今朝はリィンとも会えなかったし、あまり良くない予感がする。

 

「とはいえ、仕事は仕事。やれるだけやりますか」

 

 調子は悪くても、これ以外はないタイミングだ。気合を入れ直して、私は王城へ向かう馬車へ乗り込んだ。

 

 

 そうして動き出した、王城へと向かう馬車の中。

 私たちは改めてリュートさんに2、3マナーとして小さな注意を受けた。いくら今回の接触がイレギュラーで、ミーニャ女王自体そういうことを気にしないとはいえだ。獣王国側の体裁や私たちの価値を貶めないためにも、守るべき最低限は存在するのだ。

 

「……あの時、私とお義母さんが入れなかった大門から入るんですか。随分と洒落が効いてますね」

 

 窓の外を流れる風景が、見覚えのある大門を通過する。あの時と違って邪魔されることなく入ることのできた王城に、思わずそんな言葉が溢れた。

 胸に残っているのは、無力感と虚無感だけ。後悔も懺悔も何もかも、全ての感情があの時のまま停滞している。それでも思わず、皮肉めいた言葉が溢れてしまったのは私の未熟さか。

 

「手厳しいね。でも、(おおやけ)に使える馬車が乗り入れられる通用口はここだけなんだ。許して欲しい」

「気にしてませんよ。それに今は、仕事の方が優先ですから」

 

 外を覗く為にカーテンを開けていた手を下ろしながら答える。実際に特になんとも思ってない以上、これ以外言いようがないのだ。そんなことに意識を割くくらいなら、これからの謁見と魔剣の修復に思いを馳せていたい。

 

「当方は、この光景を、知っている……?」

 

 そんな風に、考えていた時だった。私と同じように外の光景を見ていたアインが、城の中の光景を眺めながらポツリと呟いた。

 

「知っている光景って、一応ここはもう王城内ですよ? アイン」

「認識している。だが、当方はこの光景を既知だと確信する」

「記憶が戻った……ってことでは、なさそうですね」

「肯定する」

 

 そう話すアインの様子は普段と殆ど変わりがない。しかし何かを思い出しかけているのは事実であり、けれど記憶が戻ったということでもない。それはつまり──

 

「なら、少なくともアインが獣人界出身なのは確実ですか。王城の内部に出入りできるヒトは少ないですし。……ちゃんと調べれば、分かりそうですね。アインの本当の名前」

「当方も、そうなることを期待している」

 

 微かに笑顔を浮かべて言ったアインの手を握り返す。私とアインの生きていられる時間は、何事もなければ残り約3ヶ月。その間に万事を上手く済ませられれば良いのだが。

 

「2人きりの世界に浸ってるところ悪いのだけど、そろそろ到着よ。準備は大丈夫なのかしら?」

「えっと、はい。そこら辺は抜かりなく。ただ1つ、最後に確認なんですけど……本当に、馬車から降りた直後のことはしても問題ないんですか?」

 

 咳払いをして存在感を主張してきたレーナさんに、言われなくても分かっていると答える。流石に私だって、それくらいは弁えているのだ。だからこそ、事前の打ち合わせでレーナさんが言っていたことが疑問だった。

 

「いくら何でも、王城で魔力全開で威圧するのは……宣戦布告と取られて、首を刎ねられそうな気がするんですが」

「あら、伝わってなかったかしら。するのよ、宣戦布告」

 

 疑問に返ってきたのは、そんな好戦的で冷め切った言葉だった。

 

「前にも話した通り今の王城は、軍部とカンザキ家を筆頭にした改革派、今の獣王国を見限って隠居してる中立・日和見派、甘い汁を吸うだけ吸ってる保守派の3枚岩で構成されてるの。その中で保守派の貴族って、正直言って邪魔なのよね」

「黙認しないといけない部分もあるから完全には切り離せないけど、ぶっちゃけると腐敗の温床かな。主にイオリさん達を大罪人って言い出したり、アヤメちゃんを国民の不満の捌け口にした発端もこの奴らかな」

「ははぁ……」

 

 そう言われても、正直私は政治には詳しくない。今にして思えば、まだ鍛冶屋として生活できていた頃、王城との取引を一方的に打ち切られたのもそこが原因だったのだろうか──とかは思うが、それだけだ。

 

「認識した。当方は先制攻撃を行えば良いのか?」

「それは僕たちでも流石に庇えきれないから、さっきも言った通り威嚇、威圧、宣戦布告辺りか限界かな。乗り気でいてくれるのは嬉しいけど、まだ気持ちだけってことで」

「面倒な相手もいるわ、やるなら準備をして徹底的にやらなきゃダメよ」

「今は機ではないと把握した。だが実行の際には、当方も可能な限り力になると約束する」

 

 そんなことを思い出しているうちに、あれよあれよと話が決まってしまっていた。私としてはもうどうでもいいことの類なのだけれど……まあ、アインが満足そうだしいいか。

 

「話を戻すわ。まずは宣戦布告する理由についてね。色々と複雑な部分はあるけど、概ねこれはアヤメちゃんにも利がある……というよりも、アヤ・ティアードロップが再活動する箔付けの意味も兼ねるわ」

「箔付け、ですか?」

「ええ。魔剣をミーニャ女王が正式に使えるようになった立役者、そして現在の腐った王城の膿を出し切るきっかけとなった英雄。その2つの実績が揃えば、軍大将からの大罪スキルの保有確認と死亡報告、更には指名手配を覆して余りあるわ」

 

 英雄。

 レーナさんの口からその言葉が発せられた時、思わず少し顔を顰めてしまった。その言葉には、いい思い入れが全くない。ことあるごとに言われ続け、私を縛り続ける英雄の娘という言葉然り、ママやパパの扱い然り、マイナスのイメージが強い。

 けれど、レーナさんの言っていることは尤もだ。それくらいの箔付けが無ければ、軍……ひいては王宮が下した処分を覆すことはできないだろうから。

 

「そしてミーニャ女王に権威が戻れば、中立・日和見派だった戦争帰りのみんなを引き戻せる。そうなった時に、保守派の連中はいい加減に邪魔なのよね。だから改革派と王宮上層部が味方で、保守派にとってはジョーカーのアヤメちゃんがいる内にデカい面を出来ないようにさせるの」

「世界が滅びるまで、あと大体3ヶ月。そんな時に国として動けない今の状況は望ましくないからね。とはいえ、アヤメちゃんがライオンハートを直せなかったら意味がない。それだけ僕たちはアヤメちゃんに期待してるし、そもそも出来ると信じてる。だからまあ、気張らずにやって欲しいかな」

 

 そう言われても、どうにも緊張してしまう。思っていた以上に壮大な計画に巻き込まれていたし、その計画が成功するか如何が自分に懸かっているのだ。するなという方が無理な話だろう。

 

「一応、それ以外にも牽制の意味がある。例えば自分の目の前に莫大な財宝があるとして、けれどその財宝は自分よりも遥かに強いドラゴンが守っているとするよ。今はそのドラゴンは眠ってるけど、財宝に手を足したり攻撃しようとしたら目を覚ます。普通だったらどうするかな?」

 

 何とも考え難い例え話だけれど、このタイミングで言うことなのだから答えに意味があるのだろう。けど、財宝は別に欲しいとは思わないし、となるとドラゴンの素材くらいしか私にとっての興味はない。

 

「そうですね……私だったらスルーします。ドラゴンの素材は気になりますけど、今命を賭けるかと言われるとあまり。自分より強いなら手を出す理由がないです」

「当方も、同様に無視すると推定する。ただし、どうしても達成しなければならない話の場合、味方を集めて総力戦に出るしかないと想定する」

「そうだね、僕だって立場がなければそうする。アヤメちゃんやアイン君、ジークやもっと言えば冒険者のみんなも、同じような判断ができると思う」

 

 頷き一拍置いてから、リュートさんが言葉を続ける。

 

「けど、今の保守派の連中は違う。そもそも眠っているドラゴンの実力を見抜けないし、それでいて自分の方が強いと思ってる連中が大半だ。加えて自分から戦いの場に出ることはなく、部下か雇った冒険者にのみ戦わせて、自分の要望が通らなければ暴れるからタチが悪い」

「よくそんな貴族が多く存在して、獣王国が国として保っていられると驚愕する」

「因みに大臣格のレベルはいいところで100、木端は50くらいしかないわ」

「そんな程度じゃ、ドラゴンどころか最下級の悪魔にすら殺されるじゃないですか……」

 

 殺されないからこそ今の立ち位置にいるのだろうが。そしてそういう連中同士で無限に駆け引きをしているせいで、政治的には重要なポストであったりすると。そういうことなのだろうか。果てしなく面倒ごとの予感がする。

 

「だからこそ灰の襲撃の時も王城に篭って、民間人を受け入れようとしなかったんだけど……今は置いておくよ。重要なのは、さっきの例えにおける財宝がミーニャ女王と魔剣、ドラゴンがアヤメちゃんとアイン君に相当すること」

「つまり私が魔剣を修復してる最中に、何かしら妨害を仕掛けてくると?」

「恐らく確実に。向こうからすれば自分たちの権威を脅かして、かつ処断の大義名分まで手に入れられたら堪らないからね」

 

 それはちょっと、困る。何度も言っている通り、魔剣は超精密な魔導具や機械と言って過言じゃない。ライオンハートの状態は分からないが、小石を投げつけられる程度の邪魔をされるだけで失敗することは間違いない。

 

「その為に、先ずは私とアインの実力を見せびらかして、手を出したらただじゃ済まないと思わせる……ってことで合ってます?」

「話が早くて助かるよ、そういうことだね」

「眠れる龍が最初から起きていれば、よっぽどの馬鹿以外手を出してくることはないわ。その馬鹿についても、人海戦術で押されない以上カンザキ家の力で対処出来る。修復に成功しても失敗しても、美味しい結果になるわ」

 

 見た目は普段と変わらない、けれど底冷えするような気配と黒さを持った笑みでレーナさんが言う。私はやっぱり、鍛冶場で槌を振るっているか魔法を集めている方が性に合っている。改めてそう思った。

 

「アヤメ、当方に何か出来ることはあるか?」

「隣にいてくれるだけでありがたいです。……本当に、今回は隣にいてくれると安心できるので」

「認識した」

 

 改めて、アインの手を強く握る。そうして数回深呼吸すれば、乱れていた心も平静を取り戻す。馬車が止まったのは、丁度そんなタイミングだった。

 

「それじゃあ、予定通りに」

 

 先に馬車を降りるリュートさん達を見送りながら、体内で魔力を練り上げる。起動した義耳の探知魔法によれば、馬車から王城までの間に集まっている人影は恰幅の良いのが10人と少し。そして隠れ潜んでいる細身の人影が8人程。残りは統一された装備から、警備の衛兵だと思われる。舐められて邪魔されるのは癪だし、盛大に宣戦布告を告げることにしよう。

 

「エスコート、お願いしますね」

「認識した」

 

 アインの手を借り馬車を降りれば、無数の視線が私に突き刺さり、息を呑む音が聞こえた。そして同時に、無数の鑑定系のスキルが飛来した。無論全てに抵抗して……否、わざわざ抵抗するまでもなく情報は抜かれないけれど、人の上に立つ貴族の行動か……? これが。

 

「出会い頭に鑑定とは、随分とマナーがなっていない殿方が多いようですね」

 

 今の私は、魔王国の技師アイリス・エターナルとして来城している。だが知る人が見れば、アヤ・ティアードロップであることは明白。だからこその行動だとは理解できるが、少なくとも書類上は他国の重要人物に鑑定を仕掛けるなんて、戦争でもしたいのだろうか。

 もし私を知らないで鑑定を仕掛けたのなら、それはそれでアウトだ。公爵の客人の素性を許可も取らず勝手に暴こうとする行為は、喧嘩を売っていると取られてもおかしくないだろう。

 

「初めまして、躾もなっていない獣畜生の皆々様方。(わたくし)はアイリス・エターナルと申します、所属は魔王国ですわ。よもや獣王国に皆様のような愚昧な輩が居られるとは、寡聞にして存じませんでしたが……以後、お見知り置きを」

 

 作った笑顔を張り付けて、完璧に貴族としての所作をなぞって一礼。同時に練り上げていた魔力を解放する。これに反応したのは、隠れ潜んでいた8人だけ。あまつさえ、再度の鑑定まで飛んでくる始末。そんな中で貴族と思われる10人が、額に青筋を浮かべ言葉を吐き出そうとするので──

 

「よもや、わざわざ言葉にしなければ、状況がお分かりになられないので? 嗚呼、嘆かわしい」

 

 殺気を飛ばす。私の小さな身体で威圧感などは出せようもなく、これだけあからさまに魔力を見せつけているのに反応もない相手だ。生憎と武装はしていないが、ここまですれば十分に感覚は伝わるはずだ。

 

「、〜ッ!! その無礼者を殺せ!」

「手討ちにしてやる!」

 

 しかしそれでも、察することができなかったらしい恰幅の良い貴族が数名。片方は潜んでいる部下と思しき存在に命令し、もう片方は剣を抜き放った。よし、これで完璧に誘導できた筈だ。

 

「ア……イリス」

「どうかしましたか?」

「改めて、アイリスは交渉には参加しないことを強く推奨する」

「じゃあ、もう後はアインに任せます」

「認識した」

 

 何故か呆れたような目線とダメ押しのような忠告を受けながら、取り押さえられる貴族を尻目に私たちは王城へと足を踏み入れた。




アヤメ 残り93日
アイン 残り93日

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